ピアス 左側

「うん、やっぱり似合ってる」


彼の長い指が、わたしの左耳に触れる。普段耳にかけていない方だから、人に見られるのも、もちろん触られるのも慣れない。

右側が触られ慣れているわけでは全くないけれど。


……それにしたって、いつまで触っているつもりだろうか。そろそろくすぐったいので、やめて欲しい。


「ねえ、いつまで触ってるの」


そう聞くと、彼はふぅとため息をつくかのように、やれやれとでも言いたげに小さく微笑った。


「対抗心だよ」

「誰への?」

「きみが、いつも一緒に帰っている子」


幼馴染のしょうの顔が浮かぶ。


「あの子が毎日きみの右側を歩くんなら、左側は俺のものにさせて」


なんてキザな台詞だろう。彼と一緒にいるようになってから2ヶ月経つけれど、全然慣れない。いつまでたっても新鮮で、どきどきして、胸の奥がむず痒く感じる。

自分で言ってしまうのもアレだけど、好かれている、というのがまんべんなく伝わってくるようだ。



——硝も、昔からとてもわかりやすい子だった。

何をするにもずっと一緒で、片時も離れずぴったりとついてくる。あの子の世界はとても小さいようで、自分自身とわたしがいれば完結しているように見えた。

わたしは、そんな彼女のことを「人見知りで友達づくりができない、親友さえいれば良いタイプの子」と思っていたのだ。

だけど、成長するにつれ、「友情」とは違う目で見られていることに薄々気がついてしまっていた。

わたしは、彼女のことをそんな目で見たことは一度もなかった。でも、わたしが離れてしまえばきっと硝の世界は簡単に壊れてしまうのだろう。その名の通り、ガラスのように。


だからわたしは、彼女に捕らわれ続けた。

紅い花の枷、首輪。わたしは彼女の内に潜む核の部分——地球と同様の、マグマのようにどろりとした熱く、冷たい熱の正体にも気づいていた。


きっと、この子はわたしのことを縛り続けたいのだろう、と。



ピアスというアクセサリーは、小さくて身につけやすいので1番身近なものと言える。それを誰かに贈る人は、独占欲が強いのだということを聞いたことがある。

離れていても自分を感じてもらえるように。

といった風に。


つまり、記念日にピアスをくれた彼も独占欲が強いのである。


「——あ、だから青色なの?」


硝の紅に対抗して、青。

そうだよ、と頷く彼。


「彼女よりも俺の方がきみのことを愛してるっていう宣戦布告」


その見すかすような目に、体の芯がぞくりと震える。


「きみは、丸ごと全部俺のものだからね」

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ピアス 遠野リツカ @summer_riverside

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