ピアス

遠野リツカ

ピアス 右側

帰り道、私は必ず彼女——幼馴染のヨウちゃんの右側を歩く。どうしてって、それは彼女が綺麗な茶髪を右側だけ耳にかけているから。

露わになったそこには、6月に入ってから続く曇り空の下でも濁ることのないピアス。1ヶ月前の誕生日に私が贈った、紅い花をモチーフにしたそれを見て、どうしようもなく満足感、優越感に浸ってしまう。


あまり大きくないながらも圧倒的な存在感をもって彼女の耳を独占するピアス。まるで、私自身がヨウちゃんをヒトリジメしてるみたい——



——だった、のに。


「あ、れ。ヨウちゃん、ピアス、変えちゃったんだ」


白く滑らかな耳たぶに揺れるのは、雫の形で青いグラデーションにコーティングされたものだった。

誰から貰ったのかなんて聞かなくてもわかる。ヨウちゃんの表情からありありと読み取れるから。


……カレシ。

「…カレシが、この間くれたの。2ヶ月記念にって」


紅く染まる彼女の頰。

黒くどろりと溶け出していく私の心。私はこの汚いものの名前を知っている。幼い頃からずっと味わってきたから。


嫉妬。


私がいちばん、ヨウちゃんと一緒にいた。

私がいちばん、ヨウちゃんのことを知っている。だから言ってやりたかった、そのカレシとやらに。


「センスない」


って。

私がいちばん、ヨウちゃんのことを、





ずっと好きだった。



だから彼女の気をひくためなら何でもした。

校庭で遊んでいれば、わざと転んだりして一緒に保健室に行って貰ったり、勉強だって教えて欲しくて自力であまり頑張ってこなかった。

他の子たちは私のことを疎ましがった。


「ひっつき虫のせいでヨウちゃんと遊べない」


と。


きっと、彼女自身も気づいている。私がどんな想いを抱いているかなんて、頭の良い彼女にはお見通しなのだ。


——それでも、私の前でそんなことを言うなんて。

なんて残酷で罪深くて、愛しい人なんだろう。


「…………良いじゃん。似合ってるよ」


こんな言葉、本心じゃないとわかっているはずなのに彼女は心から嬉しそうに微笑う。




——ねえ、あなたのことを丸ごと独占できないのなら、


あなたに青は似合わない。

そんな小ぶりなものじゃなくて。

もっと華やかで。

あなたの肌の白さが映えるような。


——せめて、その小さな耳だけでも私だけに飾らせてよ。

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