本山らのの話をしよう

秋来一年

本山らのの話をしよう

 本山らの、という存在を知っているだろうか。

 本山らの――らのちゃんは、ラノベ好きvtuberだ。

 バーチャルの世界に肉体をおき、配信や動画などでライトノベルについての情報を発信している。


 さて、らのちゃんは本日めでたく活動一周年を迎え、私がらのちゃんに宛てたラブレターもこれで三通目になった。

 とはいえ、この文章は、彼女の半年記念配信で綴ったましゅまろとも、19歳の誕生日に贈った、小説の体を取ったあの文章とも、性質が異なる。

 人に見てもらうこと前提で書いた過去の文章と違って、この文章は、他人に見せられるようなものではない、単なる日記だ。

 それも、本来であれば、チラシの裏にでも書き殴って、そのまま丸めて唾棄すべきような代物。

 だから、この文章には物語なんて一つもないけれど、それでも、という方に向けるつもりで語ってみようと思う。


 本山らのと出会って、人生がほんの少しだけ変わった人間の、独白を。


 ◇


 私が彼女に初めて出会ったのは、2017年の冬ごろだったと思う。

 さて、ここで敬虔なるらの担諸氏は、「おや?」と首を傾げることだろう。

 そもそも、この文章はらのちゃんの活動一周年を祝う目的で書かれたものである。つまり、彼女が活動を開始したのは、2018年5月10日だ。


 しかし、これでいい。これでいいのだ。

 いや、もう一年以上前のことなので、多少時期は前後するかもしれないが、2017年というのは間違っていないはず。


 その日、私はライトノベル読書会なる催しに参加していた。

 二次会も終わり、同じ路線の何人かで駅構内を歩く。その時、口を開いたのは誰だったか。


「そういえば、この前女子高生が来たんですよ」


 その言葉に、私は自分がなんて返したのか覚えていない。

「えー! そうなんですか!」だったかもしれないし、「あー、らしいですね」だったかもしれない。いづれにせよ、会ってみたかったのに残念だ、という旨の

 返事をして、「また来てくれるといいですね」なんて言っていた気がする。


 ラノベ読みの女子というのは、そう多くない。っていうかぶっちゃけ少ない。

 特に、読書会などのファンによる交流イベントの類に来る女性はほとんどおらず、私は常に、ライトノベルについて話せる同性というのに憧れをもっていた。

 そういう事情もあって、私は帰り道に発された何気ない一言がとても印象に残っていたし、件の女子高生といつか会える日が来ることを、ほんの少し期待していた。

 けれど、その女子高生がラノベ読書会に現れることはなかった。


 今にして思えば、先の会話が、私にとっての本山らのとの≪初めての出会い≫であった。

 そして私は、その数か月後、思わぬ形で彼女と≪再会≫することになる。


 ◇


 次に私が彼女と出会ったのは、ツイッターだった。

 このあたりのことはもう以前に書いたので、詳しいことは割愛する。

 瞳にきらめく蒼い星と白い肌、かわいいきつね耳に、知性と謙虚さが垣間見える喋り、そして可愛らしい声と、あふれんばかりのラノベへの愛。

 デビューしたばかりの彼女はすごかった。

 ものすごいペースで動画を投稿し、ツイッターでもフレンドリーにリプライの応酬をし、その行動力たるや目を見張るものがあった。


 私は毎日のように画面越しの彼女に出会い、そして、ライトノベルの面白さを思い出していった。

 新刊を買いあさり、積読も既読もどんどん増えて、ライトノベルが好きだったころの自分に戻っていく感じがした。

 らのちゃんに出会わなかったら、私がラノベ読みに復帰することはなかっただろう。

 画面越しにらのちゃんと出会う度、私はライトノベルがすきになり、ラノベを読むことが人生の一部という、かつての生活に戻っていった。


 ◇


 次に私がらのちゃんと出会ったのは、やっぱり画面越しだった。

 ひとつ違っていたのは、その日は動画ではなく、配信だったということ。

 活動の幅を広げたらのちゃんは、なんと、プロのライトノベル作家をお呼びして、配信を行ったのである。

 しかも、一回きりかと思われたその読書会配信は、毎回別のゲスト作家を向かえ、たびたび行われた。


 そして、そんな配信を見ているうちに、私の中でむくむくとある思いが沸き上がってきた。

 それは、「うらやましい」という思い。

 私もらのちゃんとお話ししたい。

 いつか、あちら側に立って、らのちゃんの読書会配信に呼ばれたい。


 そんな思いに駆られ、私はある目標を立てた。

 それは、「らのちゃんが本山らのとして活動すると宣言している、らのちゃんが就職するまでの期間――つまり、今から四年以内に、ラノベ作家になる。」というもの。

 賞をとってもすぐに本が出るわけじゃないから、今から三年間、半年に一作のペースで、新人賞用の長編原稿を書こう。

 そう考えて、私はその日から、執筆活動に取り組んだ。


 文章を書くのは前から好きだったが、正直、二万字を超える長編を書いたことは数えるほどしかなかった。

 公募用の八万字なんて未知の世界だ。

 けれど、行きたいところがあって、そのための具体的な期限と数値目標を決めたら、体が自然と動いた。


 この目標は、まだまだ道半ばだけど、らのちゃんの読書会配信に出るぞ、というモチベーションのおかげで、遥かかなたに思えた八万字が、毎日こつこつ歩けばいつの間にか到達している通過点になった。


 こうして私は、らのちゃんとの出会いによって、将来の目標と、業後に行う趣味、そして、自分でも八万字の物語を紡げるんだという自信を手に入れた。


 ◇


 次に私がらのちゃんに出会ったのは、バーチャル空間であった。

 そう、彼女との配信のため、と執筆を行っていた私は、私自身がバーチャルの肉体を手に入れるというウルトラC的な解決法で、彼女とのコラボ配信の機会を得たのだ。

 もう正直緊張していて、あんまり内容は覚えてないのだけど、

 楽しくて、心がふわふわしたことだけは覚えている。


 私はらのちゃんと出会って、バーチャル空間という新たな居場所を手に入れた。

 そこはとても温かくて、楽しくて。うじうじと悩んでいた私の背を押して、ここまで連れてきてくれたらのちゃんのことを、私はますます大好きになるとともに、胸いっぱいの感謝の念も抱くようになった。


 ◇


 その後も、この一年、私は様々な場所でらのちゃんと出会い続けた。

 それは、池袋アニメイトの巨大スクリーンであったり、パンタポルタの記事であったり、らのしょたの結果発表動画だったりした。

 その度に私はらのちゃんの幅広い才や、そのバイタリティに魅力を感じた。惹かれていった。

 そして、そんならのちゃんの輝きに触れるにつけ、私の人生も少しずつ変化していった。


 今度、私は現実世界で、らのちゃんと会うことになっている。

 その出会いは、私の人生に、どのような変化をもたらすのだろうか。

 また、これから先も、私はらのちゃんといたるところで出会い続けるのだろう。

 その度、どのような変化がもたらされるのかは分からないけれど、少なくとも私の人生を上向きにしてくれるような変化であろうことは、確かだ。


 ◇


 さて、徒然なるままに想いを綴っていたら漫然とした内容になってしまったが、まぁ、日記なんていうものは元来そういうものだろう。

 さて、ここまで散々だらだらと語ってきたが、私が彼女に伝えたいことは、結局のところ、これだけだ。


 本山らのさんへ


 活動一周年おめでとうございます。

 あなたに出会って、私の人生は、充実した、楽しいものになりました。

 生まれてきてくれて、今日まで活動を続けてくれて、本当にありがとうざいます。

 これからも体調に気をつけて、楽しく、ラノベへの愛を発信し続けてください!

 ずっとずっと応援してます! 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

本山らのの話をしよう 秋来一年 @akiraikazutoshi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ