03 天体望遠鏡



 しんとした空気の中、夜の中をおっかなびっくり進んでいく。

 片手は天体望遠鏡、もう片手は君の手を掴んで。


 冷たい空気の中だから、片手分だけのぬくもりが尚更強く感じられる。


「わ」


 夢中で歩いていたから気が付かなかった。


 突然、薄暗い森が開けた時には、満点の星空がまっていた。


 何だ、望遠鏡なんて要らなかったじゃないか。


 そう思ったものの、ここまで来て使わないのも損な気がして、心の置き所に困る。


「わぁ、素敵」


 君は、まるで星空全体をうけとめようとするかのように、両手を広げて、そのばでくるりと一回転。


 空から降り注ぐ月明かりが、君の笑顔を照らし出す。


「晴れて良かったね」


 やっぱり、望遠鏡なんて要らないんじゃないか。

 淡く優しい光に照らされた君が、まるで自分で輝いている様に見えて、いつも見ている笑顔が何倍も魅力的に見えた。


 僕は、にこにこ笑う君に対して、望遠鏡を持っている手を持ち上げてみせた。


「使う?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

印象に残るアイテムの描写練習 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ