第2話 負け続けの中学時代ってのも、悪くないよな2
当時の俺たち富岡西中野球部が万年負け戦と呼ばれていたのは、伊達ではない。
なにせ中学三年間で一度も試合に勝っていなかったのだ。そもそもが九人集まっただけでも奇跡の田舎の学校。中一の時は人数が足りず試合ができず、中二の時は三年生ばかりの他校に勝てず、そして中三になった時には俺たちは勝利への気力をなくしていた。
いや、中三に上がった最初の三試合だけは、俺たちにもやる気があった。三試合とも前半にリードを許してしまい、焦りの猛攻で一点差まで追いついた九回裏。三回とも俺たちは盛り上がり、三回とも二、三塁に人を送り込むことに成功した。そして三回とも、最後の最後にランナーが転んだのだった。
以来、俺たちは勝ちを目指さなくなった。俺たちは三回連続でランナーが転ぶことが、ただの偶然だということはわかっていた。しかしその偶然によって心というのはあまりにあっけなく折れてしまうことも、俺たちは学んでしまった。正直、むしろ二年間勝ちもしなかったのに、よく頑張った方だと思う。「もう、休もうぜ」という雰囲気が充満するのは自然な流れだった。強豪校と当たった時も、弱小校と当たった時も、練習試合も、公式戦も、全て等しく負けてきた。
そんな弱小チームで、俺がもらった背番号は六番。守備の華と呼ばれるショートの番号だ。確かに俺は、このチームの中では足が速いが、しかしどんなに足が速くとも、それが活かされるのはヒットが出た時だけだ。
そして俺には、相手の球を打つ実力がなかった。
第二球が投げられた。適当にバットを振ったら、当たらなかった。
第三球が投げられた。これも空振りをした。
スリーストライク! バッター、アウトォー。
やっぱりか、という投げやりな気持ちが湧いてきた。まあ、こんな中学時代でもいいか。なるべく勉強はせずに遊んでこれたし、彼女はできた。十分に楽しい人生だったと思う。野球に無理してこだわることもない。
バットを置いてベンチに戻る途中、グラウンドを振り返った。田舎の片隅にあるグラウンドで空が広い。周りはひたすらに草地と畑が広がるばかりで、近くには全然山も家もない。はるか遠くの屏風絵のような富士山やら中央アルプスやらがそびえている。
グラウンドは球が飛びすぎないよう高めのフェンスで囲っていて、俺にはちょうど、四方八方を高い山に囲まれたこの盆地を連想させた。俺たちの打球はあのフェンスを越えられない。俺たちの誰一人として、甲府盆地から抜け出せていないように。
次が引退試合だというのに、これが最後の練習試合だというのに、のっぺりとしたグラウンドにはあるべき覇気がなかった。
全て、いつもどおりの光景だ。
どこかで気だるげにセミが鳴いている。
しかし最後まで張り合いのないこの試合にも、動揺が走るシーンが一度だけ、あった。
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