最終話
しゅうくんが退院して数ヶ月。私たちは撫子ちゃんと夏海くんの結婚式に来ていた。
「撫子ちゃん、すごいきれい!!」
「ありがとう、詩音。」
ウエディングドレス姿の撫子ちゃんは照れながらそう言った。
「じゃあ、夏海くん達呼ぶよ。」
「ま、待って、まだ心の準備が…。」
「おーい、まだかー?」
話していると夏海くんの声が聞こえた。
「ほら、返事しなよ。」
「うう…。分かったよ。…準備出来たよ。」
「お、じゃあ、入るぞ。」
そう言って夏海くんとしゅうくんが入って来た。
「…っ!」
「おお、きれいだな。」
夏海くんは顔を赤くして言葉を失いしゅうくんはさらっとそう言った。
「ちょ、しゅうくん。それ夏海くんが言うべきだよ!」
「ああ、そうか、すまん。」
「いや、いい…。」
「…。」
そう言って撫子ちゃんと夏海くんは無言で向き合ってる。幸せそうだな。
「なんかあいつら、照れ合ってないか?」
「ふふ、いいんじゃない?」
そう私が笑うとしゅうくんはまじめな顔をして私を見た。
「ど、どうしたの?」
「ん?いや、詩音、良く笑うようになったなって。」
「そ、そうかな?」
急に言われるとびっくりする。自分じゃ意識したことないから分かんない。
「ああ、あと明るくなった。なんか、記憶戻る前はずっと泣いてた気がする。」
「そ、それは…。」
「まあ、いいか、その話は。」
そう言ってしゅうくんは笑った。なんだか、今日のしゅうくん変。朝だってなんだか緊張した顔してた。どうしたんだろう?
「そろそろ式が始まります。皆様ご準備を。」
式場の人がそう言って来てくれた。
「あ、はい。いこ、皆。」
そして結婚式が始まった。
「はあ、良かったね二人の結婚式。」
「ああ、すごかったな。」
結婚式の帰り道私たちは結婚式の話題で持ちきりだった。いいな、撫子ちゃん。私もあんな素敵な結婚式上げてみたいな。
「ブーケトス、取れてよかったな。」
「うん!取れるなんて思わなかったよ。」
そう言ってブーケに顏を近づける次は私の番なのかな?
そう思いながら、最近のことを思い出す。撫子ちゃんたちが結婚式を挙げることは結構前から決まっていた。ただ、シェアハウスは続けることになっていた。家賃の節約と、お互い新しい家を探す手間も省くことができるから。あと、ずっとみんなで住んでたからいなくなってしまうと寂しいからね。
「先帰ってきちゃったけど、片づけとか手伝ったほうが良かったかな?」
「先に帰ってくれって言われたんだからいいだろ。」
そう言ってしゅうくんは先に行ってしまう。ほんとに、今日どうしたんだろう?
「なあ、ブーケトス、取れたんだよな。」
「え?う、うん。」
取ってるとことか、取れた直後すごい浮かれて見せてたところ見てたはずなのに…。
「ブーケトスを取った人は次に幸せになれるって伝説、知ってるよな?」
「う、うん。」
そう言うとしゅうくんはポケットから小さな箱を出すとそれを開けた。
「その幸せ、俺と一緒に分け合いませんか?」
そう言われた時ふとあの日のことを思い出した。あの日も同じようなことがあった。そうだ、あの日、私はしゅうくんから一つ目の指輪を受け取った。同じ告白を受けて。そして、今日も同じ返事をするんだ。
「…っ、はい!」
そう言って私は抱き付いた。良かった、今のしゅうくんも私のことを大切に思っててくれて。私と同じ思いで…。
そう思いながら私は涙を流すのだった。
たとえ記憶がなくてもあなたと 雪野 ゆずり @yuzuri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます