ファイル5 菅井優里李
前回のインタビューから数日後。我が入れ替わり病院に、新たな入院患者さんがやってきました。その方とは、例の欲情ストーカーおばさんこと園村沙理恵さんです。(沙理恵さんについては、第四回のインタビューレポートをご覧ください)。
不謹慎ですけど、施設に入院されている方は私の友達のようなものですから、やっぱり嬉しいですね。沙理恵さんもなかなかハードな事情を抱えた方ですが、のんびり穏やかな入れ替わり病院で、しっかりと今の自分の身体と向き合ってほしいと思います。
沙理恵さんと私の、入院初日のやり取りをここに載せておきます。
ドクター・パーガトリー = Dr
園村沙理恵さん = 沙理恵
Dr「B棟一階の103号室。ここが今日から、沙理恵さん……もとい斗也くんのお部屋になりまーす。大きい荷物は、もう部屋の中に運んでおいたよ。」
沙理恵「ありがとうございます、パーガトリーさん。」
Dr「この部屋は個室。一人部屋です。一人部屋でしばらく様子を見て、あなたが問題なく生活できるようなら、集団生活用の大部屋に移ってもらいます。」
沙理恵「大部屋? 集団生活?」
Dr「あなたと同じく入れ替わり被害にあった人たちと、一緒に生活するための大部屋ね。目的は、他人と関わることに慣れるため。そこでの生活もうまくいったら、やっと退院に向けての計画が立てられるってワケ。」
沙理恵「つまり僕は、まず一人部屋から大部屋に移ることを目標にするべき、なんですね?」
Dr「そういうこと。目指せ、大部屋!」
沙理恵「は、はいっ! 頑張りますっ!」
Dr「では、午前のカウンセリングの時に、また様子を見に来ますね。それまで、この部屋の中で待っててね。何か質問はありますか?」
沙理恵「あの、この部屋から出てはいけないんですか?」
Dr「そうだなぁ……。原則としては外出禁止だね。自由時間以外は、なるべくこの部屋で過ごしてね。」
沙理恵「自由時間?」
Dr「朝昼晩の3回、チャイムが鳴ります。それが自由時間の合図。食堂や大浴場なども開放されるので、自由時間の間に利用しちゃってね。」
沙理恵「はい、分かりました。」
Dr「あと、トイレはこの部屋にはないので、その場合のみ外出OKってことになってるよ。」
沙理恵「トイレはどこにあるんですか?」
Dr「部屋を出て左。男子便所と女子便所があるけど、斗也くんは女子便所を使ってね。」
沙理恵「ぼ、僕は、女子トイレですかっ?」
Dr「この施設での生活は、基本的に体の性別に従っていただきます。あなたの体は『園村沙理恵さん』という女性なので、お風呂やトイレは女性用を利用することになってるの。もちろん、女性のように振る舞う必要はないけどね。」
沙理恵「分かりました、そうします。」
Dr「テレビのリモコンはこれ。エアコンの調節はそのボタン。部屋にある固定電話は、受話器をとれば私に繋がるようになってるからね。」
沙理恵「テレビ、エアコン、緊急の電話……。」
Dr「何かあったら連絡して。それじゃあごゆっくり。」
沙理恵「……。」
しかし、その一時間後。
午前のカウンセリングで、再び沙理恵さんの部屋を訪れた時のことです。
Dr「斗也くん? 斗也くーん?」
何度ノックしても、向こうから返事はありません。
仕方なく、勝手にドアを開けて中に入ると、沙理恵さんはベッドの上にいました。
沙理恵「はぁっ……、はぁっ……♡」
Dr「斗也くん?」
沙理恵「あっ!? ぱ、パーガトリーさんっ!? いつのまにっ!?」
Dr「待って! 動かないで!」
沙理恵「……!?」
右手は自分の乳房を下から掴み、左手はスカートの奥にある自分の股間へと伸ばす。下品とも言えるくらいに脚を大きく広げ、口からはほんの少しヨダレを垂らし、目はうつろな状態。沙理恵さんは、その姿勢を崩さずにピタリと動きを止めている。
Dr「とりあえず、写真を撮らせてもらうよ。」
沙理恵「しゃ、写真っ!? 写真って……!」
Dr「普段はどんな体勢でその行為に及んでいるのか、という資料のためです。はいパシャリ。」
沙理恵「や、やめてくださいっ! 恥ずかしいですっ! こんなところを撮られるなんてっ!」
Dr「恥ずかしいことをしている、という自覚はあるんですね?」
沙理恵「うっ……! は、はい……。」
Dr「では、その気持ちを忘れないようにしてください。あなたが大部屋に移るために、一番大切なことだから。」
沙理恵「えっと……どういう意味ですか?」
Dr「☓☓☓☓というのは、人前でやってはいけないこと。集団生活をするにあたり、まずはその衝動を抑え込まなければなりません。抑える努力ができないのなら、あなたをこの個室から出すわけにはいきませんよ。」
沙理恵「わ、分かりました……。ごめんなさい、パーガトリーさん。」
Dr「いいえ、謝らないで。あなたを責めてるわけじゃない。他の人たちもみんな、体の性事情には苦労してるから。まあ、ある程度は仕方ないことでもあるね。」
沙理恵「ぼ、僕みたいに、すぐにやっちゃう人もいるんですか?」
Dr「いや、☓☓☓☓がやめられない女性は珍しいかな。例えば、鏡に映った自分の体に欲情してしまう女子高生……になってしまった男性もいるし、女性が近くにいるだけで興奮してしまう男子中学生……になってしまった女性もいるね。性の悩みは人それぞれだけど、みんな克服しようと頑張ってるよ。」
沙理恵「ぼ、僕も……もしこのクセを直せたら、集団生活できるようになりますか?」
Dr「もちろん! 週に一回……いや、まずは一日一回までに抑えよう。それができたら、集団生活を私が許可してあげるよ!」
沙理恵「一日に一回……。じゃあ、一回はしてもいいんですか?」
Dr「うん、一回だけならね。もしかして斗也くん、今したいの?」
沙理恵「はい……。さっきから、ずっと我慢できずにヒクヒクしててっ! 指で、そのっ! ゆ、指を、グリグリって、したいっ!」
Dr「お、お好きにどうぞ?」
沙理恵「ありがとうございますっ。じゃあ、少しだけ……!」
Dr「でも、声はあまり出さないように。」
沙理恵「はひっ……♡」
Dr「まあ、ほどほどにね。」
……と、こんなふうに、入院初日からしばらくは一人部屋に入ってもらいます。まずは精神を安定させることを目標とし、施設内でのルールを守り、施設のスタッフとコミュニケーション(日常会話程度の)ができるようであれば、大部屋での集団生活へとランクアップしてもらうというシステムになっています。みなさんも我が入れ替わり病院に入院された際は、一人部屋から頑張ってくださいね。
それでは第五回のレポート、はじまりはじまり〜。
今回も、初めてこの施設にやってきた方ですね。
* * *
〜 ファイル5 〜
「菅井(すがい) 優里李(ゆりり)」 (女子 5歳 幼稚園児)
Dr = ドクター・パーガトリー
菅井優里李さん = 優里李
菅井美穂子さん = 母親
(今回は、優里李さんが5歳という幼い年齢のため、お母さんの同伴でのインタビューになります。)
Dr「改めて自己紹介しますね。私は施設長、ドクター・パーガトリーといいます。それでは早速、インタビューを始めていきましょう。」
優里李「……。」
母親「……。」
Dr「あ、あははは……! いきなり険悪なムード。あ、明るくいきましょう! 明るくっ、笑顔でっ!」
母親「インタビューはお受けしますけど……。本当に、入れ替わってしまった二人を、元の身体に戻せるんですか? パーガトリーさん。」
Dr「えっ!? ま、まあ、まずはお話を聞かせていただかないと……。」
優里李「おい、みほこ。いきなりそんなこといったら、しちゅれいだろ。」
母親「だって、それが第一でしょう!? 早く元に戻ってくれないと、私たちは終わりなんですよっ!? 深刻な事態だってこと、わかってるんですか!?」
優里李「ど、どういういみだっ! こっちだってなぁ、とつぜん、おまえのむしゅめにされて、くろうしてるんだよ! かってなこと、いうなっ!」
Dr「あわわ、落ち着いてください。いきなり親子ゲンカなんて。」
母親「親子じゃありませんっ!!」
優里李「おやこ、じゃ、ありましぇんっ!!」
Dr「なーるほど。だいたい分かってきました。……じゃあ、一人ずつ話を聞くことにしましょうか。」
*
子ども用の小さなイス。座ると、「プピー」と愉快な音が鳴る。
5歳の女の子が座るには丁度いいイスに、優里李ちゃんが腰を降ろす。
Dr「えーっと、まずはー」
優里李「……。」
Dr「お名前とー、年齢をー、パーガトリーお姉さんにー、教えてくれるかなぁー?」
優里李「いえ、べちゅに、ふつうにしゃべってもらっても、だいじょうぶです……。」
Dr「そうですか。いや、5歳児向けのしゃべり方って、こんな感じかな……と。」
優里李「なまえとねんれい、ですよね。なまえは、すがいゆりり。ねんれいはごさい。すがいみほこの、むしゅめ、ってことになってます。いちおう。」
Dr「菅井美穂子? さっきのお母さんの名前?」
優里李「はい。あいつです。」
自分の母親のことを、「あいつ」と呼ぶ優里李ちゃん。
服装は、桃色のスモックに紺色のスカートと、いかにも幼稚園児らしい。胸には、「ゆりり」と書かれた、チューリップの形の名札がついている。頭の上で結んだ髪も、発する言葉のたどたどしさも、年相応に可愛く見える。が……。
Dr「5歳の娘にしては、ずいぶんと口の悪い。つまり、あなたの本当の名前は……。」
優里李「きぶかわたつじ。33さい。せいべつはおとこ」
Dr「貴生川(きぶかわ)達次(たつじ)さん。33歳男性……と。いやあ、とてもじゃないけど、30代の男性には見えないですね。」
優里李「30さいほどもわかくて、しかもおんなになるなんて、じぶんでもかんがえられないですよ。はあ……なんでこんなことに。」
Dr「写真とか、持ってます? 以前の……貴生川達次だったころの、自分の写真。」
優里李「ありますよ。えーっと、たしかここに……。」
優里李ちゃんがスカートのポケットをごそごそと漁ると、一枚の写真が飛び出し、ハラリと床に落ちた。
写真に映っているのは、サラリーマン風の男性。爽やかに仕事をこなしそうな体育会系の雰囲気を漂わせる。顔立ちもよく、まるで男性用ビジネススーツのモデルのようなスタイルも特筆すべき点。
Dr「はぁ〜! 有能そうな顔。なんか、『会社のプロジェクトのチームリーダー任されてます』って顔してる。」
優里李「えっ? どうしてしってるんですか?」
Dr「あら、実際にプロジェクトのリーダーだったのね……。」
優里李「そうですね。ぶかにもめぐまれ、しごともじゅんぷうまんぱん。じぶんでいうのもなんですが、じゅうじつしてましたね。あのころは。」
Dr「高そうな腕時計もつけてますしね。この写真の男性は。」
優里李「ははは。そんなでもないですよ。ゔぃんてーじで……30まんくらいの、おとなしいやちゅです。」
Dr「さ、ささ、さんじゅっ……!? 腕時計で、さんじゅっ!?」
優里李「ぱーがとりーさんだって、うでどけいをつけてるじゃないですか。いまちゅけてるものは、いくらくらいですか?」
Dr「これは1500円。税込み。」
優里李「あっ……!」
Dr「ストップウォッチ機能とかもついてますよ。あはは。」
優里李「あははは……。」
雑談も終わったところで、いよいよ本題に移る。
Dr「気になるのは、どうしてその姿になったのかってことですね。貴生川達次さんから、菅井優里李ちゃんに。」
優里李「そうですね……。まあ、はなせるだけ、はなします。」
Dr「ゆっくりでいいですよ。5歳の女の子の頭脳では、情報を整理して話すことが難しいでしょうから。」
優里李「たすかります。ほんと、あたまが、つかれる……。」
Dr「コホン。では、まず……事の発端はいつごろですか?」
優里李「にしゅうかんくらいまえ、ですね。あのひは、しゅくがかいがあったひですから。」
Dr「祝賀会?」
優里李「ぷろじぇくとの……あー、せいこう? です。すみません、ちょっとことばがでてこない。」
Dr「大丈夫です。会社のプロジェクトが上手くいったから、その祝賀会をすることになった、という感じですかね。」
優里李「はい。といっても、ふつうにいざかやでのんでただけ、ですけどね。ぼくと、みほこと、あとなんにんかで……。」
Dr「ん? その祝賀会には、美穂子さん……つまり、優里李ちゃんのお母さんもいたんですか?」
優里李「じょうしとぶか、なんです。ぼくとみほこは。」
Dr「なるほどー。見た目は娘と母、中身は上司と部下。」
優里李「しゅくがかいはぶじにおわり、ぼくは、みほこをうちまで、おくっていくことになったんです。よみちに、じょせいをひとりであるかせるわけにも、いきませんから。」
Dr「おっ、かっこいいセリフ。頼りになる男性は好感度高いですねぇ。今は幼い女の子ですけど。」
優里李「そして、そのかえりみちで、みほこはぼくにいったんです。『きぶかわさん、ごめんなさい。わたし、すこしよっちゃったみたい。』って。よくみると、かおはあかくて、あしもとがふらふらなんです。どうも、おさけがあまりつよいほうじゃない、らしくて。」
Dr「そういう時こそ、頼れる男性がいてくれたら助かりますね。」
優里李「いえにとうちゃくしてからも、みほこのようすはおかしくて……。だれかがそばにいないと、あぶなかっしいような、じょうたいでした。」
Dr「美穂子さんを介抱する必要があった、と。」
優里李「はい。でも、みほこがいうには、『おっとはたんしんふにんちゅうで、うちにはいない……。』とのことで、『きぶかわさん、いまだけ、わたしのそばにいて……。』なんて、いうんです。みほこが。」
Dr「ん? んん? んんん??」
優里李「だから、その、よったいきおいで。」
Dr「え……。」
優里李「おさけのせいで……つい。」
Dr「えぇーーーっ!? つい、じゃないですよぅ! やっちゃダメじゃないですかっ! 大人の過ちじゃんっ!!」
優里李「いや、でも、むりやりってわけじゃないですよ……! むこうもさびしかったみたいだから、なんとかしてあげようと、ぜんいのきもちで……!」
Dr「ウソですね。性欲100%で動いたでしょ。」
優里李「まあ、うそ……といわれたら、うそかもしれないですけど。」
Dr「頼れる上司は、羊の皮を被ったオオカミだったんだ。ちょっとー、私の好感度を返してくださーい。」
優里李「こ、ここから、ですっ! ここからがほんだい……!」
Dr「聞かせてもらいましょう。物語の最後まで。」
優里李「ぼくとみほこが……かさなりあっていると、とちゅぜん、おくのへやのとびらが、がらっとあいたんです。」
Dr「見られたんですね。不倫現場。」
優里李「そこにいたのが、みほこのむすめの、ゆりりだったんです。ぱじゃますがたで、ねむそうにめをこすっていました。」
Dr「起きちゃったんですね。どれだけ激しくやってたんだか。」
優里李「ゆりりは、しばらくねぼけたようすでしたが、ぼくをみるなり、『おじさん、だれ……!? ママに、なにしてるのっ!?』と、いかりをあらわにしました。」
Dr「お母さんが知らない男性に襲われてるんだから、娘ちゃんはびっくりしますよ。そりゃあね。」
優里李「そしてそのまま、ゆりりはぼくにぶつかってきたんです。まるで、わるいひとを、こらしめるかのように。」
Dr「優里李ちゃんからすれば、あなたは充分悪い人ですけどね。」
優里李「は、はんせいは、してます……。」
Dr「まあ、私も潔白な人間ではないので、あなたを責めはしませんけど。とりあえず、入れ替わりの原因はその衝突ってことでよろしいんですね?」
優里李「はい。きをうしなって、めがさめたら、ぼくはゆりりのすがたになってました。そしてゆりりは、ぼくになってました。そこからはもう……ゆりりはしょっくでおおなきし、わんわんとなくおとなのおとこをみてみほこもぱにっくになり、ぼくもあたまをかかえましたよ。」
Dr「想像に難しくないですね。」
優里李「ふぅ……。」
Dr「あら、お疲れですか? 幼稚園児にしては、ずいぶんとスラスラとここまで喋りましたが。」
優里李「そう……ですね。そろそろ、きつい、です……。」
Dr「じゃあ、次は美穂子さんに話を聞きますね。バトンタッチしてきてください。」
優里李「はい……。しちゅれい、しましゅ……。ふぅ……。」
*
優里李ちゃんは退室し、優里李ちゃんのお母さんが入室した。
先程から話題に上がっている不倫妻の美穂子さんだ。
母親「貴生川さんから、何を聞きましたか?」
Dr「あなたの娘と入れ替わるまでの話を、だいたいね。美穂子さんには、その後の話をお聞きしたいですね。」
母親「その後……。そうですね、優里李は貴生川さんになり、貴生川さんは優里李になりました。」
Dr「はい。」
母親「まず……貴生川さんになった優里李を泣き止ませるのが大変でした。『ママ、優里李の体、ヘンになっちゃったよー! こんなの、幼稚園にいけないよー! ふえぇーんっ!』って、男性の上司が幼い女の子みたいに泣いてるんです。信じられない光景でした。」
Dr「いきなり知らないオジサンの姿にされてはねぇ。私だって泣きたくなりますね。」
母親「私は、そんな優里李を抱きしめることしかできず……。とにかく『これは悪い夢だからね。ぐっすり寝たら元に戻ってるからね。』と、優里李に言い聞かせて、眠らせてあげることしかできませんでした。本当に、どうしてこんなことに……。」
Dr「ん?」
母親「だいたい、貴生川さんがいけないんですよ。あの人が『美穂子、今夜はこのままにしておけない』『僕も酔いが回ってきたみたいだ』なんていって、家の中まで押しかけてこなければ、こんなことには……!」
Dr「ふふふ。意見が食い違ってますね。」
母親「ええ、貴生川さんと激しい口論にもなりました。しかし、喧嘩していても解決はしないので、お互いに頭を冷やし、とにかく元の体に戻る方法を一緒に考えることにしたんです。」
Dr「ふむ。大人同士だと、和解も早いですね。」
母親「そして翌日……いや、翌日から、私たち三人の生活は、大きく変わりました。」
Dr「というと?」
母親「まず私は、会社を休める日はなるべく休んで、体を元に戻すための方法や、身体の入れ替わりについての専門機関などを、徹底的に調べました。そして辿り着いたのが、この入れ替わり病院です。」
Dr「なるほど。では、あなたの娘になった男性上司は?」
母親「菅井優里李として、幼稚園に通っています。本当は幼稚園なんて休ませたいんですが、お婆ちゃんが送り迎えをしているので、仕方なくです……。」
Dr「お婆ちゃん?」
母親「私の母、つまり優里李にとってのお婆ちゃんです。私は夜遅くまで働いているので、いつもお婆ちゃんが優里李の面倒を見てくれてます。だから、休ませるわけにもいかなくて。」
Dr「ってことは、誰も知らないんですか? 二人が入れ替わっているというのは。」
母親「はい。お婆ちゃんはもちろん、単身赴任中の私の夫も……。」
Dr「貴生川達次さんは、菅井優里李という5歳の女の子を演じなければならなくなった……と。」
母親「そうですね。貴生川さんは、『このとしにもなって、おゆうぎ、おままごと、すなばあそび……あたまがおかしくなりそうだ!』『くそっ、こんなからだじゃ、さけものめやしない……!』と、不満を漏らしています。」
Dr「充実していた環境から一転、ですねぇ。……それで、あなたの上司になった娘さんの方は?」
母親「優里李は……会社を休んで、ずっと家にいます。家の2階の奥の部屋にふさぎ込んで、今の自分の姿を鏡で見ては、わんわんと大声で泣いて……。」
Dr「あらら、辛そう。」
母親「優里李は、本当に辛そうでした。あの日までは。」
Dr「ん? あの日?」
母親「数日前のことです。貴生川さんは幼稚園に行き、会社を休んだ私と優里李だけが、家にいた日。」
Dr「見た目で言うと、大人の男女が二人きりですね。」
母親「優里李はその日も泣いていたので、私はずっと寄り添ってあげていました。そしたら、優里李は急に私にガバッと抱きついてきて。」
Dr「へぇ……。」
母親「私が『優里李、どうしたの?』と聞いたら、あの子は答えました。『また、こんなに、なってるぅ……。優里李、これ、いやなのっ! ムクムク、いやぁーっ!』」
Dr「ムクムク?」
母親「その……ぼ、勃起のことだと思います。」
Dr「ああ、男性の肉欲ですね。入れ替わりだと、よくあるやつです。」
母親「優里李は自分の勃起が嫌みたいで。私もどうしようか迷いましたが……とりあえず、出させてあげることに。」
Dr「手で、ですか? 上下に?」
母親「最初は手でした。ただ、どんどんやめられなくなってしまって……。優里李も興奮したのか、鼻息を荒くしながら、私に体を求めてきたんです。そしたら私も欲が出てきてしまって……!」
Dr「ん? あれ?」
母親「結論から言うと、やってしまった……という感じです。」
Dr「は……?」
母親「娘の優里李と、男女のソレを。」
Dr「はあぁ!? えっ、良いの!? それは!」
母親「でもっ! 優里李は、『ママ、とっても気持ちいい……。』って言ってくれました! その時初めて、娘が笑顔になってくれたんです! だから、結果的には良かったのかな……と、思います。」
Dr「うーん、ダメだと思うなぁ。私は。」
母親「そしてその日から、貴生川さんが幼稚園に行った後、私と優里李は行為に及ぶことが多くなりました。親子二人きりの秘密の関係、という感じで。ちゃんと避妊はしてるので、大丈夫だとは思いますが……。」
Dr「大丈夫じゃないと思います。うん。」
* * *
イスを2つ用意し、優里李さんを呼び戻す。
再び、パーガトリーと母娘の対面でのインタビューへ。
Dr「で、どうします? これから。」
母親「パーガトリーさん、もしかして怒ってます?」
Dr「いえ、別に怒ってはないですけど……。やれやれの呆れです。」
優里李「おい、みほこ。ぱーがとりーさんに、なにかへんなこと、いったんじゃないだろうな?」
母親「わ、私のせい!? 心あたりがあるとすれば、そっちじゃないんですか!? 貴生川さんって、見た目に反して色々とだらしない部分があるし。」
優里李「おまえよりは、しっかりしてりゅさ。こんなこどものすがたに、なってもな。」
母親「だったら、もう二度とお漏らししないでね。いつもいつも、優里李のスカートやパンツをぐしょぐしょにして……洗濯するの大変ななんですから。」
優里李「なっ!? そ、それは、しかたないだろうっ!? おまえのむすめのからだが、うまくおしっこをがまんできないようになってるんだよ!」
母親「だったら、おしっこする時は私を呼べば?」
優里李「なにいってるんだ……! ぼくの、おとなのおとことしての、ぷらいどが……。」
Dr「そこまでにしてください。どっちもどっちです。」
優里李・母親「……!」
Dr「あなたたちが考えているのは、単身赴任中の旦那さんのことでしょう? 浮気がバレる前に元に戻れるかどうか……そればかり。」
優里李・母親「う゛……!」
Dr「もし旦那さんが帰ってきたら全ておしまい。ですよね?」
優里李・母親「そ、その通りです……。」
Dr「家庭の事情について口出しはしませんが、私はとにかく優里李ちゃんを助けたいと思った。一番に考えるべきは、優里李ちゃんのことですよ。彼女のために、二人は協力をしてください。いいですね?」
優里李・母親「はいっ!」
Dr「では、通院の手続きを済ませて本日は終了。次からは、優里李ちゃんも連れてきてください。心のケアが必要なのはおそらく彼女。男性の肉体に入れられた5歳の女の子の精神が、無事かどうか。」
母親「あの、優里李は大丈夫でしょうか……?」
Dr「それは会ってみないと分からない。もしかしたら、手遅れの可能性もある。……ただ、今の美穂子さんは、なかなか良い顔をしていますよ。」
母親「えっ? 私の顔、ですか?」
Dr「そうです。母親の顔です。娘を想う気持ちを忘れないでくださいね。」
母親「はいっ! あ、ありがとうございますっ!」
Dr「そして、貴生川達次さん。」
優里李「は、はいっ!?」
Dr「写真を撮るのでこっちに来て。いつものヤツです。」
優里李「しゃしんっ!? うっ、なんだかきんちょーするなぁ。」
Dr「にっこり笑って……はいチーズ。」
パシャリ。
*
以上が第五回のレポートになります。
その後、彼らにどんな運命が待ち受けているのか……! それは私にも分かりません。もしかしたら、元に戻らないという選択をする可能性もあるのかもしれませんね。私としてはぶっちゃけどっちでも良くて、優里李ちゃん(精神が5歳の女の子の方)の望みをできるだけ叶えてあげたいです。
それでは次回のレポートでお会いしましょう。
心ころころ百景巡り 蔵入ミキサ @oimodepupupu
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