第9話、何だかんだでひとりじゃないのはうれしい


「負けましたわ~。 吟也さん……いえ、おやかたさま」


はてさてこの状況、どうするべきか。

なんて悩み込んでいると。

不意にそんな、かがみ姉さんの、のほほんとした声が聞こえてきた。



「……へ?」


ぽかんとする、クリアと僕。


そんな僕たちを見つめ、かがみ姉さんは一層笑みの度合いを強めて。



「その、わたくしたちを想いやってくださる気持ちにうたれました。ですから、わたくしは負けを認めます。……と、言うよりですね。おやかたさまならそうおっしゃるだろうって、そう思ってましたから。だから言ったんですよ、クリアちゃん。わたくしたちが戦うのは意味のないことだって」


いたずらっぽく、そう嘯いてみせて……。




それから。

そう言われてみればバトルなしでも気に入られてげっと! はありなんやった……なんて。

忘れてたとばかりに呟くクリアの言葉通り、本気なのかノってるだけなのか。


すっかり呼び方が「おやかたさま」に変わってしまったかがみ姉さんに戸惑いつつも。

僕は先に届いていた引越しの荷物の整理を開始した。


逆に気を使って僕の荷物に手を一切つけないあたりが、かがみ姉さんらしい気遣いといえばそうだったろうけど。

どちらにしろ明日からの学校生活のためにも、着いたらすぐに取り掛かるつもりだったので、結局その日の残りは、部屋の片付けと学校への準備で費やすことになって。



そんな僕の部屋は二階中央の、外の庭園がよく見渡せる場所にあった。

小さい頃から変わっていない気がするのは、そうは言っても先にここに来ていたかがみ姉さんが、部屋の掃除をしてくれたり、庭の手入れをしてくれていたからなんだろう。

くわえて、母さんに頼まれたからなのか、かがみ姉さんが言うように僕がおやかたさま、だからなのか、

『この家の家事全般はお任せくださいませ』、とまで言われてしまう始末。


色々となんだか悪いなぁって思うことしきりなのだが。

せめて分担しようと提案しても、

『毎日使われなければ道具としての価値がない』、とまで言われるし。


それでも、何か手伝えることはと追いすがっても。

『クリアちゃんのお願い(つくもん探し)を聞いてあげてください』って言葉が返ってくる。


ここまで言われてしまうと諦めざるを得ないというか、せっかくやってくれるわけだから、もう開き直ってかがみ姉さんに任せることにしたわけなんだけど。

クリアはクリアで、『他のつくもん探しは明日でええよ』なんて言ってくる。

どうやら他のつくもんさんたちは、ほとんどが紅葉台高校にいることがわかったらしく、どうせ明日行くんだから焦らなくてもいい、ってことなんだろう。


その言葉がクリアから出たことに、僕はクリアの気遣いを感じた。

クリアのつくもん探しに付き合うことは、乗りかかった船だし、興味がないと言えば嘘になるから、もちろん付き合うつもりではあったけど。

一応僕にも生活がある。


しかも明日は栄えある予定の高校生活最初の一日だ。

何するわけでもないが、心の準備みたいなものは確かに必要な気がする。



そんなわけで。

僕はひとり、のんびり部屋の整理ができているわけで。

積もる話もあるのだろう。

階下からは夕食の準備をしているかがみ姉さんと、クリアのにぎやかなおしゃべりの声が微かに届いてくる。



「……」


僕が、クリアやかがみ姉さんのごしゅじんやおやかたさまなのは。

やっぱりいまいちピンとこないけど。

広い家での淋しい一人暮らしの予定だった僕にとって、思わぬふたりの存在が心強いのは間違いなかった。


二人の主ヅラするつもりは毛頭ないけれど。


この状況を受け入れて楽しむ気概があってもいいんじゃないかって。

そう思う僕がそこにいて……。



             (第10話につづく)






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る