第6話、『もん』がつくからには、ゲットやバトルは必須らしい
クリアは、自分のことを『つくもん』と言った。
そもそもの話『つくもん』とは。
クリア曰く、ごしゅじんが物や道具を大切にする気持ち……
すなわち、愛着を糧として生まれた精霊の一種、なんだとか。
たぶん、九十九神のようなものなのだろう。
まぁ、あれは古い年経た器物にとっつくものなので、厳密に言えば違うのかもしれないけれど。
その『つくもん』という名前だって、どうみたって九十九神から来てるんだろうなってことがまる分かりだしね。
安易というか、安直なネーミングセンスだなとつっこんだら。
『何言うてんの。ごしゅじんがつけたんやで』
なんて言われる始末。
言われた僕は、ちょっと複雑な気分で。
あ、そうなんだって頷くしかなかった。
それは、自らのネーミングセンスにへこんでいる、というわけではなく。
僕自身にそんな記憶が当然のようになかったからだ。
喋りすぎたからなのか、僕がクリアの言うごしゅじんだと心から信じているからなのか。
っかり安心しきって無防備に眠っているクリアには悪いけれど。
やっぱり僕はクリアの言うごしゅじんとは違うんじゃなかろうかって思っていた。
そりゃ確かにレストランでも、この道中でも、クリアを見咎める人はいなかったし、可愛らしいクリアの姿が僕の妄想かどうかはこの際置いておくとしても。
僕にしかその姿が見えないのは今のところ確かなんだろうなって、そう思う。
かといって、じゃあ僕がクリアの言うごしゅじんなのかって問われると、首を傾げざるをえなかった。
何せ、僕はクリアのことを知らない。
クリアだって、僕が外界に行って捨てようと(この言い方は人でなしみたいでいやだけど)するまで、僕を知ってる風じゃなかったというか、やっぱり僕のことも知らなかったんじゃないかなって、気もするし。
ならどうして僕がごしゅじんなのか。
クリアは、とにかく今のクリアの姿が見えるかとしか言わないけど。
おそらく僕はクリアに選ばれたんだろうなって、考えていた。
それが無作為の適当なのか、僕に選ばれる何かがあったのかどうかは分からない。
でも、クリアには何らかの理由があって、僕に何かしてもらいたいことがあって、
ごしゅじんだと、そう言ってるような気がするのだ。
僕をごしゅじんだと言うクリアは真剣で、譲れない何かを感じる。
だから、『僕は君のごしゅじんじゃないと思う、人違いじゃないかな?』なんてとてもじゃないけど言える雰囲気じゃなくて。
また泣かれでもしたら本当に困るし、クリアが僕のことをそう呼びたいんなら別にいいかな、なんて思うことにしていた。
これって、甘いのかな?
流されてる?
ノーと言えない日本人?
僕なら簡単に騙せそうだから、何かに利用しようとしているのかもってことも、考えないではない。
可愛いのは見た目だけで、まんまと内界へ侵入してやったぞ、とか思ってるんじゃ、何てこともちょっと思ったりするけど。
それでも、僕はきっとどうあっても彼女を拒みはしなかっただろうと、そう思う。
何故なら僕には、負い目があるからだ。
それは幼き日の、一生消えることのない悲しみ。
一生大切にすると幼き心に誓ったはずの妹。
だけど彼女は、僕の所へはやってきてはくれなかった。
話すことも、笑いかけてくれることも、わがままを言われることもなく。
その名前だけしか僕は知らず、遠い遠い世界へ旅立ってしまった彼女に、僕は何もしてやれなかった。
助けにいくこともできなかった。
何もできなかった自分が、すごくすごく悔しくて、悲しかった。
今となってはそれが、誰を責めるべくもない、仕方のなかったことなのだと、理解してはいるのだけど。
これはそんな負い目を、僕なりに前に進むために昇華したものなんだろうなって思っていた。
僕の目に映る女の子。
できるのならみんなが幸せになってほしい。
笑顔でいてほしい。
そんな大それた、夢と言うにも自己満足で自分勝手な思いを。
僕は心のどこかで、いつも必ず抱いている。
だから。
クリアが僕をごしゅじんと呼ぶのなら、そう信じているうちは、そうであるように努力したかった。
したかったんだけど……。
内心そんな決意をして。
『クリアは何をしたいの? ごしゅじんって何をすればいいの?』
って聞いてみたら。
クリアは待ってましたと言わんばかりに。
『7人のつくもんをゲットすれば、ごしゅじんの願いが叶うんやで』
なんて微妙に論点のずれてる気がすることをのたまってきた。
僕は再度固まったね。
しかも、クリア自身は他のつくもんたち? の大まかな居場所が分かる、どっかで聞いたことのあるようなレーダーの役目も持っていて。
ゲット? するには、つくもん同士でバトルをして、勝ってごしゅじんの実力を認めさせなければいけないらしい。
ここまでくると、もう笑うしかなかった。
信じられないというか、信じて大丈夫なのかコレって感じだ。
クリアはそんな話してる時でも真剣だったから、とても茶化す気にはなれなかったけれど。
そんな荒唐無稽で危険な香りのするようなことを言われたら、そりゃ現実逃避もしたくなるわけで……。
(第7話につづく)
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