第35話 バッドエンドの向こう側
アルフザート国 中央都アルファ 大通り
青い空、白い雲。
数日前にあった激闘なんぞ知らんみたいな天気の下でのびのびしてれば、平和だなーと思えてくる。
というわけで俺達、バッドエンドの向こう側へと辿り着いたわけなんだがな。
前言撤回。問題発生。
持論ちょっと取り下げちゃうかも。
やっぱり何でもかんでもひたすら努力、ひたすら力押しじゃあ解決しないもんだよな……。
王宮での報告やら、後始末やらを終えた後、いつものメンバーにプラス最近なじんできたリズの面子でアルカおばさんに報告。
で、ちょいとしんみりして話し終わった後に、せっかくだから町をのんびり周る事にして皆楽しそうにしてるんだが、俺にとってはそれが大変だった。
「今日こそは話してもらいますからね、練さん」
「あー」
聞こえない。聞こえなーい。
城に戻って来て、魔王討伐おめでとうの空気の中、復興やらなんやらで忙しい日々を当分送っていたのだが、落ち着いてしまえば、問題は次へと移動。
話題は俺自身の事へと移って行った。
「ネルさんの事、私達まだ全然聞いていないんですから」
「ですよねー」
当然だよね。気になっちゃうよね。俺がユリカ達の立場だったとしても、そうなるもん。
ユリカ達は俺の事をとっくの昔に魔王の後継者ではないと認めてくれていたらしい。
すげぇ嬉しい。
なんか俺が思っていたよりも、ずいぶん前だったことにちょびっと感動してしまったが、それ自体は良い話だった。
でも、俺が大変な思いをしているのはその先。
今まで培養層にいたはずの俺に、生まれてから一歩も外に出ていないはずの俺に、自我や性格があると言う事だ。
当然だろう。彼女達からはそんな風に見えるんだから、不思議に思ったとしてもおかしくない。
真相は教えても良い。別に隠す事でも、必死になって誤魔化すような事でもないからだ。でも、ちょっと心配と言うか不安なんだよね。
年齢詐称してるとことか、さ。
ね?
分かるよね、俺の言いたい事。
それは、俺の微妙な立場を切り抜いてこの世界で生きていくためには、必要な事だっただろう。とはいえユリカ達が、今まで子供だと思って接していた人間が、自分達と同年代だと知ったらどう思うだろうか。変態! 変人! ばかん、きゃー! になるに違いない。
やべぇ、吊るされる。ボコられる。
未来リズはそういうとこは教えて行かなかったみたいだからな。
あいつ元気にしてるかな。
対魔王兵器を土産に持ってったから、勇者パーティーが生き残ってんなら勝算が絶望的ってわけじゃないんだろうけど。
「いい加減白状しなさいよ」
そんな事考えてたら、リズに服を掴まれて持ち上げられた。というか吊り下げられた。
そんな態度だから、怖いんじゃん。もうちょっと改めようよ!
「だから、あーその、えー……」
必死に言葉を濁しながら、時間を引き延ばしいい知恵が巡ってこないかあれこれ無駄な抵抗を続けるんだが。
焦れた彼女らが、あれやこれやと聞きたがるのだ。
元の練の事を、どんな所にいて、どんな生活をしていたのか、とか……。そりゃもう、色々とね。
そのまま忘れてくれたりしないかなぁ。
って、そんな都合の良い事あるわけないですよねー。
「えー、言わなきゃ駄目ですかねー」
「駄目です」
「だめよぉ」
「どうしても」
「駄目に決まってんでしょ」
総動員で、全員意見一致みたいだ。
そんなに俺の事知りたい? 知って驚きたい?
「はぁぁ……。お前らさぁ。もっと俺の事警戒しないの? なんか襲われるかもーとか、新たな魔王になるかもーみたいな」
「何でですか?」
「ないわよぉ」
「ありえない」
「馬鹿じゃないの」
はい、らしいです
いや、嬉しいけどね。
「今更疑うとか、そんな事ありえませんよ。だって、ネルさんがアッシュさんの代わりに一生懸命私達の事守ろうとしてくれてたの分かっていますから」
「……?」
首を傾げる。
あれやこれや、アッシュに託された事とかは闇の間脱出の際に言われた事とかはユリカ達は聞いていないと思ったのだが、違うのだろうか。
「私を生き返らせてくれたネルさんが言ってたんですよ。代わりに守るって。だからその約束、本当に守ってくれたんだなって嬉しくて」
満面の笑顔で言われたその言葉に俺はちょっと思考が停止してしまう。
ワンモアプリーズ。
なんか信じられない事聞いたんだけど。
え、何? 俺、そんな気障な事言ったの? ユリカに? それ俺じゃないよ、きっと。
「色々あったので」
なんて、混乱して頭を抱えていればちょっと頬を赤らめたユリカの発言。
色々ってなんだ。気になる。
あれ、俺全部思い出せてないの?
起こった奇跡が割と穴だらけだった説?
動揺している間に話題は進んでいく。
「ひょっとして、私達と一緒にいる事気にしてるんですか? アッシュさんの事をネルさんが気に病む必要はないんですよ? 魔王サタンが自分の強化をしないために、アッシュさんはどうしても闇の間に残って犠牲にならなくてはいけなかった。彼は、自分自身の命に聖属性の力を付与していましたから、その場で倒されれば魔王の活動を阻害できるはずだって……」
「アッシュが、そんな事を……?」
どんだけお前、仲間思いなんだよって話。馬鹿な奴だろ。ほんと。俺にはできないわー。無理だわー。そんな自己犠牲。そんなんで死ぬなよ。馬鹿阿保。お前、後を任された俺がどんだけ苦労したと思ってるんだよ。いや、割と大半がいつも通りだった気もするけど。
「それに戦っている時に言ったんです。扉の外にいる彼を頼れ、信じろって。彼の魂は悪しきものではないから……魔王の後継者にはならないだろう、後を託すって」
マジっすか。
分かってた事だがやはりアッシュには最初に会った時から、正体を見抜かれていたらしい。恐るべき洞察力だ。勇者の感覚半端ねぇ。
「だから、ネルさんの事はずっと信じてましたよ」
あんがとさん。
もう、照れるとか気恥ずかしいから、ちゃんとした反応は期待しないでね。
だって俺、そういうの慣れてないし。
どんな顔をしていいのか分からないで、魚の骨がのどに詰まったような表情選んでると、ラクシャータとかセリアやらに頭をなでなでされた。やめて! 真実言う時、余計言い辛くなるから、それ!
「……リズたんは、その場にいなかったからともかく。協力してくれる様に俺を言いくるめて、闇の間に放り投げてすてこらさっさ、その間に逃げるっていう選択肢とか考えなかったん? 勇者達だったんだろ?」
そんなだから、天邪鬼な口をつい開いてしまう。
「ちょ……り、リズたん!? はぁぁ? 何よそれ!!」
ここにあんまり関係のない第三者がいて良かった。
声を荒げさせてなんだそれはとか言いかかって来るリズの態度に安心しながら、彼女等の反応を伺う。
俺、一番最初に切り捨てられてもおかしくない人間だって、自覚してんだけどなぁ。
「そんな事、できるわけないじゃないですか。目の前で困っている人を助けるのに、理由なんて要らないのと同じです。あの混迷の場所で取り残される事になる人を助けたいと思うのに、理由なんて必要ありません」
まあ、分かってたって事なんだろうなぁ。お見通しだったか。
知らない状況に放り投げられて、態度にこそ出さなかったものの色々と内心は大変だったし。
「だから、あそこにいた理由をいい加減に話してください。皆さん凄く気になってるんですよ。練さんの事」
「結局話はそこに戻って来るんだな」
難しい話をしたとしても、結局はまた振り出しに戻っただけだったようだ。
これあれかな、正しい選択をするまで永遠とループする奴かな。
二つ用意されてても、結果的に一方の選択肢を選ばないと先に進めないみたいな奴。
詰め寄って来るユリカ達に、どうしたものかと考える。
「教えてくれるまで、いつまでも繰り返しちゃうんだからぁ」
「聞きたい、駄目なの?」
「私は別に興味ないけど、どうしてもって言うなら……」
興味ないんならとりあえず、リズさんを先に何とかするか。
ただ、まあ。
バッドエンドの向こう側もいつもとそんなに変わんないよな。
まあ、彼女等がいたあの日々が終わっちゃわないように努力したんだから、それでいいんだ。
「その内、話すよ。その内な」
大円団のハッピーエンドからは程遠い。
けれど、どうにか掴み取った傷ありの平和の世界ってのも、悪くないとそう思えた。
ここに生きてる俺達は、この世界に足跡を刻んできたのだから。
「あ、誤魔化そうとしてますね」
「だめよぉ。今じゃなきゃ」
「今が良い、話で」
「まったく、ヘタレよねこいつ」
だから、さあ。
そんな平和を壊すような事、止めにしない?
町をぶらついている間ユリカ達に詰め寄られて、精神的にも物理的にも、色々な尋問を受けて疲れ果てた俺は、王宮に戻ってくるなりぐったりだ。
早く部屋に戻りたい。
まあ、ずっと黙ってるつもりはさすがにないから、決心ついたら話すけどさ。
「あ」
不意にばったり遭遇した魔女……というかこの世界の俺の母親と目がある。
彼女……ネージュは、他の人よりも比較的早く、保護されてからたった数日で回復したのだが、どうにも長い事人と話していなかったせいか、非常に無口さんだった。
言葉一つなくじっと見つめられたので、冷凍されたマグロの様の気分で固まっちゃう。
「えーと、本日もお日柄よく?」
挨拶なのか何なのか分からない俺の意味不明発言を受けて、彼女は頷きを一つ返して王宮内を回遊。
最近の彼女は、自由に歩ける事が楽しいらしく、散歩が趣味だた。
暇さえあれば王宮内を歩き回っているので、遭遇する確率はそれなりに高い。
「あー、びっくりした……」
もろもろの問題が解決した今だけど、彼女との関係は今だによく分からないんだよな。
どうすればいいのかとか、どうやってけばいいのかとか。
互いに悪感情を持っていない所が救いだけれど、人から良くどう扱っていいのか分からないとよく言われる練さんでも、伝説級の人物とかちょっと困るしどう扱えばいいのか分かんない。
……なんて頭を抱えるのも幸せな証拠か、平和になる前だったら贅沢な悩みなんだろうけど。
話をする機会が合って、顔を合わせる機会があるのだから、その内落ち着く所に落ち着くだろう。
今日はもう休もう。
そう思って部屋を目指すのだが、まっていた布団はもうちょっと遠かった。
物理的にではなく時間的に。
「やー、おにーさん。お疲れだなー」
俺の部屋の扉を開けて見えた少女。
内部に不法侵入していた人物を、どげんかせんといかんから。
「はい、交番はあっちです。迷子ですね」
「安心していいぞー。リリシャはな、ちゃんとおにーさんに用があって来たのだよー」
「さいですか」
それなら仕方ない。
部屋に招き入れ……もう入ってるか、部屋主である俺が部屋に入って、お菓子とかを一応出してやる。って、おい無断で食ってんじゃん。不法侵入に無断飲食か。知り合いじゃなかったら、迷子じゃなくて犯罪者として、突き出してるぞこの悪戯っ子め。
で、何用で?
「あのなー。リリシャ何となく分かるんだけど、おにーさんどっか遠い所からきたでしょー」
うんうん、そうそう。
ま、そうだな。遠い所どころか、違う世界からお邪魔しますしてるんだけど。
そんな細かい事はいいか。
「もし、帰れたら帰っちゃうのー? 魔王倒して目的たっせーしたら、帰っちゃうのー? リリシャはラクシャの友達だから、聞いておかねばと思ったのだよー」
「友達思いで結構だな。まったく、ラクシャータとお似合いだよ、お前ら」
目の前の少女はちょっぴり不安げに見える。
見た目ですっごい分かりにくいけど、こいつもちゃんと考えてるもんなんだよな。
「帰んないよ。俺、ここ気に入ってるし。ていうか方法ないし。そんな心配するだけ無駄だろ」
「そかそかー。それを聞いて安心したぞー。おにーさんとこ来てよかったー」
そうそう、しなくてもいい不安で頭抱えるのは疲れるだけだろ。
俺に直接話してくれるだけ、まあマシかな。
そういや、せっかくだから聞いておくか。前々から気になってたんだよな。
「なあ、お前なんで俺の事お兄さん呼びなの? 年齢そんな開いてるわけじゃないだろ」
「んー? 変な事聞くなー。おにーさんはおにーさんだし、別に意味なんてないぞー」
「はぁ」
はぁとしか言いようがないな。
つまり何となくってわけか。
まあ、子供なんだし。思考回路が独特なんだよな。
大人と違って、理屈とか理由があって行動する生き物じゃないし……。
「そっか、分かったよ。じゃあもう帰った帰った。おにーさん疲れてるから、ちょっと休みたい気分なの」
「えー。けちんぼー。遊んでよー。あーそびましょー」
「やーだよー」
だだをこねるリリシャにお土産の菓子を持たせて強引に部屋から追い出す。
ちょっと可哀想な気もしたが、甘やかすとあいつは調子にのりそうだから。きっとこれが正解。これぐらいの扱いでちょうど良いはずだ。
さっさと扉をしめて、さよならしよと思った時だった。
「おとなしくしたまえー。りょーてを頭の後ろに、そしてその場にゆっくり伏せるんだー」
「は?」
そんな激しく聞き覚えのあるセリフを投げかけられて、反応が出来なくなる。
それは、前にいた世界で友人だったやつが、よく電話越しに俺に言ってたセリフだ。
「なんちゃってー。おにーさん驚いたー? ねー、驚いたー。えっへへー、最近のリリシャのお気に入りの遊びなのだー。じゃねー」
たまたまだろうか。
そうだな。きっとそうに決まってる。
もし仮に、想像している通りの可能性だったとしても問題はないだろう。
その答えはさっきリリシャに述べた通りで以下同文。
俺をこの世界に運んできたのが誰か、どういう理由なのかとかどうでもいい事だ。
特に必要な時になったら、その時はその時。
頑張らなきゃいけなくなった時に頑張る事にしよう。
バッドエンドが覆せない! ~詰んだゲーム世界に転生した魔王後継者は、フラグ回収を急ぎたい~ 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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