芳山充〜時空を超えて愛する人と共に生きたい七賢者〜

 異世界生活百七十日目 場所ラグナ・ヴァルタ島、ヴァパリア黎明結社本部


「それで……どうやれば元の世界に帰ることができるのかしら?」


「えっと……まずこの世界で一度死んで、芳山さんが生きていた世界の、転移する直前の地点に転生する?」


「…………えっ?」


「…………えっ??」


 どうやら、俺の転生帰還理論はなかなか理解されないらしい……いや、簡単な理論だと思うけどさ。


「現在の記憶を持った芳山充として芳山さんの世界に転生する。芳山さんが既に転移した後なら芳山さんはいないからこの世界から転生した芳山さんがいても問題ないからね。この方法なら芳山さんの世界にあるスキルや魔法を持ち込むこともない……物理法則云々は老害の言い出した方便だし、変えちゃうなら変えちゃってもいいと思うけど、まあ、変えないなら変えない方がいいと思うしね。……でも、突然生物がある程度成長した状態で出現するというのは本来ならあり得ない――そのあり得ないを成立させるために、【永劫回帰】の世界修正能力で辻褄を合わせる。そうすれば、芳山さんは元の世界に戻ったことになるんじゃないかって話」


「…………難しい話で半分も理解できていないけど、でも帰還できるのならそれでいいわ。……それで、私は何をすればいいの?」


「とりあえず、必要なのはクルミ型の装置だな……まあ、外観は芳山さんの記憶を読み取って、【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】でクルミ型の装置を作成して」


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・タイムリープ装置

→クルミ型のタイムリープ装置だよ!

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 とりあえず、ハードの方は完成した。後は芳山の腕に残っているタイムリープを移し替えて……。


「ということで、このクルミ型の装置にタイムリープのポイントを移し替えてくれ」


「分かったわ」


 ということで、移し替えられたのは2回……少なっ!!


「……仕方ないでしょ。無駄なことにかなり使っちゃったし……もし、この力がどれだけ凄いものか分かっていたら無駄遣いなんてしなかったわ」


 まあ、確かにこんな力を手に入れて使うなっていう方が無理だよな。

 そして、回数が少なくなった時点で「これ、どうしたらいいの!? 今までなんでこんなしょうもないことに使っていたのよ、私!?」ってなるんだよな。……なんというテンプレ。


 芳山から受け取ったタイムリープ装置を【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】で捕食。


「な、何をしてくれるのよ!?」


 絶望の表情を浮かべながら睨みつけてくる芳山をスルーしてクルミ型の装置を複製。

 まずは二つのクルミ型の装置を作り出して、片方のタイムリープポイントを持つ一方に移し替える……すると。


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・タイムリープ装置

→クルミ型のタイムリープ装置だよ! 四回タイムリープができるよ!

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 あら不思議。タイムリープの回数が四回に増えました。


「えっ……どういうこと? 食べたの、よね? なんでクルミが貴方の手の中にあるのよ? それに、タイムリープ回数が四回って、増えているわよね!?」


「あ……アイテム増殖、草子さん、それチートです」


 いや、レーゲンよ。確かにゲームの世界でアイテム増殖はチートだが、これは正規の方法でやっているからチートではないのだ……ソウダヨネ?

 そんな感じでひたすら根気よくタイムリープ回数を増やしていき……。


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・タイムリープ装置×2

→クルミ型のタイムリープ装置だよ! 九百九十九回タイムリープができるよ!

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「とりあえず、タイムリープ装置は完成したな。後は知り合いの神様に預けておくから転生の際に渡してもらうといいよ。……って、実際に召喚の場に立ち会ってもらった方が信憑性が増すよね」


「…………別に、もう私は草子さんを疑ったりはしないけど……でも、その方が確かにこの人から貰えばいいって分かるからいいわね。……でも、本当に神様を召喚することができるの?」


 疑い深いなぁ……まあ、見た目モブキャラだし、「神様を本当に召喚できるのか?」って疑いたい気持ちも分かるけどさ。


「〝崇高なる神界より降臨し、我らを導き給え〟――〝サモン=ゴッド・オブ・ウコン〟」


 適当な呪文な上に、今回は敵陣ど真ん中ということで、流石に無理だとは思ったよ? 思ったんだよ?? でも、普通にできたんだよ……おい、ヴァパリア黎明結社。セキュリティしっかりしておけよ。


「この色黒イケメェェェン? リア充爆裂しまくれ! な神様は雷神で武神の右近衛鬱金ウコン=ウコノエさん。頭は脳まで筋肉の残念な人だけど頼りになる時は頼りになるよ……多分」


 ≪おいおい、能因。わいは神界の方では割とまともな神だって評価を受けとるんやで、誰が脳筋や、誰が!?≫


 召喚されたウコンを見てポカーンとする芳山……予想していた神様のイメージと違うな。


「てっきり神様だから流石の草子さんも敬うのかと思ったのだけど……私達に接する時とほとんど同じ対応なのね……」


「オオ、神ヨ。迷エル我ラニ祝福ヲオ与エ下サイ!!」


 ≪気持ち悪っ! 大いなる神が一信徒を崇めるような、どことなく逆転してはいけへんものが逆転したような、小馬鹿にしたような、なんしか気色悪い! 寧ろ、ワイら神こそワレを崇め奉らなければならへんんちゃうん? おお、オムニバースの無限乗の戦闘力を持つ神越者リベリオンよ! 迷える神々に道をお示し下さい!!≫


 うーん、ウコンにやられるとそこはかとなく腹立つ。まあ、ウコン以外がやっても腹が立つんだろうけど……もしオレガノだったら代替わりさせているかもしれないなあ。


 ≪ほんで……そこのタナトスの呪詛とクロノスの呪詛がチャラ化されとる明らかに強いお嬢さんは?≫


「ヴァパリア黎明結社七賢者の芳山充さん。ほら、前に話していた俺達とは別ルートで故郷の世界に帰還させてあげたい人だよ。俺の親友……って言って本当に許されるのか分からないけど、アルフレートさんが気にかけていた人でね。俺達とも境遇が似ているし、何より、俺は自分の手の届く範囲なら、変えられるかもしれない未来を変えてやりたいんだ。別に救済なんて上から目線で言うつもりはない。俺はモブキャラだからな……でも、心の底から困っている人がいて、その人に俺が力を貸せば切り開ける未来があるのなら、俺は力になってやりたい。俺は右も左も分からないこの世界に放り出され、沢山のものをもらった。その直接的な恩返し……にはならないだろうが、その恩を別な形で返していきたいって思っている」


 ≪つくづく義理堅い男やな……わいやったら突然見知らぬ世界に放り出されたら自分のことでめっちゃめっちゃになるぞ? そんな中でも広い視野で道を切り拓いて、ようさんの人を救って、技術を革新させて……女神コスモスヴォーダンに言わせれば、望んどる以上に世界のために貢献し、敵対しぃひん都合のいい存在になんねんやろが……せやけど、わいはオノレの不器用な生き方は嫌いがな。せやから、わいはオノレをライバルにしたいって思ったんや。オノレみたいになりたいって、そう思ったからな≫


 ……過大評価だよ、ウコン。俺はこの世界の人達が言うような素晴らしい人間じゃないんだ。

 ただ、傲慢なだけだ――共感を持った者が死ぬのを許容できない。力を貸してあげたいと一方的に思った相手に稚拙な技と理解しながらも教え、それで運命を切り拓くことができるなら切り拓いて欲しい。人間や魔族、亜人種――見た目が違うという理由で無益な争いを続ける姿を見たくないから止めた。


 結局、何一つとして褒められたことはしていないんだけどねぇ。寧ろ、反発して命を狙って来る奴が大量発生すると思っていた……まあ、半分はモブキャラの分際で美少女や美女を独占しやがってとか、そういう話だと思うけどさ。


 でも、実際にはこんな俺のわがままに共感して力を貸してくれた。イオン達だって自分で強くなりたいと願って俺が教えた基礎とすら言えないものから猛者の冒険者へと至った。

 これまでの禍根に目を瞑り、人間と魔族、亜人種は互いに手を取り合ってくれた。


 だから、これは俺の功績じゃない。みんなが変わろうとしたから変われたんだ。

 聖やリーファ――この世界で出会った掛け替えのない仲間達や、白崎達――形ばかりのクラスメイトだった、この世界で本当の意味で仲間になった者達だって、俺に沢山の影響を与えてくれた。


 聖があの時、リーファを、白崎達を見捨てようとした俺を引き止めてくれたから、エリシェラ学園で掛け替えのない生徒達に出会えたから、旅の中で沢山の人達と出会ったから、今の俺がある。


 寧ろ、感謝したいのは俺の方だよ……勿論、始まりの一族オリジン・オブ・ケイオスと女神コスモス以外にだけどさ。


 ≪分かった……芳山やったか? オノレのことは神界が責任を持って転生させる。草子の大親友ライバル右近衛鬱金ウコン=ウコノエの名に誓ってな。それと、このタイムリープ装置もしゃんと転生する際に持たせるから安心したれや≫


「ありがとうございます……ご迷惑をおかけします」


 ≪ええってことよ。それじゃあな、草子≫


「それじゃあ、転生の時まで暫しのお別れだな……まあ、そこで最後のお別れになるだろうけど」


 地球に転生すれば、もうウコン達と関わることはないだろう。だから、最後に顔を合わせるのは、次の機会――地球転生前ということになる。

 最初は突然現れて勝負を仕掛けてきた……あれから色々あったな。脳筋だったが、嫌いなタイプの脳筋では無かったぜ。


「後は……」


「分かっているわ……これで最後よ。もう死に戻り〜貴方の元に帰るまで、私は死ねない〜は使わない。私は故郷に帰りたい、だからその為に――私を殺して」



「〝全てのものに寿命はあり、全てのものに終わりはある。終わらせるものよ、死の神よ、そなたの力を貸してくれ。アジャラカモクレン、テケレッツのパー。死の因果より逃れしものよ。アジャラカモクレン、テケレッツのパー。今こそ汝の灯火を吹き消さん〟――〝死が確定する十三分-The god of death keeps ridicule of life for 13 minutes-〟」


「【冥府之神】――即死」


 一番苦しまずに死ねる即死コンボを発動して芳山を即死させる。

 芳山が死に戻りを発動しなかったので、芳山が復活することも無かった……いや、死に戻りがオートだったら超越技そのものを消滅させるとか奥の手を使わないといけないし面倒だからね。


 スマートフォンを取り出し、神界にメッセージを送る。


   既読「ミント様、お仕事中失礼致します」

   既読「芳山さんは無事に神界に着きましたか?」

13:10「はい、輪廻の輪に入らないように調整して無事に保護しました」

13:11「……現在、オレガノさんにもふもふされてジト目を向けています」

13:12「……私ももふもふされたくないのですが、私が毒牙にかけられないように芳山さんを助ける方法って何か思いつきますか?」

   既読「ウコン様に相談してください」


 ……たく、何やっているんだよ、あの変態妹女神R18雑草駄女神


「……芳山さんの方は大丈夫みたいだよ」


「草子君、その間が怖いわ……あえて聞かないけど」


 まあ、柴田も今ので察してくれたのだろう。誰もオレガノの名前を言及をしない中、レーゲンが一人だけバツの悪そうにしていた……いや、レーゲンも明らかに被害者側だよ?


「それじゃあ、屋敷に送り届けるよ」


「草子君、私達も一緒に連れて行ってくれないかしら?」


「僕も最後まで草子さんと一緒に戦いたいです」


 仕方ないのでゼドゥーとの戦いは俺一人でするということを納得してもらってから、照次郎と孝典を屋敷に送り届けた。

 つまり、残ったメンバーは聖、リーファ、白崎、朝倉、北岡、アイリス、魔法少女クリプ、ジューリア、アストリア、リーリス、柴田、岸田、八房、高津、常盤、レーゲン……つまり、主要メンバーがほとんど残ったって感じだな。特に自由諸侯同盟ヴルヴォタットを旅した初期メンバーが勢ぞろいだし……。


 残る七賢者は一人……フォード・クライシス“終焉”のノストラダムス。

 終わりきったものの残滓にして生への未練そのものの存在か……きっと、戦況的にかなり厄介な相手なんだよな。ってか、物理攻撃も魔法攻撃も等しく効かないだろうから、《空を定める光シューニャ=ルーパ》みたいな力で終焉残滓オメガマターに形を与えないといけないだろうし……。


 まあ、その辺りは到着してから考えればいいだろう……戦っている間に思いつくこともあるだろうし。



 異世界生活百七十日目 場所ラグナ・ヴァルタ島、ヴァパリア黎明結社本部


【三人称視点】


「――全ての悪意を殲滅せよ。慈悲深き顔と破壊者的性格を持ち合わせる神よ。祥瑞装――第三の目トリャンバカ!!」


「降臨せよ、黄泉国の支配者。比婆山より現れ、生きとし生けるもの全てに死を与えよ。祥瑞装――黄泉比良坂ヨモツヒラサカ!」


「全知全能を殺すべく、天をも内包した大地の果てより顕現せよ。星々を砕く百の首で理不尽を殺せ。祥瑞装――真・無常の果実ネオ・ミッシンググロウリー


「顕現せよ、最大の空母の名を持つ巨竜。最大火力で世界最強を知らしめせ――〈機甲神帝エクイプメント・エクスマキナ・ジェラルド・R・フォード〉。祥瑞装――天威スカイ・プレッシャー!!」


「――Eochaidhエオヒド OllathirオラティルRuadルアド Rofhessaロエサ。破壊と再生を司る良き神の長老よ、今こそその力を我が仲間のために振るえ。催眠の竪琴ヒュプノ・ハープ拡声装置ウルトラスピーカー――眠りへと誘え!」


「招来せよ、不老不死の伯爵の名を持つ魔導人形。万種の魔術で敵を討て――〈機甲神帝エクイプメント・エクスマキナ・サンジェルマン〉。空挺要塞ウェッジ・レギオン――超越技Écraser le résultat」


「――夜と闇、破壊と死を司る神の名を持つ竜よ。天空に舞い戻りて破壊の限りを尽くせ。祥瑞装――原初の闇イズナチャルネティナ!!」


「大きな犬の姿をした渾沌、羊身人面で目がわきの下にある饕餮、翼の生えた虎たる窮奇、人面虎足で猪の牙を持つ檮杌。四つの禍よ、一つとなりて降り立て。祥瑞装――四凶降臨スーシィォンジィァンリン!!」


「天を衝く数多の腕を持つ巨人よ。大地を踏みならし、敵を討て――〈巨大人型決戦兵装ヴァリアントフレーマンサー・ヘカトンケイル〉。――星砕きの大杭スターブレイク・パイルバンカー!!」


 インフィニット、シヴァ、佳奈、ケリー、エドワード、シュゼット、リュドミラ、リィゥ、デクエゥシス――超帝国マハーシュバラの最高戦力が一斉攻撃を仕掛ける中、最後の七賢者――ノストラダムスは不敵な笑みを崩さないまま、仁王立ちで抵抗することすらせず攻撃を浴びた。

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