外伝:死霊術師と狂人教師❦あたしメリーさん。いまツッコミ役に見せかけたボケ役と化しているご主人様とおまけと一緒に旅をしていたら恋敵の雌犬(ビッチ)と邂逅してしまったの❦

【三人称視点】


「ところで、この迷宮ってさっきまで俺達がいた迷宮と同じなのかな?」


『……う〜ん、壁の感じだとさっきとは違う迷宮っぽいよね。前ので魔法陣も消えちゃったし……』


 ハンリッヒ教国が腕試しのために選んだのはシュペリヒ迷宮という壁が赤めの迷宮だった。

 だが、この迷宮の壁は黒。そこから考えられるとすれば……。


「迷宮の下層に転送されたか、別の迷宮に飛ばされたのかの二択だよね」


『もし、前者だったら魔獣が強くなっている可能性が高い。後者だったら例え脱出できてもどこか分からない……詰んでいるわね』


 とはいえ、ここで脱出を諦めて死を待つという選択肢は為家の中にはない。

 棒手裏剣を一本手に持ち、浮遊するメリーさんと共に迷宮を突き進む。


「あれは……ゴブリンか?」


 緑色の肌で棍棒を持った怪物が三体、為家達の前方からこちらに向かって歩いてくる。

 為家とメリーさんに気づき、走る速度を上げたゴブリン達。その顔が下卑ているところを見ると、メリーさんは生け捕りにして陵辱、為家は殺す予定のようだ。


『あたしメリーさん。全体的にキモいの、生理的嫌悪感を感じるの、死んで欲しいの!!』


 【奥義・包丁乱舞】を発動して無数の三徳包丁でゴブリン達を刺し殺したメリーさん。わざわざ棒手裏剣を投げる体勢を取っていた為家だが、出る幕は無かったようだ。


「凄いな、メリーさん」


『あたしメリーさん。褒めれば褒めるほど伸びる子なの。だからもっと褒めて欲しいの、甘やかして欲しいの!!』


「はいはい、よしよし」


 頭を撫でてあげると蕩けた表情になったメリーさん。

 殺意を撒き散らし、恐怖の電話と共に近づいてくる怪異には到底見えない。普通の可愛い女の子のようだと為家は感じた。


 その後も迷宮探索は続く。呪術師風のゴブリン(ゴブリンシャーマン)、二つの尻尾を持つ狼|(ツインテイルウルフ)、足の筋肉が発達した兎のような魔獣|(コニヴェスラビット)、ちょっとゴツいゴブリン(ホブゴブリン)、御輿の上で踏ん反り返っている大きなゴブリン(ゴブリンジェネラル)、御輿に乗ったゴブリンよりも更に大きなゴブリン(ゴブリンキング)を倒し、迷宮の階段を降りること数日(食料は兵糧丸飢渇丸を食べて耐え忍んだ)、為家とメリーさんは気味で纏わりついてくるような紫の輝きが包み込んでいる大部屋に辿り着いた。


 為家達の目の前にはゴブリンキングと呼ばれるゴブリンよりも更に大きな体躯を持つ見るからに偉そうなゴブリンである。


「これは……また巨大なのが出てきたな」


『あたしメリーさん。必ずしも大きければいいという訳ではないと思うけど、この筋骨隆々な巨躯と剣の組み合わせは厄介だと思うの』


「ああ、ゴブリンエンペラーは強力な魔獣だ。舐めてかかると死ぬから注意しろよ」


 為家とメリーさんは聞き慣れない第三者の声に驚き、辺りを見渡した。

 するとゴブリンエンペラーの後方の階段に、一人のスーツを着た男がいることに気がついた。


「まあ、ステータス的には問題なく殺せると思うが、ここは自己紹介がてら私がそのゴブリンエンペラーを倒してみせよう。ランク:SSRダブルスーパーレア 『氷狼ヴァナルガンド』!!」


 男が一枚のカードを掲げると、眩い光と共にカードが消失し、一体の銀狼が姿を現す。


「吹雪け、吹雪いて、凍てつく世界に閉じこめよ!! 氷狼絶界ヴァナルガンド・ブリザード


 銀狼が口を大きく開けると共に、そこから吹雪の暴風が放たれ、瞬く間にゴブリンエンペラーを凍結させた。

 銀狼はゴブリンエンペラーだった氷像に向かって飛び蹴りを入れ、粉々に破壊する。


「初めまして、私は高槻斉人。訳あってこのヴァルジャ=ラ迷宮に住み着いて研究をしている、転移者トラベラーだよ」



 男は高槻斉人と名乗った。どうやらこの迷宮で研究を続け、来るべき日に備えているらしい。


「……秘密結社の科学者で世界征服のために魔獣を作っているとか?」


「誰が秘密結社の悪の科学者だ!! そもそも私は科学者ではなくゲームの企画担当ディレクター兼キャラクターデザイナー兼シナリオライターだ!!」


 随分仕事を抱え込んでいるんだな、ってかそれ元の世界での職業だろう? と思ったが、これ以上心証を悪くしたくない為家は閉口した。


『あたしメリーさん。ゲームの企画担当ディレクター兼キャラクターデザイナー兼シナリオライターは元の世界での職業であって、この世界での職業ではないと思うの。つまり、貴方が現在秘密結社の悪の科学者でも全く問題ないの』


 為家が思っていたことをメリーさんが口に出してしまい、気まずい雰囲気になる三人。


「……もういいよ、否定はしない。確かに私は悪の秘密結社に属していたし、そこで最悪の研究成果を残してしまった。恐らく、あの研究成果は副部門長だった六条夜華が更に発展させるだろう……私はね、怖くなったんだよ。真のマッドサイエンティストではない、所詮は臆病者だったってことさ。でもそれで良かった。過去の自分が間違っていたということが分かったからこそ、今の私は連中を倒すために研究を続けることができている。幸いサイクロプス、ケルベロス、ヨルムンガンドというタイプの違う三体の試作品魔獣の完成までは行き着いたが、そこから先へは進めていない。……やはり、生物を超えた境地に到達するためには魂とエゴが必要不可欠……意思なき魔獣には到達不可能だし、私自身がその領域に達していないのだから、それを魔獣に求めるのも酷だというものだろう」


 高槻が語っていたのはヴァパリア黎明結社の部門長以上に対抗するために必要な超越者デスペラードの概念に関する話だったのだが、抽象的に暈されていたので為家にもメリーさんにも理解することはできなかった。


「しかし……尾藤為家君と呪いの人形のメリーさんはどうやってこの迷宮に来たのかね? 確か、上は土砂崩れで塞がれていて入れなくなっていた気がするが……」


 自己紹介をしていないのにあっさり名前を言い当てられて驚く一人と一体。


「実は、オルディナ迷宮というところに挑戦しているところだったんですが、クラスメイトに魔法陣の中に突き飛ばされて、気づいたらここに」


「それは災難だったな……私もこの迷宮を発見した時は本当に偶然だった。同じように魔法陣を踏んだら辿り着いたという感じだったな。その後迷宮を【看破】してヴァルジャ=ラ迷宮という名前だと分かったという訳だ。私の求めている迷宮では無かったが、研究の場所には最適だということで研究所として使っているが、未だにこの迷宮が何のために作られ、何故様々な場所に繋がっているのかは分からない。間違いなくマルドゥーク文明よりは後の時代だが……天然で魔法陣ができるとは思えないしな」


 どんな迷宮か分からないのによく住み着けるなと思う為家とメリーさん。

 もしかしたら、目当ての迷宮以外には全く興味がないのかもしれない。


「さて、どうする? 私ならこの迷宮をすぐに突破させることができる。迷宮の最奥にはクライヴァルト王国とラ=パルフェ帝国の国境に位置するウィルヴァルドの森に転送される魔法陣がある。そこから元の国を目指せばいいだろう?」


 当時、クライヴァルト王国とラ=パルフェ帝国は冷戦状態にあった。

 後に大規模な戦争が起こり、勝利したクライヴァルト王国が併合、その後宰相アレクによる実質の傀儡政権となり、アルドヴァンデ共和国と自由諸侯同盟ヴルヴォタットの二つに分離するという割と統治者の変動が著しい一帯である。


 ちなみに、ハンリッヒ教国は現在のミンティス教国の隣に位置し、元々はミンティス教国を優に上回る領土と信徒を誇っていたが、ハンリッヒ教国崩壊事件で崩壊し、弱ったところをミンティス教国が併合、その後一部地域は超帝国マハーシュバラによって支配され、現在に至っている。


『具体的にどうやって移動するのかしら?』


「……【空間魔法】で?」


『あたしメリーさん。それならいっそハンリッヒ教国まで送り届けてもらいたいの!』


 なんという厚顔無恥と咄嗟にメリーさんの口を抑えようとした為家だったが。


「ハハハ、そうしたいのは山々なんだがね……生憎私はハンリッヒ教国に行ったことがないんだよ。だから【空間魔法】では移動できないんだよね」


『本当に使えない男なの……』


「ハハハ……これは困った。言い返せないな」


 この人どんだけ心が広いんだよ! と思いつつ、高槻に嫌われて放置されるという最悪の事態に直面しなかったことに安堵する為家。


「……恐らく為家君は勇者召喚で呼ばれたんだろう? まあ、あの手の召喚は行きだけの切符だし、普通なら帰還を目指したいと思うだろうが……まあ、その国の連中には無理だと考えた方がいい。……俺の旧友、今は敵味方に分かれているんだが、そいつの超越技――まあ、凄い能力だと思ってくれればいいか。それならこの世界ではない世界に【時空魔法】で干渉できる……つまり、戻ることができるってことだな。皇響夜――俺と同じ転移者トラベラーの日本人だ。会うことさえできればきっと帰還の方法を検討してくれるだろう?」


「……敵なんですよね?」


「まあ、俺からしたらな。お前らにはこの世界がどうなろうが知ったこっちゃないだろ? 連中は確かに悪の組織かもしれないが、それは俺の視点からであって、連中にとってはそうじゃない。困っている人がいるなら助けるくらいのことはするんじゃねえか? 流石に無碍には扱わないだろうよ。……まあ、確かに確実に協力を取り付けたいのなら偉い人からの一声があった方がいいよな。……最奥部で手紙を一枚用意する。それを、【影法師】っていう行商人を装った裏商人に渡せば協力してくれるだろう。必ず一緒に白猫の奴隷を連れているから、どこにでもいそうなおっさんだけどすぐに分かると思う」


『あたしメリーさん。その人も悪の秘密結社のメンバーなの? そんな人達を信じて大丈夫なの? 責任取れるの??』


「まあ、メリーさんが俺達を信用できないっていう気持ちも分かる。だが、俺はあの人以上に信用できる人間を知らない。商人ってのは損得勘定で動く生き物だ。だが、あの人は義理でも動くし、大切な人のためならいくらでも金をドブに捨てるっていうそういう人だ。本当に困っている人間を決して見捨てたりはしない。あの人が組織にいるのも義理みたいなものみたいだからな。安心していいぜ、あの人が信用できないっていうなら、俺なんてもっと信用できないからな」


 高槻がそこまで言うのならと為家もその【影法師】という男を信用することにした。

 しかし問題は肝心の【影法師】がどこにいるのか、どんな人物なのか、全くと言っていいほど情報がないということ。

 長い旅になりそうだな、と遠い目をした為家だった。


 その後、【空間魔法】で転移をさせてもらい、旅資金としてちゃっかり金貨百枚をもらった為家は、メリーさんと共にウィルヴァルドの森に降り立った。



 あれから二年。紛争の戦火によって家族と記憶を失った少女――御子左優姫(メリーさんがト●ベリというどこをどう間違ったら女の子につけるんだという包丁を持った両生類の名前をつけようとしたので、慌てて止めた末に為家が実際は名乗らなかった藤原氏の家名と為家の精一杯の検討の末に思いついた名前を合わせた)と共に旅を続けていた。


 忍者に興味を持ち、知らぬ間に語尾が「ござる」になっているなど、明らかに悪影響を受けているが、まあそれも個性と考えれば許容範囲内なんじゃないかな? と悪影響を与えた元凶為家は目を逸らした。


 さて、一行はクライヴァルト王国を後にし、ミンティス教国を抜け、ハンリッヒ教国に到達した。

 【影法師】は未だに見つかっていない。残るハンリッヒ教国とライパルド帝国(後に超帝国マハーシュバラによって制圧されるヴァパリア黎明結社の元になった『自警団』と共に『帝国』を倒した者達が建国したヴァルマール共和国で『帝国』の残党が革命を引き起こして誕生した新国家)に一縷の望みを賭け、ハンリッヒ教国を横断しようとしていた最中、為家は思いがけない再会を果たしたのである。



「しかし、見つからないものだな。相手も動いているんだし、もしかしたらクライヴァルト王国にいるかもしれない……ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国には……流石にいないだろうな」


『あたしメリーさん。……そうね、ヴァルマール共和国でも聞き込みが終わったら、一度クライヴァルト王国に戻ってみるのもいいと思うの』


「拙者も同じ意見でござる!」


 メリーさんの言葉に完全に戦国時代中世江戸時代近世の人になってしまった優姫が同意を示す。

 どこを移動しているか分からない、情報もほとんどない相手を見つけようとしているのだ。

 そんな簡単に見つかるようなことは絶対にないだろう。


「とりあえず、いつも通り傭兵職業安定所に行くか」


 傭兵職業安定所ハローワークとは、冒険者ギルドの前身とも言える組織だ。

 各国の傭兵――後に冒険者と呼ばれる者達に公的身分を与え、仕事を斡旋する。

 その大部分は冒険者ギルドと同じだが、規模は冒険者ギルドに比べて小規模で、冒険者ギルドほどの信頼もない。

 特殊な魔道具で連絡を取り合うことは可能だが、冒険者ギルドのシステムのような映像を送信する技術はなく、文字だけで情報を送り合うため解釈による間違いも発生する、その出自が地域ごとに生まれた組織を束ねたものであるため、仲間意識というものが現在よりも希薄で、余程重要な情報でなければ他の傭兵職業安定所ハローワークと情報が交換されないことすらある。


 だが、その土地土地の情報は傭兵職業安定所ハローワークに最も集まると言っていい。依頼の達成報告のついでに傭兵に小金を支払い、【影法師】の情報を得ることが為家達のルーティンになっていた。


 トラネコという町の傭兵職業安定所ハローワークに入った為家、メリーさん、優姫。

 雑踏の中を通り過ぎ、列に並んだ為家達。


 ふと、為家達に向かって視線が注がれていることに気づいたが、ハーレムと勘違いした男達の嫉妬だろうか? 悪いがメリーさんは対象外だし、優姫も娘みたいな扱いなんで恋愛対象にならないのだがと心の中で返し、暇つぶし用に購入した漫画(なんと地球出身者が結構ぼったくりな値段で販売していたのだ!! 当然、オタクなら手を出さない訳がない)をパラパラとめくった。

 メリーさんは愛用? の黒●危機一髪? っぽいものにミニ包丁を突き刺して遊んでいるし、優姫はいつも通り兵糧丸をポリポリと食べている。


 ある意味統一感のないパーティである。


『……あれって為家君なんじゃ』


 何か聞こえた気がするが勿論スルー。突如『幼女じゃ! 嫉妬深い幼女じゃ! 嫉妬深い幼女が出たぞ〜!!』というけたたましい着信音が響き渡り、傭兵職業安定所ハローワークが阿鼻叫喚の渦中となったが、漫画を読みたい為家は勿論スルー。ついでに優姫もスルー。一人、メリーさんだけが『やったったですよ! やったったですよ!』と優越感に浸っていた。


「ご迷惑をおかけしました。改めまして、傭兵職業安定所ハローワークです」


「依頼の達成の報告に。それと、こちらの傭兵の皆様に依頼が。内容はこちらに」


「S級傭兵チーム!? あの、彗星の如く現れた“アルティメットメリーさん”ですか!?」


「いえ、“Ordinarys & Crazy”です」


「“服部半●忍者隊”でござる!!」


『あたしメリーさん。そもそも、“Ordinarys & Crazy”ってまるで為家さんが狂人クレイジーって吹聴しているみたいじゃない!』


「いや、狂人クレイジーなのはメリーさんだから。というか、“服部半●忍者隊”ってなんなの!? 最近外国人忍者が加入して話題のご当地忍者隊なの!?」


「服部半蔵保長、カッコイイでござるよ!!」


「って、徳川家康に仕えた二代目じゃなくて足利義晴と松平清康に仕えた初代の方か〜い!?」


 全く向いている方向が違う主張が激しい三人の集団であった。……向いている方向が違うのに、よくここまで解散しなかったな、コイツら。


『あたしメリーさん。“メリーさんとご主人様、あとおまけ”とかどうかしら?』


「……むっ、拙者はおまけでござるか! “甲賀忍●帖”とか“桜花●法帖”どうでござるか?」


「バジ●スク!? いや、なんでそのネタ知っているの!!? なら、“Each of the three having his or her own way”とか?」


『あたしメリーさん。名前が長いの!! というか、それなら“三者三様”でいいと思うの!! というか、なんでメリーさんが突っ込んでいるの!? メリーさんはボケ役なの!!』


 いや、自覚があるならやめろよと心の中で突っ込む為家。

 ボケ二人にツッコミ一人は辛いな、やれやれだぜ思う為家だが実際は為家もツッコミとして機能していないのに結局ボケ三人で誰も回収してくれないというカオスな状況になっているのだが、俺だけ常識人だぜ! と思っている為家がその客観的事実に気づくことは無かった。


「では、改めて。S級傭兵チーム!? あの、彗星の如く現れた“三者三様”!!」


「異議なし!」『あたしメリーさん。異議なしなの!』「異議なしでござる!!」


「異議あり!! 受付嬢さん、なんで言い直しているの! そして、なんで為家君も異議なしって答えちゃっているの!! というか、その女の子達は誰なの!! ……はあはあ」


 慣れないエクスクラメーション・マークの連打で息も絶え絶えになっている白姫。その後方には捷利、小三治、雪村、徹、深雪の姿もあるが……。


「えっと……どちら様ですか?」


 素でクラスメイトの名前をすっかり忘れていた為家。

 能因草子とは別ベクトルで物覚えが悪い、かつ必要のない情報は忘れていく都合のいい体質の男に、二年も会っていないクラスメイトの名前を思い出せというのも酷であった。何しろ中学卒業後三日後に同じ中学の同級生の名前を全て忘却してしまったというくらいである……まあ、昔読んだ漫画の登場人物ならフルネームと簡単なプロフィール付きで言えるのだが……まあ、要するに脳味噌の使い方が特殊なのである。

 断じて特殊な難病を患っている訳ではない。


『あたしメリーさん。ざまーみやがれ! なの!!』


「貴女ね! 毎回私の邪魔をしてきたのは!!」


「ってか、二人知り合いだったの? メリーさんと、よく知らない人」


「白姫花織よ! クラスメイトの……まさか、覚えていないの?」


「……いや、すまん……なのか? 記憶にないからノーカンで」


「ノーカンって……まさか、忘れちゃったの?」


「いや、忘れちゃったというか……なんか異世界カオスに召喚されて、なんちゃって不良? よく覚えてないけど、そいつに魔法陣に突き落とされて……ってのはなんとなく覚えているけど、別に正直どうでもいいし。で、その後別の迷宮に飛ばされて、そこで明らかにボスキャラのゴブリンエンペラーと戦闘しようとしたところで、高槻斉人っていう自称ゲームクリエイターの元悪の秘密結社の科学者? に会って、帰還の手がかりをもらって、でそのために協力を取り付けないといけない人の上司って人を探すために各国を回って、でそしたら戦争中に家族と記憶を失った女の子を拾って……で、放って置けないから結局連れていくことになって……で、そしたら何故か忍者オタクになって……で、情報収集のために傭兵に金をばら撒こうとした←今ココ」


「……魔法陣に落ちてからのことは覚えているんだね。というか、誰なの? その落とした人って。一番重要だと思うんだけど!」


『あたしメリーさん。犯人は鷹爪武、黙認した取り巻きもギルティー! そして、元凶の花織を殺せば全て解決なの! 【奥義・包丁乱舞】で皆殺しにしてやるの!!』


「おい、まてメリーさん。魔獣を殺すならともかく人間を殺すと後が面倒だから、やるなら闇討ちにして真実を闇から闇に葬れ」


「殺すのは否定しないんだね……変わっちゃったんだ、為家君は?」


「為家殿は優しい人でござるよ! 名誉毀損なことを軽々しく言うなでござる! 今すぐ頭と身体を綺麗に切り離してやるでござるよ!! ……為家殿は記憶喪失の拙者を助けてくれたでござる。燃え盛る炎の中から拙者を」


「ってか、助けるのは当然だよね? だって危機的状況だし、助けないのは人としてどうかと思うよ?」


 面倒ごとには関わりたくないが、危機的状況で他に助けが入れないのなら助けに入る――それが為家のスタンスである。


「…………お前は何者だ?」


「いや、お前らこそ誰? ってか、また面倒そうなのが現れたな。とっととここでの情報収集を終えて……えっと、なんだっけ? 安心と実績のよろず商会を名乗る『荒羅●々鬼アラハバキ』? 『変人●巣窟ゾンダーリング・ネスト』? の〈ウ●ブラ〉と平社員兼工作員の白猫シャ●ン? を探さないといけないんだけど?」


『それは多分違う人達なの。【滅死放徨】を持っているアサシン兼トレジャーハンター兼商人ではないと思うの。後、悪の秘密結社の名前も聞いてないの』


「そだっけ? ……えっと、あっ、【影法師】だ。まあ、偽名? 称号? そんなところだろうけど」


「いや、重要な情報でござるよね! それ!! 成●の中に天●がいて不老不死の力を持っているくらいの驚きでござるよ!!」


「いや、だからいい加減バジ●スクから離れろよ! 全くツッコミになっていないから! まだまだ修行が足りぬのお」


『あたしメリーさん。どう考えても為家さんもツッコミに徹しきれてないの! 中途半端なの!! やっぱりメリーさんしかまともな人はいないの!!』


「「いや、メリーさんはどう考えてもまともじゃないし、そもそも人ですらないよねござる!!」」


 為家と優姫のツッコミがハモった瞬間だった。

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