2.理が遂に動き出しまして。
異世界ガイア生活二日目 場所魔族首都イビルフィスト
魔人族達、顔面蒼白……睡眠不足かな? ……だからあれほど体調管理は重要だって言ったのに……えっ? お前一言も言ってないって? そうだっけ??
「……勝てる訳がない。〝
『おいおい、こんな人畜無害なモブ・オブ・モブの俺を捕まえて何をそんなに怯えているんだ?』
「「「「「「――一体どこの世界にお前みたいな人畜無害がいるんだ!?」」」」」」
……どうやら人間でも魔族でも魔人族でも亜人種でも神様でも俺を厄災扱いすることに関しては共通らしい……揃いも揃って目が節穴のようだ。
「…………しかし、まさか我々魔人族が人間の
『……存在意義か。そんなものは最初からない。自分の価値ってのは自分で決めるものだ。……作られた存在か。例えば、人間の魂を複製して作り出したAI――人工知能にも意思があるのなら、それは一つの命であると俺は思う。きっかけはどうであれ、お前達は生きて、自分の意思を持っている。なら、人間と大差ねえよ。まあ、お前ら魔人族からしたら一纏めにされたくないだろうが。……生きている意味がない? ないなら自分で探せばいいだろ? 何をしたいか、どうなりたいかを。他人から与えられた役割になんで雁字搦めにされる必要があるんだ? 何も考えない駒でいたいのなら一生駒でいろよ。ただ、それは何かをしたことで責任を負うことを恐れているようにしか見えねえけどな。神の名の下になんでも罷り通る時代は終わらせたってことだ。フェアボーテネは、ダブルフェイスは死んだ。それだけは紛うことなき事実だ』
「生きる意味を見つけろ……ですか? ……なかなか難しいことを仰いますね。しかし、草子さんのおかげで生きたいという気持ちが強くなりました。人間の
『誰がこれまでの自分を捨てろといったのかね? 今までの自分も自分だろう? 別に何かをしろって訳じゃないんだ。今まで通りダブルフェイスを信仰するなら信仰すればいい。それもまた一つの選択だ。これまで通り人間と争うのも一つの選択、それを選んだとしても咎めやしないよ。どんなものを選ぶのも自由だ。ただ、その大いなる自由には責任が伴うし、その夢を思い通りに叶えることもできない……現実ってのは残酷なものだよ。俺は最初に言ったよな? 『ダブルフェイス……いえ、フェアボーテネですが、ついさっきお亡くなりになりましたので、ご報告に参りました』と、俺は報告に来ただけだ。こうやって受け取れなんで指図は一言もしてない。もし、人間と交流を持ちたいと願うのならそれでもいいし、徹底抗戦するのならそれでもいい。どんなように生きるかは自分で選べ、お前らは神の玩具ではないんだからな』
魔人族がこの先、何を望み、どうなるかは魔人族次第だ。
俺個人としては、人間と魔人族が仲良く暮らすしてもらいたいものだけど、それは俺の勝手なエゴだし、そのエゴを押し付けるほど俺はこの世界と深く関わっていない。
まあ、とりあえずこれで魔人族の方戦後処理は終わった。
さて、次は人間の方か……あっちの方がどう考えても面倒だよな。
と、その前にヱンジュと合流しないと……。
◆
異世界ガイア生活二日目 場所
〝
クローヌ王国に一度寄ったのはフェアボーテネ討伐のために力を貸してくれた者達に現状の報告をするためだ。
まあ、要するにセフィーレア、レイミア、メルドの三人を
「おいでませ〜。遠い所を「草子さん、一緒に来ましたし、転移したから遠いところからですらありませんよね」
……えっと、レイミアに全否定された?
「草子、なんなんだ? この巨大な屋敷は? というか、ここはそもそもどこなんだ?」
「メルドさん、ダメじゃないですか? 行き先もよく分からずに変な人についていくなんて」
「なんで俺が叱られているんだ!? というか、それ。ブーメランだぞ!!」
ええ、帰ってきましたとも。グッサリと胸に突き刺さっております。
「まあ、冗談はさておき。ここは
「……草子。豪邸を建てるより、断然宿に泊まった方が安上がりじゃないのか?」
「えっ? 人件費、材料費共に無料の自己調達だから宿に泊まるより安いけど??」
「「「えっ?」」」「えっ?」
どうやら勘違いがあったらしい。勘違いは小さなうちに訂正を……じゃないと、気づかないうちにどんどん肥大化して最終的にステージⅣに……えっ、それは癌の話だって? 急いで第三世代の遺伝子組換え単純ヘルペスウイルスI型G47Δを打ち込まなければ!! ……えっ、何それって? 腫瘍細胞だけで増えるように改変したウイルスですよ?
「セフィーレアさん、王城に橋をかけたスキル――憶えていませんか?」
「……あの規格外な力か。確かにあれなら材料無しにお手軽に建物を建てられるな。……だが、草子。あれは本当に規格外な方法でお前じゃなければ絶対にできない」
セフィーレアの「お前は色々とおかしい」と言いたげな視線が怖い。怖いから逃げるようにホテルに入った。あっ、チェックインはないです。
「草子様、はじめまして。この度は本当にご迷惑をおかけしました」
で、戻って早々謝罪を受けた……なんで?
謝罪をしているのはツバキ……なんで?
いや、あれはツバキのせいじゃないし、責任を感じる必要はコンマ一ミリもないと思うよ? というか、謝る相手俺じゃないし。
「はじめまして、能因草子です。俺は特に何もしていないんで、お礼を言うならヱンジュさんに、謝罪をするなら戦女神の皆様にです。……まあ、あれは全てフェアボーテネのせいなので」
「既にお姉様と戦女神の皆様には謝罪を終えています。……お姉様から聞いています。草子様がいなければ私は今もフェアボーテネに囚われ、罪を重ねていたと」
『草子。謙遜ではなく素直にお礼を受け取ることの方がいい時もある。……私達からもお礼を言いたい。おかげで篝火家、いや始祖精霊に仕える九曜の家の無念を晴らすことができた』
ソレイフィア達戦女神まで頭を下げた……えっ、そんな大したことはしていないよ? ただ、俺の感覚で許せないと思った奴をボコっただけだし。
「まあ、大したことはしてませんがそこまで仰るのなら。……とりあえず軽食を用意してきます。現状報告はお茶を飲みながらということで」
紅茶とコーヒー、緑茶などなど何種類か用意し、お茶菓子のクッキー、チョコレート、どら焼きと共に並べていく。
ちなみに、ジューリアは抹茶と山のように積まれたどら焼きだ……うん、セフィーレア、レイミア、メルドの三人は「お前そんなに食べるのか?」って目で見てたけど、実際そんなに食べるんだよ?
事情説明。まあ、具体的にはフェアボーテネ討伐と魔人族の残党に会ってきた件の報告だ。
「……相変わらず仕事が早いわね。いないと思ったら魔人族を脅して戦意を折ってきたのね」
「美春さん、人聞きが悪いな。俺は別に脅してなんかないよ。戦いたければ戦えばいい、それが魔人族の選択ならそれを止める権利は誰にもないよ。ただ、人間がそれを黙って見ているとは思わない。……戦争が起こるならそいつら同士の責任だ。部外者の俺がどうのこういういう話じゃないし、これに関してはどうでもいいから関わらないよ」
『人間の争いに私達精霊が関わることはない。……ヱンジュがそれを望むなら話は別だがな』
「私だって嫌ですよ。なんでそんな不毛なことに付き合わないといけないんですか? 争いたければ勝手に争ってください」
女性陣が辛辣だ。いや、裕翔も口にこそ出さないけど面倒そうにしているし、きっと俺の周りには辛辣な奴が集まっているのだろう。というか、俺はモブキャラだから中心にいるのはウコン? よっ、ハーレム主神!!
「さて、お三方をお呼びしたのは他でもない――フェアボーテネ教関連の話だ。とりあえず、フェアボーテネの討伐は完了した。ということで、その戦争の終結を少々脚色して伝えてもらいたい。例えば、フェアボーテネの正体はフェアテーボスとかフェアテーネルとかそんな感じの名前の神を名乗る存在で、人間が崇める神フェアボーテネと魔族が支配する邪神ダブルフェイスの名を使い人間と魔人族を争わせていた。魔人族は人間と戦わせる
「……そんなに上手くいきますか? フェアボーテネ教は神山が強い発言権を持っています」
確かに、豊穣の女神のような切り札がこちらにはない。長年にわたりフェアボーテネの意思を聞い、従ってきた神山と一人の司祭……どっちの話を聞くかは明白だろう。
「ツバキさん……フェアボーテネの力は使えますよね?」
「ふぇ!? あっ、はい……一応、フェアボーテネに身体を奪われていた時の記憶と感覚があるので使えるとは思いますが……十全にとは……」
まあ、フェアボーテネにも神代魔法は自由自在に使えないんだけどね。
あれは、神域に掛けられた信仰心を魂魄昇華させる秘技と信仰心を魔力に変換する神代魔法があったからこそ可能なことであって、正当な方法で神代魔法を扱うためには【無限の魔力】が必要になってくる。
「そして、フェアボーテネ教の教典には『七曜の娘は神子である』という記述があるらしい。ヱンジュさんは七曜の娘として、狂った神――フェアテーボスやらフェアテーネルやらを倒す神託を与えられ、同じ意思を持つ同志と共に解放軍を結成――狂った神を倒した。と、こんなエピソードを使えばどちらが官軍に見えるかは一目瞭然だろ?」
「…………草子さん、よくそんなにするすると作り話を考えられますね?」
「いや、テンプレだろ?」
「えっ?」
「えっ?」
裕翔ってもしかしてオタクじゃないのか? 或いは、俺のいた地球とは生み出されている作品が違うのか? 伝わらないの? こんな有名な異世界モノの話が?
「……と、その前にまだやらなければならないことがありますが」
『……草子さんが戦ったという〈
「ユエさん、正解。……そう、アイツらを潰さない限りは安心して異世界カオスに帰れないからね。……もうそろそろ動き出すと思うんだけど」
フェアボーテネ討伐はただの前座――本当の敵は〈
俺はンュチーォフと戦ってそう確信した。
「もう、フェアボーテネから神託は降りないだろうからフェアボーテネ教は最悪放置でもいいと思うけど。人間が魔人族と戦うと決めたなら、それは人間の選択。何人死のうが何人殺されようが、もう人間のせいだろう? 巻き込まれた魔人族は可哀想だけど。さっき話した方法は取らないなら取らないで構わない。この
今回ばかりはこちらから打って出ることはできない。
……そろそろ、〈
◆
【三人称視点】
ピュェリーヒエ山は大混乱に陥っていた。
その元凶となったのは、突如ピュェリーヒエ山に現れ、“神の使徒”を何でもないように粉砕した冴えない男とその仲間達。
冴えない男――能因草子はたった一人で
フェアボーテネ教の司教クラスが複数人で合唱することでのみ発動可能な援護歌――“勇堕の聖唱”を使う余裕すら無かった。
幸いにして被害は“神の使徒”が一人死んだだけ。
しかし、草子と合間見えた
被害を受けたのは
あの圧倒的な力を見せつけられた者達は皆、常識を破壊されてしまった。
――フェアボーテネを信仰すればあらゆる厄災を跳ね除けることができると信じていた。
――フェアボーテネを信じる限り、人間は正義であり続けられると信じていた。
――フェアボーテネを信じている人間は、この世界で最も尊き種族であると信じていた。
その保証がいとも容易く失われた。
フェアボーテネについて、フェアボーテネ教が知らないことすらも理解し、平然と神殺しをすると公言してしまう不遜な男。
しかも、その言葉は決して大口を叩いているとは思えないほど、現実味を帯びている。
フェアボーテネを殺すことなど造作もないと言いたげに“神の使徒”を殺した――あの瞬間、フェアボーテネを信仰する意味は完全に消え失せた。
――最早、この世界に人間を守る保証は存在しない。
――最早、この世界に人間が正義だと保証するものは存在しない。
――最早、この世界に人間が最も尊き存在だと保証するものは存在しない。
幸か不幸か、被害は神山だけだ。だが、その神山が壊滅状態になったことが分かれば、フェアボーテネ教に対する信用はガタ落ちするだろう。
一刻も早く隠蔽工作をしなければならない。例え、根本的には解決しないとしても、フェアボーテネ教の求心力を維持するためにはその必要がある……が、今のフェアボーテネ教には隠蔽工作を行う力すら残されていなかった。
『初めまして、わたくしはアーゥティルキフォ=ヌワール=アッシュドゥーフと申します。〈
そして、追い討ちをかけるように神山に新たな刺客が舞い降りる。
艶やかな濡羽色の髪を持つ漆黒のマーメイドラインドレスを身に纏った水晶の翼を持つ美しき女神――アーゥティルキフォ=ヌワール=アッシュドゥーフ――かつて、始祖精霊の一体として崇められていた神の形をした存在は微笑を浮かべた。
瞬間、フェアボーテネ教の最高位――教皇の老人の首がスパッと切れる。
アーゥティルキフォは目に見えぬほど細く鋭く伸ばされた細剣を振ると、血糊を落とした。
『わたくしは警告を与えに参りました。人間や魔人族は今まで神に踊らされてきた。わたくし達の主人はそんな人間や魔人族を救済しようという崇高な考えのもと、行動をしております』
「何が崇高な考……え……………………」
――スパッ。ボト……。
教皇に次ぐ力を持つ枢機卿長は、上半身と下半身の二つに分断され、床に落下し音を立てた。
しかし、フェアボーテネ教の司祭や司教はその亡骸に視線を向けることはできない。
そんな余裕すら存在しない。少しでも下手な行動を取れば次に殺されるかもしれないのだから。
生殺与奪を完全に握った女神を前に、神の加護を失った人間は無力だった。
『わたくし達の主人は慈悲深いお方です。神や神を信じる愚かな人間に裏切られながらも、彼の方は人間にチャンスをお与えになりました。三日、三日以内に全ての人間が信仰を捨てたのなら、わたくし達の主人はこの計画を放棄すると宣言しております。しかし、もし人間が神を擁護するのならば、わたくし達の主人はこの世界を滅ぼします。――神などという身勝手で理不尽な存在に縛られ、誰か一人に全てを押し付け、のうのうと生きてきた人間よ! お前達が悔い改めるのなら、主人はこの世界に巣食う神のみを殺す。だが、神を擁護する者がいるのなら、それは愚かな風習を続けていくという人間の総意と受け取る。さあ、決めなさい。神と共に、この世界と臨終するか、信仰を捨て、自分達だけは助かるか。結果は三日後に自ずと出ますので、それを楽しみにさせていただきましょう』
アーゥティルキフォは不敵な笑みを浮かべ、その場を後にした。
アーゥティルキフォが現れたのは神山だけではない。
魔人族首都イビルフィスト、辺境都市ダブルスティンカー、商業都市カセドラ、ブルックの町――人間、魔人族分け隔てなく、全ての都市に、町に、村に現れた。
そして、その魔の手は
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