第8.5章プロローグ 〜異世界転移してもモブキャラは結局モブキャラでした〜
1.異世界から異世界に行くことになりまして。
異世界生活百三十九日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、魔王領シェリダー
パワーレベリングという方法がどちらかというと非効率な方法に分類される異世界カオスという世界において、確実な強化の方法はいくつかある。
一つは、経験値豊富な食材を使った強制的なレベル上げ。紫キャベツやキョーリャイキャロートを使った経験値会得と、茸や筍、ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国にごく僅かに存在する杉の子(食用の杉の芽)を用いたステータスアップの二種類がある……すぎのこ村はなんと魔族の国にあった。
その究極系と言えるのは、
一つは、武器や防具の強化。俺が最も得意で推奨している方法だ。いい素材の武器を使えば戦闘は一気に楽になる。デメリットもそこまでない。
そして、武器を強化すれば戦闘が楽になる。戦闘が楽になれば経験値を稼ぐことができる。後は勝手に成長していくだけだ。
俺は後者の手段をヱンジュに提案し、武器と防具を借り受けた。
ちなみに、借りている間のヱンジュは俺が【利己主義的な創造主】で作り出した洋服を着てもらっている。
【利己主義的な創造主】って耐久力さえ無視すればどんなデザインの服も瞬時に作れる優れ物スキルなんだよね。しかも元手無し、まさに生産チート。
ヱンジュと剣精霊、布都御霊姫が興味津々に俺の手元を覗いている。
『凄いです。まるで魔法みたいです』
「そうね……まるで魔法みたいね」
「お二方、魔法ではなくスキルなのですが……ちなみに、魔法だとこんな感じですかね。〝
鉱物や木製品の形状を思い浮かべたものに変形できる【無属性魔法】だ。
イメージがしっかりしていないと変な形の物質になってしまうので、【
「……使い勝手が悪いな。やっぱり【
素材さえ用意すれば、十秒も掛からず出来上がり。【
-----------------------------------------------
・妙法村正=創支
→刀工・千子村正作の日本刀に酷似した刀剣に五種類の
-----------------------------------------------
-----------------------------------------------
・一胴七度=創支
→刀工・千子村正作の打刀に酷似した刀剣に五種類の
-----------------------------------------------
-----------------------------------------------
・
→異国の精霊使いが身につける巫女服の生地にオラクルスレッドとオレイミスリルの糸で作った布を混ぜた異世界の巫女服だよ!
-----------------------------------------------
-----------------------------------------------
・
→【炎掌握】を付与したフェイタルベヒーモスの皮製の左半手甲だよ!
-----------------------------------------------
-----------------------------------------------
・
→【雷掌握】を付与したフェイタルベヒーモスの皮製の左半手甲だよ!
-----------------------------------------------
装備強化に加え、新たな武器――半手甲を二つ用意した。
ちなみに、創支というのは俺の鍛治名だ。……なんかあった方がいいかなって思ってつけてみた。
創造し、誰かを支えるような武器を作りたい――そんな願いが込められているとか込められていないとか。
「ところで、残った金属はどうするんですか?」
あっ、ヤベェ。刀剣を作った時に余った神鋼の塊をちょろまかそうとしているのバレた!!
「……ナニモ、トッテ、ナイヨ。……ナイヨ」
『嘘です。私、草子さんが残った金属を隠したのを見ました』
ちっ、勘付かれたから咄嗟に異空間に放り込んだの、バレたか。流石は剣精霊? いや関係ないか。
「はぁ……バレたか。いや、神威と親和性の高い金属っていうからどこかで使い所があるかなって思って。ほら、ノリと勘で神威が使えるようになるかもしれないじゃないか」
「神威を扱えるのは清き乙女だけですよ?」
あっ、やっぱり精霊使いは女じゃないといけないっていう謎法則。実はハーレム狙いの精霊王の罠!? と思いきや、精霊王も女だったという奴か。……ウン、ナニヲイッテイルンダロウ。
「? 草子は清らなる乙女なり」
何故かこのタイミングでジューリア登場。登場早々勘違いを呼ぶ爆弾発言を放ったが……火消し、大丈夫だろうか?
「もしかしなくてもカタリナ=ラファエルのことだよね? あれはただの妄想だよ、妄想。あんな完璧美少女、居る訳ないだろ?」
「カタリナ=ラファエルとは一体誰ですか? 草子さんとどんな関係があるのですか?」
いつから俺の黒歴史を暴露する大会になったんだろう? てゆーか、公開処刑??
「カタリナ=ラファエルってのは少し前にジューリアさんが所属していた宗教団体の潜入した時に使った名前だよ。油断させて潜入しようと【女体化】ってスキルを使ったんだが、APP――外観を示す参考値がUnmeasurableになっていたことが災いして美少女になってしまったって話」
「……この世界には性別を変える力が存在しているのですね」
「興味ある?」
「いえ、ありませんが」
だけど、ぶっちゃけあんまり神威と清らな乙女は関係ないと思うんだよね。……妖怪しか使えないとか言っていた妖力も結局捕食したら使えるようになったし。
「後で神威を込めた斬撃を俺に向かって放ってくれたら俺が神威を使えるか使えないかがはっきりするか」
「よく分かりませんが、精霊契約は清き乙女の特権です。無理だと分かれば理解してくれると思いますし、それで納得してくれるのであれば斬撃の一発や二発、放ってみせましょう」
まあ、俺も半信半疑だし、妖力を捕食して得たってのも直接見せなければ伝わらないから、こういう反応も致し方なしか。
というか、自分達のアイデンティティと言える力を、鍛錬すらせず簡単に模倣されてしまうというのには辛いものがあるよね。まあ、今まで大体そんな感じだったけど……いや、ちゃんと鍛錬はしてるよ? ホントだよ。
◆
異世界ガイアに向かうメンバーは、俺、ジューリア、ヱンジュと剣精霊、それと最初に会ったのも何かの縁ということでユエが同行することになった。
といってもすぐに出発するという訳ではない。
まあ、レベルアップするって話だったからね。
「では、行きます! 七星流絶剣技 二ノ型 巨門」
「捕食せよ! 【
折角なので名前をつけてみた。しかし、名付けでは進化しないようだ。
そういえば、バアルってカナン地域を中心に各所で崇められた嵐と慈雨の神だったっけ? ……暴食は悪魔として扱われ、七つの大罪に関連付けられたからか。
黒い竜巻が神威が込められた斬撃を喰らい尽くす。
……どうだろう? ステータスには変化がないし……。
「……うん、新しいな。ステータスに表示されていないし、何かが変わったようにも思えない……ヱンジュさん、簡単に神威を使えるか判断できる方法ってありますか?」
「精霊術ね。神威があるのなら、術唱を唱えれば使用できますよ? そうですね……“神威よ 揺らぎとなれ”――“神威衝”と呼ばれる術唱は基本的に神威が使えれば誰にでも使えます。まあ、清き乙女だけですが」
「“神威よ 揺らぎとなれ”」
なんか白いエネルギーの波動のようなのが飛び出た。これが神威か。
「やっぱり、【
「……まさか、精霊術を使ってしまうなんて。……男なのに」
【魔法剣理】に混ぜたら多少なり威力が上がるかなと思っていたら、絶望の声が耳朶を打った。
というか、寧ろ精霊使いが男に性転換させられたら精霊術が使えなくなるとかだったら意味がないよな。男の精霊使いが淫獣扱いされるのは性転換の概念がない世界だけだ。
『剣精霊さん、貴方には分からないのかしら? 今、目の前に立っているのが人間の形をした厄災だって』
「ユエさん、酷いこと言いますね。バグったモブキャラを捕まえて人の形をした厄災なんて。……会う人会う人化け物扱い、天使は恭しく接してくるし、“精霊王”はこっちが戦う気すらないのに勝手に降伏してくるし、俺って人畜無害な男子高校生の筈なんだけどな」
これも序盤で元ヴァパリア黎明結社開発部門部門長、高槻斉人の最高傑作? を喰ったからか?
いや、それだけじゃないな。過労死寸前の【器用貧乏】のおかげか? 高槻斉人の最高傑作を【器用貧乏】が増幅した結果、クリプティッドが絶句する魔法少女候補になっちまったってことか……ホント、わけがわからないよ、だな。
異世界カオスではステータスがアップデートされないみたいだし、神威の研究については異世界ガイアに行ってからにしよう、そうしよう。
「この刀、心地いいくらいスパスパ斬れますね。神威を込めなくても魔獣を倒せますわ!」
『……ヱンジュ、浮気ですか?』
あっ、布都御霊姫が二刀に嫉妬の視線を向けている。……いや、最高位の剣精霊が
『悔しいですが、私ではその刀剣に勝てません。……ヱンジュ、私のこと忘れないでくださいね』
「!? フツミさん、そんなつもりじゃないよ!! フツミさんは私の大切な友達だよ!!」
『ヱンジュ……ありがとう、ございます。こんな私でも、友達だと言ってくれるのは、嬉しい、です』
これじゃあ友情の再確認の切っ掛けを作る悪役だな。
いや、良かれと思ってなんだよ?
「布都御霊姫様」
『フツミで構いません。どうしましたか?』
「いや、別に剣にならなくてもヱンジュさんの
「『あっ!?』」
あっ、二人とも気づいていなかったんだね。
それから、ヱンジュとフツミが背中合わせで戦い、数時間を掛けて魔獣スタンピート十六回を撃破したようです。
……えっ、俺? お腹が減ったと言い出したジューリアのために【お菓子の堕魔の呪法】と【お料理の堕魔の呪法】を駆使してひたすら魔獣肉を料理とお菓子に改変していましたが、何か?
◆
-----------------------------------------------
NAME:七曜ヱンジュ AGE:17歳
LEVEL:120 NEXT:1030000EXP
HP:5400/5400
MP:49000/49000
STR:50000
DEX:50000
INT:12000
CON:50000
APP:600
POW:4000
LUCK:1700
JOB:精霊の巫女、精霊剣士、巫女、魔法師、刀剣士
SKILL
【片手剣理】LEVEL:150
→片手剣の真髄を極めるよ! 【片手剣】の上位互換だよ!
【二刀流理】LEVEL:150
→二刀流の真髄を極めるよ! 【二刀流】の上位互換だよ!
【袈裟斬り】LEVEL:150
→袈裟斬りが上手くなるよ! 相手の左肩から右脇腹を斬るよ!
【逆袈裟斬り】LEVEL:150
→逆袈裟斬りが上手くなるよ! 相手の右肩から左脇腹を斬るよ!
【左斬り上げ】LEVEL:150
→左斬り上げが上手くなるよ! 袈裟斬りの逆に斬り上げるよ!
【右斬り上げ】LEVEL:150
→右斬り上げが上手くなるよ! 逆袈裟斬りの逆に斬り上げるよ!
【刺突】LEVEL:150
→刺突が上手くなるよ!
【連続突き】LEVEL:150
→連続で突きを放てるようになるよ!
【居合い】LEVEL:150
→居合が上手くなるよ!
【飛斬撃】LEVEL:150
→斬撃を飛ばすのが上手くなるよ!
【無拍子】LEVEL:150
→無拍子が上手くなるよ!
【無念無想】LEVEL:150
→雑念を生じる心を捨てて無我の境地に至るよ!
【全属性魔法】LEVEL:150
→全属性魔法を使えるようになるよ!
【回復魔法】LEVEL:150
→回復魔法を使えるようになるよ!
【障壁魔法】 LEVEL:150
→障壁魔法を使えるようになるよ! 巫女や禰宜などの和風魔法使い専用の魔法だよ!
【結界魔法】LEVEL:150
→結界魔法を使えるようになるよ!
【複合魔法】LEVEL:150
→複数の属性の魔法を融合できるよ!
【祈祷】LEVEL:150
→祈祷が上手くなるよ!
【神楽】LEVEL:150
→神楽が上手くなるよ!
【言語理解】LEVEL:10
→知らない言語を理解できるようになるよ!
ITEM
・妙法村正=創支
→刀工・千子村正作の日本刀に酷似した刀剣に五種類の
・一胴七度=創支
→刀工・千子村正作の打刀に酷似した刀剣に五種類の
・
→異国の精霊使いが身につける巫女服の生地にオラクルスレッドとオレイミスリルの糸で作った布を混ぜた異世界の巫女服だよ!
・
→【炎掌握】を付与したフェイタルベヒーモスの皮製の左半手甲だよ!
・
→【雷掌握】を付与したフェイタルベヒーモスの皮製の左半手甲だよ!
NOTICE
-----------------------------------------------
ヱンジュのレベルもかなり上がった。ということで、早速出発だ。
……と、その前に。
「もしもし、お久しぶりです。オレガノ様」
一応世界の壁を越えるので、女神オレガノに連絡を入れようと思ったのだが……。
あの、なんで女神ミントをもふもふしているの? 今、仕事中じゃないの?
女神ミント、めっちゃ嫌そうだよ!!
≪……初めまして、草子様。その節はお世話になりました≫
そういえば、女神ミントと実際に話すのはこれが初だっけ?
「いえいえ、俺も女神オレガノ様と利益が一致していただけなので。俺が元の世界に戻るためにお力添えして頂けたら、それで十分ですよ」
≪地球への転生と辻褄合わせの件ですね。勿論、私も全力でご協力させて頂きたいと思います。……ところで、あの……草子様からもこの駄女神を注意して頂けないでしょうか? 仕事になりませんので≫
あっ、ですよねぇ〜。
「オレガノ様、ミント様から離れて頂けないでしょうか? お姉ちゃんと再会できて嬉しいとは思いますが……」
≪んにゃ!?≫
あっ、ミント様が変な声出した。……変なこと言った?
≪そんなぁ。私はミントお姉ちゃんを救出するために暗躍したんですよぉ〜。これくらい甘えてもいいと思うんですが。――ダメって言われたので使用済みの下着の匂いを嗅ぐのはやめているんですよぉ≫
「R18雑草駄女神さん、面倒なのでやめてください。話が全く進みません。仕事終わってから目一杯スキンシップを取れるようにしてもらえばいいじゃないですか? 仕事に私情を持ち込むのはNGっすよ?」
≪んにゃ!?≫
≪分かりました、仕事中は自重します。その分、仕事が終わったら目一杯甘えさせてもらいますからね≫
≪寧ろ全力で被害拡大させているんですけど!!≫
女神ミントの神聖なツッコミ、頂きました。ありがたやー?
「さて、本題に入らせて頂きたいと思います。実は異世界カオスに迷い込んだガイアという世界の方がいらっしゃいまして……その方をガイアに送り届けたいと思っているのですが」
≪本当に草子様はフットワークが軽いですよね。遂に異世界から異世界に転移ですか? 天界規定では問題ありませんが……≫
いや、フットワークが軽いというよりはせっかちなんだと思うよ?
しかし、あっさり許可が出たな。まあ、黙って移動しても良かった話なんだけどさ。
「許可を頂けたということで早速行って参ります」
≪草子様、お待ちください。実は草子様にお会いしたいという神様がいらっしゃいまして。今地上に降りるそうなので、もうしばらくお待ちください≫
なになに? 異世界ガイア編だから、新しいヒロインを追加するって話? 美人女神様?
……まあ、な訳ないよな。物凄い嫌な予感がしています。
森の一角に雷。……青天の霹靂、この故事が似合う奴は俺の知る限り一人しかいない。
≪よっ、久しぶりやな。能因草子≫
……予感的中。このタイミングで現れたか、武神ウコン。
どうやら、異世界ガイアの旅はかなり戦闘狂なものになりそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます