262話 霧滅のトライ・アンシャル

 異世界生活百三十九日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、常闇の森テネブラエ・ネムス上空


 魔王領シェリダーから飛行三十分の常闇の森テネブラエ・ネムスには霧が溢れかえっていた。


 ちなみに、常闇の森上空ここへは〝移動門ゲート〟を使ってきている。

 【無属性魔法】の一つ〝記憶覗きリコール〟をユエに対して使用した。


 この〝記憶覗きリコール〟は同名の魔法と同じく他人の心を読み取り、記憶を回収するというものだ。

 対象者が忘れているような細かい記憶も思い出させる、術者が記憶を覗くことで、対象者にもそれを認識させるといった効果もあるが、相手からの制限効果はない。対象者と接触する必要がないので、明らかにこちらの方が上位互換だ。


 ちなみに、対記憶操作の魔法少女には使えず、ヱンジュを元の世界に戻すのにも使えない。

 前者は記憶そのものが完全に消されているから、後者は世界を超える空間移動は座標が分からなければその地点に移動できないからである……まあ、所詮は器用貧乏な【無属性魔法】、そこまで求めるのは酷だろう。


 さて……やるか。

 【叡慧ト究慧之神】で霊煌粒子射出拳銃《ノア》の情報を呼び出す。

 設計図を複製コピーして改良し、霊煌粒子エーテル・マターを発生させる装置を作り出した。


 よし、できたことだし霧に挑むか……と、その前に俺の予想があっていたか答え合わせをしないとね。……順番、間違えたな。


-----------------------------------------------

NAME:《黄昏の大罪トワイライト・シン》ラグナレク

LEVEL:10000

HP:0

STR:Fluctuation

DEX:0

INT:0

CON:0

APP:0

POW:0

LUCK:0


TITLE:【黄昏の大罪トワイライト・シン


SKILL

【神々を喰らう黄昏】LEVEL:∞(限界突破)

→霧により外界と隔絶された世界を創造するよ! 囚われた者は一切脱出することができなくなって外部との連絡も不可能になるよ! 霧の中で死んだ者や世界に入ってから二十四時間が経過した者は霧に囚われて成仏することのない霧霊となるよ!

-----------------------------------------------


 霧の中で死んだ者や世界に入ってから二十四時間が経過した者は霧に囚われて成仏することのない霧霊となる……か。霊煌粒子エーテル・マターで防げると思ったが……最悪の場合は〝移動門ゲート〟で脱出だな。外界と隔絶されてても【空間魔法】は使えるだろうし。


「ユエさん、ヱンジュさん。このシールを貼ってください。精神力を霊煌粒子エーテル・マターに変化させて、身体に纏わせることができます。理論上、これで霧の中にいる霧霊にダメージを与えられる筈ですし、二十四時間のタイムリミットを引き伸ばせると思われます」


「草子さん、貴方は大丈夫なのですか? このシート、二枚しかありませんが……」


「大丈夫ですよ。俺は超越者デスペラードなので。――では行きますよ」


 ユエに抱えられたヱンジュに続き、竜の翼を作り出した俺は《黄昏の大罪トワイライト・シン》ラグナレクの中へと突入していく。


 ヱンジュは共に異世界カオスに来たという剣精霊――布都御霊姫を剣に変化させている。

 ……しかし。


Page.1/2

-----------------------------------------------

NAME:七曜ヱンジュ AGE:17歳

LEVEL:1 NEXT:10EXP

HP:10/10

MP:14200/14200

STR:12000

DEX:10000

INT:10000

CON:10000

APP:600

POW:10

LUCK:1000


JOB:精霊の巫女、精霊剣士、巫女


SKILL

【言語理解】LEVEL:1

→知らない言語を理解できるようになるよ!


ITEM

・妙法村正

→刀工・千子村正作の日本刀に酷似した刀剣だよ! 神威との親和性が高いよ! 神鋼と呼ばれる神性を帯びた特殊な玉鋼が素材として使われているよ!

・一胴七度

→刀工・千子村正作の打刀に酷似した刀剣だよ! 神威との親和性が高いよ! 神鋼と呼ばれる神性を帯びた特殊な玉鋼が素材として使われているよ!

・精霊巫女装束

→異国の精霊使いが身につける巫女服だよ!


NOTICE

・通知一件

→未使用のポイントが後100あります。

-----------------------------------------------


Page.2/2

=================

七曜ヱンジュ 17歳 女 レベル:91

天職:精霊の巫女 職業:精霊剣士 サブ職業:巫女

筋力:12000

耐久力:10000

魔力:14200

魔耐力:10000

神威:49999

敏捷:10000

体力:10000

知力:10000

幸運:1000

技能:戦闘神楽【+精霊剣舞】 [+顕現速度上昇][+刀剣化速度上昇][+刀剣生成速度上昇]・剣技[+一刀流][+二刀流][+斬撃速度上昇][+抜刀速度上昇][+無拍子][+飛斬撃]・神威操作[+浄化速度上昇][+浄化範囲向上][+浄化距離向上][+連続発動][+複数同時発動][+付加発動][+遅延発動][+神威放射][+神威圧縮][+遠隔操作][+体力変換][+治癒力変換]・神威回復[+高速神威回復][+超速神威回復][+瞑想]・精霊術【+火属性適性】[+発動速度上昇][+威力上昇][+持続時間上昇][+連続発動]・【+水属性適性】[+発動速度上昇][+威力上昇][+持続時間上昇][+連続発動]・【+氷属性適性】[+発動速度上昇][+威力上昇][+持続時間上昇][+連続発動]・【+風属性適性】[+発動速度上昇][+威力上昇][+持続時間上昇][+連続発動]・【+地属性適性】[+発動速度上昇][+威力上昇][+持続時間上昇][+連続発動]・【+聖属性適性】[+発動速度上昇][+威力上昇][+持続時間上昇][+連続発動][+回復効果上昇][+回復速度上昇][+状態看破][+回復範囲上昇][+回復距離上昇][+状態異常回復効果上昇][+消費神威削減][+魔力効率上昇][+連続発動][+複数同時発動][+付加発動][+遅延発動][+浄化速度上昇][+浄化範囲向上][+浄化距離向上]・【+剣属性適性】[+顕現速度上昇][+刀剣化速度上昇][+刀剣生成速度上昇][+浄化速度上昇][+浄化範囲向上][+浄化距離向上][+連続発動][+複数同時発動][+付加発動][+遅延発動]・縮地[+爆縮地][+神速縮地][+重縮地][+豪脚][+震脚][+無拍子]

所持品:妙法村正・一胴七度・精霊巫女装束

=================


 二つのステータスか……神威とか見たことのないステータスも存在しているし、お手並み拝見だな。


 霧の中には大量の霧霊と思われる存在がいた。魔精霊、邪精霊、闇精霊、異世界の自然神……果ては人型のものに至るまで……これ、思ったより被害がデカイな!!


死を招く靂閃ヴォーパル・ブラスト


「七星流絶剣技 初ノ型 貪狼」


 ユエの手から黒い雷撃が放たれ、ヱンジュの神威? を纏った突きが霧霊を貫く。


 二人は大丈夫そうだな。……さて、俺は今のうちに【叡慧ト究慧之神】で霧霊を解析して……。


「……ダメか。どうやら霧霊となったものは霧と完全に同化してしまうようだ。分離は無理そうだな」


『そう……ありがとう、気を遣ってくれて。大丈夫よ。今まだ霧に呑み込まれていない精霊達を助けるために、私はこの霧を討つ――その覚悟は決めているから』


 ユエはその瞳に覚悟を湛えていた。……どうやら、いらぬお節介だったようだ。


「霊煌粒子射出拳銃《ノア》――発射バースト!」


 全弾命中。おっ、効いてる効いてる。

 ……でも、効率が悪いな。やっぱり霊煌粒子エーテル・マターを纏わせて直接攻撃した方が早いか……意味ねえじゃん。

 ということで、霊煌粒子エーテル・マター発生装置(三枚目)を作成。


「【魔法剣・闇纏ヤミマトイ】」


Envelopperオンブルベ avecアベック les ténèbresテネーブル/Croissantクロワサン deドゥ luneリュンヌ envoyéアンヴォワイェ


 使ってみました、安定の魔法剣。霊煌粒子エーテル・マターを纏わせたら効果抜群、霧霊が切れまくっております。


「というか、霊なら浄化できるんじゃない? 〝嗚呼、大いなる主よ! 今こそ汝の慈悲でこの世を彷徨える者達の心をお清め下さい!〟――〝光聖霊浄化セイクリッド・エクソシズム〟」


 作戦失敗……やっぱりそんな簡単にはいかないよね。


「草子さん、剣技も凄いんですね」


「ヱンジュさん、意外かもしれないけど俺ってこの棒切れ一本でこの世界を生きてきているから、さっきの加重よりもコイツとの付き合いの方が長いんだよ。……さて、《魂魄の大罪スピリット・シン》フレースヴェルグが来る前に早く――」


 ――クゥルァァォ!!


-----------------------------------------------

NAME:《魂魄の大罪スピリット・シン》フレースヴェルグ

LEVEL:10000

HP:100000/100000

MP:99999999/99999999

STR:6000000

DEX:8000000

INT:-100000

CON:100000

APP:-100000

POW:100000

LUCK:100


TITLE:【魂魄の大罪スピリット・シン


SKILL

【霊煌粒子喰らい】LEVEL:2000

→魂を霊煌粒子に変化させて喰らうことができるよ!

【霊煌粒子の身体】LEVEL:2000

→魂を変化させた霊煌粒子をその身に纏うよ!

【奇襲】LEVEL:2000

→奇襲が上手くなるよ! 【不意打ち】の上位互換だよ!

【即死耐性】LEVEL:2000

→即死に対する耐性を得るよ!

【掣肘】LEVEL:2000

→掣肘が上手くなるよ! 【威圧】の上位互換だよ!

【覇潰】LEVEL:2000

→覇潰が上手くなるよ! 【覇気】の上位互換だよ!

【絶望の波動】LEVEL:2000

→絶望の波動を放つよ! 【恐慌】の上位互換だよ!

【気配察知】LEVEL:2000

→気配察知が上手くなるよ!

【魔力察知】LEVEL:2000

→魔力察知が上手くなるよ!

【熱源察知】LEVEL:2000

→熱源察知が上手くなるよ!

【振動察知】LEVEL:2000

→振動察知が上手くなるよ!

【危機感知】LEVEL:2000

→危機感知が上手くなるよ!

【魔力操作】LEVEL:2000

→魔力操作が上手くなるよ!

【魔力付与】LEVEL:2000

→魔力付与が上手くなるよ!

【魔力治癒】LEVEL:2000

→魔力を使って治癒ができるようになるよ!

【魔力制御】LEVEL:2000

→魔力制御が上手くなるよ!

【魔力吸収】LEVEL:2000

→魔力を吸収できるようになるよ! 【魔力回復】の上位互換だよ!


ITEM

-----------------------------------------------


 って言ってる間にフレースヴェルグ登場……いや、ふざけてるよね!!


「【超過之神】――Envelopperオンブルベ avecアベック les ténèbresテネーブル/Fenteファント innombrableイノンハーブル pleineプレン luneリュンヌ


 つい……ね。ただでさえヤバイ技を強化した結果、フレースヴェルグは一撃でお亡くなりになられました。

 ちょっとだけ肉片が残って良かったよ。とりあえず、【暴食之神】で戴きます。


 ……あっ、一緒に霧まで食っちまった。しかし、【神々を喰らう黄昏】は会得できなかった模様。


『……あれ、フレースヴェルグ居たわよね? 私の見間違いと聞き間違いではないわよね?』


「ん? 居たよ? で、今倒して捕食した」


『意味が分からないわ。……とにかく、危険の一角が消失したということだけは確かなようね』


 まあ、思ったほどの強敵では無かったけど。

 ホント、霊煌粒子エーテル・マター発生装置様々だな。


「七星流絶剣技 二ノ型 巨門」


真実を貫く漆黒の矢ヴォーパル・アローズ


 ヱンジュの片足を軸にして回転しながら神威を込めて放つ旋風のような回転飛斬撃とユエの生み出した漆黒の矢が霧霊を切り裂き、貫き、倒していく――順調順調。

 しかし久々だな。俺だけ何もしないっていうこの手持ち無沙汰な時間……って霧霊沢山いるから俺も参戦すればいいんだけどね。


Envelopperオンブルベ avecアベック les ténèbresテネーブル/Croissantクロワサン deドゥ luneリュンヌ envoyéアンヴォワイェ


 まあ、結局【飛斬撃】なんですけどねぇ! ……【災禍黒嵐砂塵壁メイルストロム・ハブーブ】は分からないけど、【真核熱爆域ニュークリア・スフィア】や【天ト地ヲ繋グ雷ノ柱ダークエレクトリカル・ピラー】は間違いなく通用しないだろうからな。



 コアは案外簡単に見つかった。

 頭から背中に多数の角を持つ巨人。その両脇に控える巨大な猪と巨大な鹿……。


 間違いない。コイツらが、ヱンジュが言っていた【〝貪〟ノ禍穢神】、【〝瞋〟ノ禍穢神】、【〝癡〟ノ禍穢神】――三毒ノ禍穢神の成れの果てか。


「……一番ヤバそうなあの巨人は俺が引き受けるよ。ヱンジュさんとユエさんは――」


「私はあの猪を引き受けるわ。紅牙主さんには昔お世話になったから」


『なら、私は消去法であの鹿ね』


 とりあえず、誰が誰を相手するのかは決まったな。


「紅さん……今、私が貴方を祓います。唵・薩婆訶・吽・發吒・歩嚕唵」


 ヱンジュの周囲の空気が渦巻くように動く……神威を強化・増幅しているみたいだな。


「七星流絶剣技 三ノ型 禄存-樹之太刀-」


 緩急をつけることで残像を生み出す歩法で敵を惑わしながら接近し、樹木が大地を削り成長するようなイメージを付与した神威を込めた斬り上げ、更に相手が体勢を崩したところに頭上への斬り下ろしを繰り出す連撃か……というか、神威に性質を付与することってできるんだな。……かなり猪の霧霊にダメージを与えられているみたいだ。


 猪の霧霊は猪突猛進に攻撃か。……自分が何であるかも忘れ、身体を蝕むほどの呪いの如き怒りを忘れ、ただ《黄昏の大罪トワイライト・シン》ラグナレクの一つの駒になってしまったか……。

 流転杜守紅牙主だったっけ? お前は一体、何のために戦っているのだろうか?


「七星流絶剣技 四ノ型 文曲」


 ……これは他の型に比べて地味だな。というか、猪の霧霊に斬撃を放っているが、あまり効いている風には見えない。


「七星流絶剣技 五ノ型 廉貞」


 音と気配を絶つ歩行と筋肉の収縮を連続で生み出した衝撃と神威を乗せた斬撃の組み合わせってところか。

 一撃の威力は〈初ノ型 貪狼〉を凌駕する……連撃の方が総合的なダメージは大きそうだけど、連撃は範囲から逃れられたら大きな隙を作ることになるし、こっちの方がある意味厄介か。


 ……ん? 猪の霧霊に沢山の傷が生まれた? そこから霧が噴き出して……。

 なるほど、〈四ノ型 文曲〉は狂●桜のように一定の力などが加わることによってのみ傷を開かせることができるという遅効性が付与された斬撃ということか。


 今の、かなり効いたな。猪の霧霊、もう崩壊寸前だぞ。


「七星流絶剣技 六ノ型 武曲」


 神威を纏わせた連続突き――〈初ノ型 貪狼〉とは違い、一つの突きに掛けられる威力自体は低いが……塵も積もれば山となるという奴か。


「七星流絶剣技 七ノ型 破軍」


 剣を鞘に戻して放つ抜刀術か。鞘の中で刀を引っ掛けて力を溜めてから一気に抜くことによって斬撃を加速させる――影が追いつけないほどではないにしろ、速度はこれまでの斬撃の中でも最速。

 正しく必勝の太刀――流石は「その方向に向って戦うものは勝ち,逆らって戦うものは負ける」剣先星の名を冠するだけのことはある。


 ……最後ので猪の霧霊は力尽きて霧となって四散したか。


「――紅さん、ありがとうございました」


 でもって、ユエの方は――。


真実を貫く漆黒の矢ヴォーパル・アローズ


 漆黒の矢の遠距離攻撃で様子見というところか。

 ダメージはありそうだが、すぐに回復されているな……鹿の方は猪よりも遥かに再生能力……いや、霧補填力が高いらしい。


『……面倒ね。黑魔霹球ヴォーパル・ブリッツ


 ユエの手から放たれた黒い雷撃が鹿の霧霊に命中し、身体の半分を吹き飛ばした……あれ、やべえ威力だな。霧補填力が高いせいで数分で修復されるけど……。


魔翼嵐刃ヴォーパル・ストーム闇の炎に抱かれてヴォーパル・フレイム降り注ぐ魔雷ヴォーパル・ライトニング


 間髪入れずに翼を無数の刃に変えて敵を切りつける、黒い劫火を敵の周囲で発生させて焼き尽くす、天から降り注ぐ無数の黒雷で攻撃する三連続攻撃か。

 流石に鹿の霧霊もこれで終わりだな。


 って他人の心配をしている場合じゃなかった! 巨人の触手がめちゃくちゃ伸びてきてる!! ……しかも、これ、触れたら命吸われる奴だよね。


 【殺気圏域】で触手を斬りとばす。だが、相手は実体のない霧――すぐに原型を取り戻して再び攻撃を仕掛けてくる……ENDLESS!?


 再生能力とかもうそんなレベルじゃないな。霧補填力は鹿の霧霊の比じゃない。破壊した瞬間に修正される――まるで【自己修復 極】の使い手を相手にしているみたいだな。


 しゃあない……奥の手を使うか。


「亜空還噴進拳銃《アビス》――発射バースト!」


 本来存在しえない同座標の亜空間を無理やり生成してそこにあったものや周囲のものを亜空間ごと世界の修正力によって消し去る拳銃を巨人に向ける。

 引き金トリガーを引いて射出!!


「……あっ、範囲が狭過ぎたか」


 拳銃に小型化した弊害だな……このまま霧を巻き込みながらぶっ潰していく耐久レースパターンで攻めるか。

 ……いや、こっちも時間制限あるし、これだけの霧を消しとばすのには時間が掛かる。無限に再生可能な巨人相手には明らかに悪手だな。俺だけならともかく、ユエとヱンジュがいる状況で打つべき手ではない。


「〝銀の輝きと鋼を凌ぐ強さを持つ魔法金属よ、我が魔力を喰らいて生まれ出でよ〟――〝メタルメイク・ミスリルダイト〟」


「〝アトランティスの底に眠る最硬の神金属よ、我が魔力を喰らいて生まれ出でよ〟――〝メタルメイク・オレイカルコス〟」


 大量のミスリルとオリハルコンを【利己主義的な創造主】で融合し、【叡慧ト究慧之神】の中にあるデータを基に巨大な砲台を生み出す。


宙を呑む三つの風穴トライ・アンシャル――一斉掃射フルバースト


 三つの砲身を持つ亜空を捻じ曲げる常闇アンシャルを作成し、霧霊の巨人に向けて放つ。

 よし、成功。巨人が周囲の霧と共に消滅した。


 霧が渦巻き、少しずつ薄れていく。霧によって作られた世界が崩壊していく。

 やはり、【〝貪〟ノ禍穢神】が世界の核になっているという見当は当たっていたみたいだ。


 《黄昏の大罪トワイライト・シン》ラグナレクという一つの世界は、こうして生まれて間もなく死を迎えた。



 異世界生活百三十九日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、魔王領シェリダー


「ということで、《黄昏の大罪トワイライト・シン》ラグナレク及び《魂魄の大罪スピリット・シン》フレースヴェルグの討伐に成功しました」


 〝移動門ゲート〟を開いてスフィリアの城に戻る。

 やっぱり菠薐草……じゃなかった報連相は重要だ! ということで早速スフィリアに報告した。


「……いくらなんでも早くないですか?」


「……未だ二店のほかにえ回りたらず」


 ジューリアよ……そんなことを言われてもな。


「時間制限があったから悠長に戦ってたら負けてただろうし、短期決戦が望ましかったのは確かだよ。《黄昏の大罪トワイライト・シン》のコアの再生力は意味が分からなかったから、亜空還噴進砲を使って世界の修正力で消さなければ千日手だったし……」


「…………あの、何を仰っているのかさっぱりです」


「すなはち、草子苦戦せりといふかな。……珍し」


 いや、バグっただけのモブキャラだし、割と苦戦するよ? 苦戦していないように見えることもあるかもしれないけど、実は割と苦戦しているんだよ。


「さて、次は異世界ガイアに転移ということですが……相手がどの程度の敵か分かりませんし、魔王領シェリダーの周辺で鍛えてから行きませんか? ヱンジュさんのこちらでのレベルはまだ10のようですし……」


-----------------------------------------------

NAME:七曜ヱンジュ AGE:17歳

LEVEL:10 NEXT:10260EXP

HP:150/150

MP:16000/16000

STR:14000

DEX:12000

INT:10060

CON:11000

APP:600

POW:105

LUCK:1004


JOB:精霊の巫女、精霊剣士、巫女


SKILL

【袈裟斬り】LEVEL:2

→袈裟斬りが上手くなるよ! 相手の左肩から右脇腹を斬るよ!

【逆袈裟斬り】LEVEL:2

→逆袈裟斬りが上手くなるよ! 相手の右肩から左脇腹を斬るよ!

【左斬り上げ】LEVEL:2

→左斬り上げが上手くなるよ! 袈裟斬りの逆に斬り上げるよ!

【右斬り上げ】LEVEL:2

→右斬り上げが上手くなるよ! 逆袈裟斬りの逆に斬り上げるよ!

【刺突】LEVEL:2

→刺突が上手くなるよ!

【連続突き】LEVEL:2

→連続で突きを放てるようになるよ!

【居合い】LEVEL:2

→居合が上手くなるよ!

【飛斬撃】LEVEL:2

→斬撃を飛ばすのが上手くなるよ!

【言語理解】LEVEL:4

→知らない言語を理解できるようになるよ!


ITEM

・妙法村正

→刀工・千子村正作の日本刀に酷似した刀剣だよ! 神威との親和性が高いよ! 神鋼と呼ばれる神性を帯びた特殊な玉鋼が素材として使われているよ!

・一胴七度

→刀工・千子村正作の打刀に酷似した刀剣だよ! 神威との親和性が高いよ! 神鋼と呼ばれる神性を帯びた特殊な玉鋼が素材として使われているよ!

・精霊巫女装束

→異国の精霊使いが身につける巫女服だよ!


NOTICE

・通知一件

→未使用のポイントが後150あります。

-----------------------------------------------


 異世界ガイアでのヱンジュは、レベル91。

 異世界カオスでのヱンジュは、レベル10。

 どちらがレベルを上げやすいかは一目瞭然だろう。


 それに、こちらの世界でステータスを上げれば異世界ガイアのステータスにも影響が出る。

 二つのステータスが存在し、異世界ガイアのステータスが異世界カオスでも発動されていることを考えると、こちらでスキルを獲得することで戦力を増強するというのは順当な手段であると思う。


「草子さんには、ステータスを見ることができるのですか?」


「まあ、【看破】というスキルがありますので。異世界ガイアと異世界カオスのステータスを確認することができます」


 本当は【叡慧ト究慧之神】という名の上位互換だけど、あんまり手の内は明かさない方がいいからね。

 【看破】なら少数ではあるけど、まだ持っている人いるし。


「確かに、フェアボーテネを倒すためには今の私では力が足りませんからね。ここは多少回り道をしても戦力を増強した方がいいと思います。――お願いします、草子さん」


 まあ、フェアボーテネに関してはそこまで問題じゃない。

 フェアボーテネという名前を検索に掛けたところ、魔導文明サドォリュムの〈全知回路アカシック・レコード〉に該当者一件――魔導文明サドォリュムの大企業Homesteading the Noosphere industry、通称HNI社課長、フェアボーテネ・エヒト・フリュヒテという人物が一件ヒットした。


 一研究者から課長まで上り詰めた叩き上げの野心家で、マルドゥーク文明から攻撃を仕掛けられる数日前に《神代空間魔法》を使い、〝ランダムテレポート〟に踏み切ったらしい……怖いな、〈全知回路アカシック・レコード〉。個人情報保護とかする気ないな。


 しかし、Homesteading the Noosphereか。

 ノウアスフィアは、ウラジーミル・ヴェルナツキーとテイヤール・ド・シャルダンが広めた「人間の思考の圏域」を示す言葉だったっけ?

 随分と大きな目標を持っていたんだな……その前に宇宙人? 異星人? 異世界人? に滅ぼされたけど……。


 間違いなく神代魔法を使ってくるだろう。俺だけなら【魔法無効】と超越者デスペラードの優越でどうにでもなるが、守りながら戦うとなると難しい。

 やっぱり個々に強くなってもらわないとね……うん、モブキャラが言う台詞ではないな。はい、身の程を弁えます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る