文学少年(変態さん)は世界最恐!? 〜明らかにハズレの【書誌学】、【異食】、にーとと意味不明な【魔術文化学概論】を押し付けられて異世界召喚された筈なのに気づいたら厄災扱いされていました〜
古風な和風少女にどら焼きと抹茶をあげたら喜ぶんじゃないかという先入観は的を射ていたようだ。
古風な和風少女にどら焼きと抹茶をあげたら喜ぶんじゃないかという先入観は的を射ていたようだ。
異世界生活百二十八日目 場所聖都、新神殿宮
タイムリミットまで残り二十四時間を切っている。
やることをチャチャっとやって、とっととこの国を出ないとな。
「ジューリアさん、とりあえず出発に向けて準備をしてくれないかな?」
「了解せり」
ジューリアには旅の準備を整えてもらう。物資の調達はできるが、そういう問題じゃないものもいくつかあるだろうからな。
「ハインリヒさん、何人かミント正教会の方をこちらにお呼び頂けませんか? 流石にこのまま放置したら風邪をひいてしまいますので」
「分かりました。少々お待ちください」
ハインリヒにはもう一つ用事があるが、それについては戻ってきてから話せばいいだろう。
「さて、メル
「……その話って、メルが決めてもいいことなの?」
メルはまだ幼い。日本の天皇家の場合なら摂政が置かれるよな。
そして、ミンティス教国においてその摂政の立場にあったのが筆頭
「俺はメル
「うん、分かった」
【友情強制】という特別なスキルを持っていること以外は普通の女の子なんだよな。
かつてはマジェルダの傀儡だったメル……でも、そこから解放された今、メルは自分で選択して方向性を決めていかなければならなくなった。
その重圧は、小さな女の子に重く伸し掛かるのは想像に難くない。
だけど、一人で背負う必要はないんだ。重い荷物を背負っている人がいたら、その荷物を半分預かって背負えばいい。そうすれば重さは二分の一だ。
信頼できる仲間と荷物を分け合って背負えば、きっとこの国は前よりももっといい国になると思う。
「草子様、騎士修道会の面々を何人か連れて参りました。眠っている皆様を空き部屋に運ぶように指示を出しております」
「ありがとうございます。では、次に参りましょう。メル様にもお伝えしましたが、これからミンティス教国は二つの道を選ぶことになります。一つはこのまま単体の国として頑張り、国を復興させていくか。もう一つは、国家同盟に所属し、協力を仰ぐか。全権はメル様にあると思いますが、彼女が望むのであれば手を貸してあげてください」
その後、メルとハインリヒは話し合い、結果的に国家同盟に所属するという結論を出した。
これまで通りミンティス教国として独立して政治を行うことが保証されるのに加え、他国との貿易が楽になったりと様々な利点があるのが決定の理由だろう。
実質、不利益を被らずに利益のみが得られる選択肢――普通は、同盟参加を選ぶよね。
「そうと決まれば各国の代表に承認を得なければならないな。ということで、メル様、ハインリヒ様、しばらくお付き合いください」
◆
無理を言って、臨時の国家同盟の議会を開いてもらった。
議長職パワーなのかどこからも反論が上がらなかった。……貴族って忙しいんじゃないの?
「今回、皆様に集まってもらった理由は二つあります。まず、俺の最後の仕事としてミンティス教国を国家同盟に加えて頂きたいのです」
……何故、騒然とするのだろう? ただのモブキャラが議長を辞めるというだけだろう?
「草子殿、今聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするのだが……最後の仕事と言ったか?」
「はい、ヴァイサル様。……先にこっちの話題から話した方が良かったかもしれませんね。諸事情により、本日限りで国家同盟の議長職と、エリシェラ学園の客員教授職を辞職させて頂きたいと思います」
再び騒然……わいのわいの五月蠅いって叫んだ方がいい?
「草子殿、エリシェラ学園の客員教授を辞職したいというのはどういうことだ? 休暇届けは受け取っているが、辞職願いは受け取っていないぞ」
「……セリスティア学園長、連絡が遅れたこと謹んで謝罪させて頂きます。言い訳がましいですが連絡できる状況ではありませんでした。潜入捜査? の真っ最中でして。理由ですが、これからしばらく魔王討伐に専念しようと思っていまして、しばらく講義に出られないので辞職した方がいいかなと思った次第です」
「……本当は白崎さん達と顔を合わせたくないだけだろう?」
「あはは、そうとも言いますね」
様々な場所で憶測が飛び交うが、俺とセリスティア学園長の間には緊迫した空気が流れ続け、静まり返っていた。
「辞職の話だが学園長権限で却下する。ブラックな上司だと思いたければそれでいい。私は優秀な人材を手放すつもりは毛頭ないからな。……草子殿、またいつでも帰ってきてくれ。貴方がこの世界にいる限り、いや、例え元の世界に帰ったとしてもエリシェラ学園は貴方が帰って来られる場所であり続ける」
「……ありがとうございます」
「礼はいらない。……それに、もし仮に草子殿の辞職を認めてしまったらエリシェラ学園の生徒や教師達に反対運動を起こされてしまいそうだからな。草子殿は、それだけのものをエリシェラ学園に残したんだよ」
成り行きで任せられた教師の仕事だけど、意外と楽しかった。
爵位一つも持っていない平民の俺が貴族相手に勉強を教えるとか、即打ち首にされそうだと思ったけど長く続けられたのは予想外だった。
思えばこっちに来てから教えてばっかりな気がする。これも、将来指導者になるために経験を積んでおけということなのか? まあ、ありがたいことだけど。
「では、まず一つ目の議題ですが、ミンティス教国の加盟について反対の方は挙手をお願いします」
反対派は居なさそうだな。とりあえず、承認ってことでいいか。
「ミンティス教国の代表者はメル
メルに統治は無理だろうと思う者達も周りの大人達が協力するならば問題ないと考えるだろうと思ったが、予想通りだった。
「草子殿、一ついいか?」
「はい、ヨハン様。……メル
「いやそこじゃなくてな……まずこうなった経緯を話してもらいたい。話が飛躍し過ぎていてよく分からない。……マジェルダ
そういえば、戦争の件を伝えるのすっかり忘れていた。
「えっと、そもそもこうなった原因は二つありまして、一つはマジェルダを殺そうと行動していた俺、もう一つはミンティス教国を見限ったヴァパリア黎明結社による教国崩し――この二つのタイミングが一致し、更に最後の超古代文明マルドゥークの最後の古代兵器の復活とヴァパリア黎明結社が誘い出した超帝国マハーシュバラの間で四陣営戦争が勃発しました……本日。その結果、マジェルダとヴァパリア黎明結社の部門長一名が死亡し、最後の古代兵器は機能を停止しました。幸い住民は大きな戦争の割にはそれほど被害が出ませんでしたが、建物はそこそこ壊れてしまっています。とりあえず最も被害の大きかった神殿宮は建て直したんで、国家同盟の諸国には聖都の復旧にご協力頂きたいな、と。勿論、代金がミンティス教国から出る歴としたお仕事です。ミンティス教国に関しては戦争の当事者として俺が損害補償費等を出しておりますのでご安心ください」
「……つまり一日で戦争を終わらせ、その損害補填のために協力を仰ぎに来たということですか? 草子殿は相変わらずフットワークが軽いですね」
レオーネ姐様。俺のフットワークが軽いんじゃなくて、〝
というか、呼ばれたらすぐさま集まれるお前ら貴族や王族の方がフットワークが軽いと思うけど。
「では、最後に新議長の任命に移りたいと思います。俺は、セリスティア学園長に新たな議長をお願いしたいです。理由としては、セリスティア学園長の万人が普通教育を受けられるようにしたいという願いに俺も共感しているからです。庶民貴族問わず様々な者達が学べる場所をエリシェラ学園だけではなく世界各地に作ってもらいたい――セリスティア学園長であれば、そのためにご尽力くださると思います。……まあ、貴族の中には気に食わない方もいらっしゃるとは思いますが、我々が恐れなければならないのは停滞と退行であるということを理解して、世界を平等に限りなく近づけるためにご協力ください」
奴隷と貴族――この世界に生きていながらも大きな身分が存在している。
それが努力によってもたらされたのならまだいい。というか、努力して更なる高みを目指していって欲しい。
問題は、生まれた時に身分が決まってしまう世の中だ。折角の才能の芽が、奴隷だからという理由で摘まれてしまう。
それは、あまりにも理不尽だ。
情報を鵜呑みにせず、自らで判断して行動できる人間がこのカオスな世界で活躍できる世の中を作ってもらいたい。
それは、イオン達やエリシェラ学園の生徒達を教える中で俺が思うようになったことだ。
「まあ、そうなると国家同盟の財政がかなり圧迫されると思うので……えー、ここに虹金貨が八百枚――日本円換算で八兆円分あります。こちらを国家同盟にお渡ししたいと思います」
「「「「「「「――虹金貨八百枚!?」」」」」」」
まあ、貴族達にとってもそうそうお目にかからない金額だろうからね。
ちなみに俺はコツコツと虹金貨を貯めているんで、実は氷山の一角でしか無かったりします。
国家予算を優に超えるお金を持つモブキャラって一体……。
「セリスティア学園長、ということで後はよろしくお願い致します」
「……本当に私でいいのか?」
「こんなモブキャラに務まる議長なんですから誰にだって務まりますよ。仕事熱心なセリスティア様であれば俺以上に真っ当に勤められる筈です……あんまり気負いしても病気になってしまうので気楽にやればいいですよ、気楽に」
何故かこの場にいる全員がジト目を向けてきた……何か変なことでも言っただろうか?
「ということで、後はセリスティア学園長にお任せします。俺は急がないといけないのでこれで失礼しますね」
虹金貨の入った袋をセリスティア学園長に手渡し、ミンティス教国を含めていくつかの座標が入ったゲートミラーをハインリヒに渡すと、俺は新神殿宮に戻った。
◆
「ジューリアさん、準備はできたか?」
新神殿宮に戻った俺は
場所は隠法騎士修道会の管轄している旧神殿宮の区画らしく、リアル忍びが普通に廊下を歩いている。
「完了せり。ときじくうちいでらる」
ジューリアの荷物はほとんど無かった。……あるのは着替えが三日分くらい? ローテーションさせるのか?
荷物は鞄に詰め込んだらしい。……
「ジューリアさん、ルービック・ボックスとゲートミラーを渡しておくよ。ルービック・ボックスは【時空間魔法】で五十四個の時空間にアイテムを保管することができるアイテムで、ゲートミラーは〝
「……【時空魔法】を施しし秘宝……我や貰ふべき?」
「そのために用意したんだからな。重いものを持ち歩くのも面倒だろう?」
ちょっとの手間で荷物を減らせるのなら、それに越したことはない。その手間を惜しんで重い荷物を持ち歩いて体力を減らしたら肝心の戦闘に支障が出るからな。
「んじゃ、ミンティス教国に未練はないか? とりあえず、まずは俺の家に行って装備を整えてからウィランテ=ミルの街に移動し、そこから徒歩で山越えをする……それでいいか?」
「異論はあらず。了解せり」
さて、了承も得られたことだし久々に拠点に帰りますか。
◆
異世界生活百二十八日目 場所コンラッセン大平原、能因草子の隠れ家(旧古びた洋館)
洗い物の山は無かった。どうやら、ここに滞在中にレーゲンは家事をセルフでやってくれていたらしい。
今回の件で得た素材や武器の研究をしたいけど、それはまた今度にしよう。
「これからしばらくはここで暮らしてもらいたい。まあ、部屋はかなり余っているし好きなところを使ってもらって構わないよ。なんなら新しく部屋を作ってもいいけど……畳の部屋とかの方がいいかな?」
「畳とはなんなり?」
てっきり古文口調で話す子だから和風の方がいいかもしれないと思っていたけど、もしかして勘違いだった?
でも、もしかしたら和風の方が好きかもしれないし……とりあえず、余っている土地に家を増築してみるか。丁度和のテイストの家が欲しかったし。
ということで、純和風の日本家屋を立ててみました。一応茶室もあるけど、俺あんまり上手く立てられないんだよね。
ちなみに立て方はどちらかというと裏千家寄り? まあ、我流なんだけど。
そういえば、抹茶や小豆をルルードが懇意にしているリシェル商会から購入してたっけ?
折角茶室を作ったし、和のテイストのものを作って出してみるか。
「ちょっと甘いものを作ってくるからこの部屋で待ってて」
「了解せり」
母屋に戻り、調理場で料理を開始する。
【家事技理】のおかげで地球に居た頃よりも遥かに手際が良くなった。まあ、【叡慧ヲ窮メシ者】で最適化されているのもあるんだけど。
とりあえず、作るのはどら焼きと抹茶。
どら焼きは武蔵坊弁慶が手傷を負った際、民家にて治療を受け、そのお礼に小麦粉を水で溶いて薄く伸ばしたものを熱した銅鑼に引き、丸く焼いた生地であんこを包み、振舞ったことが起源だとされているっけ?
国民的青い狸型ロボットやちみっ子暗殺者の大好物としても知られているな。……どっかから膝蹴りが飛んでくると危ないから、これ以上掘り下げるのはやめよう。
一応、それっぽいものが完成した? まあ、味は問題なかったのでこれで完成ということにしよう。
完成したどら焼き(試作品)と抹茶を持って日本家屋に戻る。
「待たせてすまんね。なんとなくで作ってみたけど、これでも食べてゆっくり今後の話をしようか」
「……こは何なり?」
「どら焼きっていう小豆を煮たものを使った料理と抹茶っていう碾茶――蒸し製緑茶の一種を粉末にしたものを湯を加え撹拌した飲料だ。なんとなくジューリアさんの好みな味かなって?」
「……いかなることなり」
流石に古風で日本っぽいから和風のものが口に合う中って安直に考えて出したなんて言えないからな……。
「まあ、試しに食べてみて」
ということでスルーすることにしました。
「……美味なり」
「お粗末様です」
物凄い可愛らしく食べるな。栗鼠なのか、栗鼠なのか!?
「さて、旅に出発するに当たりジューリアさんの装備を整えたいと思う。一応魔王軍とも戦う訳だし、強化できるならした方がいいと俺は思う。まあ具体的には正教会の巫女服と正教会のローブだけど、これそのものを強化するか、新しいものを作るかだけど、どっちがいい?」
「……強化せなむ」
「了解」
ジューリアには代わりの服(和風じゃなくて洋風だった)に着替えてもらい、正教会の巫女服と正教会のローブを借り受ける。
オラクルスレッドとオレイミスリルの糸、正教会の巫女服を解いた糸と正教会のローブを解いた糸を混ぜて生地を作る。
ちなみに、
黒い巫女装束……白衣と呼ばれる小袖と緋袴(どっちも黒だけど)によって構成されているな。
……う〜ん、やっぱり西洋風な印象を何となく出したいし……白衣の部分を修道服風のワンピースに差し替え、下部分をカットしてそこに袴を合わせるってのはどうか?
……うん、それ最早ワンピースじゃないね。
黒を基調として銀糸で刺繍を施した襟白のトップスに、同色の袴。
邪魔にならない程度の同色のウィンプルを合わせ、最後にロザリオを装備して完成? ……いや、和の要素がほとんど無くなった。
トップスを巫女服のように袖にすれば……まあ、こんなところでいいか。
んじゃ、早速作るか!
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・
→巫女装束の小袖と修道服を融合した巫女修道服のトップスだよ! 正教会の巫女服を解いた糸とオラクルスレッドとオレイミスリルの糸で作った布を使っているよ! 銀の糸で蝶の刺繍がさりげなく施されているよ!
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・
→黒を基調とした袴だよ! 正教会の巫女服を解いた糸とオラクルスレッドとオレイミスリルの糸で作った布を使っているよ! 銀の花の刺繍が施されているよ!
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・
→黒を基調としたベールだよ! 正教会の巫女服を解いた糸とオラクルスレッドとオレイミスリルの糸で作った布を使っているよ!
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・
→白を基調として金糸で花のミントの刺繍が施された法衣だよ! 正教会のローブを解いた糸とオラクルスレッドとオレイミスリルの糸で作った布を使っているよ!
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こんな感じか? 大きさはぴったりだと思うけど。
「よし、完成。とりあえず着てみて何か問題があったら言ってくれ」
ジューリアに服を渡し、移動する。今のうちに洗い物を済ませておくか。
「着替へ終はりき」
洗い物を終えた頃、着替えを終えたジューリアが戻ってきた。
「何か問題はあったか?」
「問ひはあらず。いと着心地よし。ありがたし」
「気に入ってもらえて何よりだ。んじゃ、準備は終わったしそろそろ行くか。忘れ物はないか? 覚悟はいいか?」
「問題ないなり」
◆
これから俺とジューリアの旅が始まる。
俺の目的は地球に帰還する方法を見つけること、ジューリアの目的はヴァパリア黎明結社を倒すこと。
それまでは二人でしばらく旅を続けることになりそうだ。
ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国に向かう目的は三つ。
まずは魔王軍――そのトップたる魔王を倒し、この世界からカオスを一つ消し去る。
そして、魔王軍の中に潜入しているであろうヴァパリア黎明結社のメンバーを倒す。
魔王城地下に存在するエパドゥン遺跡を探索する。
……白崎やレーゲン達、
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