【幕間】ヒロイン全降板のお知らせ?

 異世界生活百二十九日目 場所聖都、新神殿宮


【白崎華代視点】


 私達が目を覚ましたのは神殿宮の一室だった。


「おはようございます、白崎さん。全員起きてから説明があるそうなので、それまでしばらく待ってください」


 見舞いに来ていたらしいレーゲン君が、これから説明があることを教えてくれた。

 私の記憶は草子君に倒されたところで途切れている。それからどうなったかを知らなければこれからの予定を立てることはできない。


 眠っていた朝倉さん達をそれからすぐに目を覚ました。

 私達はレーゲン君に案内され、新神殿宮四階の会議室に向かった。


「皆様、目を覚まされたのですね。改めて、ミント正教会聖法騎士修道会騎士団長のハインリヒ=インスティトーリスでございます」


 部屋にはあの場に倒れていた人達の姿もあった。

 つまり、草子君に敗北したメンバー全揃いということだ……言ってて悲しくなってきた。


「私からあの後のことを説明させて頂きます」


 ハインリヒさんが語ったのは、草子君のおかげでミンティス教国が国家同盟に加盟することができたこと、草子君が議長職を辞して新たにセリスティアさんが新議長になったこと、ジューリアという騎士団長を連れてこの国から姿を消してしまったことの三つだった。


「草子様については我々が全力で動向を探っておりますが……」


「まあ、草子君は神出鬼没ですから見つけるのは難しいですね……間違いなく、もう魔王領に入っています」


「……そうか、ジューリアはもう」


 戦乙女ヴァルキューレのお姉さんの仲間も姿を消しているらしい。

 ミンティス教国としては何としても二人の動向を調査して連れ戻したいということだったが……。


 草子君も、そのジューリアって人も自分で決めた目標を命を懸けて達成しようとしている。

 私達がそれ以上の強い意志で二人を止めようとしなければ今回の二の舞になるのは目に見えている。


「皆さん、僕達は草子君を追い、魔王領に入ろうと思います」


 魔王領に向かう決意を表明したのはレーゲン君だった。

 仲間の照次郎さんと孝徳さんと三人でミンティス教国に向かうつもりらしい。

 元々、三人は魔族と戦う勇者として召喚された。現在もその役目自体は変わらないので、どの道魔王領に向かうつもりでいた。

 今回、そこに新たな目的が増えたというだけなのだろう。


「聖さん、私達って別に白崎さんのクラスメイトでもなんでもないですから、クラスを一つにするという目的には組み込まれていませんよね。それなら、私達が草子さんを追いかけるのも問題ないのではありませんか?」


「そう言えばそうね。別に白崎さん達と動向しなければならないってルールは無いし。ロゼッタさん、貴女はどうする?」


「確かにそうですわね。……盲点でした。イセルガ、ということで私達も魔王領に向かいますわよ!!」


「……ロゼッタお嬢様、今日限りでお暇を」


「何を言っているのかしら? 社会不適合者の貴方にはそれくらいしかできないのだから、きっちり草子君を探すために尽力しなさい。……痛めつけるわよ」


「……それなら、私も同行します。まだ草子さんに恩返しできていませんから」


『僕も同行するリプ。……アイリスには僕がついていないとダメだろう?』


 聖さん、リーファさん、ロゼッタさん、イセルガさん、アイリスさん、クリプさん――こっちに来てから草子君と関わりを持った面々は草子君を追って魔王領に向かうつもりなんだ。


「聖さん、私も連れて行ってくれませんか?」


「えっと……メーアさんだっけ? 貴女は一ノ瀬って人の仲間じゃないの?」


 聖さんが冷たい視線を汐見君に向ける。一ノ瀬さんとその仲間は草子君と私達の関係を破壊する切っ掛けになった。

 それが直接の原因でないと分かっていても、やっぱり怒りを覚えているんだろう。


「私には草子様に会って聞かなければならないことがあります。草子様に会えば、私の身に起きたことについても何か分かるかもしれませんから。ということで、一ノ瀬様。少しの間ですが、パーティを抜けさせて頂きます」


「……本気なの?」


「はい……それに、草子様と白崎様達の仲を引き裂いてしまったのに、知らぬ顔で一ノ瀬様と一緒にいる訳にはいきませんから」


「分かったわ。メーアさん、よろしくね」


 聖さん、リーファさん、ロゼッタさん、イセルガさん、アイリスさん、クリプさん、汐見君の出発が決定してしまった。

 ……私はどうすればいいんだろう?


「華代、ちょっといいかしら?」


「ということで、ちょっと白崎さんを借りるわよぉ」


 朝倉さんと北岡さんに連れられ、私は会議室を出た。……続々と草子君を追うメンバーが決定するこのタイミングで、一体どうしたんだろう?


「……私は委員長としてクラスを纏めてくれていた華代を尊敬していた。いつもクラスのことを考え、頑張っている華代には敵わない……そう思っている。華代は、『クラスをもう一度一つにする』するという目標と、草子君を追いたい気持ちを天秤に掛けているんだろう? そして、義務感からクラスのために草子君を追うことを断念しようとしている。……華代は本当にいいのか? 後悔はしないのか? ……この世界に来てまで、委員長として頑張る必要は、私は無いと思っている」


「そうねぇ。……それに、どっちにしろクラスは空中分解するわぁ。だって、私は草子君を追うから。柴田さん達もきっとそうよ」


「……胡桃、まだ諦めていなかったのか?」


「だって、負けを認めちゃったらそこで終了だもの。みんなスタート地点から全く進んでいないのだから、私にもチャンスがあると思うわ」


「……なら、私にもチャンスが」


「そうねぇ。朝倉さんが望むのなら、可能性があるんじゃ無いかしら」


 ……そうか。例えクラスを一つに纏めようとしても、もう纏まらなくなっているのか。

 少なくとも、私達や柴田さん達は草子君を中心に纏まっているから。その求心力が失われれば、崩壊するのは至極当然なこと。


「朝倉さん、北岡さん。……私、草子君を追いかけるよ」


「……はぁ、やっと言ってくれたな」


「そうねぇ、その言葉を待っていたわ」


 草子君は私達を巻き込まないように一人……いえ、ジューリアさんと二人で旅を続けることにした。

 でも、それが草子君のエゴなら、私が草子君を追うエゴも認められる筈。


 ――私はもう、自分の心に嘘は吐かない。


 私達は会議室に戻った。覚悟はもう決まっている。後はそれをみんなの前で言うだけだ。


「聖さん、私も同行させてもらうわ」


「……白崎さん、もうクラスのことはいいの?」


「朝倉さんと北岡さんと話して思ったの。……このまま草子君と二度と会えなくなれば、きっと私は後悔する。……私は後悔したくない。草子君に想いを伝えないまま離れ離れになるなんて許容できない」


「……やっと言ってくれたわね。まあ、ライバルが減ってくれるならそれで良かったんだけど。……それで? みんなはどうするの?」


「私達は華代について行く。親友が決めたことを私な全力で応援したい。それに、草子君にはまだ恩を貸せていないからな」


「……全く、朝倉さんは正直じゃないわね。私は草子君を本気で落とすつもりでいるわぁ」


『……だから、北岡。そもそもお前はアウトオブ眼中だリプ!!』


 クリプさんがジト目で北岡さんを睨むけど、北岡さんはいつものように柳のように往なした。

 ……もしかして、ラスボスは北岡さんだったりするのかな?


「岸田さん、八房さん、高津さん、常盤さん。私達はどうする?」


「柴田さんは草子君を追いかけるつもりですよね? 私も一緒に行くつもりです」


「そうね。アタシも草子君を追い掛けるのに賛成だわ」


「私も異論はありません。……それに、私だけ残っても仕方ありませんし」


「まだ、草子君に借りを返せていませんしね」


「ということで、私達も同行させてもらうわ」


「薫さん、眞由美さん、ミュラさん。私達はどうします?」


「勿論、私も草子君を追い掛けるわ」


「同意ね。このままミンティス教国に留まっても仕方ないし。装備のお礼もできていながらね」


「私は志島さんの意見に従うわ。今のリーダーは志島さんだから。それに、武器のお礼をできていないのは私も同じよ。借りを返せないまま疎遠になるというのは性分的に許せないわ」


「久嶋、大門。お前らはどうする?」


「愚問だろ? 草子を追う。……何も目標がないよりもある方が楽でいい」


「大門の意見に同意だ。……やることねえしな」


 柴田さんのパーティと志島さんのパーティと進藤君のパーティの同行が決定した。


「ユーゼフさん達はどうしますか?」


「僕達はこの国に残ろうと思います。この国はまだ混乱していますから。……特に、地上に降臨した女神――カタリナ=ラファエル様を信奉する方々ですね。彼女の正体が草子様であることを知る方はそれほど多くいません。……カタリナ様が消失してしまったことを知れば彼らは暴徒と化すでしょう。それを避けるためにも彼らを統率する者が必要だと思います」


 カタリナの名前はミンティス教国に広がっている。

 その美貌から彼女を地上に舞い降りた女神と考えている人も少なくない。

 確かに、その女神が消えたとなれば暴動が起こるのもあり得そうだね……草子君、そこを計算に入れていたのか、少し心配だな。


「私達騎士修道会もここを離れる訳にはいかない……ジューリアのこと、よろしく頼む」


「分かりました」


 ミンティス教国の聖都はこれから復興していかないといけない。その時に、ネメシスさん達騎士修道会の力は必要。

 他者に託すというのはもどかしいだろうけど、それでも託すしかない。


 だからこそ、託された私達は必ずジューリアさんを連れ戻さないといけない。

 ……草子君に認められて同行を許可されたということは一筋縄ではいかないだろうけど、泣き言ばかりは言ってられない。


「それじゃあメンバーも決まったことだし、魔王領に向けてレッツゴー……」


「待って欲しい……白崎さん。草子君からあれほどのことをされたのに、まだ一緒に居たいと思うのか?」


「……一ノ瀬さん。草子君は私達に傷ついて欲しくないから、拒絶するような態度を取った……まさか、そんなことにも気づいていないなんて、言わないよね?」


 一ノ瀬さん……本当は気づいているのよね? 気づいた上で認めたくないから言っているだけだよね?


「だったら尚更――」


「でも、そこに私達の気持ちは含まれていない。きっと、草子君は軽んじていたんだよ。私達の想いを、自分がどれほどのものを私達に残したのかを。……恋する乙女は執念深いものよ」


 私達はもう止まらない。草子君にすら私達を止めることはできないのだから。

 一度や二度、負けたぐらいでは諦めない。……草子君が手を差し伸べた人達がどれだけ執念深いかを思い知らせてやるんだから!!


「……梓さん、貴女はどうするの? 私はみんなに草子君を追うことを強要するつもりはない」


「……そうだね。ボクも連れて行って欲しい。アイツを一発ぶん殴らないと気が済まない。アイツはジュリアナさんに、ボクの仲間に武器を向けたから」


 これで全員……結局みんなで魔王領に向かうことになるのか。


「それで、具体的にはどうするの? 参謀さん?」


「……このままのレベルでは魔王軍に勝てないかもしれない。レベルを上げて万全の状態にしてから草子君を追う方がいいと思うわ」


 あまり時間がある訳ではないけど、無茶をして草子君のところまで辿り着けなかったら元も子もない。

 そもそも、今回向かおうとしているのは数多の勇者が挑戦し、二度と帰って来なかった魔王領――どれだけ準備をしても安心はできないからね。



【ロゼッタ視点】


 話し合いの結果、五日間強化特訓を行ってから魔王領に向けて出発することになった。

 訓練の場所として選ばれたのはバラシャクシュ遺跡――いつも私達がレベルアップに使っている場所ね。


 今回、私はバラシャクシュ遺跡には向かわなかった。

 今回のことをフューリタン家やジルフォンド様達に伝えなければいかないからね。


 私達がこれから向かうのは魔王領――何が待ち構えているか分からない。

 最悪の場合は死ぬかもしれない……断りを入れずに行く訳にはいかないからね。


 まずはフューリタン家に向かうことにした。


「ただ今戻りましたわ」


「あっ、ロゼっち。お帰りなさいっす」


「……リノ、お嬢様に失礼。ロゼッタお嬢様、お帰りなさいませ。今、旦那様にお伝えして参ります」


 リノもモニカも相変わらずね。


「お久しぶりです、ロゼッタお嬢様。ご壮健で何よりです」


「久しぶりね、ラナメイド長。元気そうで良かったわ」


「勿体ないお言葉です。……ロゼッタお嬢様、以前にも増して凛々しくなられましたね」


「そう、かしら?」


「はい。雰囲気が少し変わったような気がします。ですが、ロゼッタお嬢様の根幹にある優しさはお変わりないようですね」


「あれから色々あったのよ。それについては、後で話すわ。お父様とお母様に大切な話があるの。勿論、ラナにも聞いてもらいたいわ。……私の覚悟を」


「……畏まりました」


 ラナと共にお父様の執務室に向かう。


「ただ今帰りましたわ、お父様」


「お帰りなさい、ロゼッタ。草子殿との旅は……そういえば、草子殿は既に魔王領に向かったのだったな」


 そういえば、お父様は国家同盟に所属している貴族の一人。

 草子君の動向を知っていてもおかしくないわよね。


「その件を含め、大切なお話があります」


「なら、リーラを呼ばなければならないな。……シャートは今エリシェラ学園に居る。シャート抜きの話になるが、いいだろうか?ら」


「はい、ジルフォンド様も含め、私の学友にも伝えるつもりでいますわ。その時にシャートにも伝えたいと思います」


 お父様はお母様を呼びに行った。……今のうちに心の準備を整えないと。


「ロゼッタお嬢様、御当主様より『応接室に来て欲しい』という言伝を賜りました」


「ありがとう、モニカ。……ラナ、行きましょうか?」


「はい、ロゼッタお嬢様」


 ラナと共に廊下を歩き、応接室へと向かう。……この廊下を歩くことはもう二度とないかもしれないのよね。


「ロゼッタですわ」


『入ってくれ』


「失礼致します」


 部屋にはお父様とお母様の姿があった。私と対面するように二人で椅子に座っている。

 私は空いている席に座った。ラナはお茶を用意し机に並べると、壁の側に立った。


「お帰りなさい、ロゼッタ。それで、貴女は旅の中でどんなものを見て、どんな体験をしてきたのかしら?」


「お母様、それについては後程……まずは、私の覚悟を聞いていただきたいと思います」


「……覚悟か。それは、草子殿を追いたいということか?」


 ……やっぱり、お父様には全てお見通しか。


「はい。私はこの旅の中で多くの経験をしました。そうして旅を続ける中で、私は一人の殿方に想いを寄せるようになったのですわ」


「……婉曲して話さなくても分かっているわ。草子殿を好きになったのよね?」


「まあ、大方そうなるだろうとは思っていた。草子殿は頼りになる男だからな……ロゼッタが惚れるのも時間の問題と考えていた」


 お母様もか……もしかして、私って分かりやすい女なのかな?


「そこで、問題になるのがジルフォンド様との婚約です。……暫定的なものだったとはいえ、貴族同士で結んで約束を一方的に反故にしたとなれば、フューリタン公爵家の名に傷がつきます。……お父様、お母様。私はこれ以上フューリタン公爵家に迷惑を掛けるつもりはありません。フューリタン公爵家と縁を切り、ただのロゼッタとしてジルフォンド様との婚約を解消したいと思っています」


「……ロゼッタ、フューリタン公爵家のことをお前が気にすることはないさ。ロゼッタ、お前はあの時『はい』と答えてはいなかっただろう? 本来、あれは婚約とは言えないものだ。もし、ロゼッタが草子殿を追って彼の世界に行ったとしても、フューリタン家はお前の帰る場所としてあり続ける。……縁を切るなんて言わないでくれ、寂しいじゃないか」


「そうね。いつでも帰ってくればいいわよ。ここは貴女の家なのだから」


「……ありがとうございます。お父様、お母様」


 親不孝な娘でごめんなさい。……こんな私の我儘を許して、背中を押してくれるなんて。

 ――お父様、お母様。私、頑張りますわ!!


 それから、私はこれまでの旅の思い出をお父様とお母様とラナに話した。

 途中、ラナとお母様がショックで何度か気絶してしまったけど、私にとっては楽しい旅だったのよ。


「……お嬢様、逞しくなられたのですね」


「本当ね……まさか、ロゼッタがこんな厳しい旅を続けているとは思わなかったわ。大丈夫なの? 執事はイセルガしか居ないのでしょう?」


「……旅に出てまで執事やメイドに仕事を任せていたら、本当にダメお嬢様になってしまいますわ。自分でできることは自分でする……当然ですわよ」


 そういえば、イセルガが執事しているところって見たことないね。あれって執事なのかな?


「……そろそろ、エリシェラ学園に行こうかしら」


「確かにそろそろ講義が終わる時間だな。ロゼッタ、またいつでも帰ってこい」


「ロゼッタお嬢様、旦那様と奥様、シャート様のことはお任せください」


「頼りにしているわ、ラナメイド長」


 予想外ではあったけれど、お父様とお母様は私の気持ちを理解してくれた。

 次はジルフォンド様達ね。……理解してもらえるといいのだけれど。



「……なるほど、婚約を解消したいということですか」


 私はその後、エリシェラ学園の生徒会室に向かい、ヴァングレイ様、シャート、フィード様、ノエリア様、プリムラさんが居る場で、ジルフォンド様に婚約解消の話を告げた。


「ジルフォンド、この件はお前が悪い。婚約という好条件を得ながら、ロゼッタを射止められなかった」


「ヴァングレイ、言われなくても分かっています。婚約者という立場に甘え、ロゼッタを射止めようと動かなかったのは私の責任だ。……婚約にはもう意味がない。ロゼッタが望むのなら、私も解消することに反対するつもりはないよ」


 ……意外とあっさり婚約解消を認めてくれたな。

 てっきり揉めに揉めて拗れると思っていたけど。ジルフォンド様が優しくて良かったな。


「お父様には私から伝えておくよ。……まあ、正式に発表された婚約ではないし世間に発表するほどではないと思う」


「それについてはジルフォンド様にお任せいたしますわ。五日後、私達は草子君を追って魔王領に向かうことになりますので」


「……ロゼッタ様、その、大丈夫なのですか? 魔王領はとても危険な場所だとお聞きしておりますが」


「ノエリア、ロゼッタも無策で魔王領に行く訳では無い筈だ。勝算が無いまま無鉄砲に魔王領に突撃するようなことをロゼッタがする筈がない」


「そうですわよね。ロゼッタ様に限ってそんなことする筈がありませんわ」


 ヴァングレイ様の言う通り私も無策で魔王領に突撃する訳ではない。

 私は恋する突撃乙女じゃないからね。


 具体的にはレベルを上げて物理と魔法で殴る……脳筋ぽく聞こえるかもしれないけど、ヴァパリア黎明結社以外には案外通用するのよね、これが。


「お義姉様、お気をつけて。フューリタン家のことは任せてください」


「シャート、毎回迷惑を掛けてごめんなさい。頼りにしていますわ」


「うん……でも、今日だけは甘えさせて」


 シャート、強く成長したと思っていたけど、こういうところは昔からあんまり変わらないわね。

 まあ、そこが可愛いんだけど。よし、今日は目一杯可愛がってあげるぞ!!


「ロゼッタ様、貴女に話さないといけないことがあります。……僕個人としてはロゼッタ様には魔王領に行くのを諦めてもらいたいですけど、今更それは無理ですよね?」


 ……確か、フィード様は元ヴァパリア黎明結社のメンバーなのよね? 何故か私が出発する前後の記憶があやふやになっているのだけど、その間に起きた事件のことを草子君から教えてもらったから何が起きたのかは知っている。


「魔王軍自体は別に問題ありません。今のロゼッタ様であれば問題なく戦えます。……ロゼッタ様は超越者デスペラードという概念を知っていますか?」


「因果を超越した存在ですわよね。その領域に至った者は同じ超越者デスペラードにしか倒すことはできない。……草子君は、これまでに二人超越者デスペラードを倒しているので、なんとなくは理解しています。……その超越者デスペラードと戦うことになれば、私達に勝ち目はない」


「忠告する必要はありませんでしたね。……ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国にはヴァパリア黎明結社の部門長が潜入しています。詳細は分かりませんが、魔王軍四天王の一人だそうです。……僕がかつて所属していた開発部門部門長――もし、ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国に行くとなればその部門長と戦うことになるかもしれません。……そのことだけは肝に銘じておいてください」


 今の私達に超越者デスペラードを倒す力はない。

 魔王軍四天王として魔王軍に潜入している部門長――みんなにも知らせないといけないわね。


 その後、私はジルフォンド様達と過ごし、シャートを目一杯甘やかして次の日、白崎さん達と合流するために首都ファルオンドを離れた。

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