ある少年と共に旅を続けた少女達の想いは……②
異世界生活百二十八日目 場所聖都、新神殿宮
【一ノ瀬梓視点】
ボクが草子君の再会した時に抱いたのは嫉妬心だった。
『……へぇ、白崎さん達はそんな危険な旅をしてきたんだ』
『でも、草子君は白崎さん達を何度も危険に晒したんでしょう? 助けたからと恩を着せていつまでも連れ回して……それって、 本当に白崎さん達を思っての行動なのかな?』
だから、ボクは草子君の周りから白崎さん達を引き剥がすために言葉を弄した。
……勿論、それが卑怯な手段だったことは理解している。
でも、ボクはそれだけ白崎さんが、クラスの高嶺の花が欲しいと思った。
草子君はいとも容易くパーティから出て行った。
でも、ボクの望み通りの状況になった筈なのに、白崎さんがボクの方に向くことは無かった。
白崎さん達はこれまでの旅で草子君に心を鷲掴みにされていたということに気づいたのは、草子君が去った後だった。
――今、ボク達は草子君の前に立っている。
沢山の美少女に囲まれているのに、ボクが手に入れなかったものを沢山持っているのに、どうしてその子達に武器を向けるのか……それはボクに対する当てつけなのか?
草子君、君はどうして君を慕う女の子達に武器を向けられるんだ?
白崎さん達は裏切られてなお、どうしてこんなに最低な男に想いを寄せるんだ?
ボクが戦う理由は、行き場のない君への怒りをぶつけるため。
この戦い、ボクは必ず勝利する。勝利して、君がどんなに沢山の仲間に慕われているかを思い知らせてやる。
――白崎さん達を振り向かせて、ボクの虜にするのはそれからでいい。
【ゼラニウム視点】
一ノ瀬さんは根は優しいんだけど、少し支配欲が強いのよね。
沢山の女の子に囲まれたい。百合ハーレムを作りたい、そんな願望を抱いていることは知っていた。
でも、それがまさかこんな結果を生むとは思っていなかった。
白崎さん達と草子さんとの仲を引き裂き、パーティから追放してしまったのは間違いなく私達の責任。
私達がやらなかったところで、いずれあのパーティは崩壊していた。崩壊の因子はあのパーティの中に存在していた。私達はその切っ掛けを作ってしまっただけ……そう言い訳することだってできる。
でも、この形で終わることは無かった。白崎さん達にとっても草子さんにとっても後味が悪い終わり方じゃなくて、もっと違った形にできたかもしれない。
守るってのは、多分一緒にいて守るだけではないのだと思う。
草子さんは、白崎さん達を守るために自らが離れることを選んだ。
それが、今草子さんがかつての仲間に武器を向けている理由なんだと思う。
でも、白崎さん達はそれを許容していない。だから、草子君の敵として相対している。
それなら、白崎さん達と草子さんとの仲を裂いた私達が為すべきことは、もう一度一緒に旅ができる――そのために草子さんを取り戻す手伝いをすること。
最初から勝てる相手でないことは、みんな理解している。手加減が手加減でないからこそ、そこにミンティス教国が誇る最強達が眠り続けているのだから。
それでも私達は負けられない。もし、これをやっているのが一ノ瀬さんだったとしたら、私は絶対に二度と会えないなんてこと、許容できる訳がないから。
――同じ恋する乙女としてこの戦い、絶対に勝ってみせる。
【メーア視点】
僕達は草子さん、のパーティを崩壊させてしまった。
だから、その罪滅ぼしのためにこの場に立っている……という気持ちはそれほどない。
白崎さん達ほど僕に草子さんに対する思い入れはない。
僕と草子さんは言葉一つ交わさないまますれ違ってしまっただけで、向こう側も僕の存在など覚えていないと思う。
僕と草子さんの共通点といえば、地球出身だというくらいだからね。……その地球出身という共通点も、僕の知る一ノ瀬梓ちゃんとは違う梓さんだったという時点で怪しくなってくる。
僕が戦う理由は草子さんと話がしたいからだ。
僕はかなり特殊な転移をしている。スマートフォンにインストールされていた『FANTASY CARDs』が【乙女憑依】というスキルに変化して、僕は戦う力を得ることになった。
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同名称ノ違ウシステム体系ヲ確認シマシタ。
システムデータヲ統一化シタノチ、新バージョンニアップデート改変ヲ行イマス。
統合後モスキルニヨリ作成サレタカード並ビニ、ソレヲモトニ再現サレタカードハ消滅シマセン。
システム名、『FANTASY CARDs』。
アップデート……5%……45%……69%……82%……98%,99%,100%……改変完了。
システム、再起動。……アプリヲ起動シテ下サイ。
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このオリヴィアの身体に書き換えられたあの瞬間、僕は聞き捨てならない言葉を耳にしている。
「同名称ノ違ウシステム体系」……それが、このカオスという異世界に存在していて、そのシステムを書き換えたのが僕のスキルだということ。
そして、僕はトロル襲来の際に
「統合後モスキルニヨリ作成サレタカード並ビニ、ソレヲモトニ再現サレタカードハ消滅シマセン」……つまり、あのカードは僕のスキルの基になったシステムによって生み出されたものか、それを再現したものということになる。
聖さんの話では高槻斉人らしき人に会ったことがあるらしい……骨だったみたいだけど。
高槻斉人……間違いなくハードゴアでバッドエンドで余韻を残すゲームで有名な有名ゲームクリエイターのあの人だ。
草子さんはその人の手記を持っている。それ以外にもいくつか高槻さんに関する情報を持っている筈だと聖さんが言っていた。
草子さんは、共通点から地球出身者を世界線別に分けることもしているらしい。
もし、協力が得られれば元の世界の座標を特定して帰還することができるかもしれない……って、これについてはあんまり強く望んでいる訳ではないんだけどね。
一ノ瀬梓さんは確かにボクが好意を持っていた一ノ瀬梓ちゃんではない。
でも、二人には共通点も沢山あるし、一ノ瀬梓さんには梓さんの魅力がある。
それに、梓さん達と冒険者としてミンティス教国を巡るのは楽しかった……パーティを破壊した張本人が喜びに浸り、掛け替えのない仲間とする旅の良さを語るのは間違っていると思うけど……。
【ジュリアナ視点】
私は過去に男性冒険者に酷い目に遭わされてから、男の人が怖くなった。
私が好意を寄せていた梓さんが男だというのには驚いたけど、見た目が女の子だからなのか恐怖を抱くことは無かった。
一ノ瀬さんは、私に気を遣って草子さんを追い出したんだと思う。
白崎さんの望みは再びクラスを一つに纏めること――その望みに対して一ノ瀬さんが出すことができた妥協案が、草子さんを追い出し、イセルガさんを排除し、他の三人を追放して私が過ごしやすい女の子だけのパーティを作ろうというものだったんだと思う。
正直、私はこれ以上ライバルが増えるのは嫌だった。でも、それが一ノ瀬さんの望みなら仕方ないと諦めることはできる。
結果的に草子さんは追放された。なのに、一ノ瀬さんの望んだ通りにはなっていない。
イセルガさんはロゼッタさんに止められて、結局パーティから追放されることは無かった。
進藤君達も白崎さんの説得でパーティに残留してしまうことになってしまった。
そして、白崎さん達は草子君を連れ戻すために一ノ瀬さんに助力を強制するという私達が望んだものとは明らかに違うものになっている。
正直、後ろめたさが無かった訳ではない。彼女達は明らかに草子君の女だった。それを一ノ瀬さんは掻っ攫おうとした訳だから、どちらが悪いかは一目瞭然だ。
私も本当は嫌だったけど、その罪の意識もあってこの場所に来た。
ここに来て、私は今まで感じたことのないほどの恐怖を抱いている。
犯されることに対する恐怖? 命があるだけまだマシじゃないのか? ……あれほど恐れていた恐怖心がなんでも無かったように思えるほど、彼の出す死の匂いは強烈だった。
私がパーティの男達に犯されそうになった時、一人の流離いの女剣士冒険者に助けられた。
だけど、今回はそんな救世主はいない。
アレは、死そのもの。アレが望めばここにいる者は全て殺される――それだけの隔絶した差がある。
……なんで白崎さん達はそんな相手と戦おうとするのか? 勝算など最初からある訳がないのに。
私は何のためにこの戦場に立っているんだろう? 覚悟を問われながら、私だけが覚悟を決められずにいる。ただここまで来ておきながら私だけ前に出ないということがあり得ないから、戦場に足を踏み出しただけだ。
そんな私がこの絶望的な戦いで、一体何ができるのか……もし、仮に戦いに勝ったとして、私が手にできるのは一体何なんだろう?
……もしかして、私はこの戦いに負けることを、白崎さん達が能因草子に捨てられることを望んでいるのかな?
【コンスタンス視点】
アズール達に捨てられ、勇者パーティから追放された。
だから、私は彼を見返すために、一人でも戦えることを証明するために戦い続けた。
……その私が、まさか自分のされたことと同じことをすることになるとは思わなかったわ。
私は結局、嫌悪感を抱いていたアズール達と同じになってしまった。
もう、アズール達のことを悪く言えないわね……。
私がこの場に居るのは、罪滅ぼしのため。覆水盆に返らず……一度やってしまったことはもう取り返しがつかないかもしれないけど、だからといって何もしないでいい訳ではない。
私は冒険者として様々な技術を吸収した。
今の私は、勇者パーティの
だからこそ、今目の前にいるのが戦ってはいけない相手だということが分かってしまう。
脳が警鐘を鳴らす。――コイツが本気になるまでもなく、オマエ、死ぬぞ、と。
【たった一人で殲滅大隊】――その名前と伝説は風の噂で知っていた。
パーティを離脱するように促した相手が厄災として語られる存在だと知っていれば絶対に一ノ瀬さんを止めていた……って今言っても遅いわよね。
白崎さん達の大切な仲間との絆を壊した――その罪を償いたいけど、それができる確率はゼロに近い。
厄災を相手取り、【
でも、だからといって草子さんの強大さに恐れをなしてこの場から引き下がるなんて選択肢はないんだ。
私は冒険者――危険を冒す者。
例えそれがどんなに無謀な戦いでも、一度決めたら何が何でも勝つ!!
【アイリス視点】
私はリャナンシーという珍しい亜人種。
このリャナンシーという種族は愛を受け入れた男性に才能を与えることと引き換えに、その寿命を奪う。
この性質のせいで、私の一族は昔から一箇所に留まることなく各地を転々とするように生きてきた。
だけど、それも長くは続かないかった。私のお母さんは人間達に捕らえられ、才能を無理矢理与えさせられ、最後はその人達に殺されてしまった。
お母さんが人間達に見つからないように隠したおかげで、私は運良く殺されずに済んだ。
だけど、力無い私一人が残されても生き残れる筈がない。
『酷いことになっているリプ……大丈夫リプか?』
そんな私の前に現れたのがクリプだった。
『僕には一度だけ君の願いを叶えることができるリプ。その代わりに、君には魔法少女になって欲しいリプ』
『……魔法少女? 何なの、それ?』
『魔法少女とは世界を守る存在リプ。特別な力を操って世界を襲う存在と戦うリプ!!』
正直、魔法少女というものについてはよく分からなかった。あまりにもスケールが大き過ぎて全く話についていけなかった。
でも、孤独な私にとっては誰かと一緒にいれるというだけで良かった。
『僕と契約をして、魔法少女になってくれないリプか?』
私はクリプと契約して、魔法少女になった。
クリプにとっては私はエネルギーを作り出す道具でしか無かった。それを草子さんから知らされた時、私は絶望した。
『……黙っていて悪かったよ。……最初はアイリス――君を魔法少女にして、絶望で闇堕ちさせてエネルギーを得ようとしていた。でも、君を助けたいという気持ちもあったんだ。……今更信じてもらえるなんて、そんな都合のいいことは思っていない。一度魔法少女になってしまったらもう戻れない……僕は君を変えてしまった。その罪は償えるものではない。……それでも、僕は』
『分かっているよ。……ねえ、クリプ。私は一人ぼっちだった。そんな私に手を差し伸べて友達になってくれたクリプに、今でも感謝している。例え、最初は目論見があって近づいてきたとしても、クリプが大切な友達なのは変わらないよ。――クリプ、これからもよろしくね!』
あの時、私はクリプの真実を知れて良かったと思う。
草子君がクリプの秘密を暴いてくれたからこそ、私とクリプは本当の意味で友達になることができた。
私と草子君の関係は良好とはいえない。私の趣味にケチをつけてくれる草子君に苛ついたことは何度もある。
でも、私にとって草子君は大切な仲間だ。
だから、こんな形で仲間じゃなくなるなんて、絶対に許容できない。
【ロゼッタ視点】
――草子君には感謝している。
私が草子君に恋心を抱くきっかけになったのは、フィード様と真正面からぶつかって、フィード様を願いを真正面から打ち砕いてくれた時だ。
フィード様の思想は確かにある意味で正しいものだった。でも、私は間違っているものだと思った。
私にはフィード様を止める力はない。草子君はそんな私の代わりにフィード様の目論見を打ち砕いて、優しいフィード様を取り戻してくれたんだと思う。
草子君は台風のような人だ。沢山の人を巻き込んで、目紛しく状況を変化させる。
多くの人の願いを踏み潰し、「地球に帰る」という目標に向かってひたすら真っ直ぐ進んでいく。
ガサツで自分勝手――確かに草子君を知らない者から見れば、そう見えるかもしれない。
でも、実際はその結果起きることを計算し、手を伸ばせば救える範囲にいる人は必ず救う――そういう優しさを草子君は持っている。
面倒くさそうにしながら、困っている人に力を貸す――そんな草子君を私が好きになるまで、そんなに時間はかからなかった。
ライバルの聖さん、リーファさん、白崎さんの三人は私なんかよりも魅力的だけど、この想いだけは、三人にも負けないと思っている。
でも、このままでは四人揃って共倒れになる。
草子君が私達に武器を向けて、悪のように振舞っているのは、私達にこれ以上危険な目に遭って欲しくないという気持ちの裏返しなのだと思う。
……その気持ちは嬉しい。
でも、草子君。そんなの私達は納得できないんだよ。
私は草子君が大好きだから。――だから、こんなところで離れ離れになるなんてこと、耐えられない。
だから、私は戦うよ。このままお別れなんて、絶対に嫌だから!!
【白崎華代視点】
最初は助けてくれた草子君に恩返ししたいと思っていた。……いつからだろう? 私が、草子君のことが好きだということを自覚したのは。
博学才穎、容姿端麗、文武両道――高嶺の花なんて言われていた私だけど、このどれも私には相応しくない。
人よりも努力を続けてきたという誇りはあった。身嗜みにも気をつけ、勉強でも運動でも努力を怠らず、クラス委員長白崎華代というキャラを演じてきた。
だけど、そんなのは結局付け焼き刃だった。
本当に直向きに一つの目標のために努力を続ける人には絶対に勝てない。
地球に居た頃だってそう。目標を見つけた草子君はあっという間に私のテストの成績を追い越した。
異世界に来てからもそう。残り物のスキルから生きる手段を見出して、「地球に帰る」という目標を達成するために旅をして、いつしか厄災として恐れられるほど強くなった。
誰よりも頑張り屋で、自分の見つけた夢に向かって必死で努力する草子君を私はずっと尊敬していた。
草子君のようになりたいと地球に居た頃から思っていた。
……まあ、草子君の変態性を、本に対する大いなる愛を受け止めきれなかったんだけどね。そのせいで草子君を孤立させ、クラスメイトでは無くしてしまったことは、今でも後悔している。
『そのクラスってのに俺は居ねえよ。俺は浅野ゼミの能因草子、あの高校に居場所は無かった』
私の願いはもう一度クラスを一つにすること。そのために私は旅をしてきた。
でも、その願いを草子君と一緒に居たいという気持ちと天秤に掛けなければならないとしたら……。
草子君はクラスメイトであってクラスメイトじゃない。
草子君をクラスメイト扱いしなかったのは私達だから。
……クラスメイトと草子君……この二つを天秤にかけるなんてできないよ!
私は草子君が居ないなんて耐えられない。私にとってそれほど草子君は大きな存在になっているから。
でも、クラスの委員長としてもう一度あのクラスを一つにしないといけない。
草子君と一緒にいることとクラスをもう一度一つにする――この二つの願いは共存できないのかな? ……それは、やっぱり我儘なのかな?
問題はそれだけではない。ヴァパリア黎明結社と戦う危険――草子君はそれを考えた上で私達を追放して、たった一人で願いを叶えるために戦い続けようとしている。
私は
私はずっと草子君の力になりたいと思っていた。でも、それはできない……草子君の力になりたいと思って強くなっても草子君は更に強くなっている。
もう、その実力の溝は埋められないくらいのものになってしまっている。
草子君はチャンスをくれた。ならば、それに応えるしかない。
今はまだ無理だけど、いつか必ず追いつくから、
だから、この戦いに勝たないといけない。もう一度、草子君と旅をするために――。
【リーファ視点】
草子さんとの思い出は沢山ある。
――出会った時にいきなりBL本を食べられた時は驚いた。なんで食べておいて文句を言うのって思った。
――ロビンが私を殺そうとした時、草子君が助けてくれたのは嬉しかった。色々思うことはあったけど、信じていた弟に裏切られたのは辛い思い出だけど、こんな私のために戦ってくれた草子君には今でも感謝している。
――“精霊王”の試練で私を見つけ出して命を救ってくれた時は、嬉しかった。
草子さんがいるなら勝てるって思えた。
聖さんの次に草子君と一緒にいる私だけど、草子さんからはあんまり異性として認識されていない。……まあ、それは聖さん達も同じだけどね。
ただ、馬鹿な掛け合いをして、ジト目で睨んで睨み返して、そんな旅の時間が、草子さんを中心にみんながいるあの暖かい場所が私の宝物。
草子さんの気持ちは理解できる。大切だからこそ、仲間ではいられない。
草子君は本当のことはあんまり言わないけど、きっと言葉の裏には私達を大切に想う心があるんだと思う。
だから、尚更負けられない。草子さんの隣には私達がいないといけないから。
自分の願いを叶えるための戦いに仲間を巻き込みたくないから遠ざけるなんてこと、私達は望んでいないから。
私は草子さんから多くのものを貰った。だから、今度は草子さんの願いを叶えるのに協力したい。草子さんが地球に帰るというのなら、一緒に地球について行く――その覚悟はとっくに決めている。
その道程でこの命が燃え尽きるなら、それはそれで構わない……草子さんは私達にとってそれほど大きな存在なんだよ。
だから、こんなところでお別れなんて嫌だ。
私は、いえ私達はこの戦いに勝つ。そして、これからも楽しい馬鹿騒ぎを、冒険を続けるんだ!!
【高野聖視点】
草子君、あたしにとって貴方は初めてできた友達だった。
まさか、異世界に来て友達ができるなんて思わなかったよ。
迷宮からずっと一緒にここまで来た。その間に仲間も沢山増えた。
だけど、最初はあたし達二人で始めたんだ――それが、私の誇りになっている。
フィードさんの時に、草子君があたしを信じて潜入捜査を任せてくれたのは嬉しかった。
今まで、誰かに心から信用されて頼みごとをされることは無かったから。
『もう、無理だわ。ずっと我慢してきたけど、もう無理よ!!』
『そうかい、俺も無理だわ。爆弾魔とか。いいよ、無理なら出てけば? それが双方にとって一番じゃないの!?』
『いいわ! 出てく、出てくわよ!! もう、草子君なんか、知らない!!』
あの時、演技だと分かっていても、草子君に拒絶されるのは辛かった。恐ろしかった。
初めてできた友達に捨てられるのがどれくらい辛いことなのか、あの時あたしはその悲しさを知ったわ。
あたしはいつも草子君の隣にいる。その特権が失われたあの時間は、とても心細いものだった。
あたしが草子君を大切に思っていたってことを改めて知ることができた。
草子君のクラスメイトではないあたしなら、連れて行ってくれるのかな? そう思っているあたしがいる。
……でも、多分無理よね。草子君が武器を向けている理由は、あたしを、リーファさんを、みんなを大切に思っているから。
その大切に含まれているから、あたし達は草子君の旅についていけない。
草子君は、あたし達が死んでしまったら壊れてしまうかもしれないから……って、そうであったら、草子君の中であたし達がそれだけ大きな存在でいたらいいなって思っているけど。
草子君の気持ちは嬉しい。愛されているって分かるから。
でもね。それじゃあ、ダメなんだよ。あたしは草子君の隣で生きていくって決めたから。あたしは貴方の守護霊なんだから。
草子君が願いのためには死ぬ覚悟を決めているように、あたしは草子君と一緒に旅をする中で死ぬとしても、それはそれで仕方ないと思っている。
あたしは負けない。草子君が大切だから、また一緒に旅をしたいって思っているから。
異世界カオスで最も草子君を知っている親友として、あたしは草子君を止めてみせる!!
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