変態執事が面倒なので【契約魔法】で女性が不快に思う行動や契約者の命を奪い契約を踏み倒すことをした場合に即死する契約をしてみた。

 異世界生活五十六日目 場所アヴァルス大平原


 ――世界が揺らいだ。


 衝撃波が広がると形容した方がいいか? 波のようなものが広がっていくのを俺は知覚した。

 聖達はこのことに気づいていないようだ。ということは、俺にあって聖達にないものが関係しているということだろう。


 まあ、予想はついている。【永劫回帰】による世界改変――それにより、なんらかの事情が書き換えられたのだろう。

 ……状況的にフルゴル・エクエスかな? ヴァパリア黎明結社の汎用最終兵器は間違いなくアレだし、きっと情報が流失することを恐れたんだろう……俺、別に初見攻略できたし、【因果耐性】あるから意味ないよ……ってか、気づいたら【因果無効】になってた。これならアルティメットな魔法少女さんとか悪魔な魔法少女さんとかにも対抗できる?


 とりあえず、認識がどんな感じに変化したかについては今度聞くとしよう。

 今、俺達は首都ファルオンドを出発し、ジェルバルト山に存在するYGGDRASILLに繋がるバラシャクシュ遺跡を目指す……バラシャクシュってまんまだよな。マルドゥークの異名の一つ……確か“激怒するもの”とか“ひろい心をもつもの”とかを意味するんだっけ?


 ジェルバルト山まではアヴァルス大平原を進んでいく。

 途中にはガイウの町とソプラノ村があるようだ。……そこから先に村はないんだよね。まあ、〝移動門ゲート〟を使えるから問題ないんだよね……あっ、〝移動門ゲート〟といえば。


「そういや構想だけ立てて作るの忘れてた。本当にごめん」


「……どうしたの、草子君。謝られる理由が分からないよ」


 まあ、そもそも白崎達に話してないからね。そりゃ、なんで謝られるのか分からないよな。

 まずは、いつものように魔法でミスリルを作成。次に、ガラスを作成する。ちなみに、異世界だとガラスも金属に分類されるらしいが……その辺りの理屈はよく分からん。まあ、ルビーやサファイアも酸化アルミニウムだしね。その辺りは曖昧なんだろう……ってこれは少し違う話か。


 【錬成】を使って二つを上手く密着させ、鏡擬きを作成。オリハルコンを生成し、ダイアルを作って接合し、【保護魔法】を掛け……これでハードウェアはできたかな?

 後はソフトウェアのインストール……【程式魔法】で〝移動門ゲート〟をプログラミングする。必要な魔力は……まあ、空気中から吸収するようにしておくか。ダイアルで座標を変更できるようにして、後は使用地点の座標も固定できるようにしよう……よし、完成。名付けてゲートミラー……どこかのラノベで聞いたようなアイテムだったり、青い猫型ロボットのひみつ道具に似ていた効果を持っているけど気にしない〜気にしない〜♪

 というか、明らかにこっちの方が下位互換だし。


 それを俺を除く全員-1した分作成する。ちなみに、-1になる理由はイセルガだ。アイツに渡すとシャレにならないことになる!

 ……MP消費が尋常じゃない。まあ、すぐに全快まで回復するけど。


「よし完成。じゃ、説明するよ。前から何度か〝移動門ゲート〟を使って色々な町を行き来しているけど、毎回俺に頼むのって面倒だと思うんだよね。そこで、今回開発したゲートミラーの出番という訳。適当な町とかに座標を設定したから、そのダイアルで場所を設定すれば、瞬時にそこと繋げてくれる。座標記録式だから色々なところを経由してから戻ることもできる……まあ、行ったことがないところには繋げないから、その都度座標を追加していく必要があるだろうけど」


「つまり、これさえあれば草子さんに頼らずとも空間移動ができるってことですね」


「まあ、そういうことだ。これでまた俺の価値が減ったってことで。白崎さん達も本格的に強くなってきたし、こりゃそろそろ用済みで追放されるんじゃね?」


「……草子君を追放するって前提がそもそも間違っているのに、なんでその間違いに気づけないんだろう?」


 ……白崎、何言ってんだ? 冴えないモブキャラは勇者パーティから追放される運命にあるんだよ!

 まあ、その際はイセルガも一緒にポイ捨てされそうだな。……純正女性パーティだ! 新しい扉も開き百合展開もありそうだ!! 少なくとも本好きを拗らせたモブが中心になっているよりは需要があるだろう。


「とりあえず、目的地はガイウの町。その間いつも通り敵をボコしながらいく……多分俺必要ないよね。女子達plusプルスイセルガで十分だな。……俺ってもしかしなくてもヒモ男? 言葉巧みじゃないからただの住所不定無職? 警察ポリ公のお世話になるの!?」


「草子君が本気を出すと寧ろあたし達が必要無くなるから! ……できることがあるなら、力になりたいなって……ダメ?」


 なんだろう。物凄いレベルが上がっているんですけど!

 いや、元々聖は美少女だったけど、使徒エレレートは白崎が辛うじて対抗できるレベルの美女なんだよね……まあ、天然物の白崎に対して、聖の方は完全な作り物なんだけど。

 いや、別に美しさとか可愛さとか俺にはあんまり関係ないけどね。邪魔するなら、美少女だろうと美女だろうと天使だろうと女神だろうと息の根を止める……〝死が確定する十三分-The god of death keeps ridicule of life for 13 minutes-〟で? うん、ガチでできそうだ、神殺し……このモブは一体どこに向かっているのだろう?


 アヴァルス大平原を進む。基本的に出てくる魔獣は同じだ。強い方だとゴブリンエンペラーとかエンプレスかな? まあ、どっちも白崎達の敵じゃないけど。


 白崎達も見ない間に成長したようだ。機動要塞エレシュキガルに行った時点でかなり強くなっていたんだろうと思っていたけど、やっぱり強い。

 そして、聖もそれに食らいついている。調査でしばらく戦いから離れてたから差が出てもおかしくないんだけど……やっぱり使徒エレレートの身体を得て大きく強化できたのが効いているのか?


 白崎も新たに得た【究極挙動】を完全に使いこなせてはいないみたいだし、聖も使徒エレレートの力を十全には使えていない。

 まあ、成長の伸び代は十分にあるということだろう。ぶっちゃけ俺より絶対強くなれるしね。

 白崎といえば、“白崎さん勇者化計画”を本格的に進めないといけないな。一応聖剣はプレゼントしたけど。……さて、どうしたものか。



 ガイウの町に到着――そのまま宿屋に向かう。ちなみに、宿の名は宿屋 鶯の止まり木……新しいパターンだ。

 そして、こちらにも看板娘。そして、何故か幼女な見た目。ほっぺぷにぷに……触って癒されたくなる……って、本当の変態扱いになるからやめるけど。……あっ、同性女子ならいいようです。


 そして、鋭い目つきでターゲットをロックし、幼女な看板娘に襲い掛かるイセルガ。

 ――止めた方がいいよね! ……ちっ、面倒だなぁ。


「〝汝の精神に、今こそ刻みつけよ、拭い去れぬ恐怖を〟――〝恐怖幻影テラービジョン〟」


 と思ったらイセルガの顔色が急に悪くなり、そのままぶっ倒れた。

 今の魔法、ロゼッタだな。というか、マジで怖いっす。無自覚ではないと思うけど……その嗜虐的な表情はマイナスイメージにしか繋がりませんよ。――あっ、元に戻った。お淑やかなロゼッタ様復活ゥ!!


「……私としたことがすみません。イセルガをボコしているとなんだか気分が良くなってくるんですわ。……昔はそんなこと無かったのですが、長年イセルガをボコしているうちに新しい扉を開いてしまったようですわ」


 ロゼッタは純粋だから、きっと染められてしまったんだな。ドSな令嬢……需要はあるのだろうか?

 和風に飽きた黒髪ドSウェイトレスさんみたいな天性の無自覚ドSではないし、本人が自覚しているから問題ない? というか、イセルガが暴走しなければロゼッタはお淑やかなまま? ……よし、後でイセルガを消そう。それが世界平和への第一歩だ。割とマジで。


「……改めまして、宿屋 鶯の止まり木にようこそ。……あの、もしかして……」


 看板娘が復活したと思ったら、今度は茹で蛸みたいに赤くなった。……ウブすぎるだろ……っていうか、というか何を勘違いでしているんだ!!


「あの、勘違いしてますよ。……えっと、女子が十一だから……四、四、三でいいか。四人部屋二つ、三人部屋一つ、一人部屋を一つお願いします」


「……あの、そちらの方は」


 あっ、そういえば変態執事のことをすっかり忘れてた。


「物置にでも捨て置けばいいんじゃね」


「……あの、流石にお客様を物置に放置は」


 ……う〜ん、確かに迷惑をかけることになるしな。

 それに、いつ復活するかも分からないし。……よし。


「では、四人部屋二つ、三人部屋一つ、一人部屋を二つお願いします」


「異議あり! 草子君、逃がさないよ!!」


 ……なんなの! 女子達で女子会やってればいいじゃん。気を遣って毎回男女に分けようとしているのに、なんで混合にしようとしてるの! なんなの、痴女なの! というか、主に聖、リーファ、白崎の目が真剣すぎて怖いんですけど。怖や怖や、怖いから早くしよ〜。


「……あの、本当によろしいのですか? お慕いしている方がこんなにもいらっしゃるのに?」


Pas deドゥ problèmeプロブレム‼︎ はい、これ代金」


「ありがとうございます。こちら部屋の鍵になります」


 四人部屋二つと三人部屋の鍵をカウンターに置いて、イセルガを担ぎ、そのまま何故か・・・妨害してくる女子達(何故かロゼッタも参戦していた)を避けて部屋に直行。

 ……うん、色々とおかしい。きっと異世界に来てから女子力が落ちているんだろう。……これ、可及的速やかに解決すべき問題じゃない? いや、女子関連は俺の手に余るから無理だけど。というか、浅野ゼミの先輩以外に親しくしている女性がいない俺に多くを求めるな! しかも、浅野ゼミの先輩とも基本的に文学の話しかしないし。



「〝鎖せ、閉ざせ、鎖せ、閉ざせよ! 永遠に、永久に、永遠に、永遠に! 無限の時を大地に縛られ、その果てで大地に還れ〟――〝インフィニティ・プリズン〟」


 淡い光のカーテンのようなものが現れ、イセルガの周囲を覆う。

 エルダーワンドを槍に変化させて突き、壊れなかったことを確認する。


 うむ、成功だ。スキル〝無●牢獄〟の魔法化……って言っても名前だけだけど。虚数空間ということは物質の速度はすべて光速以上で、質量は虚数っていう世界? まあ、よく分からんけど、そんなものに放り込むよりも時空の狭間にポイ捨てした方が早いし。

 要するにただの結界。ただし、物凄い堅牢、硬さの極み。ドMクルセイダーもかくやと。まあ、そんな感じ?


「……ここは?」


 おっ、執事が目を覚ましたようだ。


「よう、変態執事。とりあえず、ヤバそうだから隔離した。以上!」


「……なるほど。では脱出させていただきましょう」


 お前何言ってんのって普通は思うけど、コイツは【物質透過】スキルの持ち主だからね。結界とかもスイスイ抜けられると、そう思っているんだろうけど。


「……おや?」


 それが、すり抜けられないんだなぁ。【程式魔法】で〝イセルガを完全に隔離する〟と定められているから。

 ちなみに、【程式魔法】は便利だけどごく小さなプログラムでもごっそり魔力を持ってかれる。複雑なプログラミングなんてしようと思ったら魔力がいくらあっても足りない。

 フリ●ドの術式●法のような使い方は難しいな。


「とりあえず、俺の言いたいことは分かっているよな?」


「……いえ」


「ちっ、これ以上面倒ごとを増やすなってことだよ。お前をぶっ飛ばすための魔力、気絶したお前を運ぶ労力……正直あの皮の袋に詰めて運ぼうかと思ったくらいだ……しなかったけどね。……百歩譲って遠くから幼女を愛でるのは別にいい」


「……別にいいんですか?」


「世間がどういう目を向けてくるかはご察しの通りだけど、そこまで強制するのもなんかね。でも、それで誰かに迷惑を掛けるな。両者合意ならともかくな。……俺は本好きを拗らせた変態だけど、だからといってそれで迷惑を掛けるような真似はしてない。貴重書はどんなに美味しそうでも食べないし、昔は頬ずりとかしていたけど、皮脂がつくから最近はしてない。……まあ、異世界ではいいものと悪いものを判断して食べてるけど。でも、お前はどうだ? お前のやろうとしていることは誰かに迷惑を掛ける類のものだ。だから、少しは自重しろ。そうすれば、この結界を解いてやる」


 よし、魔力回復量が魔力消費量を上回っている。これなら本当に無限の牢獄になるぞ!


「……分かりました。お約束致しましょう」


「本当にか? 神に誓えとかは言わない。あんな老害に誓ったところで何にもならねえからな。……だから、今からお前を縛る」


 縛るっていってもSMプレイじゃないよ! 近いのは陰陽師の呪? まあ、簡単に言えば【契約魔法】。

 この魔法は特殊で、基本的には魔法を込めた契約書を取り交わすことで成立する。つまり、両者合意でしか発揮しないものだ。

 まあ、契約書なしでインスタントでもできないことはないけど、複雑になればやっぱり契約書が必要。

 ちなみに、社長の「契約書は破るもの」は通用しない。まあ、これでも立派な大魔法なので。……〈口伝・契●術式〉的な? まあ、そんな感じ。


 新しく覚えた【紙魔法】を使用し、羊皮紙を作成。ちなみに、羊皮紙は狭義の紙ではないんだけど、紙とつくからには【紙魔法】で作成できる。

 ちなみに、俺も羊皮紙は食べない……まあ、草食なもんで……って違うか。


「〝両者合意のもと破棄不可の絶対盟約を交わす。汝、女性が不快に思う行動を取ること勿れ。契約者の命を奪い契約を踏み倒すこと勿れ。以上の二点を守れぬ場合は、汝の命の灯火は途絶える〟――〝ルール・オブ・アブソリュート〟」


 ……まあ、似てるけどね。ほとんど無欠な●宣誓ルールオ●グレイス

 契約を守れなかった場合、心臓に楔を打ち込む……ではなく、〝心臓圧砕デス・プロビデンス〟で即死させられる。

 魂に刻む契約だから、絶対に解除することは……というのは冗談で、魔法無効化魔法で無効化すること自体は可能。ただ、それは俺の専売特許なんだけど。

 ということで解呪は実質不可能。……ただ、問題なのは両者合意の契約である必要があること。そして、ちゃんと同意のサインを貰わないといけない。


 【程式魔法】を発動し、ルールを一部変更。外から中に物を入れることが可能になる。

 契約書とボールペンとナイフを中に放り込む。

 ちなみに、ナイフは血判用だ。傷は後で【回復魔法】で治すから問題ない。


「そこの契約書にサインと血判をしろ。そしたら、外に出してやる」


「……書かないとダメですか?」


 まあ、イセルガにとってはとんでもない呪だからな。しかも、【解呪魔法】で解呪できないという……。


 イセルガの手が震える。何度も躊躇う。見るからに嫌そうなのが伝わってくる……良心は……特に痛まないようだ。コイツのせいでロゼッタも散々苦労させられたんだし、少しでも負担が減るのならそれに越したことはない。


 やがてイセルガも観念したのか不承不承ペンを持ち、契約書に名前を書いて血判を押す。

 よし、これでオーケーだな。もう迷惑掛けんなよ!


「よし、結界を解くぞ。もう、面倒なことを起こすなよ」


「…………(ちっ)勿論、ご迷惑をおかけするつもりはございません」


 今舌打ち聞こえなかったか? 気のせいか? ……まあいっか。


「さてと、用事も済んだことだし、もう一つの用事終わらせていいか?」


「……もう一つの用事ですか?」


 不思議そうな表情を浮かべるイセルガに、俺は【永劫回帰】による世界変動を確認すべくいくつか質問を始めた。

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