【宵闇の魔女】ことセリスティア=アードレイク女男爵は固有魔法の使い手でその固有魔法の名前は全てラテン語で構成されているようだ。

 異世界生活十八日目 場所エリシェラ学園


 ――うぉぉぉぉぉぉ! 遅刻遅刻遅刻ぅ!!


 いや、まさかシュラフの寝心地が良すぎて起きれないとは予想外だった。まあ、まだ間に合う可能性があるけど。とりあえず、【閃駆】を使いながら人の隙間を縫うように抜けて行ったら【立体移動】と【縫走】のスキルを獲得した? おっ、進みやすくなった。


 あれ? 誰かがいる? 通せんぼしてる? これ、止まった方が良さげ??


「能因草子、昨日はよくも恥をかかせてくれたな」


「……あの? 誰でしたっけ??」


「伯爵家三男のディスクルトゥ=ノルマンディーだ!!」


「あっ、分不相応な家名を持つ豚貴族? 何の用? 今急いでるの。あっ、家名を変える報告に来た? そんなに律儀にしなくても勝手に変えてくれていいよ」


「家名を変えるつもりはない!! ふふふ、昨日の俺とは違うのだよ!! 雪辱を果たし、今度こそ貴様の絶望する顔を見せてもらうぞ!!」


 ん? 豚貴族が五枚のカードを翳した? TCGなの!? なんでそんなものがあるの!! 異世界カオスは本当になんでもありだな。


「ランク:SRスーパーレア 『レッドゴブリン』……『血の契約により凶化されたゴブリンをただのゴブリンと侮るなかれ。アレはゴブリンとは全くの別物だぜ。――冒険者トゥーリ』」


「ランク:SRスーパーレア 『オブシディアン・ホース』……『黒曜のような毛並みの馬を見たら真っ先に逃げろ! 絶対に戦おうとするな! ――冒険者トゥーリ』」


「ランク:SRスーパーレア 『グールリーダー』……『見ろよ! 屍食鬼グールのリーダー様のお出ましだ。奴らは賢い。墓漁りから魅了までなんでもござれな奴らをただのアンデットだと思うなよ。――冒険者トゥーリ』」


「ランク:SSRダブルスーパーレア 『氷狼ヴァナルガンド』……『ああ、恐ろしや。飲み込む氷狼ヴァナルガンドじゃ。神々すら飲み込む氷狼が復活すれば世界は滅ぶ。戦おうなどと考えるな、どこまでも馬車で逃げるのじゃ。――伝承者イリーナ』」


「ランク:SSRダブルスーパーレア 『ザ・グリム・リーパー』……『奴は死神。大きな鎌を振るい魂を刈る地獄の尖兵。諦めて死を受け入れよ。最早逃れる術はない。――民俗学者ファインス』」


 ……なんなの、その絶望的なフレーバーテキスト! というか、ほとんど冒険者トゥーリさんの語りじゃん。アンタどんだけ死線を潜り抜けているんだよ!!


 真っ赤のゴブリンと黒曜馬、屍食鬼グール、銀狼、鎌を持った死神が現れる。……見たことのない魔獣だな。レベルは……一番高くて100? あれ? あんまり強くない!?


Envelopperオンブルベ avecアベック les ténèbresテネーブル/Croissantクロワサン deドゥ luneリュンヌ envoyéアンヴォワイェ


 【魔法剣】で【飛斬撃】を食らわせたら全員死んだんですけど。……あれ? 死体は残らない? キラキラとしたカケラを残して消え去った? どゆこと?

 とりあえず、拾ってみる。すると、俺の手の中に吸い込まれるように消えた。……うん、全く意味が分からん。


「おっ、おい! どうなってる!! 能因草子を倒せる力じゃなかったのか!!」


「あのさ、誰に唆されたのか知らないけど、そんなんじゃ俺は倒せないし、モブの俺を倒せないってことは昨日お前が絡んでた女の子達はもっと倒せないよ。んじゃ、面倒だし一発で終わらせてもらうよ。〝痛みを理解したまえ〟――〝ダイレクト・ペイン〟」


 はい、とりあえずディスクルトゥ、撃破。まあ、気を失っているだけだけど。さて、授業に遅れそうだし、行きますか。

 コイツは簀巻きにして教室の端にでも放置しておこう。


 あっ、始業のベルが鳴ってる……やっべ!!



「ふぅ、ぶっちゃけアウト。本当にすみません。初日から遅刻とかないっすよね! いや、言い訳するつもりはないけど、シュラフが気持ち良すぎて出られなかった。もしかしてシュラフは炬燵の友達なのだろうか?」


 いや、アレは悪魔だよ。あの囁きには逆らえなかった。そもそも、俺はモブキャラだから誘惑に抗うとか無理だから、そんなに高尚なことを求めないで下さい!!


「ふん、どんな非常勤講師が来るかと思えば随分とやる気のなさそうな奴だな。しかも、見るからに下賤そうな奴だ。……本当にこんな奴に高貴なる我らを教えることができるのか?」


 おっ、エリートそうな貴族が言ってきた。これ、非常勤講師を辞めていい雰囲気だよね。もう、帰ってオーケー?


「こんな下賤な者に高貴な貴族の皆様を教えられる訳がありませんよね。それでは、俺は失礼し――」


「草子先生、待ってください。私は草子先生の授業を聞きたいです。ギンフィール様も一度先生の講義を聞いてから判断したらよろしいのではないでしょうか?」


 あの、ロゼッタ。わざわざ止めてくれなくても、帰れるなら即刻帰りたいので良かったんですけど。

 まあ、好意だしありがたく受け取らないとね。


「ふん。その下賤な非常勤講師がどこまでの実力があるのか、この授業で明らかになるだろうな」


 ……あの、本当に帰っていいですか! 俺、見極める的なことを言う奴に教えたくないんですけど。


「……まあ、いいか。セリスティア学園長も来ていますし、どんな授業をするのか気になるのか目を輝かせてますし……あの、職務に戻ったらどうですか? って言っても帰らないか。まあ、一応自己紹介を。はじめまして、能因草子です。先生なんて呼ばれるほど長く生きていません。年は十六……まあ、そんなに皆様と変わりませんので。……えっと、担当は魔法の座学らしいですけど、ぶっちゃけ文学研究の方が得意です。まあ、そんな感じなので解雇されるまでは名前くらい覚えておいてもらえたら、と」


 あっ、メモとか取らなくていいよ。そんなに重要なことを話してないから。


「さて、一応評価基準的なものを設けておこうかなぁと思う。まあ、やり方は分からないし、大学の講義を参考にするとしようか。えっと、まあ俺が学園で無事半年居れたと仮定しよう。成績の付け方は平常点(授業態度を含む)を70点、期末試験を30点とし、その合計を元に成績を判定する。100〜90点をS、89〜80をA、79〜70をB、69〜60をC、59以下をDとし、D評価を得たものは単位不可とする。まあ、Grade Point Average――GPA制度を応用したものだけど、他の講義がどうだか知らないから、とりあえずD評価さえ回避すれば問題ないと言うことで。ちなみに平常点のうちの出席点はそれぞれ持ち点30点から休んだ日数分引かれていく形式にする。つまり、毎回休まず講義に参加し、かつ考査で満点を取れば、例え授業中に寝ていたとしても合格ラインにギリギリ立てるって寸法だ」


「ふむふむ、これは面白い制度だな。後で他の教師達との会議で導入を提案してみよう」


 あの、セリスティア学園長。真剣に検討しなくていいですから!! 別にやり方知らないから適当に踏襲しただけですから!!


「で、残った40点だが……こちらは、発言などにより上昇する。まあ、上限は40点でそれ以上は上がらないけど。最後に、一番重要な方針だけど、講義中には特に注意はしない。つまらなければ好きに寝てればいい。勝手に点数減らすから。友達と話していたいならどうぞお好きに、点数減らすから。軽食や飲み物については好きに飲み食いしていいよ、なんなら甘いものでも持ち込んだら? 糖分は頭の回転を早くするらしいし、オススメだよ。担当教諭の悪口が言いたいなら好きに言えばいい、ただ知らぬまに自分の屋敷があった筈のところにクレーターができてたり? まあ、その辺りは自己責任で!!」


「「「「「「「あの、最後のが一番怖いんですが!!!」」」」」」」


 え? そんなに怖い? 俺ってめっちゃ寛容な人間だと思うけど。だって注意しないんだよ。自主性に任せているんだよ!!


「とりあえず、講義始めるけど、オーケー?」


「あの、その前に少しいいでしょうか? そちらの床で転がっている貴族の方はどうしたのですか?」


 えっ、確か……ノエリア=フォートレス? フィードの妹のライバルキャラか。


「えっと、これは……遅刻遅刻と大慌てであばばばばしながら走っていたら、急に通せんぼされだ挙句、襲われたので返り討ちに? タンスに小指をぶつけた時の三百倍の痛みを直接精神に流し込んだだけなので、外傷は無し、気絶しているだけです」


 ……えっ、何この静寂? なんでみんな絶句してるの?


「……あの、草子殿。そんな魔法聞いたこともないが」


「え? そりゃ、自分で適当に作ったんですからないと思いますよ。いや、寧ろある訳ないじゃないですか。何そのピンポイントな魔法……どう考えてもオーダーメイドですよ、オーダーメイド」


 まあ、新しい魔法を生み出すためには世界から承認を受ける必要がある。

 マスタートレントと呼ばれる魔獣の幹を使用して作った最高級紙と虹水晶龍の鱗を使用して作った最高級インクを使い、魔法の呪文と名を書くことでのみ承認される……まあ、俺のは【魔術文化学概論】を使った裏口だからね。だから、俺以外には使えない。


「まあ、その人の処遇は後で決めるとします。丁度いい方法が思いついたので……それは後のお楽しみ? まあ、別にどうでもいいんだけど。さて、講義に入りましょう。まず、そもそもの話だけど、魔法を使うだけならその教科書を丸暗記すれば問題ない。詠唱の一部を区切っても、一部を消した場合でも失敗した魔法が発動するということはないからね。前者は特に変化無し、後者は魔法が発動しない、以上。後は初級魔法、中級魔法、上級魔法の存在を覚えておいて、使えるものを判断すれば問題ない。正規の方法で新しい魔法を作ったことはないけど、そこまで細かく決める必要はないんじゃないかな? ということで、講義終了……ではなくて、本題はここから。まず勘違いしないでもらいたいけど、魔法は万能な力じゃない。所詮は手段だ。例えば、〝劫火球ファイアボール〟――この魔法は火球を放つ魔法だ」


「ふん、そんなことは知っている。舐めているのか?」


「まあ、そう言いなさんなって。話の途中だから。で、この魔法は火球を放って相手を焼き払う魔法なんだけど、同時に対象一人を殺す魔法と置き換えることができる。例えば、剣で敵を斬っても全く同じ戦果を挙げることは可能だ。【回復魔法】にも同じことが言える。例えば〝嗚呼、惨き戦場よ! 戦に身を投じ、生命を散らした殉教者達よ! 戦火に焼かれ焦土とかした大地よ! せめて、せめてこの私が祈りましょう! いつまでも、いつまでも、祈り続けましょう〟――〝極光之治癒オーロラ・ヒール〟」


 眩い輝きがクラスにいた者達とセリスティア学園長を包み込む。


「これは、〝極光之治癒オーロラ・ヒール〟!! 最上級の【回復魔法】で聖女ラ・ピュセル教皇ポープ枢機卿カーディナル、その他上級聖職者しか使えないという幻の大魔法!! まさか、草子殿はこんな魔法まで会得しているのですか!?」


「まあ、そこまで驚くことはないと思いますよ。所詮は手段じゃないですか。例えば、人数分の最高水薬ラスト・ポーションを使えばこの効果と全く同じことを起こすことは可能です。全員に至高秘薬ラスト・アムリタを使えば、これ以上の効果を発揮できる。違いはただ手間がかからないということだけです。……〝劫火球ファイアボール〟は斬撃の、〝極光之治癒オーロラ・ヒール〟は人数分の最高水薬ラスト・ポーションの代わりと言い換えることができます。――勿論、魔法にも長所はあります。適正さえあればMPを消費するだけでこれだけをすることができる、手間を省くことができる。これこそが魔法の優位性だと言えるでしょう。さて、魔法を諳んじているだけなら、それこそ教員がいなくてもできます。次回があれば、魔法を使った具体的な戦術について皆様と一緒に考えてみるとして……今日は少し外に出てみましょうか? とりあえず一通り魔法が使えるので、どんな種類の魔法があるか見て頂ければと思います」



「〝爆裂魔法ハイパーエクスプロージョン〟」


 エルダーワンドの杖先を天に向け、魔法名を呟く。

 赤い魔方陣がいくつも出現して、中心にバコーンと巨大な爆熱の球体が発生――轟音を響かせる。

 残念ながら花火Fireworksのような美しさも風流さも皆無だった。……今度試しに〝ファイアーワークス〟って魔法作ってみようかな? 意外と需要あるんじゃね?


「……まさか、【爆裂魔法】まで使えるとは」


 あれ? セリスティア学園長、憔悴してる?

 最初は良かった。まあ、初歩の初歩から順番にやっていたからね。ギン……なんだったっけ? あの人も「これくらいの魔法、僕にだって使える」って言ってた。……どこからだったっけ? ギ……の顔が青褪めていったのは……【重力魔法】を使った辺りか。


「……草子殿、正直私もここまで万能だとは思っていなかった。すまない、謝罪させてくれ」


「いや、これくらい誰にもできると思いますよ。こんなモブにできたんですから、皆様も少し頑張ればできるんじゃないでしょうか?」


「「「「「「「できる訳ないでしょ!!」」」」」」」


 できないんだそうだ……えっ? なんで?


「……寧ろ、何故【無詠唱魔法】の使い方を教えてもらいに来たのか疑問に思うほどだ」


「打てる手段は少しでも増やしておいた方がいいからですよ。それに、【無詠唱魔法】には使い道があります……まあ、着想的にはセリスティア学園長の使い方に近いものがありますね。まあ、俺の方はもう少しだけ捻っていますが。……さて、とりあえず魔法は一通り見せ終わったし、まだ授業の終わりまでには十分ほど時間があるな……どうしよう? 今から教室に戻って次回用の授業をやるには間に合わないし……そうだ。セリスティア学園長がせっかくいるのですし、ここで模擬戦をしませんか?」


 えっ? 何か変なこと言った? なんでみんな絶句してるの?


「……本気なのか?」


「ええ……俺ってどっちかっていうと百聞は一見に如かず派なので。見てたら【無詠唱魔法】がどんなものか掴めるかもしれませんし。……あっ、手加減する必要はありませんよ。殺す気で来て下さい」


 どうせなら、セリスティア学園長の使う三つの固有魔法オリジンを引き出したい。これくらい挑発すれば使ってくれるんじゃないかな? 向こうが使えば後は【看破】するだけだ。


「分かった。そこまで言われて戦わなければ恥というものだろう。……全力で戦うとしよう。その代わり、死んでも知らないぞ」



 詠唱は存在しない。ただ、魔法だけが出現し、襲い掛かってくる。

 【看破】を使わなければ魔法の正体を掴めない。そして、魔法の威力や速度も桁違い。なるほど、これが【宵闇の魔女】と呼ばれるほどの魔法使いの実力か!


 使われたのは下級魔法の〝劫火球ファイアボール〟――ここまでなら大したことがないように思えるが、肝心なのはその数が桁違いなことだ。


「〝全ての魔法を粉砕せよ〟――〝マジカル・デモリッション〟」


 エルダーワンドから鈍色の魔法陣が生まれ、目の前の火球が一掃される。ふう、危ない危ない。まあ、危なくはないんだけど。気持ち的には多分危ない?


「……魔法を破壊する魔法か。初めて見た」


「魔法を破壊する【破壊魔法】、〝マジカル・デモリッション〟。効果は……発生したジャミング波にあたる範囲にある魔法を全て無力化する? 要するに後方からの魔法攻撃には効果なし……うん、そこまで使い勝手良くなかったんだな。愚者●世界の方が上だ……まあ、あっちの方は自分も魔法を使えなくなるけど。さてと、ここからは〝マジカル・デモリッション〟を使わず相殺メインでいかせてもらいますよ」


「……面白い。まさか、手加減される日が来ようとはな。だが、その相手が【たった一人で殲滅大隊】だと考えると納得がいってしまう。……汎用魔法では厳しいか。ここからは、固有魔法オリジンを使うとしよう」


 おっ、遂に来たか固有魔法オリジンタイム。さてと、奪わせて頂きますか。

 早速発動してきた……ん? 吹雪を伴ったダウンバースト? 砂を纏ってهبوبハブーブじゃないの? とりま、【看破】。


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凍てつく女王の吐息ウェントゥス・ニワーリス

→氷属性と風属性の上級複合魔法だよ! 猛烈な下降気流に乗せて大量の雪を降らせるよ! 【宵闇の魔女】の固有魔法オリジンだよ!


〝凍てつく女王よ! 戯れに吹くその息吹であらゆるものを凍らせておくれ! この世界を凍てつかせておくれ〟――〝凍てつく女王の吐息ウェントゥス・ニワーリス

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 Ventus Nivalis? 確か、ラテン語で吹雪のことだっけ?

 氷属性と風属性の上級複合魔法ってことは、〈大地を剔●フェイタ●凍えさせるオーバーロード冬将軍●息吹ブリザード〉的な感じかな? まあ、こっちの方が規模が大きそうだけど。


「〝我が身を護り給え、防ぎ給え。灼熱の結界よ〟――〝ブレイズ・サンクチュアリィ〟」


 【火魔法】と【結界魔法】の複合魔法で対抗する。

 いや、まさか複合魔法が元々二つ以上の属性を複合させるものだとは思わなかったよ。

 〝地獄顕現インフェルノ〟的な感じだと思っていたけど、違ったようだ。……あれ? 前にもこれと同タイプの複合魔法を見た気が。


 というか、もしかして〝地獄顕現インフェルノ〟も一種の固有魔法オリジンなの!?


「防がれたか。これを防いだのはこれまで三人といない……まあ、【たった一人で殲滅大隊】の異名を持つ草子殿には通用しないだろうが」


 あの……過大評価です! 俺ってそんなに強くないから! というか、こんなモブキャラが強い訳がないから!!


「ならば、これならどうだ」


 ん? と言われても、なんともないんだけど? 一体どうしたの?

 全く状況が分からないから、とりま【看破】。


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凍てつく女王の抱擁フリーギドゥム・アンプレクスス

→ 氷属性と温度魔法の上級複合魔法だよ! 相手の体温を急速に低下させることで動きを鈍くするよ! 【宵闇の魔女】の固有魔法オリジンだよ!


〝凍てつく女王よ! 汝の抱擁で凍えさせておくれ! この世界を凍てつかせておくれ〟――〝凍てつく女王の抱擁フリーギドゥム・アンプレクスス

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 Frigidum Amplexus? またもラテン語? というか、【温度魔法】ってあったの!?

 俺が読んだ魔法書にたまたま無かっただけか。というか、複合しないと発動できないみたいだし。【火魔法】と組み合わせれば温度が上がる。【氷魔法】と組み合わせれば温度が下がるってことか。結構難易度高いみたいだな。


 というか、どっちもどっかで聞いたことがある魔法をオマージュした感じなんですけど。毎回こんな感じで本当にいいの!?


「――なっ、何故効かない!?」


「【魔法無効】のスキルがあるから? そもそも魔法自体効かないし……」


「……そんなこと、ある訳がない。ならば、〝マジカル・デモリッション〟で魔法を無効化する必要も、〝ブレイズ・サンクチュアリィ〟で防ぐ必要も無かった筈だ……こうなれば、私の最強魔法を放つ!!」


 あの、本当に信じてもらえないようですね。

 本当は【魔法無効】があっても条件反射的に無効化してしまうだけです……ぶっちゃけ効かないと分かっていても魔法を直撃で受けたくないし。


 五つの魔法陣が現れ、収束していく? なにその魔法……もしかして、五属性の複合魔法!? そんなのアリなの!!


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破滅の波動フィーニス・ウンダ

→ 火属性、水属性、風属性、土属性、雷属性の複合魔法だよ! 相反する属性すらも強引に結びつけることによって発生した相剋エネルギーにより、万物を対象を分解・消滅させるよ! 【宵闇の魔女】の固有魔法オリジンだよ!


〝万象を滅却する波動よ! 相反する相剋の力によりて顕現し、その力を思う存分揮い給え! 灰は灰に塵は塵に戻りて万物須らく円環の輪へと還る。今こそその輪を外れ、滅びの道を進み給え〟――〝破滅の波動フィーニス・ウンダ

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 やっぱり期待を裏切らず三つ目もラテン語だ!

 というか、この流れできてまさかの分解魔法!? しかもイクス●ンション・レイ的な? ……えっ? ちょっと待って! 分解じゃなくて消滅まで付いてくるの!! そっちの方がお得なの!!


 まあ、効かないんだけどね。【魔法無効】があるから。


「……どうやら、【魔法無効】は本当だったようだな。完敗だな、私の負けだ」


 ふう、なんとか勝てた。もしかして、あの迷宮よりも戦利品が多かったんじゃね?


 三つの固有魔法オリジンはどれも強力だった。【魔法無効】と〝マジカル・デモリッション〟が無ければ敗北していたと思う。

 それほどまでに、セリスティア学園長は強かった。魔女の二つ名に相応しいくらいにね。


 さて、授業終わりのベルが鳴ったな。


「……一応これで終わり? 授業であって授業じゃなかったみたいだけど、とりあえずオーケーにしてください。次からは魔法を使った戦略の構築? の授業だから、教科書の魔法を適当に流し読みしておいて下され」


 よし、授業終了。はじめてだけど、かなり上手くやった方じゃないかな? だいぶ俺流だけど。

 さて、とりあえず教室に放置している奴を片付けてから、図書館に行きますか。

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