夜になったので食堂に行って一人で夕餉を食べていたら公爵令嬢やらメイド長やら大公子息殿下やらが集まってきたのだが……この場違い感はなんなんだろう? 席を替えるべきだろうか?

 異世界生活十七日目 場所エリシェラ学園 食堂


 一仕事終えてテントを出ると、夜になっていた。

 あれほど満腹だったお腹も、ぐぅぐぅと空腹を主張してくるので、とりあえず学園の中の食堂に向かった。


 フルール・ド・リス寮とワイバーン寮にはそれぞれ食堂があるらしい。

 それに、ほとんどの貴族が自分の屋敷から腕のいい料理人を連れてきているので、エリシェラ学園内にある食堂を利用するのは、職員だけのようだ。

 いい料理人を連れてきて最高の食事を食べることが貴族達の一種のステータスらしい。……まあ、貴族には貴族の見栄というかなんというか……まあ、色々あるのだろう。正直、地球でも異世界でも庶民でモブな俺には関係ないことだ。


 そこそこ遅い時間なのか、職員の数もまばらだった。

 うん、空いてて良かったよ。まあ、時間を有効活用するためのものは持ち込んでるから問題ないけどね。


 ほうほう、食堂でフルコースが食べられるのか。もう、学内食堂でよくね。だって、フルコース食べられるんだよ! しかも良心価格で!!

 あっ、桃パフェがある。期間限定だそうだ。カットした桃、桃のジュレ、桃のアイスクリーム、バニラアイスクリーム、桃のシャーベットを層状に積み上げた高級感溢れるパフェのようだ。よし、食べよう。


「すみません、お勧めフルコースと桃パフェ、ホットのストレートティーをお願いします」


「畏まりました。桃パフェとホットのストレートティーは食後にご用意致しましょうか?」


「お願いします」


 うん、やはり一流は違う。桃パフェとストレートティーをフルコースと同時に持ってきたらアウトだからね。っていうのは俺の価値観であって、もしかしたら桃パフェとストレートティーをフルコースの前に食べたい人がいるかもしれないから、この対応は当然といっちゃ当然だけど。

 やはり、ここで食事をしないのが甚だ疑問だ。地球の高級レストランと比べてもそれほど遜色ないと思うんだが……もしかして、知らないだけ?


「あの? 同席よろしいでしょうか?」


 一人スマホに視線を落としながら前菜が届くのを待っていると上から女子の声が降ってきた。……えっと、この声は――。

 ……えっ、ロゼッタ? 公爵令嬢ともあろうお方が何故こんな所に? いや、この食堂に文句があるとかじゃないけど……。


「どうぞどうぞ。なんなら、退きましょうか?」


「……あの、草子君が居たから座ろうとしたのですが……お邪魔でしたか? でしたら、そう言ってください。別の席を探しますから」


 えっ? どゆこと? 何この展開? もしかしてこのままロゼッタと婚約している大公子息殿下と全面戦争を繰り広げることになるの? いや、流石に無理じゃね? いや、まあ、倒すことはできるけど。具体的には屋敷の上に隕石を落とすって結末で。


「俺は構いませんが……その、いいんですか? ロゼッタ様には婚約者が」


「草子君は分かっていますよね? どうせ婚約破棄されて終了ですよ。……それより、少し違っても同じ地球出身の草子君とお話がしたいので……こういう話はジルフォンド様とはできませんから」


 まあ、そうですよね。ジルフォンドは転生者リンカーネーター転移者トラベラーじゃないからね。

 そういや、ふと思いついたんだけど、恋人だった二人が乙女ゲームを基にした異世界の悪役令嬢と攻略対象の王子様に転生して、互いにゴールインを目指すって異世界ものはどうだろう? もしかして既にあったりする?


 前菜オードブルが来たようだ。ロゼッタはやって来たエプロンドレスのウェイトレスさんに同じフルコースを注文した。

 うん、C’est bon‼︎ 色彩の豊かさを重要視するのもフランス料理の前菜オードブルと同じようだ。


「ところで、草子君ってあの時話した昔話っぽい話ような半生を過ごしてきたのですか?」


 前菜オードブルに舌鼓を打っていたらロゼッタがそんなことを聞いてきた。


「まあ、色々と削ぎ落としていますが、大体はそんな感じですね。……実は俺、本好きを拗らせた変態なんですよ。そのせいで、クラスからは浮き、“天使様”と呼ばれるほど慈悲深き白崎さんにすら匙を投げられ、完全に孤立していたんです。……そんな中で出会ったのがとある大学の教授でした。こんな俺の中から長所を見つけ出し、ゼミに誘って下さった教授は俺にとって命の恩人のようなものです。俺は教授や、俺のことを認めてくれたゼミ生のいる元の世界に帰りたい。異世界召喚に巻き込まれ、たった一人で始めた旅は気づいたら色々な人を巻き込んでいました……本当に意味が分からないですよね。匙を投げた筈の白崎さんも、何故か俺と行動を続けている。クラスから離れた筈なのに、掌を返したように、今度はクラスメイト達が集まってくる……まあ、それで何が変わる訳ではありませんが。結局、俺の為すべきことは終始一貫徹頭徹尾最後まで変わらない。地球に還るためなら、どんな手だって使う。それが、モブとして生まれ、モブとして生きることしかできない俺の、異世界旅の目的です」


「……草子君はモブじゃないと思いますけどね。今まで表面しか知らなかった人達が、異世界という異なった環境で再会し、今まで知り得なかった、見ようとしなかった一面を知り、惹かれる……きっとそういうことなんだと思いますよ」


 うむ、よく分からん。俺は終始一貫適当に地球に還るための方法を模索しているだけだが……。

 新たな一面? 本好きを拗らせた変態以外に一体何があるのだろうか? 本を読み続けて得られた膨大? な知識はあるけど、それくらいしかない。とんでもなく薄っぺらくて破天荒な人間だと思う。妥当な評価だよね?


「あっ、お義姉様がいらっしゃいました。……もう一方は、あの時生徒会室に来ていた草子様?」


 うん? 来客だ。確かロゼッタの義弟のシャートと……もう一人は、メイド? 見たことない方だな。


「お食事中失礼します。草子様ですね、少々お時間を頂けないでしょうか?」


 というか、拒否権ないよね。強引? ではないけど、連れて行かれた。まあ、前菜オードブルは食べ終えていたけど。

 ……えっと、なんのご用で? ロゼッタ様には婚約者がいらっしゃいますので、無闇に近づかないで下さいってこと!! あの、同席を提案したのはロゼッタの方なんですけど!!!


「……すみません。主菜メインディッシュが来るまでには終わらせますので。――草子様は、ロゼッタ様の前世――薗部美華様と同じ地球のご出身なのですよね?」


 あー、なるほど、その話ね。てっきり、お嬢様の周りから消えてください的なことを言われるかと思った。

 うん、良かった良かった。メイドさんって大概強いから……もうあり得ないくらいに。西洋版のくノ一じゃないかってくらいに暗殺とか重宝に秀でていたりね。実際、スマホ片手に異世界で暮らすライノベだと本当に忍びだったし。


「……まあ、一応地球出身です。ただ、美華さんと同じ・・地球の出身という訳ではありません。――俺は今までこの世界で何人かの転移者トラベラーに出会いました。ですが、どこか俺の住んでいた地球の日本とは差異があったのです。まあ、小さな違和感ですが。……そもそも、転生はまあいいとして、集団で転移したとなれば、集団失踪事件として報道される筈です。俺の世界では、地球の反対側の情勢も報道されたりしますから。ですが、それほどの大量失踪の話は聞いたことがない。――まあ、簡単に言えばちょっとずつ異なった地球が複数存在するということですね。そうやって分裂するメカニズムは説明しなくても問題ないので割愛しますが。とにかく、多少の差異はあれど基本的にはそこまで大きなものではないと思われます。難しい話を致しましたが、ロゼッタ様の前世と同時期の同世界線の地球出身であると勘違いして頂く訳にはいきませんので」


 誤解ってダメだよね。解けるものはといておかないと。特に後々不都合になりそうな奴は。


「なるほど、そうでしたか。……ですが、それでも草子様がロゼッタ様の前世と同じ地球という場所のご出身ということは間違いないかと思います。……そこで、その誼で一つお願いを聞いて下さらないでしょうか?」


「ええ、まあ。俺にできる範囲であれば……」


「ありがとうございます。……ロゼッタ様は前世の記憶を取り戻されてから、度々憂いの表情を浮かべられるようになりました。残念ながら、その理由まではお教えて頂けませんでしたが、きっと自分に何か大きな運命が待ち受けていることを感じ取られていたのだと思います。ジルフォンド様との婚約を破棄したいと幾度となく仰られていましたし……」


 あっ、はい。その憂いの原因分かります。破滅ルートの件ですよね。協力すると申し出ておりますよ、既に。


「まあ……そうですね。そうらしいですね。何かあった時には協力できる範囲で協力すると伝えてあるので問題ないですよ。まあ、こんな無職ニートなモブにできることと言ったら実力で盤上そのものをぶっ壊すくらいですけど。……まあ、俺の出る幕はないんじゃないでしょうが。ロゼッタ様は、記憶を取り戻された時からずっと、自分の運命に向き合い続けているようですし、優秀な彼女は最善手を打っていると思いますよ。まあ、心配される気持ちも理解できなくはありませんが」


 うん、メイドの鑑のような方だ。きっと、ロゼッタも全幅の信頼を寄せているのだろう。だから、前世のことを明かした。


「そろそろ戻りましょうか? あっ、一緒に夕餉でもいかがでしょうか?」


「……メイドの私が同席してもよろしいでしょうか?」


「その方がロゼッタ様もお喜びになると思いますよ。あっ、そうだ。この際お金は俺が全部出しましょう。任せて下さい、魔法薬の知的財産権を売ったお金が残ってますし、奴隷解放に比べたらオードブルなど安いものです」


「……あの、本当に草子様は一般人なのですか? 普通の方は奴隷解放などという波瀾万丈な経験をしないと思いますが」


 あの、メイドさん。俺は普通のモブキャラですよ。勇者パーティにいる補正でよく面倒ごとに巻き込まれるだけで。


「……それでは、お言葉に甘えさせていただきたいと思います。申し遅れました、私、フューリタン公爵家でメイド長をしております、ラナ=クロエと申します」


 へえ、メイド長さんか。メガネが似合うメイド長さん的な? 一部界隈の人には大人気になりそうだ。



 四人で食事だ! 俺以外貴族世界の出身だ! ラナさんも男爵家の三女みたいだし……うん、絶対に場違いだ。そして、何故か逃走できません!! もしかして、ボス戦なの!?


 うん、前菜オードブルを食べた時点でなんとなくそうだろうとは思っていたけど、期待を裏切らない素晴らしい主菜メインディッシュだ!!


「おや、こんなところにいたのですか?」


 おや、誰かと思えばジルフォンドではありませんか。

 あの、怒筋浮かべるのやめてくれませんか。顔は笑ってるけど、どう考えても怒っているやつだよね、それ!!


「……あっ、お邪魔なようなので失礼致します」


「草子君、待ってください。私達がお邪魔したのに、ご迷惑をかける訳には参りません」


「いや、席いっぱい空いてるし、六階? じゃなかった誤解を招いたままじゃまずいですよ。というか、もしかしたら不敬罪で殺される? まあ、【即死耐性】を【即死無効】に上位互換化アップデートしてきたから一撃じゃ死なないけど」


「……草子様って【即死無効】まで持っているんですか? これが、殺しても死なないということなのですね」


 あの、シャート様? 色々と勘違いしていますよ!! 殺しても死なないモブって流石にあり得ないでしょ……えっ? お前はいい加減モブじゃないって自覚しろって? じゃあ、俺は一体何なんだよ!!


「……ところで、ジルフォンド様。こちらに一体何をしに来たのですか?」


「ロゼッタの姿が見つからなかったので。本日はロゼッタと二人で夕餉をと思っておりましたが」


 それで、ここまで来た訳か。どうやら、まだ主人公に攻略されてはいないようだ。まあ、どうでもいいんだけど。


 よく分からないけど、ジルフォンドも座った。

 なんなの、この空間! この場違い空間からとっとと解放してくれ!!


「ところで、草子殿。寮で別れた時からお姿が見えませんでしたが、どこかに行っておられたのですか?」


 主菜メインディッシュに舌鼓を打っているとジルフォンドがそんなことを聞いてきた。


「ん? あの後の予定を話せばいいの? アリバイ供述的な? 俺別に犯罪を犯してないよ!!」


「……草子様。別にジルフォンド様は草子様を殺人事件の犯人だと疑っている訳ではなく、純粋に興味を持たれて質問なされているのだと思いますよ」


 ラナさんがフォローをしてくれた。……なるほど、そういうことね。


「……えっと、あの後は許可をもらった遺跡ジグラートに行って探索してたな。特にこれといって探していたものは無かったよ」


「ですよね、やはり私の言った通りだったようですね?」


「いやぁ、疲れた? 地下九十四層まで自由落下して、その後ひたすら浄化魔法? 隕石落としたり、浄化したり、凍らせたり、【魔法剣】使ったり……まあ、いつもと同じか」


「――草子殿、どういうことですか!! あの迷宮に地下などある筈が!!」


「探索不足じゃね? いや、普通にありましたけど? 壁の中に落とし穴があってそこから一気に地下九十四層まで繋がってましたよ。雑魚敵で……確か、LEVEL:100だったっけ?」


「「「「レベル100!!」」」なんでそんな化け物と戦ったことをごくごく平然と当たり前のように言っているんですか!!!」


 えっ? 当たり前じゃないの? だって、レベル100だよ? ユェンだってLEVEL:480だったんだから、これくらい普通だって。


「あっ、欲しいものは無かったけど、微妙なものは大量? ではないですけど、手に入れましたよ。まあ、目星のついた物だけですが。勿論、あげませんよ。後で女子達にばら撒く予定なので」


「……女子達ってもしかして白崎さん達のことですか?」


 あれ? もしかして、ラナさん知ってた? もしかして、メイドの先輩ってラナさんのこと??


「もしかして、ラナ様が白崎さん達にメイドの仕事を教えているメイドさん?」


「メイドの私に様付けは不要です。――はい……まあ、私以外にもエリファス大公家お抱えのメイドなど、様々なメイドが協力しておりますが。学園長直々の頼みとあれば断れませんからね?」


 あの、“天使様”? 一体どんな契約を学園長と結んだんですか?


「まあ、白崎さん達にも為すべきことがあるのでしょう。俺には俺の為すべき? 為さないと帰れないから自分のため? 天啓で決まっているというよりは自主的に頑張っていること? まあいいか。とにかくやることがありますし、それに向かって突き進まないといけないなぁ。今日、早速手掛かりが断たれたけど……うん、これからどうしよう? とりあえず、学園長から【無詠唱魔法】と霊薬エリクシルについて教えてもらったらここでやることはコンプリートだ」


 えっ? なんでみんな絶句してるの? なんか変なことでも言った?


「……あの、草子様は【無詠唱魔法】と霊薬エリクシルについて、学園長に教えてもらうために学園に来たのですか?」


「あれ? 話してませんでした? まあ、他にも目的がありましたが、それは今日の探索で見当外れだということが分かりましたし。後はもう一つ気になることを調べ終えたら、この国を出る予定でいます。……次は、お隣のアルドヴァンデ共和国かな? 宰相? 首相? とにかくアレク=アルドヴァンデとは関わりたくないな。変な噂しか聞かないし」


 アルドヴァンデ共和国の現首相、アレクには真っ黒な噂がある。

 なんでも毎日多くの人間を自分の手で殺しているようだ。命令して殺すのではなく、己が手を血に染めて……うん、一聞すると快楽殺人者? って思うけど、俺は違うと思う。


 【強奪】――老害のスキル欄には無かった。異世界ものではもはやお馴染みのチートスキル。

 効果は……殺した相手のスキルを任意で一つ奪える的なところじゃないかな? じゃなかったら大量殺戮ジェノサイドする必要ないし。


 ぶっちゃけ他の作品ではチートだけど、こっちだとあんまりチートっぽく感じないんだよね。

 【経験値アップ】とかと同じくらいチートっぽくないチートスキルだよね? 【即死】とか【運率操作】の方がよっぽどチートっぽいし、【完全掌握】なら殺さずともスキルを手に入れることができる。

 使用制限を問題視しないのなら、【模倣】で十分だし、【異食】を使って食べれば欲しいスキルを好きなだけ得ることができる。……もしかして、【異食】って最強スキル!?


「あっ、解雇されない限りは非常勤講師の仕事は続けますよ。そういう約束ですし……まあ、明日辺りに解雇されるでしょうけど。〝移動門ゲート〟を使えば長距離移動問題は解決しますし」


「〝移動門ゲート〟って【空間魔法】ですわよね! 草子君ってそんな高難易度魔法まで適性があるのですか!!」


 えっ? 〝移動門ゲート〟って高難易度魔法なの? どこ●もドアなのに? 便利な魔法ではあるけど、そんなに凄いものでもないと思うよ。


 主菜メインディッシュを食べ終えた頃に桃パフェとホットのストレートティーがやってきた。


「美味しい! まあ、美味しいのは当然だよね! 一流のシェフが作る一流の料理。寧ろなんでこんなに低価格で美味しいものが食べられるのに、利用しないのか不思議だよ」


「……確かに、使ったことはありませんでしたが、私の連れてきた料理人に匹敵する素晴らしい料理です。……これは、広めた方がよさそうですね」


 おう、ジルフォンド。いいことを言うではないか? ……あれ? これって何キャラ?


「ご馳走さま。さて、これだけ美味しいものを食べたんだから、明日は頑張らないとな。……さて、それではお先に失礼します。おやすみなさい」


「「「「おやすみなさい」」」」


 ふぁ〜、眠くなってきたよ。今日は読書無しで寝よう。明日は初仕事だし。……ところで、給金って出るのかな? 出るなら出るで確定申告が面倒そうだ!!



 月に照らされた夜の下、学園の一角で二つの影が対峙していた。

 一つの影は豚のようにぶくぶくと太った伯爵家子息ディスクルトゥ=ノルマンディー。

 そして、もう一人は奇妙な仮面をつけたタキシードの男。


「……その話は本当なんだろうな?」


『ええ、勿論でございます。ワタクシ、アノニマスの言葉に嘘偽りはございません。高貴な身分であるアナタに対して狼藉を働いた、勘違い男を懲らしめる力を差し上げたいと思っております』


 タキシードの男は、ポケットの中から五枚のカードを取り出す。

 そのカードには、表面に魔獣のイラストが描かれ、左下にSSRやSRと書かれている。裏面にはカードに関する説明文が書かれているようだ。


「……これが、あの男に復讐するための力か。ん? TCG風ソーシャルゲーム『FANTASY CARDs』?」


『ええ。とある機関の開発部門が量産したマジックアイテム的なものでございます。元々は異世界のゲームクリエイター? なる人物が持っていたユニークスキルで作り出したものだとか、違うとか? まあ、その方はその機関を裏切り、姿を消してしまったようなので真偽は定かではございませんが。まあ、その力がどのようなものであるかは、あまり関係のないことでございましょう。復讐を果たせるのであれば、それでよろしいのではございませんか?』


「それもこれもそうだな。ふむふむ、『SR レッドゴブリン』、『SR オブシディアン・ホース』、『SR グールリーダー』、『SSR 氷狼ヴァナルガンド』、『SSR ザ・グリム・リーパー』……聞いたことのない魔獣ばかりだが、まあ奴に復讐を果たせるのであれば、そんな些細なことはどうでもいいだろう。それで、お前は何か見返りを要求しないのか?」


『ワタクシは主人様よりデータを取るようにと仰せつかっております。そのオリジナル・・・・・と呼ばれるカードを解析し、より完璧なブランクカードを完成させるために。……と、お喋りが過ぎましたな。そろそろワタクシは失礼致します。それでは――』


 現れた時と同じようにアノニマスは、闇の中に溶けるように消える。


「ハハハ。今に見ているがいい、能因草子!! 雪辱を果たし、今度こそ貴様の絶望する顔を見せてもらうぞ!!」


 ディスクルトゥは自分が捨て石にされていることも知らずに、取らぬ狸の皮算用をしながら高笑いを浮かべた。

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