ROUTE8:能因法師と名前を間違われて喜ぶ少年は多分草子君以外にはいないと思う。友達には教養を求めるタイプのようだ。

 (元)我儘令嬢ロゼッタ[十五歳] 場所フューリタン公爵家屋敷


 チーズケーキの角に頭をぶつけて前世の記憶を思い出すという良く分からないイベントから、既に約六年が経過した。

 私の新たな身分は公爵令嬢。それも、乙女ゲームでは大体散々な目に遭ったり最悪の場合は殺される運命にある悪役令嬢だった。


 前世は押し飛ばされ、そのまま電車に撥ねられて内定を獲得しながらも大学卒業の前に死亡するという散々な結果だったから、せめて今世ではうら若き乙女のまま死にたくないと思いながらも、その一方で傲慢令嬢ロゼッタは死んで当然と思うという相反する気持ちを抱えたまま、遂に今日十五歳の誕生日を迎えた。


 この世界でも乙女ゲーム『The LOVE STORY of Primula』と同じく魔法の素質を持った少年少女達は十五歳になると全寮制の魔法学園に集められ、そこで三年間学ぶことになる。

 そして、ゲーム通りに行けば主人公プリムラは、ジルフォンド様を筆頭とする攻略対象との恋に落ちていく。

 その恋路を邪魔するロゼッタは、破滅の道を歩き始めるのだ。


 一応対策らしきものは用意している。破滅が迫った際にいつでも亡命できるように、超帝国マハーシュバラの不屈の超皇帝シヴァに宛てた書状をしたためた。

 文官より武官が出世する国のようだけど、別に地位に拘るつもりはないし、婚約破棄を言い渡されたら家族と縁を切ってこの国を脱出しよう。……前世でも迷惑を掛けたし、今世でまで家族に迷惑を掛ける訳にはいかないからね。


 と、まあそんな感じで、破滅ルート対策は亡命案だけ検討して、後は変態執事狩りと図書館引き篭もりという破滅ルート対策と関係ないことばかりをしていたのだけど……何故かおかしいことが周りで起き始めている。


 乙女ゲーム『The LOVE STORY of Primula』の攻略対象やライバルキャラ達が次々に私の近くに集結しているのだ。

 ライバルキャラのノエリア様はロゼッタのことを嫌っていた筈だけど、今では親友と呼んでも差し支えないくらいに仲良くなっている。

 攻略対象との関係も良好と言っていいもので、乙女ゲーム『The LOVE STORY of Primula』のスタート地点からはかなり離れている気がする。

 そして、不確定要素としてゲーム未登場の変態執事イセルガがいる。彼がいることで、どのような変化が生まれるのかは、それこそ皆目見当がつかない。


 不確定要素はまだある。この世界の位置付けだ。

 果たしてここは、乙女ゲーム『The LOVE STORY of Primula』の世界なのか? そして、表示した【ステータス】に書かれていた好感度の項目にノエリア様とプリムラの名前が書かれていたのは一体何を意味するのか。


 ……この世界に転生した私に与えられた役目は一体なんなんだろう?



 十五歳を祝うパーティは盛大に行われた。

 この誕生日パーティは私の社交界デビューも兼ねている。……正直、目立ちたくないから社交界もジルフォンド様との婚約もお断りなんだけど。


 一応、ダンスはお母様のおかげで人並みに踊れるようになっている。元々は運動が苦手だったのに、ここまで踊れるようになるって凄いわね。……まあ、ロゼッタの記憶と動きが体に染み付いていたっていうのもあったのだけど。


 まずは、一応婚約者なジルフォンド様と踊り、周囲のヘイトを集めてから(……本当は集めたくないし、こんな破滅する役目は他の令嬢にプレゼントしたいのだけど) シャートと踊り、ヴァングレイ様と踊り、フィード様と踊り、何故か男性パートを覚えていたノエリア様とも踊った。……流石にヘトヘト。


 ちなみに、変態執事は事前に意識を飛ばしている。今回の魔法は特に強力だったから、流石に目を覚ましは――。


 静かに扉が開き、一人の執事がダンスホールに入ってくる。

 顔だけは攻略対象に匹敵する美形だから、貴族の令嬢達は黄色い声をあげた。……うん、勘違いしているよ。


「ロゼッタお嬢様、お誕生日おめでとうございます」


「うん、ありがとう。ちなみに、私にとって最高のプレゼントは貴方が何一つ問題を起こさずそのまま部屋に帰ってくださることなのだけど……」


「残念ながら、それはできかねます。――可愛いご令嬢が沢山集まっているこのパーティを逃す手はありませんので。――お嬢様、今日という今日は突破させて頂きます」


「学習能力の欠片もない頭の悪い執事さんね。何度だって刻みつけてあげるわ! 私の恐ろしさを!!」


 ……長い時間を掛けてメイクをしてもらったからあんまり動きたくないんだけどね。

 だから、速攻で片付けさせてもらうわ!


「〝汝の精神に、今こそ刻みつけよ、拭い去れぬ恐怖を〟――〝恐怖幻影テラービジョン〟」


 思い描くのはチェーンソーを持った令嬢が獰猛な笑みを浮かべたまま迫ってくる光景。

 そのイメージを魔法に乗せ、イセルガに向かって放つ。はい、命中。はい、撃沈。そのままメイドに連れていかれる。


「……ロゼッタ、顔が怖いですよ」


 いけないいけない、多分獰猛な笑みを浮かべていたわね。ジルフォンド様に指摘されるまで気づかなかったよ。

 というか、ここまで【精神魔法】を扱えるのなら、魔法学園に行く必要ってあるのかしら? 魔法学園に行けば破滅ルートまっしぐらだから、免除してもらえるなら免除してもらいたいわ!!



 魔法学園に入学して数日、寮生活にも慣れてきた。

 ちなみに、寮は大公、公爵、侯爵、伯爵までが在籍可能なフルール・ド・リス寮と、子爵以下が在籍するワイバーン寮の二つがある。


 私達は全員揃ってフルール・ド・リス寮に入ることができた。

 まあ、ルール的に当然のことではあるのだけど、やっぱり友達と一緒の寮にいられるのはいいことよね。


 談話室と食堂は共有、それ以外は男女で分かれているといった感じだ。

 ところで、魔法学園の寮だから合言葉とか必要あるのかな? ……我よからぬ事をたくらむ者なり、とか? それは違う奴か。


 私が特に親しくしている中で今年入学しているのは三人――私の義弟シャートとジルフォンド様の弟のヴァングレイ様、そしてその婚約者のノエリア様だ。

 二年生のジルフォンド様とフィード様とは寮は一緒なものの、学年が違うので教室も違う。


 まあ、一年生も五クラスあるのだけどね。ちなみに、私達三人はみんな同じクラスになった。そういえば、プリムラは違うクラスだったっけ。

 だけど、油断はできないわ。攻略対象は学年もバラバラなのに、結局攻略されてしまうのだから。


 入学式を終えた私達は試験を受けた。そういえば、その結果が今日貼り出されるってことになってたわよね。

 ちなみに、ゲームでの学年一位はプリムラで、ヴァングレイ様が二位、ノエリア様が三位だったわね。シャートは……どうだったっけ? まあ、次期当主になるために勉強をしているし、ここは異世界なんだからきっと大丈夫よね? ロゼッタは……まあ、あの子は莫迦だから。


 そういえば、ヴァングレイ様は主人公に負けたことで闘志に火を付けられ、そこから恋に進んで行くのよね。

 ジルフォンド様に激しく劣等感を抱いていたヴァングレイ様だけど、まだ心は折れていなかった。だけど、ただの平民のプリムラにすら負けたということは受け入れられず……って感じだったっけ?


 ちなみに、成績が優秀だとそのまま生徒会に入ることになる。

 生徒会は学園の自治を司る一組織で、平民や下級貴族によって構成される学生連合と対立することで片方に権力が傾かないようにしている。……左院と右院みたいなものかしら?

 この設定は乙女ゲーム『The LOVE STORY of Primula』には無かったもの。……まあ、異世界だしね。


 とりあえず、張り紙を見に行こう。


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★実力考査(筆記試験)、成績

一位、ロゼッタ=フューリタン 1000/1000

二位、プリムラ=イノセンス 930/1000

三位、ヴァングレイ=エリファス 925/1000

四位タイ、ノエリア=フォートレス 900/1000

四位タイ、シャート=フューリタン 900/1000

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「よぉ、ロゼッタ。満点おめでとう」


「ありがとうございます、ヴァングレイ様」


 あら? ゲームの展開とは違うわね。まあ、ヴァングレイ様の劣等感はあの事件がきっかけで取り除かれたみたいだし。


「ロゼッタ様、満点おめでとうございます。……凄いですわね。どうやったら満点を取ることができるのでしょうか?」


 ……ノエリア様、ごめんなさい。そんな風にキラキラした目を向けられるようなことをしたのではないの。

 ゲームではスキップされるからどの程度か分からなかったけど、この問題……実は義務教育レベルなの。

 勿論、低いという訳ではないわ。でも、私は前世で一応県立大学に現役合格しているの。

 それに、あのレベルは普通に解けないと家庭教師の仕事は務まらないわ。


「お義姉様、おめでとうございます。やっぱり、お義姉様は凄いです!」


「ありがとう、シャート。ヴァングレイ様もノエリア様もシャートも上位なのだから、十分凄いわ」


 ……まあ、私はズルしているのだし、現役でこれだけの学力を有している三人の方が遥かに凄い。


「そういえば、成績上位者は生徒会室に集合だったな。……今の生徒会にはジルフォンドとフィードがいる。家族と友人がいるというのは心強いな」


 そういえば、去年の生徒会はジルフォンド様が王子様パワーを発揮して同時期の生徒会メンバーを使い物にならなくしちゃったんだっけ。

 だから、今の生徒会にいる二年生の役員は二人。生徒会に所属できるのは二年生までみたいだし、実質二人か……よくもっているな。まあ、あの二人なら学生連合と互角に渡り合うこともできそうね。


「……お義姉様、そういえば伝えることがありました。学園長がお義姉様にお会いしたいそうですが……何か問題を起こされたのですか? ……お義姉様に限ってそんなことはないと思いますが」


 えっ? 私、学園長に呼ばれるようなこと、したかな?

 問題は起こしてないと思うけど……もしかして、テストに書いた落書きがまずかったのかな?

 暇過ぎて、裏面に自分で問題を作って解いていたんだよね。数学だと漸化式、歴史だとこの偉人について考えたことを何文字以内で書きなさいとか、そんな感じで全教科……本当にごめんなさい。ほんの出来心だったんです!


「分かりました。……確か、学園長室は別の棟でしたわね。皆様は先に生徒会室には少々遅れるとお伝えください」


 身から出た錆だ。……だけど、結果的に被害を被ったのは生徒会の皆様よね。本当にごめんなさい……って、ジルフォンド様とフィード様だからきっと許してくれると思うけど。

 というか、私がいない間にイベントが進展するかもしれないわね。生徒会にはプリムラも居る訳だし……まあ、そのまま婚約破棄に向かうのならそれはそれでいいし、他の誰かと結ばれるのなら、全力で応援するつもりだけど。


 校舎を出て、反対側の校舎へ。その間、守衛所で奇妙な少年を見かけた。

 カッターシャツと黒ズボンの上から魔導師のローブを纏った三白眼の黒髪の少年。……と、いけないいけない。学園長室に向かうんだった。


 学園長室に到着。とりあえず、ノックを三回して部屋に入る。


「失礼します」


「突然呼び出してすまない。一応、はじめましてと言った方がいいかな? 入学式の際に挨拶はしたが。……改めて、エリシェラ学園学園長のセリスティア=アードレイクだ」


 外観は二十代前半くらい。黄昏の光に染められた稲穂のような豪奢な金色の髪に、紅玉を彷彿とさせる真紅の瞳。

 洗練されたガラス細工の如くその容姿は粟立つほど整い、艶やかな肢体には漆黒のドレスが張り付き、その曲線美を引き立てている。


 遠くから見た時にもその存在感に圧倒されたけど、間近で見ると本当に凄い美貌よね。悪役顔のロゼッタでは逆立ちしたって敵わないわ。


「遅くなりました。ロゼッタ=フューリタンです。……ところで、私は何か問題を起こしたのでしょうか?」


「いや、寧ろその逆だよ。ロゼッタ嬢は、全問正解に加え、本学で学ぶ以上の知識を既に有していることも今回の考査で証明した。――もし、君が良ければだが、卒業後もそのまま本学に残って研究者や教師になるというのはどうかと思ってな。他には魔法省の役人になるという選択肢もお勧めしたい。……まあ、入学したばかりなのだから、今後のことを色々と話されても困るだろうし、ビジョンもまだないだろうが……」


 魔法省は、クライヴァルト王国の宮廷魔法師の一部を母体として設立された魔法の研究を行う組織だ。

 乙女ゲーム『The LOVE STORY of Primula』には存在しなかったが、存在自体はロゼッタの記憶で知っていた。

 しかし、まさか私にそんな話が来るとは……でも、この学園に残れるのなら前世ではできなかった歴史研究に心血を注ぐこともできるかもしれないわね。

 一つの道として考えておいてもいいかもしれないわ。具体的にはジルフォンド様に婚約破棄された後の道として。……濡れ衣を着せられて破滅しなかったらの話だけど。


「……まあ、ロゼッタ嬢はジルフォンドの婚約者だからな。現実的にはかなり厳しいだろうが」


「一つの選択肢として考えておきたいと思いますわ。……勿論、今はまだどのような道に進むかは分かりませんので、卒業までにどうするか決めたいと思います」


 まあ、ジルフォンド様には婚約破棄されるだろうからいいとして、その際の被害がどれくらいになるかよね?

 この国に残れるレベルならセリスティア様の提案を受け入れるのもいいと思うし、歴史研究に心血を注ぐのも楽しそうだ。


『……セリスティア学園長。学園長に面会を求めている方がいらしていますが』


「すみません、ロゼッタ嬢。客人に中に入ってもらってもいいだろうか?」


「私は構いませんわ。……お邪魔でしたら退散いたしますが」


 お客様がいらしているのに、私がいつまでも残っていてもお邪魔にしかならないからね。


「いや、退出するには及ばない。は非常に興味深い人物だと聞き及んでいるから、是非会ってみるといい。……実際、私も彼が来る日を楽しみにしていた」


 ……セリスティア様が興味を持つなんてどんな人なんだろう?


 三回のノックの後、扉が開く。

 魔導師のローブを纏った三白眼の黒髪の少年……まさか、あの時の。


「突然押しかけてすみません。……大切な話の途中ですし、邪魔をする訳にはいきませんから、後日出直すことに致します」


 そして、そのまま何もなかったように扉を閉めようと――。えっ、どういうこと。


「いや、それには及ばない。このご令嬢にも君に会ってもらいたいと思ってな。――紹介しよう。突如彗星の如く現れた……なんといえばいいだろうか? 冒険者ではないし……」


「ただのモブキャラです」


「……その認識は間違っていると思うぞ。【まつろわぬ孤高の旅人】と【たった一人で殲滅大隊】の異名で知られる大魔導師――」


「いえ、ただの自宅警備員ひきにーとです」


「……能因草子殿だ」


 少年の謙遜なのかよく分からないツッコミを無視して言い切った。凄い胆力です、セリスティア様。

 というか……能因法師? もしかしなくても日本人?


「はじめまして……えっと、能因法師さん?」


 あれ? 間違えたかな? 能因法師って聞こえたんだけど。もしかして、空耳?


「あらし吹く み室の山の もみぢばは……」


 あら? 小倉百人一首だわ。なるほど、下の句を詠めばいいのね。


「竜田の川の 錦なりけり」


 あっ、能因法師君が嬉しそうに笑ったわ。正解だったみたいね。


「そう、これです。これを待っていたんですよ! 名前を間違えるのならこれくらいの教養を見せつけてくれないと」


 あ〜、やっぱり聞き間違いか。だけど、喜んでいるわね。もしかして、ドM……ではなさそうだから、やっぱり教養を求めていたのかしら?

 多分そのお眼鏡に適う人はほとんどいないと思うけど。私も過去に小倉百人一首をやったことがあったから分かっただけだし……マイナーよね、能因法師って。


「改めて、能因草子です。枕草子の系統の一つ能因本の能因に、枕草子の草子と書きます。――しかし、このことをご存知だということは……貴女も元地球人ということですね。見た目は普通の貴族ですし……転生者リンカーネーターというところでしょうか?」


 ……見抜かれた。まあ、見抜かれるようなことを言ったのは私の責任だけど。


「……まさか、ロゼッタ嬢が転生者リンカーネーターだったとは」


「……いつかは伝えなければと思っているのですが、なかなか覚悟ができなくて、まだ我が家のメイドと執事の二人にしか伝えていない事実です。必要に迫られた時に打ち明けるつもりですので、内密にして頂きたいのですが」


「勿論だ。こういう話はデリケートだからな。……改めてお二人で自己紹介をしたらどうだ? 同郷の仲間の可能性もあるのだろう? 必要ならば私も席を外すが」


「いえ、その必要はございません。改めて、ロゼッタ=フューリタンと申します。前世の名前は薗部美華。最終学歴は県立大学の四年生で歴史文化学科に所属していました。大学から帰宅する途中で突き飛ばされ、電車に撥ねられて死亡し、その頃に論文を書く間にやっていた乙女ゲーム『The LOVE STORY of Primula』の悪役令嬢ロゼッタに転生しました」


「改めて、国立大学日本文化研究学部国文学科浅野天福ゼミ大学公認特例ゼミ生の能因草子と申します。高校一年生ですが、紆余曲折を経て大学のゼミに参加させて頂いておりました。……クラス召喚で異世界カオスにやって来て、地球に戻るための方法を模索しているところです。……ちなみに、美華さんの生きていた地球と俺の帰還を目指す地球は似て非なるもののようですね」


 えっ、どういうこと? 同じ地球の出身者じゃないの!!


「……どういうことだ。お二人は同郷の仲間じゃないのか?」


 と疑問に思っていたら、その気持ちをセリスティア様が代弁してくれた。


「俺の世界には『The LOVE STORY of Primula』というゲームは存在しなかったと思います。つまり、美華さんの生きていた地球というのは乙女ゲーム『The LOVE STORY of Primula』が存在する地球だと仮定することができるのです。つまり、パラレルワールドということです」


 ……ああ、パラレルワールドね。そういうことか。なら、あり得るか。


「パラレルワールドとは、一体何なのだ?」


「パラレルワールドとはある世界から分岐し、それに並行して存在する別の世界を指す言葉です。もしもの数だけ分岐すると言われています。例えば……そうですね。セリスティア様が本日の昼食にパンを食べたとしましょう。しかし、もしもセリスティア様が忙しくて昼食を取れなかったら、パンを食べた世界と食べていない世界の二つが存在することになります。こんな感じで分岐していくという感じですね」


「なるほど……つまり、二人は同じ地球出身でも、完全に同一の地球出身ということではないということだな」


「そういうことですね。……まあ、同じ地球出身であることは共通していますが、知っていることに差異がある可能性が高いので、それは覚悟しておいて頂きたいと」


 まあ、草子君が同郷出身者であることは間違い無いんだし、差異があってもそこまで大きな影響は無さそうだから、問題ないと思うわ。


「ところで、草子殿はどのような理由で私を訪ねられたのですか?」


「そちらが本題でした。久しぶりに話が合いそうな地球出身者に会ったのでついついテンションが昂ぶってしまって。……本題ですが、俺に【無詠唱魔法】と霊薬エリクシルについて教えて頂けないかと思いまして。かの有名な【宵闇の魔女】様に教えを請うことなど、無理なことは承知の上ですが」


「いえ、私でよろしければお教え致しますよ。その代わりに条件が。貴方をこの世界最高の魔法使いと見込んでお願い致します。この学園で非常勤講師をして下さいませんか? それが、私が出す条件です」


 …………えっ? これどういう状況? 異世界出身の高校生が魔法学園の非常勤講師に? 同じ魔法でも世界観が間違っているような。というか、そんな展開、『The LOVE STORY of Primula』にはありませんでしたわ!!

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