久しぶりにアルルの町に行ったら冒険者ギルドと武器屋で怯えられたんだが……一体俺が何をしたって言うんだ!

 異世界生活十六日目 場所コンラッセン大平原、古びた洋館


 とりあえず元奴隷達の服がないということで(大体は半裸か布を巻きつけただけ、酷いと全裸)ということで、まずは服を買いに行くことにした。

 といっても趣味が分からないと後で「これヤダ」と言われそうなので女子達に好みを聞いてきてもらうことにして。


「やっぱり敵を倒した後は壺を割ったり、タンスの引き出しを開けてアイテムをゲットだよね。でも俺、勇者じゃないから漁る特権ないか」


『……何を今更。ヴァルジャ=ラ迷宮の最深部で散々漁っていたじゃない』


「そういえば、そうだった。……で、なんで聖さんがこっちに来てるの? 女子達と一緒に服の趣味聞いてくるんじゃなかったの?」


『こっちも人手がいるかと思って。……もしかして、草子君の勇者様を連れて来た方が良かった?』


「俺の勇者様ってなんだよ。白崎さんは“天使狂信教ファンクラブ”の御神体だよ。何か罷り間違って付き合ったりしたら全世界から追われることになるよ」


『……白崎さんは誰のものでもないと思うけど。それで、何を探せばいいの?』


「いや、使えそうなものがあったら拾おうと思って。奴隷として連れて来られた子達が来ていた服があるかもしれないし。後は……別に生活費には困ってないけどお金はあることに越したことはないな」


『――了解です!』


 二人で協力して探す。数十分で全部調べられた。

 良かった。服は捨てられずに済んでいたようだ。


「やっはろー。服見つかったよ。自分のだというのがあったら持って行ってくれ」


「「「「「「「「「「ありがとうございます!」」」」」」」」」」


 うん、いい子達だ。素直っていいよね。……この後生きる術的なものを教え込む訳だし。


「あっ、それから岸田美咲だっけ? はい、これ……聖剣デュランダル、聖楯アイギス、聖鎧アキレウス? いいもん持ってんな」


「……ありがとう。……それから、助けてくれてありがとう」


 こっちも素直だ。ギャアギャアビッチから転職したのだろうか?


「白崎さん、メモできた?」


「完成したよ。全部で三百人分かな」


「了解。……布の袋で十分運べそうだから、俺一人で行ってくるよ。〝距離に隔てられし世界を繋ぎたまえ〟――〝移動門ゲート〟」


 〝移動門ゲート〟を開く。潜った先はアルルの町。

 そして向かうのは服屋……ではなく、武器屋。


「どうも、売却頼める?」


「……貴方は、冒険者ギルドに喧嘩を売ったという能因さん! すみません、何もしませんから殺さないで下さい!!」


 ……なんだろう? 俺ってこの町でどういう認識なんだろう? 焼いちゃった方がいいのだろうか? ……焼いちゃう?


「何もしないし殺さないよ……って売却するんだった。何もしない訳じゃないじゃん。……はい、これ」


 皮の袋に手を突っ込んで目的のものを引っ張り出す。


「やめて! お助けー!! 冒険者さ〜ん!! ……あれ? 俺殺されてない!? そして目の前に鎧兜と聖剣が……【鑑定】……って、えぇーー!! これは、まさか!! フレーバーテキスト的にも間違いない! かつて世界を混沌と渦中に陥れた史上最悪の魔王エルディーアを滅ぼした勇者カイツが身につけていた伝説の武器防具!! それなりの豪商に売れば単品で白金貨五千枚……つまり金剛金貨五十枚は下らないぞ!! それが、三点セット全て揃っているから単純計算で虹金貨一枚と金剛金貨五十枚……マジか! 俺の店の経営をどん底に突き落とす気なのか? いや、これを上手く捌けばうちは一気に金持ちに! 能因大明神様、これを売って頂けませんか?」


 ……変わり身早えな。この世界の住民は変わり身が早いのだろうか? 変わり身というより脱皮しているのだろうか? ……華麗に脱皮? どこの仮面悪魔だ!

 しかし、ここに来て正解だったな。今回は虹金貨一枚と金剛金貨五十枚、全額貰えそうだ。……と思ったら虹金貨一枚と金剛金貨七十枚だった。セットだから金剛金貨二十枚上乗せしたようだ。……あるところにはあるんだなぁ、お金って。

 ……しかし、随分と説明口調な台詞だ。ほとんどエルフの里の美女商人さんと一緒じゃない?


「はい、ありがとうございます! 能因大明神様、今後とも武器防具専門店ファルトワートをよろしくお願い致します」


 はいはい……多分もう売りには来ないと思うけどね。二度は詐欺れないし。というか、これは詐欺じゃなくて向こうが勝手に勘違いしているだけだから、断じて俺が悪い訳ではない。


 今度こそ服屋に移動。


「いらっしゃいませ。どのような服をお求めでしょうか?」


 店に入るなり店員がやって来た。……てっきりこっちから声を掛けるタイプかと思ったよ。

 しかし、武器防具専門店ファルト……なんだっけ? あの店の店主と違って怯えた様子はない。もしかして、冒険者に関係する店にだけ恐れられている!?


「このメモにあるものを下さい。……大量購入でお安くってできますか?」


「それについては要相談ですね。……えっと三百人分の服×三日分ですか。一体何をなされたのですか?」


「ちょっとそこらで奴隷解放を。……仲間? がうるさくて」


「多分それ冒険者ギルド案件ですよ!? というか、なんでそんな簡単に奴隷解放に踏み切って、しかも成功させられるんですか!?」


 ……なんだろう? 叫ぶ人が多い気がする。最近流行っているのだろうか? 別にどうでもいいけど。


「えっと、用意に少々時間がかかります。目算だと、金貨二十五枚くらいです。流石にお持ちでは……」


「金貨二十五枚ですか……うん、あります。良かった。崩す必要無かったよ!」


「もしかして、お大尽様なの!? ……少々お時間を頂戴しますので、その間に用事があるのでしたら済ませてきたらよろしいかと」


 まあ、店に居ても店員の邪魔にしかならないだろうしね。

 ……うん、久々にあそこに行こう。



「おひさー。遊びに来たよ〜♪」


「「「「「「「「――貴方は、【たった一人で殲滅大隊】!」」」」」」」」


 ……誰、それ? 何? そのカッコいい二つ名。無職ニートには似合わないから返上してオーケー?


-----------------------------------------------

TITLE:【迷宮踏破者】、【魔術文化学を窮めし者】、【本を愛し本に愛される者】、【まつろわぬ孤高の旅人】、【たった一人で殲滅大隊】

-----------------------------------------------


 駄目だ。手遅れなようだ。……というか、いつの間に増えた!? もう一個の方も聞いてないよ!?


「騒がしいな、一体何があったんじゃ……ってお主は【たった一人で殲滅大隊】!?」


「よう、老害ギルマス。やっはろー」


「なんじゃ、何しに来たんじゃ。まさか、ギルドを壊しに!?」


「ちげえよ……さっきちょっと焼こうかなって思ったけど」


 冒険者達は戦々恐々だ。……なんで俺より強い筈の冒険者が怯えるの!?


「えっと、二つ頼みごと? まずは、この近くで非合法の奴隷商人を見つけたんだけど――」「なんじゃと!? すぐに一流の冒険者で討伐隊を編成して――」「まだ話し終わってないのに勝手に話進めるな!? 老害、頭焼くぞ!?」


 老害ギルマスは頭を庇いながら涙を浮かべた……仮にもギルマスでしょ? それで冒険者のトップに立てるの?


「で、俺は素通りしたかったんだけど仲間達? がうるさくてとっとと解放してきた。奴隷商人のグループは全滅したよ。で、二度と奴隷にされないように魔改ぞ……いや、自力で生きていける術を教えることにした。そんで、もしかしたらその中の誰かが冒険者を志望するかもしれないから、その時はよろしくと……俺は冒険者になるの断固反対だけど」


「……色々突っ込みたいことはあるが、分かった。奴隷商人のグループを全滅させたのもお主だと聞けばなんとなく納得してしまう。……お主が教えるというなら期待大だ。喜んで引き受けよう」


 これで、冒険者志望がいたらなんとかなるだろう。一定の地位は保証されそうだ。……何故か俺、恐れられているみたいだし。


「後、【宵闇の魔女】って方に教授を受けたいから紹介状書いて欲しいんだけど」


「【宵闇の魔女】様だと!? ……すまんが、儂には無理じゃ。だが、冒険者ギルドヴルヴォタット本部、ヴルヴォタット統括に頼めば……ちょっと待っておれ!」


 老害ギルマスが中に走っていった。冒険者達に怯えられながら? 待つこと十分、老害ギルマスが帰ってきた。


「許可が取れた。連絡を入れたら【宵闇の魔女】様もお主に興味があるそうだ。冒険者ギルドヴルヴォタット本部のカウンターに申し出れば紹介状は受け取れる」


 よし、これで【宵闇の魔女】から【無詠唱魔法】について教えてもらうこともできる筈だ。


「ありがとう、それじゃあ」


「待て、待つのじゃ!?」


 ……えっ、何かあった?


「……先日冒険者ギルドのギルドマスター会議でお主について議題にあげた。我らの総意としてはお主を冒険者ランクの最上級、虹と同列に扱うことを提案したい。……勿論、お主が冒険者を嫌っているのは承知している。だが、悪い話では無かろう」


 冒険者ギルド最上級ランク扱い……確かに以前老害ギルマスが提案したものとは比べ物にならないほどの好待遇だ。


「確かにいい提案だと思う。――だが断る! 俺の目的は自分の故郷に帰ることだ。できるだけこの世界にしがらみは作りたくない。……すまんな、ディオル」


「……いいのじゃよ。駄目で元々の説得じゃった。というか、いつ激昂してアルルの町を吹き飛ばさないか戦々恐々じゃった」


 ……別に吹っ飛ばさないよ。だって、吹っ飛ばしたらKâkêrû先生に迷惑かかるじゃん。


「それじゃあ。多分、もう俺はここには来ないと思う」


「……さらばじゃ」


 仲直り? 仲違いしていたつもりはないけど、とりあえず関係を修復できたみたいだ。

 その後、服を受け取ってからコンラッセン大平原の古びた洋館に戻った。



 よし、アフターケアは残すこと後一つ。といっても一番重要な奴だけど。


「んじゃ、この中からこれだってのを選んで並んで」


 洋館の外に出て〝メタルメイク・ミスリルダイト〟で作って【錬成】で整形した看板を突き刺す。

 看板には【冒険者などなど戦闘系で生計を立てたい方】、【行商人などなど生産系で生計を立てたい方】、【その他】の三つを用意した。したんだが、三つ目のはいらなかったようだ。


「ええ、改めまして。能因草子と申します。あっ、名前を覚える必要はありません、ただのモブなので。さて、俺達は奴隷になっていた皆様を解放した訳ですが、このまま野に放っても苦労なされるか、最悪の場合は死んでしまうと思います。そこで、皆様には必須科目と選んで頂いた看板にあるコースをそれぞれ受けて頂きたいと思います。『面倒くさいな』と思ったそこの貴方。俺も正直面倒です。と、そんなことを言っていると白崎さん達にジト目を向けられそうなので、割と真面目に戻ります。えっと、カリキュラムが終了した時点で皆様には餞別として白金貨一枚を進呈致します。勿論これだけでも十分だとは思いますが、カリキュラムの際に優秀な成績を修めたそれぞれの上位三名の方には特別にもう一枚進呈する予定でいます。つまり、全部で六名に白金貨一枚を追加で進呈するという感じですね。……まあ、目に見えるモチベーションがないとやる気が起きないものですからね。それでは、皆様頑張って行きましょう! 俺も死ぬ気で頑張ります! ……ってか、俺が一番キツイ役回りじゃない!?」


 どうやら誰も手伝ってくれないようだ。……だって白崎達全員【冒険者などなど戦闘系で生計を立てたい方】の列に並んでいるんだもん。……聖、リーファ、白崎、朝倉、北岡……お前らはどう考えても教師役だろ!?

 というか、ビッチ共も列に並んでる!? なんで教えを請おうとしてるの! なんでそんなに素直になってるの!? 俺、真面目にやらない子は放置する主義だよ!?


 という訳で、まずは必須の共通カリキュラムから。


「えー、まずは基本の基本。魔法についてです。今から皆様には魔法師を持っているメンバーに弟子入りアプレンティシップして頂きます」


 全員が一斉に移動を開始した。……そして、何故か俺の方にも来た!?


「ごめんね。俺は魔法師持ってないんだ。お姉ちゃん達のところに行ってきてね」


「ごめんなさい。……ありがとう、お兄ちゃん」


 うん、向日葵のような笑顔だ。癒される。あっ、もふもふはしないよ。可愛い豹の獣人の女の子だったけど。


「全員魔法師のJOBは獲得しましたか? それでは、次のステップです。お姉さん達に初級魔法を教えてもらって下さい。……それから、もし中級魔法以上を教えて欲しいという方がいればこちらまでお越し下さい」


 うん、誰も来なかったよ。俺の人望はゼロのようだ。

 まあ、違うんだけどね。単純に中級発動レベルに達していなかったのだろう。

 というか、それくらい強いならあんな奴隷商人に捕まらないよね!?


 よし、第一カリキュラム終了のようだ。

 では、続いて……面倒な個人レッスンだ。



 第二カリキュラムという名の地獄の個人レッスン(教える方が)が開幕した。教えてもお金は貰えない。それよりも教員免許を取得していない人が教えていいのだろうか? ……塾の講師みたいな感じだからオーケーなのか?


 白崎達はバラバラに並んでいるようだ。……あんたらに連続で来られたら流石にヘトヘトになるよ。てか、ここまでずっと働き詰めじゃん、俺!!


「……さて、次は……えっと、誰だっけ? ビッチリー……じゃなくて、柴田八枝だっけ?」


「今、ビッチリーダーって言いかけたでしょ! ……それで、私も教えてもらうことってできるの?」


「はぁ、そのために並んだんでしょ。後ろの人に迷惑が掛かるし、とっととやるよ。じゃあ、まずはじめに到達目標的なものを聞いていいかな?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る