文学少年(変態さん)は世界最恐!? 〜明らかにハズレの【書誌学】、【異食】、にーとと意味不明な【魔術文化学概論】を押し付けられて異世界召喚された筈なのに気づいたら厄災扱いされていました〜
ROUTE4:図書館での出会いとお茶会への招待。
ROUTE4:図書館での出会いとお茶会への招待。
(元)我儘令嬢ロゼッタ[九歳] 場所自由諸侯同盟ヴルヴォタット首都ファルオンド
シャートが屋敷に来てから三日後、書斎にあった本をあらかた読み終わったということもあり、私は図書館に向かった。
お供にはイセルガを……目を離すとすぐに犯罪を起こしそうなので。
「……ロゼッタお嬢様、そろそろ私を信用して頂きたいのですが」
「どの口が言うのですか? 犯罪者予備軍というか、ほとんど犯罪者が。私がいないとすぐに可愛い女の子を求めて屋敷を出てしまうのですから、こうしてリードをつけて管理するのが一番安心できますのよ」
……この駄犬は首に鎖をつけていないと、とんでもないことを引き起こす。
もしそうなれば、フューリタン公爵家の株は失墜、お父様達に迷惑を掛けてしまう。それに、何より被害者の女の子に申し訳が立たない。
「……しかし、フューリタン公爵家の皆様がすぐにロゼッタお嬢様の変化に慣れてしまったのは驚きでしたね。普通は傲慢な性格から一気にお淑やかになれば『医者に診せよう』という話にもなるとは思いますが」
「チーズケーキの角で頭を打って性格が変わったということで納得しているようね。……普通はそんなことで納得はできないと思うけど、頭を打って性格が更に悪くなったんじゃなくて改善されたのだから特に問題にする必要もないと思ったんじゃないかしら」
「……ただ、最近のロゼッタお嬢様は他の貴族令嬢に比べて淑女さが足りないといいますか、武闘派になっているような気が致しますが」
「私を武闘派にさせている人が言うと皮肉にしか聞こえないわね。……分かったわ。徐々に貴方の自由を奪っていけばいいのね? 手の指を一本ずつ、足の指を一本ずつ、順番に切り落としていくわ。次に腕と足を順番に一本ずつ落としていく……どう、もう一人で出歩くことも女の子を愛でることもできないわよ」
「……ロゼッタお嬢様。昔よりも悪役度が増している気がします。というか、ベクトルが全く違う方向に振り切れています」
……確か、こういう性質のことをサイコパスって言うのよね? 私も好きでこんな性質になった訳じゃないわ。どっかの誰かさんが学習能力が欠如しているからお仕置きしていたら、そのお仕置きが楽しくなってきちゃっただけよ。
……うん、別の意味で悪役令嬢だ。ドSってタイプの。……ボンデージ着た方がいい? というか、それだと
「いい、分かっているとは思うけど図書館の中で騒いでは駄目よ」
「――あっ、あんなところに可愛らしい女の子が。ああ、今すぐ側に行って愛でたい。その可愛らしい
「〝魂を揺らせ、不可視の竜巻〟――〝
【精神魔法】の竜巻を受けたイセルガはグロッキー状態になった。
……なんで注意した側から犯罪に走るんだろう? というか、語りそのものが犯罪者だよ。
でも、どうしよう? 図書館まであと少し、というか視界に捉えているところまで来ているのにイセルガが動けなくなったから、立ち往生だ。
「あの、よろしければ僕がお運びしましょうか?」
と困っていたら、優しいお兄さんが素晴らしい提案をしてくれた。
「よろしければ、図書館までお運び頂けないでしょうか? 休憩室で休ませておけばすぐに復活すると思いますので」
これは私の経験則だ。イセルガは私の魔法を喰らっても三十分経てばケロッとしてもう一度可愛い女の子を狙うために動き始める。
お兄さんに図書館まで運んでもらい、そこでお礼を言って別れた。その時に「後でフューリタン公爵家までお越し下さい。そこでお礼をさせて頂きます」と伝えるのも忘れない。恩を返すのは貴族として当然のことだ。それくらいのことができないのなら、恥ずかしくて公爵家令嬢なんて名乗れない。……まあ、中身のほとんどは平民なんだけど。
◆
この図書館は自由諸侯同盟ヴルヴォタットで最大の蔵書量を誇っている。ここでなら求めている本が大抵手に入る筈。
私の探しているのは魔法に関する本――所謂
まずは魔法に関する蔵書が集まっている区画へ。
おっ、多いな。壁を埋め尽くすように天井から床まで大量の本が並べられている。
ちなみに周囲の人達は私に奇異な目を向けていた。……まあ、九歳の子供が好き好んで読む本ではないわね。
いくつか惹かれたタイトルの本を読もうと思ったんだけど、ここで一つ問題が発覚した。
……身長が足りなくて上層に並べられている本が取れない。これが転生若返りの弊害なのか。……まあ、若返りっていうほど年をとっていた訳でも無いけど。
とりあえず、上層にあるものは諦めて手に届きそうな下層のものから順に読んでいくことにした。
手に取った本は『続 魔法入門』、『魔法応用』、『高難易度 【複合魔法】という技術』、『生活魔法入門』など全八冊。
……【複合魔法】は【複数魔法同時発動】のスキルが必要なので今の私には発動不可能なことが判明した。
『生活魔法入門』に書かれていた魔法はラナメイド長に教えてもらったものとほとんど同じだったので、特に得られるものは無かった。
『続 魔法入門』には『魔法入門』には書かれていなかったいくつかの魔法が書いてあったから即戦力になりそうだけど、『魔法応用』にはレベル五十以上にならないと使えない中級魔法について書かれていたから、即戦力にはなりそうにない。
冒険者になってスキルレベルが五十以上になったら役立ちそうだな。……まだ冒険者になると決まった訳ではないけど。
次に歴史書が集まっている区画に移動する。
そこにも
まるでそこだけ空間が歪んでいるかのように錯覚する。
見た目こそ九歳の子供だけど、壮年というより老成したような落ち着きが感じられる。
黒髪黒瞳の美形でもう少し成長すれば数多の令嬢から黄色い声が上がりそうだ。
育ちの良さそうなその少年は、大人でも読むのを躊躇いそうな分厚い歴史書を穴が開きそうなほど見つめていた。
話しかけられそうな雰囲気ではない。私も他のみんなと同じく声を掛けずに自分の目的の歴史書の棚に向かうことにした。
本棚を眺める。『ヴルヴォタット貴族の家系図』、『魔族との戦争の歴史』、『超帝国マハーシュバラ――その歴史と覇道――』、『クライヴァルト王政打倒――諸侯革命と分裂した国――』、『ミンティス教国――勇者と聖女という偶像に支えられた狂信国――』、『アレク宰相の圧政――国を影で操る黒幕の軌跡――』……とんでもない題名の本がいくつもあるな。正直よく出版できたなって思う。ミンティス教国なんて狂信国って言っちゃってるし。……まあ、基本的に事実なんだけど。
しかし、クライヴァルト王政を打倒するために行われた諸侯革命だけど、結局意味が無かったみたいね。旧アレク宰相、現アレク首相が圧政を敷いているのは今も昔も変わらないし、アレクをどうにかできないことが分かっていたから、自由諸侯同盟ヴルヴォタットはきっと独立をしたのよね。
やっぱり歴史って面白いな。決して行くことができない過ぎ去ってしまった時間。でも、一度本を開けばその世界でまるで生きているかのように感じることができる。
物語の世界で空想に浸るのと似た感触なのかもしれない。だから、私は千佳さんが勧めてくれたオタク系の文化にも自然と馴染めたのかもしれないわね。
そして、もう一つ。私は歴史の中に秘められた謎を解き明かすのが楽しいと思っている。
新しい古文書を読み解くことで、今まで分からなかった新事実が判明したり、通説をひっくり返せたりできるのが面白い。
もしかしたら、この世界の学園にもそういう研究ができる場所があるかもしれない。
もし、そうなら是非所属してみたいな。
前世ではできなかったら今世こそは、みたいな……まあ、そのためには破滅フラグをひたすら折り続けないといけないのだけど。
◆
時は流れ、私が記憶を取り戻してから一年が経った。
その間にジルフォンド様に押し切られて正式に婚約を結んでしまい、一つ目の破滅ルートはリーチが掛かってしまった。そして、三日と開けずに屋敷を訪れるようになったのだけど……絶対に悪役顔の
あれ? 別にプリムラと敵対しなくても破滅する運命にあるんじゃないの? というか、破滅フラグ乱立しまくっているよね!?
ジルフォンド一人で一体何本フラグを立てるつもりなの!! ……まあ、その時は素直に身を引くけど。
シャートとの関係は良好だ。元々シャートを苛めていたのはロゼッタだけだった。そのロゼッタが苛めなくなればシャートが心を閉ざす理由も無くなる。
シャートの部屋には続々と可愛いものが増えていっているけど、女装だけは断固として反対した。……うちには可愛い女の子を見ると襲っちゃう変態執事がいるからね。アレの毒牙に大切な弟を掛ける訳にはいかない。
図書館通いもずっと続け、あの少年を毎日のように見ているけど、未だに言葉を交わしたことがない。
近寄り難い印象は今でも持ち合わせているけど、一つだけ共感を持てる部分があることも分かった。
彼は間違いなく無類の歴史好きだ。毎日毎日分厚い歴史書を穴が空くほど見つめるのは余程の歴史好きでない限りはまずあり得ない。
いつか話してみたいとは思うのだけど、少年も集中しているようなので邪魔をする訳にはいかない。
そんな一年前からほとんど変わらない生活を送ってきた私に新たな破滅ルートへの道が開かれたのは、昨日のことだ。
「ロゼッタ、シャート。二人にお茶会の招待が来ている。主催者はフォートレス伯爵家だ。ロゼッタはうちが主催のお茶会にしか参加したことがないし、シャートは確か一度も参加していなかっただろう。この機会に参加してみたらどうだ?」
フォートレス伯爵家――攻略対象の一人、フィード=フォートレスとその妹ノエリア=フォートレスの生家だ。
乙女ゲーム『The LOVE STORY of Primula』ではロゼッタとこの二人の間に関係はほとんどない。寧ろ二人からはよく思われていなかった筈だ。
筈なんだけど……何故か【ステータス】には二人の名前も表示されているのよね。
というか、この乙女ゲームを基にしたのかすら定かではない世界は、私に一体何を求めているんだろう?
まさか全員落とせとかは言わないよね? 落としてスーパーハーレムルート(というか、何だそれは!?)に持ち込めとか、そんな無理難題は流石に言わないよね!? ……前世喪女の私に一体何を求めているのよ。
「私は構いませんが……シャートは大丈夫?」
「はい…………お義姉様と一緒なら」
あら、可愛い。お義姉ちゃん、張り切っちゃうよ!!
というか、シャートの魅力ってとんでもない威力なのよね。屋敷のメイドは粗方骨抜きにされたし、お母様からの溺愛は常軌を逸しているような気がするし……いつか、変な女を引っ掛けてきたら、お義姉ちゃんが成敗しよう。
「では、二人で行って参ります」
「……でも、ロゼッタ。あの変態執事は大丈夫なの?」
とリーラお母様が心配そうな表情を見せた。
……そういえば、うちにはあの変態執事がいたわね。今まではなんとか私がなんとかできる範囲だったけど、お茶会に参加となれば執事を相手するどころでは無くなってしまう。
「ご安心下さいお母様。最近面白い【精神魔法】を覚えたので、試しにイセルガに使ってみようと思います。私の予想では一日留守にしてもどうにかなる筈ですわ」
最近覚えた【精神魔法】――〝
この魔法を受けると囚われた精神の迷宮で正しい方法を取らない限りは脱出できなくなる。解除方法は術者が解除するか、第三者が外部から何らかの干渉をするか、自力で脱出するかの三択。……【精神耐性】で防ぐことは可能なものの有用な魔法であることには変わりない。
「…………チーズケーキの角で頭を打って傲慢な性格が消えてお淑やかになったら良かったと思ったが……本当に私達には勿体ないような娘になったのは嬉しいが、時々見せる嗜虐的な笑みを見ていると将来この子が変な道を進まないか心配になってくるよ」
「そう、ですわね。…………甘やかして育ててしまった天罰だと諦めていたのに、奇跡が起きてロゼッタが立派な淑女になったのは本当に良かったのですが……変態執事に対処している時に見せる笑みを見ていると、ロゼッタが悪に染まっていっているようで、本当に恐ろしいですわ」
……お父様、お母様、小声で話さなくても問題ありませんわ。
ごめんなさい。お二人に心配を掛けてしまって……本当は私も淑女で居たいのに、
安心して下さい、お父様、お母様。私は悪に染まったりしませんわ。
――だって、悪役令嬢になって破滅ルートを進むなんて、御免被りますもの。
◆
部屋に戻った私は久しぶりに【ステータス】を確認してみることにした。
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NAME:ロゼッタ=フューリタン AGE:10歳
LEVEL:5 NEXT:120EXP
HP:62/62
MP:52/52
STR:40
DEX:36
INT:100
CON:31
APP:59
POW:34
LUCK:9
JOB:魔法師、公爵令嬢
TITLE:【悪役令嬢】、【破滅の道を征く者】、【魔法貴族】、【公爵令嬢】
SKILL
【四大魔法】LEVEL:1
【氷魔法】LEVEL:1
【雷魔法】LEVEL:1
【木魔法】LEVEL:1
【金魔法】LEVEL:1
【精神魔法】LEVEL:30
【生活魔法】LEVEL:2
【礼儀作法】LEVEL:10
【社交】LEVEL:10
【舞踏】LEVEL:13
【クライヴァルト語】LEVEL:8
【反響定位】LEVEL:5
【メニュー】LEVEL:10
ITEM
・紅薔薇のドレス
・真紅のハイヒール
NOTICE
・通知一件
→未使用のポイントが後150あります。
Capture Target/Party Member
◆プリムラ=イノセンス
好感度:
◆ジルフォンド=エリファス
好感度:♡♡♡♡♡
◆ヴァングレイ=エリファス
好感度:
◆シャート=フューリタン
好感度:♡♡♡♡♡
◆フィード=フォートレス
好感度:
◆ノエリア=フォートレス
好感度:
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……スキルのレベルアップは分かる。分かるけど。
なんで好感度が上がっているんだろう?
確かにジルフォンド様は三日と開けずに屋敷を訪れるし、誕生日には百本の薔薇の花束を贈ってくれた。
シャートは孤立しないように、かと言って迷惑だと思わないように適度な距離を保つように頑張っているけど……二人ともに好感度が上がることをした覚えはないけどな。
やっていたことといったら変態執事イセルガをひたすらボコし続けただけ? あれ? 私って破滅と全く関係ないことに命懸けてる?
……多分、というか確実に間違った方向に努力しているわよね? 私。
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