文学少年(変態さん)は世界最恐!? 〜明らかにハズレの【書誌学】、【異食】、にーとと意味不明な【魔術文化学概論】を押し付けられて異世界召喚された筈なのに気づいたら厄災扱いされていました〜
ROUTE3:義弟という名の第二の死亡フラグがやってきたようだけど、それより問題なのは執事の変態性だと思う。
ROUTE3:義弟という名の第二の死亡フラグがやってきたようだけど、それより問題なのは執事の変態性だと思う。
(元)我儘令嬢ロゼッタ[九歳] 場所フューリタン公爵家屋敷
私の前世の記憶が戻ってから二日後、私はお父様に呼び出された。
お父様によれば、このまま進んでジルフォンド様との婚約が決まればフューリタン公爵家の分家筋から養子を取ることになったらしい。
乙女ゲームメモを見るまでもない。シャート=フューリタンだ。
可愛い系にベクトルが向いており、いつも人形を持っている。趣味はお菓子作り。
元浮浪児だけど、その魔法の才能が認められてフューリタン家の分家筋に引き取られ、その後次期当主不在の危機に陥ったフューリタン本家に引き取られた。
……要するに、第二の破滅フラグの登場だ。……その破滅フラグを携えた養子はそれから三日後――つまり、今日屋敷に来る予定なのだそうだ。
今の私が為すべきことは破滅ルートを回避する方法を考えることなのだけど、今はそれどころじゃない。
「……ちっ、逃げたわね。イセルガ、今出てきて反省するのなら、今回だけは見逃してあげるわ。このまま逃げても罪が増えるだけよ!」
イセルガに最後通告を出しながら、ドレスの裾をたくし上げて廊下をひた走る。……お父様とお母様に見つかったら「はしたない」って言われそうだね。というか、確実に言われる。
その理由は、イセルガが行った犯罪紛いのことをメイド長のラナ経由で聞いたからだ。
元々、イセルガはとんでもない変態性を有していた。
彼は可愛い女の子が大好きなのだ。それも、食べてしまいたいと思うくらい。
この食べてしまいたいというのが比喩的な意味なのか物理的な意味なのか分からないが、とにかくどちらであっても犯罪者予備軍なのは決定事項だ。
……一体ロゼッタはなんでこんな男を屋敷の中に入れたのだろう? ロゼッタ自身は悪役顔で可愛さゼロだから良かったものの、この屋敷の可愛い系のメイド達は日々イセルガの恐怖に怯えることになってしまった筈だ。
幸い、お父様がイセルガの標的になりそうなメイド達を解雇して、別の貴族屋敷に就職できるように口利きをしてくれたのでことなきを得ているが、もしお父様の英断が無ければフューリタン公爵家は崩壊していたかもしれない。
そして、イセルガには【物質透過】と【透明化】という犯罪に使う以外に用途が思いつかないスキルがある。
これに、私の書いた日本語の文章を読み解くのに用いた【暗号解読】を合わせれば、世界最強のセキュリティを破ることすらできると思う。……貴方、ルパ●にでもなるの? ダイブしてもカウンターで殴られ……ないだと!?
……ふふふ、だけど私には秘策があるのよ。
ハイヒールの踵で床を二度叩き、【反響定位】を発動する。
本来エコーロケーションというのは動物が自分が発した音が何かにぶつかって返ってきたものを受信し、その方向と遅れによってぶつかってきたものの位置を知る能力なのだけど、この【反響定位】というのは反響関係無しにただの探知スキルになっている。
【反響定位】を発動することで建物全体をスキャンし、目的としているものの位置を【マップ】に表示することができる。これで例え透明化していても相手の位置を確認することができるという訳だ。
そして、【物質透過】で透過できるものは物質のみ。精神に直接攻撃ができる魔法を防ぐ手立てはない。
「〝魂を縛れ、不可視の糸〟――〝
屋敷の部屋の一つに隠れていたイセルガを精神を束縛する魔法で縛り、私は扉を開けて部屋に入る。
「……イセルガ、覚悟はできているわよね?」
鏡を見なくても悪役顔をしているのが分かる。……前世では分からなかったけど、どうやら私の中にはサディスティクなのところがあったみたいだ。
「〝魂を揺らせ、不可視の衝撃〟――〝
よし、イセルガ沈黙。……これに懲りてもう女の子を追いかけるのはやめて欲しいんだけど、多分無理よね。
とりあえず――。
「ラナメイド長、お手数ですがこの
「はい、ロゼッタお嬢様」
頼みごとがある時に私の心を読むように現れるメイド長のラナさんにイセルガのことを任せて、私はお父様とお母様のいるであろう応接室に向かった。
◆
「遅くなりましたわ。少しイセルガを捕まえるのに手間取ってしまいましたが、なんとか捕縛してラナメイド長にお願いしてきましたのでしばらくは安心だと思いますわ」
応接室に向かうと既にお父様とお母様の姿があった。
「本当に申し訳ありません。アレを連れてきたのは失態でした。……ですが、このまま解雇して外に出しても何かが変わるとは思えません。責任を持ってアレはなんとかしますから、しばらく屋敷に置かせて下さい」
「……ロゼッタ。今でも私はお前の選択が間違ってなかったと思っている。ただ、助けた相手がとんでもない変態だったというだけだ。屋敷に入れた時にそのことを見抜けなかったのは私のミスだ。お前が謝ることではない」
……とにかく私、というかロゼッタに甘いお父様と私による傷の舐め合いだ。
お父様が連れてきたシャートはどうしたらいいか分からず、大切にしているのであろう薄汚れたうさぎの人形を握り締めながらおどおどしている……まずいわね。
「お父様、そろそろ本題に入った方がよろしいのではないでしょうか?」
「そうだったな。彼がシャートだ。今日から君の義弟になる。仲良くしてやって欲しい」
「…………シャートです。よろしく……お願いします」
物凄く可愛い。ショタコンなら一発で撃沈されるだろう可愛らしさ見た目の少年だ。
……なんでロゼッタはこんなに可愛い子を苛めたんだろう? 莫迦なのだろうか? 阿呆の子なのだろうか?
あっ、アレなのか。嫉妬という奴なのか。自分がチヤホヤされないのに苛立ってシャートに強く当たったということなのだろうか? …………ロゼッタって本当に我儘だな。
ちなみに、私は前世では大学生――今更親に甘えたいとは思わない。
ついでに庶民の記憶を取り戻したから我儘放題したいとも思わない。
「はじめまして、シャート。私はロゼッタですわ。これからよろしくお願い致します」
「……よろしくお願いします。ロゼッタ様」
「私の弟なのですから、様は必要ありませんわよ。ロゼッタでもお姉さんでもなんでもいいですから、そう畏まらずにお呼び下さい」
乙女ゲーム『The LOVE STORY of Primula』では、シャートはロゼッタからイジメられ、次第に心を閉ざすようになってしまった。不良にはならず、お人形さんだけが友達みたいな性質になってしまう。
そんなシャートは主人公と出会い次第に心を開いていく。しかし、二人の前に立ちはだかる面倒系悪役令嬢ロゼッタというのがシャートルートだ。
……まあ、私は人の恋路を邪魔しても百害あって一利なしと思っているから、シャートが恋人を連れてきたら寧ろ全力で応援しようと思っているけどね。……とんでもない甲斐性なしだったら流石に断固として反対するけど。
……と、まずは第二の破滅フラグをどうやって回避するかだね。
乙女ゲームのロゼッタがシャートを苛めたのだから、その逆――溺愛すれば問題は無いと思うのだけど、出会ったばっかりで接近し過ぎるとそれはそれで嫌われる原因になってしまうしな。
そうだ!
「ところで、シャート。何か得意なことはありますか?」
「……お菓子作り」
――ですよね! ここは乙女ゲーム通りのようだ。
◆
料理長に頼んで厨房を貸してもらえるようにお願いし、私とシャートは厨房に入った。
念のために監督役として料理長とメイド長に来てもらっている……メイド長?
「すみません、ロゼッタお嬢様。イセルガには逃げられてしまいました」
…………マジですか。
「すみません、シャート。急用を思い出したので少々失礼致します」
踵で床を叩いて【反響定位】を発動。イセルガの位置を確認したところで厨房を出て廊下を進む。
イセルガを狙い撃ちできるところまで来たので、お父様から頂いた
「〝魂を縛れ、不可視の糸〟――〝
ドア越しにイセルガを捕縛し、部屋に入る。
「ロゼッタお嬢様、本日はいつもよりも一層お美しいですね」
「……お世辞はいらないわ。さっき会ったばかりだし。……ラナメイド長の一瞬の隙を突いて逃げたらしいわね? ねえ、知ってる? 私のかつて生きていた国では逃走の罪といってね。逃げると罪が増えるのよ」
「……ロゼッタお嬢様、この国にはそのような法律はございませんよ」
「まあ、そうなんだけど気分的に言ってみたかっただけよ。……でも、私は思うのよ。このまま行けば犯罪を犯すであろう人をむざむざ逃してはいけないって。昭和憲法の第三十三条には『何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となってゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。』とあるのだけど、だからといって犯罪を起こすのが分かっているのに野放しにして、女の子が襲われてから動き出したのでは間に合わないと思うの。――この世界にはそんな法律はない訳だし、未然に防げる犯罪は未然に防ぐべきだと、そう貴方も思わないかしら?」
「……精神的苦痛を与えるのは犯罪では――」
「〝魂を揺らせ、不可視の衝撃〟――〝
よし、イセルガ沈黙。何か言おうとしていたけどよく聞こえなかったな。
――さて、そろそろ厨房に戻らないとね。
「……遅くなりました。さあ、はじめましょうか?」
厨房の器具を使いシャートがクッキーを作っていく。私は基本的に側で見ていて手伝いを頼まれたら手伝うスタンスだ。
……というか、前世でもお菓子作りより古文書巡りという女子力の欠片もない人生を送ってきた私はクッキー作りで足を引っ張ってしまう。
シャートを邪魔しないためにもこれが最善だ。
焼き上がったクッキーを四人で食べてみる。
「美味しいわ。凄いわよ、シャート」
「……お義姉様。お義姉様は男の僕がお菓子作りやお人形遊びや――女の子のするようなことをしていても気持ち悪いとは思わないの?」
そういえば、乙女ゲームでシャートがイジメられた原因は彼の性格が女子っぽいということにあった。
……う〜ん。私は別にいいと思うけどな。可愛らしい趣味で。
というか、そんなことで私がシャートを責めるのなら、それより先に女子力の欠片もない私を責めないといけないと思うけど。
「……シャートはお菓子作りが好きで、お人形遊びが好きなのよね?」
「…………うん」
「なら、その
好きを摘み取ってはいけない。好きを伸ばせば、いつかそれがその人の長所になる。
私の小学校の頃の恩師は、そのような教育方針を取っていた。そんな恩師に憧れ、私も教師を目指そうとしていた。そのために大学に入ったという部分もあった。……そうじゃなかったら選択科目で日本国憲法をわざわざ取らないわ。
心無い人は
だけど、そもそも男らしくとは何? 女らしさとは何?
結局は、大人達が作った型に当て嵌めて考えているに過ぎない。そして、それでは本当に大切なものを削ぎ落としてしまうことになる。
私はシャートが自分の好きなことを続けられるようになって欲しいと思った。
乙女ゲームの破滅ルートを回避するためだとか、そういう打算的なものではない。この時の私の思いは本物だった。――そう信じたい。
◆
「ねえ、シャート。貴方の持っているお人形。少し汚れているわね」
随分年季の入った人形だ。それだけ大切にしているからなのだろうが、少々汚れが目立ってしまっている。
シャートはお人形を庇いながら、涙を浮かべて睨んできた。……それだけ大事だってことよね。
「誤解しないで。別にその人形を代わりのものと取り替えようとか、そういうことではないわ。少し汚れているから、綺麗にできないかって思ったのよ」
ということで、シャートの人形を綺麗にする大作戦だ。
といってもそこまで大それたことをする訳ではない。
「【生活魔法】を教えて欲しいのですか?」
ラナメイド長にシャートの人形を綺麗にするために必要な【生活魔法】を教えてもらうことにした。
勿論、目的はそれだけではない。国外追放された時に【生活魔法】があればメイドの手を借りなくても家事をすることができると思ったから。
「……家事はメイドに任せて頂ければと思いますが、それではご納得頂けませんよね。畏まりました、初歩的なものをいくつかお教え致します」
〝
ちなみに、火を生み出す魔法と水を生み出す魔法は【火魔法】と【水魔法】に分類されるらしい。〝
……私は〝
「〝洗いたまえ〟――〝
少しは綺麗になったかしら。長年の汚れは一回洗ったくらいでは落ちないけど、きっと何回かやっていれば綺麗になるよね。
「お姉様、ありがとうこざいます」
シャートが笑顔を見せてくれた。きゃー可愛い♡ どうしようー。一発ノックアウトだわ。
こんな可愛い義弟を苛めるなんて絶対にどうかしているわよ。
シャート、私、決めましたわ! 貴方のことはお義姉さんが必ず守るわ! ……お節介かもしれないけど。
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