女子達が着替えを買いに行くそうなのでその間に俺はソロキャンのための買い出しに行ったら有名な漫画家さんと出会ったのにその漫画家さんは漫画家を廃業してキャンプ用品店経営になっていた。

 異世界生活十一日目 場所アルルの町、宿屋クルミ荘


 朝餉を食べ終え、アルルの町を出発! といきたいところだったんだけど、女子達が着替えを買いたいらしい。……うん、昨日とかに買っておけば良かったよね? まあ、昨日はそれどころじゃなかったみたいだし……なんでだろう。


 なら、俺は俺で買い物をしようと思い至って宿を出ようとしたら看板娘に呼び止められた。そして、鬼気迫った表情の看板娘に大浴場まで引っ張られた。……なんでだろう? 俺、朝風呂に入るつもりはないし、もうチェックアウトしたいんだけど。


 大浴場には吊り下げられたおっさん達が居た。……あっ、氷溶かしたけど降ろすの忘れてたわ。

 影魔法を解除しておっさん達を降ろす。……しかし、結構永続しているな。これだけ魔法を維持してもほとんどMPが減っていない。あれだな、自然回復で減った分をすぐに補填してしまうのだろう。――怖えよ、ぶっ壊れステータス!


 おっさん達はハクションしながら大浴場を出て行った。……温まるために大浴場に来て、風邪ひいてどうするの? まあ、ほとんど俺のせいなんだけど。元はと言えばおっさん達が風呂に降って来さえしなければ……うん、おっさん達が全面的に悪い。因果応報だ!


 チェックアウトを済ませ、宿を出る。鬼気迫っていた看板娘が今度は涙目になっていたけど何かあったのだろうか? 確かに徹夜したから目つきの悪さが二倍増しになっているし、地味に頭痛していたりするけど。……これ、宿に来た意味あったのだろうか? 寝るために来たんだよね? まあ、まともな食事にはありつけたからいいことにしますか。


 町を歩く。目的地はアルルの町唯一のアウトドアショップ ソロキャン亭だ。……明らかにソロキャン勧めているよね! 恋人とキャンプをする奴や仲の良い仲間達とキャンプする人達はお呼びでないって感じだよね! ……まあ、俺はソロキャンをするためにキャンプ用品を買いに来たんだからいいけど。

 ってか、なんで異世界にキャンプ用品店があるんだって? キャンプが好きな転生者リンカーネーターとか転移者トラベラーとかが運営しているんじゃない? 転移者トラベラーは老害が大量召喚しているみたいだし、あの手記には転生者リンカーネーターって単語も記されていたから、転生者リンカーネーターが存在するのは間違いない。


「いらっしゃい、ようこそソロキャン亭へ」


 店に入ると黒髪短髪の青年が出迎えてくれた。……これは、転移者トラベラーの方だな。……勘だけど。


「……あれ、もしかして君って転移者トラベラー? 僕も日本からの転移者トラベラーだよ! 僕は穂高ほたか翔琉かける


「はじめまして、転移者トラベラーの能因草子です。……あの、穂高さん。日本ではキャンプ用品店を経営していたのですか?」


「……期待を裏切るようで悪いけど、キャンプは趣味なんだよね。日本では漫画家をしていたよ。その時のペンネームはKâkêrû……って知らないよね?」


 ……普通に聞いたことあるんですけど! Kâkêrûさんって、キャンプを通した恋愛と青春を描いた『きゃんぴんぐ部』の作者だよ!! アニメ化もされたし、俺も電子版だけど全巻購入したよ!! ……なんで、異世界でそんな凄い人と会っているんだろう? というか、Kâkêrûさんが失踪していたらそこそこのニュースになっていると思うんだけど。


「Kâkêrû先生でしたか! まさか、異世界で会うことになるとは」


「あれ、知っていたんだ。まあ、一応アニメ化までは漕ぎ着けたし、多少なり知っている人が居てくれないとそれはそれで悲しいけど。……ところで君はどんな感じで異世界に召喚されたんだい?」


「俺は高校で昼食を食べながら論文を読んでいたら突然召喚陣が現れてって感じですね」


「こ、高校で論文! 最近の高校生は凄いんだね。……僕は勤めている出版社に原稿を提出しに行ったら、そのまま異世界召喚に巻き込まれて、その時社内に居た全員がこの世界に召喚されてしまってね。僕、直接原稿を手渡ししてその場で確認してもらうタイプなんだけど、まさか原稿を提出するタイミングで社内に居る人全てを召喚するとは流石に思わなかったよ……まあ、予想できる人がいたら、それはそれで怖いけど」


 ……あれ、おかしいな。出版社単位で召喚されたなら、流石にニュースになるよ! というか、遂に出版社召喚来たか! どっかのライノベでは出版社を召喚しようとか言っていた気がするけど、一度も実行されたこと無かったな。……まあ、今回召喚されたのは出版社は出版社でも漫画の方だけどね。


 まあ、なんとなくこの齟齬の意味は分かる。聖と同じパターンだ。……一応Kâkêrûさんにも伝えておこう。


「……あの、多分俺とKâkêrû先生は同じ日本という名前でも全く違う場所から召喚されたんだと思いますよ。出版社が召喚されたという話は聞いたことがありませんし、多分世界線が違う別の日本から来たんだと思います」


「世界線というのはよく分からないけど、まあ言いたいことは凡そ分かったよ。君の知っている僕は、この僕じゃないということだね。……念のために確認したいんだけどアニメ『きゃんぴんぐ部』の最後ってこれからもみんなでキャンプをしていこうって感じの友情エンドじゃなかった?」


 やはり、このKâkêrûさんは俺の知るKâkêrûさんではない。

 俺の知るアニメ『きゃんぴんぐ部』の最後は主人公の転校が決まり、ヒロインと最後のキャンプをしたところで終わった。漫画版はまだ連載中だから転校した主人公がヒロインと再会できるのか、新展開を期待しながら読んでいるけど。


「こちらのアニメ『きゃんぴんぐ部』は転校が決まった主人公とヒロインが最後のキャンプをしたところで終わりました」


「……なるほど、そっちの僕は離れ離れエンドを選んだんだね。……ところで、能因君。君はあっちの世界の僕が描いた『きゃんぴんぐ部』って持っているかい?」


「……一応ありますけど」


「もし良ければ読ませてもらえないかな。もう一人の僕がどんな『きゃんぴんぐ部』を描いたのか見てみたいんだ」


 Kâkêrûさんにスマホを渡し、読んでもらっている間に俺は店のキャンプ用品を見て回る。

 ……キャンプに必要なものってなんだっけ? テント、テーブル、チェア、シュラフ、バーベキューグリル、バーナー、ランタン、ダッチオーブン、着火剤……こんな感じだろうか? お洒落なウッドキャンドルとかは手製で作ればいいし。……結構高いけど仕方ないか。金貨六枚。


「おっ、決めたかい? それだと金貨六枚だな、確かに頂いたよ。あっ、スマホありがとう。楽しく読ませてもらった。同じ僕の作品の筈なのに新鮮だった。……こっちではもう漫画は描かないと思っていたんだけど、また描いてみてもいいかもしれないな」


「Kâkêrûさんは異世界でも漫画を描き続けるつもりは無かったんですか?」


「こんな危険な世界で漫画は売れないからね。こういうキャンプ用品を売っていた方が稼ぎがいいんだ。特に冒険者には長期の依頼で町から離れないといけない時もあるだろう? そういう時に、こういうキャンプ用品があると便利だ。この町には冒険者ギルドもあるし、そこそこ稼がせてもらっているよ。でも、またいつか漫画を描きたいな。……まあ、僕には漫画を楽しく読めるほど平和な世界を作る力は無いし、きっと誰かが世界を変えてくれるって信じることしかできないけどね。……僕はいつも他力本願だ」


 俺には世界を変えるなんて大それたことはできない。そんな力はない。

 いつか、Kâkêrûさんが日本に居た時みたいに漫画が描ける――そんな平和な世界に誰かがしてくれたらな、と思いながらKâkêrûさんにお礼を言って店を後にした。


 そういえば、ソロキャン亭はソロキャン推奨ということではなく、元キャンプ漫画家のKâkêrûさんが異世界でソロプレイしているぜ! って意味だったらしい。まあ、『きゃんぴんぐ部』の作者がソロキャン推奨していたら、お前の漫画はなんなんだ! って言いたくなるけど。



 ソロキャン亭を出て少し歩く。……あっ、噂をすれば勇者様達だ。Kâkêrûさんが異世界で漫画を描けるように頑張ってもらわないとね。

 聖を除いて両手にいくつか袋を抱えている。……結構買ったな、人の金で。というか、リーファまで買ったのか! まあ、好きに使いなさいって俺が渡したんだけど。流石に少しは自重するでしょう? 


『宿で分かれた時は相当目つき悪かったけど、今は少しマシになっているわね。というか、少し嬉しそうね。何かあったの?』


「気に入っている漫画の作者さんに会ってね。先生が漫画を描ける世界にするためにも、白崎さんとか辺りのチートな方達に頑張ってもらわないといけないなって改めて思った。ということで、ガムバレ」


「あの、草子君? なんで他人事なんですか? 草子君がこの中では一番、断トツで、チートですよ!!」


 俺がチート? そんな訳がない。俺はただ魔獣の肉を食べてバグっただけだ。


「さて、とっとと行くぞ。目的地はエルフの里。そこでお前ら全員を置いて俺は一人旅に出る。そのためにキャンプ用品も買い揃えた(ドヤ!)」


「なんで、ドヤ顔なの! というか、私達が着替えを買っている間にキャンプ用品買っていたの! というか、異世界に普通にキャンプ用品って売っているものなの!! ……そうだ! 私達が買った服の代金、返せていないよ。だから、返金までは一緒に居られるよね? 一緒に旅をしてもいいよね?」


「あっ、あれはあげたものなので返金とか結構です。それから、リーファさん。借金の返済をお願いします。約束通り利子もつけておきました」


 絶望に暮れるリーファと白崎、その他大勢を置いてアルルの町を出る。聖達も慌ててその後を追う。


 うん、これで金銭問題も解決したし、エルフの里で後腐れなく別れられる。ソロキャンの用意も整えたし、完璧だ。後はエルフの里に向かうだけ……ここから二百五十六分か。ん? 二百五十六分? もしかして、クルミ荘の次の宿ってエルフの里にあったの!! うん、そうだね。ちゃんと【全マップ探査】で表示した地図は隅々まで読まないといけないな。――今度からは気をつけよう。

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