文学少年(変態さん)は世界最恐!? 〜明らかにハズレの【書誌学】、【異食】、にーとと意味不明な【魔術文化学概論】を押し付けられて異世界召喚された筈なのに気づいたら厄災扱いされていました〜
ゴブリンに狙われている“天使様”一行を助けたら仲間になりたそうにこちらを見ている。勿論お断り一択だよね! これ以上仲間が増えるのは御免被る!!
ゴブリンに狙われている“天使様”一行を助けたら仲間になりたそうにこちらを見ている。勿論お断り一択だよね! これ以上仲間が増えるのは御免被る!!
異世界生活??日目 場所フィージャ草原
「Bonjour.Comment ça va?」
とりあえず、フランス語で「こんにちは、お元気ですか?」って聞いたらジト目を向けられた。もしかして、フランク過ぎたのかな? 初対面だからもっと丁寧に言った方が良かったのかもしれない。
……まあ、本当は初対面じゃないけどね。だけど、 俺は別段会話した記憶も無いし、関わりを持っていないのなら同じ教室に居ても初対面だ。
というか、誰だっけ? 高嶺の花な“天使様”とクラス副委員長の女子二人だったのは覚えているんだけど、クラス副委員長二人はそもそも名前覚えていないし、“天使様”も顔を見てようやく思い出したところだ。……流石に心証が悪くなるのは避けたいので必死に名前を思い出す。……白、なんだったっけ。
「えっと、お久しぶりです、白石さん……違うな、白戸さん? 白峰さん? 白河さん? 白藤さん? 藤崎さん? 藤浪さん? 浪川さん? ……すみません、どなたでしたっけ?」
「まさか、草子君。私の名前忘れちゃったの?」
「いかんせん、どうでもいいことは忘れる体質でして。ほら、えっと……“天使様”って高嶺の花じゃないですか。高嶺の花だから、住む世界が違う。住む世界が違うから関わりを持たない。関わりを持たないなら覚える必要も無い……という感じですね。……自分で言っててなんだけど、マジカルバナナみたいだな」
脳の容量には限りがある。だからこうして必要最低限のことだけに使うようにしているのだ。浅野ゼミのゼミ生の名前や作家の名前とその所属派閥。古典籍の成立年代や主要な学者とその論文の内容。文学論と書誌に関する知識。思想や関連する歴史、その他文学知識や文学などこういう必要なことを覚えるのに一杯一杯でそれ以上のことは覚えられないように脳の構造がなってしまっているし、正直覚える意味を見出せない。
「いや、関わったことがある筈だわ。話し掛けたことあるし」
「たった一、二回話したくらいで話した内に入りませんよ。ぼっちだから特に名前を覚えなくても高校生活に支障は出ませんし。委員長、副委員長、オタ、オタ(特殊)、自称インテリ(笑)、不良、ビッチ、腐女子、脳筋、その他大勢なモブ、これだけ覚えてさえいれば問題ナッシング! 特に試験に出る訳でもないし! ――異論は認めん!!」
「いや、それ異論を認めてもらわないと困るわよ! ……それでよく高校生活できているわよね」
「俺にとっての居場所は大学の浅野ゼミだからね。浅野天福教授、四年の
ふう、とりあえず一人も漏らさず言えたな。これで浅野ゼミの先輩方に顔向けができる。
“天使様”達はげんなりしていた。……ありのままの事実を正直に伝えただけなのに、なんでそんな表情をされないといけないんだろう? なんでジト目を向けられないといけないんだろう? ……なんで??
「草子君ってそんな風に私達のことを見ていたのね」
「クラス副委員長Aさん。寧ろ、俺に全く関わりが無いのに同じクラスメイトだからって名前を覚えろという方が横暴じゃないですか? どうせ、クラスに俺の名前を覚えている人なんて何人もいないでしょう? 居ても居なくても別段何かが変わる訳では無いんですから。なのに、俺だけはクラス全員の顔と名前を覚えているってどんだけ健気な奴ですか? 俺の中にそんな健気さはコンマ一ミリもありませんし、そんな健気さが俺にあるなら犬にでも喰わせてやりますよ」
「クラス副委員長Aじゃなくて、朝倉涼音よ! ……そうね。確かに、私達は草子君から距離を取っていたのに草子君には私達のことを覚えていてっていうのは酷いわね」
「分かって頂けたのなら、この話は終わりです。そもそも、俺は放っておけばいいと思ったのに、聖さんとリーファさんがうるさいから助けただけですから俺はそろそろ失礼します」
手に持っていたエルダーワンドを布の袋に放り込み、そのまま聖のいる方へと移動しようとする。
「待ってよ! もしかしてこのまま置いていくつもりなの?」
そんなことを“天使様”が言い出した。……って言われてもな。
「あのさぁ、君達はチート持ちな選ばれし者達でしょ? 俺みたいなモブとは違うの。このまま魔王を倒すなり世界を救った英雄になるなりして楽しく暮らせばいいじゃないですか? ほら、“天使様”は【完全掌握】を、クラス副委員長Aさんは
俺は最初から今みたいなチートになった訳ではない。最初はレベル一だった。努力と偶然が重なったから死地から脱することができて、知らぬ間に猛者になっていただけだ。
誰からも引かれ、距離を取られていたモブ中のモブというか最早モブですらない変質者が、いざ強くなったら掌を返したように「助けて下さい」と当然のように言われるのは腹が立つ。「クラスメイトだから当然でしょ」みたいな奴は跡形もなく消したくなる。……〝DIES IRÆ〟で?
俺の力は俺が元の世界に帰るための力だ。それ以外に使うつもりは無い。それは成り行きで“天使様”達を助けた今でも変わらない。多分、一生変わらないだろう。
……流石に言い過ぎたか。三人とも泣き出しそうだ。
聖さんとリーファさんが知ったら怒りそうだな。それはそれで面倒だ。……なんで、あの二人の顔色を窺わないといけないんだろう? ……ナンデ?
「……それでもついてくるというなら仕方ない。その代わり、せめて自分の身は自分で守れ。できないならそこで置いていく、できたならエルフの里までは送り届ける。それからは好きにしろ。俺は俺の旅を――異世界召喚に巻き込まれた哀れなモブが地球に帰るまでの語られぬ物語を完結させに行く」
踵を返し、聖のいる方へと移動する。“天使様”達は無言でその後をついてきた。
……はあ、男一人に対し、女五人か。絶対ハーレムとかチーレムとか言われるよな。
「リア充爆発しろ」とか言われるんだよな。なら、ソイツと立場変わってやるよ。全く、これのどこに嬉しいところがあるんだよ。
自分の身は自分で守れる。だけど、仲間が増えれば俺の力だけでは守れなくなる。
もし、例えそれが名前も顔も知らない相手でも目の前で死んでしまえば、消えてしまえば悲しくなる。喪失感に囚われる。そんなくらいなら、仲間なんて最初から居なければいい。
……だから、仲間なんていらない。こんなカオスな世界を旅するなら
◆
【白崎華代視点】
異世界生活十日目 場所フィージャ草原
異世界で出会った草子君は、変わってしまっていた。……いや、本当は何一つ変わっていないのかもしれない。彼はこれまで溜め込んできたクラスメイトに対する思いを初めて打ち明けただけだ。
その言葉一つ一つに汚泥のような闇がこびりついていただけだ。
草子君にとっての居場所は高校には無かった。私も結局、彼の性質を受け入れられなかった。
そんな彼を浅野教授という大学教授は受け入れた。だから草子君は、敬愛する彼の元に帰るために異世界からの帰還を目指す。異世界にも高校にも無かった、彼の本当の居場所に帰るために。
……道理で草子君は強い訳だ。凄い訳だ。
私を抜いて学年一位になるのも当然、誰にも破れない筈の結界を破ってしまうのも当然――明らかに私達とは見ている世界が違うのだから。気持ちにこれだけの温度差があるのだから。
名前を忘れられていると最初に聞いた時は悲しかったけど、関わりを持とうとしなかった相手のことをわざわざ覚えておく必要は無いと断言されてしまったら、腑に落ちてしまう自分が居た。
私達は恵まれていた。なのに、草子君は残り物を全て押し付けられ、迷宮に飛ばされ、幾度となく死地に追いやられた。今の強さはその死地の経験によるもの。それを私達は上澄みだけ掠めとろうとしている。クラスメイトだから? 距離を置いていたのに? 私達は草子君の何なの? ただクラスが同じだけの赤の他人。
それでも草子君は妥協点を出してくれた。私達が自分の身を自分で守るのならエルフの里というところまでは一緒に行ってくれるらしい。
本当は最後まで一緒にと言いたかったけど、私にそんな権利は無い。……私は一度草子君を見捨ててしまったから。
草子君達の仲間だというエルフの女性が待つ地点に向かった。
その前に草子君が〝シェア・ラングウィッジ〟という魔法を掛けてくれた。これでエルフの女性とも話せるようになるらしい。
合流したところで自己紹介が始まった。草子君は「どうでもいい」と言い残して少し遠くに行ってスマートフォンを操作し始めた。……一番自己紹介をしなければならない相手は草子君だと思うけど。
『あたしは、高野聖。美少女幽霊セイちゃんって呼んでね! 趣味は驚かすことと、爆弾を作ること。地球ではJCだったよ』
「私はリーファ=ティル・ナ・ノーグです。全世界にBL文化を広げるべく旅をしたいと思い、草子さんと旅をしています」
二人ともかなり特殊な人達のようだった。類は友を呼ぶというのか、なんというか……本人達に言ったら怒られそうだけど。
「白崎華代です。草子君と同じクラスの委員長をしています」
『凄い美人さんだ。流石は高嶺の花だね。……草子君はこんな人を見殺しにしようとしていたんだ。まあ、アイツに美しさとか通用しないけど。あたし達まで置いていこうとしてたし』
どうやら、聖さんもリーファさんもエルフの里に置いていかれる予定になっているようだ。
その予定をなんとか覆そうと躍起になっているようだけど、全く成果は上がらなかったらしい。
「朝倉涼音です。クラス副委員長をしています」
「北岡胡桃ですよぉ〜。同じクラス副委員長をしています♪」
とりあえず、一通り自己紹介を終えたところで草子君が戻ってきた。
「やっぱり一応自己紹介をしておいた方がいいかと思ってな。――改めて、能因草子です。ただのモブなので過度な期待とかは謹んで下さい。白崎さん、朝倉さん、北岡さん、聖さん、リーファさん、エルフの里まではよろしくお願いします。……後は知らんので」
「草子君、名前覚えてくれたんだ!」
「エルフの里までだよ。そこで別れたら全員の名前と顔を今度こそ記憶から抹消するつもりだから、安心して」
いや、安心できないんですけど。寧ろ覚えておいて欲しいんだけど。
こうして、私達は草子君達と行動を共にすることになった。エルフの里に着いたら、そこからは別行動になってしまう。
私は草子君に助けられた。その恩はエルフの里に着くまでには返せないと思う。だから、私は草子君がエルフの里に着いても「着いて来ていい」と言ってくれるようにしたい。その気持ちに差異はあれど基本的に聖さん達も一緒だ。
次の目的地らしいアルルの町を目指して出発する。先頭を歩く草子君は片手でスマホを読みながらという余裕っぷりだ。
『ねえ、何を読んでいるの?』
「佐藤春夫の『女誡扇綺譚』、戦時中の台湾を舞台にした怪奇小説擬きだよ。近代文学の教授に勉強になるからと勧められて読んでいる途中だけど、あんまり好きな内容じゃないな。台湾を新天地として捉え、植民地支配や身分制度に無関心を装って都合のいい理想を押し付けた「私」……勝手な理想を押し付けられ、最終的に死に追いやられた少女。……読んでいるだけで陰鬱になってくる。……よし、思い切って別の本に変えるか」
うん、聞いたこともない本の題名だった。なるほど、本について知識を持っている理由の一つは教授から薦められるからなのかもしれない。……いや、本が好きだから浅野教授からゼミに誘われたんだから……これって鶏が先か、卵が先か的ジレンマじゃない?
草子君はエルダーワンドを伸ばしたり、適当に魔法を放ったりしながら進んでいく。……その適当が物凄い。……というか、なんで普通に魔法を使えるのだろう。その辺りも後で聞いてみよう。
そうしているうちにアルルの町に辿り着いた。
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