【白崎華代視点】委員長の異世界生活。……三人の乙女達は草原を生き抜く。

 異世界生活十日目 場所???草原


 扉を潜って異世界に来てから十日。こちらでの生活にも少しずつ慣れてきたような気がする。


 食事には草原で取れる地球にも似たようなものがあった草花の中で食べられそうなものを選んで食べた。近くの小川で魚を捕まえて食べたこともある。

 肉には未だに手をつけていない。魔獣を倒せば肉を食べられるけど、生で食べるのにはどうにも抵抗があった。

 後々、魔獣の肉には猛毒があって食べられないと知ったとき、「ああ、あの時食べなくてよかった」と何度安堵したことか。……本当に食べなくて良かった。野生児化したら私達三人仲良く死んでたね。


 すぐ近くには森があったけど、出てきた魔獣は物凄く強そうなのばかりだったので、諦めた。森に行けばもう少し食べられそうなものが見つかるかもしれないけど、そこまで危険を冒してまで食生活を変えなければならないほど、今の食生活も悪くは無いと思う。


 初日の時点でステータスを確認できることは分かっていた。最近の日課はステータスを確認して何がどれだけできるようになったかを知ることになっている。

 出現する魔獣がどれくらいの強さなのか分からないから、相対的にどれくらい強くなったのかは分からない。だけど、確実に強くなったことをステータスは実感させてくれる。


 ステータスが上がれば上がるほど、この世界での生存率が高まることを示している。

 強くなればここを出ることもできるようになる。そうすればバラバラになったクラスをもう一度纏めることだってできる筈だ。この世界に一緒に連れて来られた筈なのに、あの部屋には姿が無かった草子君を探しに行くことだってできる。


 今日も草原の一角に腰を下ろしながら「ステータス」というキーワードを口にしてステータスを確認する。


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NAME:白崎華代 AGE:16歳

LEVEL:8 NEXT:800EXP

HP:160/160

MP:152/152

STR:120

DEX:90

INT:26

CON:69

APP:45

POW:69

LUCK:15


JOB:聖女ラ・ピュセル


TITLE:【戦場に舞い降りた天使】


SKILL

【光魔法】LEVEL:1

【回復魔法】LEVEL:1

【祈祷】LEVEL:1

【自己治癒】LEVEL:1

【魔力操作】LEVEL:2

【魔力付与】LEVEL:1

【魔力治癒】LEVEL:1

【死霊視】LEVEL:1

【魔力制御】LEVEL:2

【完全掌握】LEVEL:1


ITEM

・聖杖アスクレピオス

・聖女のトゥニカ

・聖女のウィンプル

・聖女のロザリオ

・学生服

・ボストンバッグ


NOTICE

・通知一件

→未使用のポイントが後200あります。

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 レベルは八まで上がった。だけど、スキルについてはほとんど変化がない。……まあ、当たり前といえば当たり前か。魔法が全く使えないのだから。

 詠唱が無ければ魔法が使えないのを知ったのは、異世界に来た一日目だった。ステータスは簡単に開けたのに、魔法は全く使えない。

 【魔力操作】と【魔力制御】についても試してみたけど、なかなか上手くいかない。魔力に形を与えて具現化させるのは難しいようだ。……つまり、今の私は朝倉さんと北岡さんの力が無ければ生きて行くことすらできない――ただのお荷物。戦闘のほとんどを引き受けてくれる二人のレベルはもっと上がっている筈だ。


 二人にお荷物になっていることを謝ったら「気にしないで下さい」と返されてしまった。きっと、二人に迷惑を掛けているのはこの世界では無いんだと思う。地球でも二人の支えがあったから委員長としてクラスを纏めることができたんだと実感する。


 今日は三人でまだ探索していない方に行くことになった。そろそろ二人はこの辺りでレベルアップするのが難しくなってきたらしい。

 私にも特に異議は無かった。同じ草原の中なのだからそこまで強い敵は出ないと思っていたから。……多分、それが油断だったんだと思う。

 異世界は地球以上に危険と隣り合わせな世界だ。選択を間違えば簡単に命を奪われる。それなのに、私はこの移動を軽んじていた。


 そして、私達の油断は最悪の結果を生む。



 草原の北北東方面で、私達はソイツらに追われていた。

 大きさこそは小学生ほどだけど、下卑た笑みで顔を歪ませた棍棒を持った全身緑の生物。明らかに人間では無いソイツらは棍棒を持って私達を追ってくる。


 まさしく鬼ごっこ。しかし、捕まった場合に与えられるものは人間としての尊厳を踏み躙られる、考えただけでも恐ろしい行為だ。

 下卑た表情の裏にあるのは、私達の身体を弄び、心を壊すことへの喜び。そして自身の欲求を満たして快楽を得たいという獣の本能。


 私達は本能的にソイツらに捕まったら終わりだと感じ取り、真っ先に逃げた。

 それからずっと逃げ続けているが一向に向こうのペースが落ちる兆候は出ない。


 私達とソイツら――先に根を上げたのは私達だった。体力の限界が近づき、息が上がって呼吸が乱れ、足元が覚束なくなって足が縺れる。

 ついに、私は転けてしまった。私が転けたことに気づいた朝倉さんと北岡さんが私の方へと戻ろうとする。が、ソイツらは私達のすぐ側まで来ていた。


「私のことは見捨てて、朝倉さんと北岡さんは逃げて!」


「華代、そんなことできる訳ないじゃない。華代を見捨てる逃げるなんて絶対にしないわ」


「私もぉ朝倉さんと同じよぉ。白崎さんを見捨てるくらいならここで戦う! ――大丈夫、私達は強いわぁ」


 朝倉さんは天羽々斬アメノハバキリを、北岡さんはミスリルナイフを構えて戦闘態勢を整える。

 確かに二人は私よりも遥かに強い。だけど、敵は十体を優に超える。……そして、何より朝倉さんと北岡さんは恐怖に囚われていた。天羽々斬アメノハバキリを構える両手が、ミスリルナイフを構える右手が震えている。


 果たしてこの状況で何体のソイツらを道連れにすることができるのか? まあ、どちらにしろここで私達の人生は終わってしまう。

 ……ああ、短い人生だった。心残りを残したまま死ぬのは嫌だな。せめて、壊れたクラスを一つに戻したかった。結局見捨ててしまった柴田さん達に謝りたかった。


 ッ! こんなところで死にたくないよ!! もっと生きたいよ!! やりたいことだって沢山あったのに、こんなところで、何も為さないまま死にたくない!!


 ソイツらはニヤニヤと下卑た笑みを浮かべたまま迫ってくる。――そして。


 ソイツらの一体が突然崩れ落ちた。



「……はあ、なんだゴブリンかよ。居るなら居るって言ってくれれば良かったのに。俺とお前らの仲だろ? よく一緒にボコしボコされやってたじゃないか。……まあ、俺が一方的に撲殺ボコしてお前らが一方的に撲殺ボコされていただけだけど」


 黒いローブに身を包んだ彼は、溜息を吐く。

 纏う気配は違うけど、目つきの悪さと声音は私の知る彼と全く同じだった。


 彼は――草子君は生きていたんだ。


「って、ゴブリンだけじゃないのか。ゴブリンジェネラルも居るのか。道理で統率が取れている訳だよ。……聖さん、お待ちかねの火遊びタイムだ。――思う存分楽しんできていいぞ!」


『うん、楽しんでくるよ! 草子君に抑圧されてた分だけ』


「常識的に考えて迷宮で爆弾使うのは非常識だから」


 草子君の影から飛び出した女子中学生(ただし透けている)は、そんなやり取りを草子君と繰り広げると、私達が逃げてきた方に飛んでいってしまった。

 そして、数秒後ドッカーンという大音量と共に爆煙が上がる。さっきの話の流れから考えて、あの女の子がしたのだろう。


「よし、五月蠅い奴も消えたし、もう一人の変態は置いてきたし、久々に一人だ。よし、俺も楽しく、盛大に、思う存分、暴れますかッ!」


 と、言い終えた瞬間には草子君の姿はその場から消えていた。

 そして、ゴブリンと呼ばれた魔獣達が空中に舞い上がる。


concasserコンカッセ


 空中に巻き上げられたゴブリン達が全て切り刻まれた。

 草子君の手に剣は握られていなかった。握られていたのは木の杖……まさか、杖で名刀並みの斬撃を披露したの!


 だけど、ゴブリン達はこれで全てじゃなかった。新たに五体ほどのゴブリンが草むらから飛び出してくる。


「隠れていると思ったよ。――ecraseエクラゼ


 今度はゴブリン達の身体が押しつぶされた。あれ、剣を使っていたんじゃないの! 一体どれだけ武器を持っているのよ!!


 だけど、これだけでは終わらなかった。戦闘の音を聞きつけたのかゴブリンでは無い魔獣が集まってくる。普段戦って勝てている魔獣達だが、いかんせん数が多い。


「……なんだか面倒になってきた。このままだと埒があかないし、全部消し飛ばし・・・・・・・た方が早いか・・・・・・。〝雷霆よ、獰猛な龍へと姿を変え、思う存分暴れ回れ〟――〝エレクトリカル・ドラグーン〟」


 草子君が手を突き出すのと同時に、その手から雷の龍が現れ、戦場を蹂躙し始める。

 魔獣達はただ雷龍に触れるだけで黒焦げになって死ぬ。抗う術はない。逃げようにも逃げられない。ただ蹂躙されるのを待つしかない――それほどまでの圧倒的な強さをただ息を吸うように見せつけてしまう。


 戦場にいた全ての魔獣が黒焦げの焼死体になった頃、草子君は私達の方に視線を向けた。


「Bonjour.Comment ça va?」


 ……いや、私達が日本人だって知っている筈なのに、なんでフランス語? 私達、フランス語分からないよ!

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