「クラスメイトAなモブが一人異世界から消失したところでストーリーには何一つ支障は無いから帰還方法を探す」と言ったらJC幽霊と美女エルフにジト目を向けられた……ナンデ?

 異世界生活??日目 場所ウィルヴァルドの森


「――と、まあ私の知る世界情勢はこんな感じですね」


 リーファさんの話を要約すると、リーファさんはエルフの住む集落――エルフの里の出身で、エルフ領のある自由諸侯同盟ヴルヴォタットとは交流を持っているらしい。

 自由諸侯同盟ヴルヴォタットは元々はクライヴァルト王国という国家の一部で、そのクライヴァルト王国はマハーシュバラ超帝国と肩を並べるほどの巨大な土地を有する国家だったものの、圧政を敷き続けたことが領民や領主の怒りを買い、王族は皆殺しにされたらしい。

 そのクライヴァルト王国の革命の際に諸侯達が同盟を結んで設立した同盟国家が自由諸侯同盟ヴルヴォタット。一方、クライヴァルト王国の大部分は革命後アルドヴァンデ共和国と名前を変えた。現在は形だけは共和制をとっているものの、実質は独裁国家らしい。

 ……この辺りは老害のメモと一致するな。


 自由諸侯同盟ヴルヴォタットの代表は、革命に賛同した貴族による会議ということになっているらしい。貴族には大公、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の六等爵になっているが、それは発言力の強さを示す以外には特に意味を有さず、爵位そもそもは形骸化しているようだ。

 ……まあ、貴族とか絶対に縁が無いだろうから覚えておく必要も無いか。貴族と関係があるのは勇者様のような選ばれし者か、悪役令嬢に転生した転生者くらいだ。【礼儀作法】のスキルはあるけど、これを使う機会は多分無いだろう。……これ、フラグじゃないからね! 貴族とかと会っても絶対面倒ごとしか起こらない気がする。


 ミンティス教国、超帝国マハーシュバラ、ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、ヴァパリア黎明結社についてはよく分からなかった。

 旧クライヴァルト王国関連じゃない話は、超古代文明マルドゥーク関連が一つ。機動要塞エレシュキガルってのが自由諸侯同盟ヴルヴォタットにたまに出現しては破壊の限りを尽くすらしい。機動要塞エレシュキガルが通った後には雑草も生えないそうだ。……うん、異世界テンプレだ。詰め込み過ぎ異世界カオスだからいつか来ると思ったけど、やっぱり期待を裏切らずに来やがったよ。デ●トロイヤーの友達だ!!

 ってか、マルドゥークといいエレシュキガルといい、メソポタミア推しかよ。クトゥルフ推しなのかメソポタミア推しなのか、ハッキリしろよ!


「ところで、草子さんと聖さんはこれからどうする予定ですか?」


 俺が聞きたかった質問を先に尋ねてくれた。聞く手間が省けたよ。


「特に目的地とかは無いな。今は探し物の途中だけど、諸国を回らないと終わらないだろうし」


 この世界の全てを記録した〈全知回路アカシック・レコード〉にアクセスできる超古代文明マルドゥークが開発したコンピュータYGGDRASILLはこの世界のどこにあるか分からない。ヴァパリア黎明結社が血眼になって探しても今まで見つからずにいるのだ。普通では見つからない場所にあるのだろう。

 となると、鍵になるのは超古代文明マルドゥークに関連するもの――今のところ判明しているのは機動要塞エレシュキガル――だろう。


 だが、機動要塞エレシュキガルの他にも超古代文明マルドゥークに関連するものはある筈だ。機動要塞エレシュキガルだけに目的を絞らず、超古代文明マルドゥークに関連するものを調べられるだけ調べる――それが今でき得る最善であることは間違いない。


「ところで、リーファさんの方はこの後どのよする予定ですか?」


「とりあえず、ここで手に入れられるものを収穫してからエルフの里に帰還したいですね。その後なんですが……あの、草子さんと聖さんと一緒に旅をさせて頂けないでしょうか?」


「……………………は?」


 今、なんて言った? この腐女エルフ。一緒について来るだと? なんでそうな展開になるんだよ!!


「実は私、BLを広める旅に出たいと思っていたんですが……見ての通りそこまで強くないのです。ですが、この森でも相当強いジャイアント・ヒールパンダとジャイアント・ヒールレッサーを息をするように倒した草子さんが居れば危険なんて関係無くなります。聖さんも多分強いと思いますし、お二人と旅をできればと思っているのですが……ダメでしょうか?」


『旅の仲間は多い方がいいと思うから、リーファさんも連れて行こうよ! 絶対楽しくなるよ!!』


 いや、楽しいどころか辛いんですけど。美少女と美女を連れているから男どもからやっかみを受けるだろうし、二人は可愛かったり美しくても中身が変態だから一緒に居ると疲れる。俺にまで変態が移ったらどうするんだ! ……えっ、お前は元々変態だって? 変態の上にサイコパスまで乗っかって、やべえ奴に成り果ててるって? いや、そんな訳……。


「とりあえず、エルフの里までは一緒に行きましょう。そこまで行ってからお二人の処遇を検討します」


「……私に対する扱い酷くないですか! 自分で言うのもなんですが、普通こんな美人と一緒に冒険できる機会は無いと思いますよ!! 検討する余地などどこにもありません」


『ねえ、酷いよ。あたしと草子君の仲じゃない。……あたし、捨てられちゃうよ。あたし丸裸にされて、散々いいようにされた挙句捨てられちゃうよ』


 いや、美人でも中身が残念なら御免被るし、聖とはそんな関係になった覚えはない。寧ろ俺の方がいいようにされている気がするんだけど! 丸裸って、物理的じゃなくて、情報的にだから、そんなイヤラシイ意味はほんの一ミリも無い筈だ。

 ……これ、本格的に異世界にお巡りさんを召喚しないといけないかもしれないな。まあ、したところで俺が留置所に放り込まれるだけだと思うけど。


「何をどれだけ言われたって変わらない。精神をすり減らしてまでこの混沌とした世界を旅したくは無いからな。……俺はクラス召喚に巻き込まれたその他大勢だ。モブの一人でしかない。ただ理不尽で異世界に召喚され、日の目を見ないまま迷宮で死ぬ筈だった。名前すら出ないクラスメイトAとして物語から退場する筈だった。それがたまたまなんの因果か生き残っただけだ。――モブが一人異世界から消えたところで誰も何も思わない。俺にはそれだけの価値しかないのに、俺は理不尽にこのカオスな世界に囚われている。だから、元の世界への帰還方法を探す。俺の旅にクラスメイトAが異世界から退場する以外の意味はない。……きっと、どこかに俺みたいな奴じゃない、本物の英雄がいる筈だ。ソイツを頼った方が俺もお前達も幸せな人生を送れる筈だ」


 俺は主人公なんかになれる器じゃない。俺のクラスには誰だったか忘れたけど俺よりも主人公に相応しい奴が沢山いた筈だ。異世界の冒険や勇者としての活躍はソイツらの方がよっぽど向いている。キャスティングもこんな目つき悪い奴よりも美男美女や共感できる冴えないオタクとかの方がいい筈だ。俺みたいに共感の欠片も湧かない変態を主人公に据えるのは明らかにキャスティングミスだ。もし、そんな話があるのなら真っ先にソイツの頭を疑う。オマエハ莫迦カ? と。

 俺に与えられたのはモブの役割。生きるも死ぬも物語にさほど影響を与えない、その死が主人公達の覚醒の着火剤になれば御の字な、それだけの立場。

 たったそれだけのために、俺は浅野教授や浅野ゼミのゼミ生達との大切な未来を奪われた。だから、取り返す。モブが一人異世界から消えるために、俺は異世界から帰る方法を探す。……やっていることは勇者達よりhardな気がするけど、モブがするようなことじゃない気がするけど、気にした方が負けだから、気にするだけ無駄だ。


 聖とリーファが同時にジト目を向けてきた。……なんで、俺が責められるの? ただ俺が置かれている立場を正確に口にしただけだよ! どこにも責められる謂れは無いじゃん!!


『……まあ、草子君は賢いし冴えているけど、こういう時は鈍感だから言うだけ無駄だよ』


「そうみたいですね。……これは、かなり重症みたいです」


 なんで哀れみの視線を向けられているんだろう? あえて自分を下げて周囲を目立たせる太宰治みたいな技法を使いたくてやってる訳でもないのに。俺の順当な客観的評価を述べているだけなのに……なんか、俺間違ったこと言った?



 とりあえず、ウィルヴァルドの森に来た目的らしい、タケノコ掘りと薬草摘みを手伝った。

 タケノコ掘りだから、鍬が必要だと思ったけど、鍬は迷宮でサイクロプスの攻撃を受けた時にお亡くなりになってた! どうやって収穫するんだろうと思っていたら、リーファが地面に手をかざして【風魔法】を使用――丁寧に地面を掘り始めた。……異世界のタケノコ掘りってそうやってするんだ。


 真似して俺も地面に手をかざす。そのまま【魔術学最終研究(土)】を使用してタケノコの周りだけ地面を陥没させることに成功――風で掘るよりも簡単に抜けた。そんなことしてたらリーファに睨まれた。……いや、こっちの方が絶対簡単じゃん。

 流石に全部採ると次が生えてこなくなる。適当に採ったら薬草摘みのために森に移動。こっちはタケノコ掘りより簡単だ。

 聖も参加して三人で薬草摘み摘み……聖は幽霊なのにごく普通に物質に触れている。幽体離脱した幽霊には質量があるのかもしれない……うん、わけがわからないよ。

 一々異世界の法則に突っ込んでいたって仕方がない。何せ、カオスという名前からしてまともじゃないだろう。まともを求めるだけ無駄だ。


 そのまま三人で森の出口に向かう。その途中で何体か魔獣に遭遇したけど、特に目ぼしいスキルは無かったので殺して放置した。

 流石にステータスはもう成長しないだろう。食糧にする肉なら袋の中に沢山残っているので、ここで補給する必要は無い。


 森を出た。今回は流石に迷いたくないからすぐさま【全マップ探査】を発動。

 どうやらここは、フィージャ草原というフィールドマップ的なところのようだ。近くにはアルルという町がある。アルフォンス・ドーデの短編小説か、それを基にした戯曲の舞台……じゃ流石にないよね。あれはフランス南部にあるコミューン――行政都市だし。

 それから、三つ人間の反応を確認。魔獣に囲まれているな。……一応報告しておこう。


「ここから北北東に少し進んだところで、三人くらい人の反応を見つけた。周囲には魔獣の反応もあるみたい。で、南南東の方にアルルの町ってのがあるんだけど、とりあえずそこで一休みして、エルフの里への旅を再開するってことでオーケー?」


「全然良くないですよ! なんで襲われているのに見捨てるんですか!!」


 いや、だって面倒くさいじゃん。そういうのを助けるのは勇者とか英雄とかそういう主人公な人達のお仕事。善良な一般モブな俺には関係ない。


「きっと誰か助けると思うけど……通り掛かった親切な勇者様とか。それで恋に落ちるとかそういう感じなんじゃない? そういうロマンチックな展開を奪うのって良くないと思うんだけど」


『ねえ、草子君。その勇者様の反応って【全マップ探査】で見つかった?』


 ……うん、居なかったね。でもきっと誰か助けてくれると思う。でも、どう考えても俺の仕事じゃないし、絶対に厄介ごとだし。こういう展開って、ヒロインが増えるパターンじゃん。で、今までの流れから察するにそいつも美人だけど中身が、とかそういう感じじゃん。一銭の価値もないし、寧ろ大損してるよ!


『……このままだと、その人達大変なことになっちゃうよ! 死んでしまったら遅いんだから! せめて助けるだけでも』


 一度死を体験しているだけあって聖の言葉は重い。まあ、その死の原因は百パーセントコイツにあるけど。

 ちっ、しゃあねえな。助けるだけだ、助けるだけ。救ったら南南東に移動する。アルルの町を経由してエルフの里に行く。で、二人を置いて旅を再開する。よし、これで文句無いだろう!


「本当に助けるだけだからな。助けたらアルルの村に行くぞ!」


 ああ、なんでこうも面倒ごとを増やすんだよ。運命の神様があの老害なら、次こそは打ち首だな。……クビヲハネヨ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る