33.君のギターとぼくの歌

≪いな穂:みんなーぁ! ありがとーーぉぉお!

 わたしは歌うことが大好きでした!

 けど、歌い過ぎて、のどを潰して、それを揶揄われて!

 こんなガラガラの声じゃ、もう歌えないんだって思ってた!

 誰も聴いてくれないんだって思ってた!

 でも、知大が希望をくれた!

 でも昂宗君が勇気をくれた!

 いろんな人たちから! たくさん、たくさん、たぁぁぁぁくさん貰ったの!

 だからこうしてみんなに歌を聴いてもらえるの!

 知大、ありがとう! わたしを救ってくれて!

 昂宗君、ありがと! わたしを見つけてくれて!

 みんな、ありがとう! わたしたちの歌を聴いてくれて!

 全部ぜんぶ、ぜぇぇぇぇぇんぶ!! ありがとう!!

 昂宗君! いこう!≫


 いな穂がカウントを取る。

 どの曲を弾くか。

 どの曲を歌うか。

 どう自分を表現するか。

 どう魂を叫ぶか。

 そんなの、確認するまでも無かった。

 昂宗は、新鮮で、懐かしい、そんなフレーズをつま弾き始めた。


 あの日、講義室の前で聴いたいな穂の歌は、気分がよくなったいな穂が即興で作ったものだったらしい。その時に何を歌っていたのか、昂宗は歌声に感動しすぎて覚えていなかった。いな穂に至っては、歌詞どころかメロディーすら忘れてしまったようだった。

 しかし、昂宗はその歌を聴いた直後にまたギターを手に取り、ギター伴奏を作っていた。だからメロディーだけははっきりと覚えていた。

『君のギターと僕の歌』

 この曲は、あの日のいな穂のメロディーに、の昂宗が歌詞を加えたものだ。昂宗といな穂で作った初めての作品なのだ。


『あの日出会った 君の笑顔に

 しかめっ面は 照れ隠しだった


 君の歌 聴かせて

 恥ずかしくなんてないから

 君の歌 聴かせて

 必ず届くから


 君の気持ちを 理解できずに

 独りよがりを 押し付けていた


 ぼくの音を聴いて

 怖いないから身を委ねて

 ぼくの音を聴いて

 このギターが尽きるまで


 ずっと君のそばにいるから

 ギュッと君の手を握るよ

 どんな困難も

 乗り越えてゆこう

 ふたりで


 やっとわかった ほんとの気持ち

 君と一緒に 歌いたいんだ


 ぼくの歌 聴かせて

 魂に響かせて

 君の音を聴いて

 最後にあと少しだけ』


 曲が終わった。観客すらまだ余韻に浸っていたほんの一瞬の間に、昂宗はバタンとひっくり返った。

 それに気が付いたいな穂は、すぐさま昂宗の頭を抱き上げた。なぜかいな穂は目にたくさんの涙を浮かべている。

 死ぬわけでもあるまいし。昂宗は冷静にそんなことを思った。

 なんだかデジャヴだな。そうも思った。

 視界が失われていく。


「ありがとう」


 大粒の涙の雨を降らせるいな穂にそう言ったところで、昂宗の意識はプツンと途切れた。

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