第174.5話 令和元年10月27日(日)「文化祭の思い出3」日々木華菜
昨日は妹のヒナの中学の文化祭だった。
この中学を卒業して半年ほどが過ぎ、わたしは久しぶりに校内に足を踏み入れた。
まだ懐かしいという思いが湧くには早過ぎる。
最初は友だちでこの学校の卒業生でもあるゆえと、中学時代の仲間を誘って行こうと話していた。
だが、他の面々にとって文化祭は合唱ばかりだったイメージが強く、わざわざ休日を潰す気にならないという返事が多かった。
一方、高校のクラスメイトのアケミとハツミが興味を示したので、彼女たちを誘って案内することにした。
ふたりにとって、わたしの自慢の妹はまた見てみたいというインパクトのある存在だったようで、わたしとしても嬉しい限りだ。
中学の文化祭では食べ物を扱うことはできないそうで、お昼少し前にうちで食事をしてもらってから出掛けることにした。
朝からヒナと純ちゃん、可恋ちゃんのお弁当を作ったので、その残りにいくつか手を加えて見映えを整えただけだが、みんな喜んでくれた。
「家のお手伝いで食事の準備をしなきゃいけないんだけど、どうしても面倒になって冷凍食品やお惣菜に頼ってしまうの。良くないとは思っているんだけど……」と嘆くアケミに、「アケミも妹のために作るんでしょ? だったら好きなものだけでも作れるようになると楽しくなるよ」とわたしは励ました。
「アケミはカナほどのシスコンじゃないから」とゆえは笑う。
アケミは苦笑していたが、わたしがレシピを教えるよと言うと興味を持ってくれたようだ。
ヒナたちのファッションショーの開演より少し前の時間に行ったのに、講堂は結構混んでいた。
ヒナは金曜日の夕方に小雨になってから帰って来て、満面の笑みで「凄い大盛況だったよ」と話した。
そのせいか、生徒や父兄がすでにたくさん詰めかけていた。
四人でまとまって座れる場所を探していたら、『カナ!』と大声で呼ばれた。
声の主を探すまでもなく、立ち上がっていたキャシーはとても目立つ。
180 cmを越える大柄な黒人の女の子は存在感抜群だ。
彼女はひとりではなく、数人の女子と一緒にいた。
彼女の周囲の席はなぜか空いていたので、わたしたちはそこに向かった。
わたしではキャシーとの会話は難しいので、ゆえやハツミに任せておく。
キャシーと一緒にいたのは日本人がふたりと外国人がふたりで、日本人のふたりは
ふたりとも一目でアスリートだと分かる体型をしていて、ともに中学1年生だと話した。
神瀬さんは可恋ちゃんの友だちで、和泉さんは純ちゃんの友だちだという。
キャシーとも面識があり、英語も少し話せるそうで、わたしだけ取り残されたような気持ちになった。
外国人のふたりはわたしよりも小柄で、幼く見えた。
ふたりともカタコトの日本語を話し、カトリーヌと名乗った黒人の子はフランス国籍だと教えてくれた。
もうひとりは「リナよ」と名乗っただけでそれ以上口を開かない白人の女の子で、金髪が素敵だった。
彼女はヒナに負けないような美人になるかも……とわたしは心の中で思ってしまった。
いまはまだ幼さが残るので全体のバランスは良くない。
少し前のヒナと同じように線が細いのでちゃんと食べているのか心配になる。
ふたりはキャシーと同じインターナショナルスクールに通っていて、キャシーよりも歳下だそうだ。
キャシーは相変わらずマイペースで、ゆえたちとの会話を楽しんでいる。
このふたりはキャシーと離れていても心配そうな素振りもなく、思い思いに関心のある方向へ目を向けていた。
ちなみにキャシーの周囲の席が空いていたのは、彼女が誰彼構わず英語で話し掛けるからだそうだ。
運動会も見学に来た
わたしも長時間キャシーとふたりっきりでいろと言われたら逃げ出すだろう。
そうこうするうちにファッションショーが始まった。
可愛らしい衣装を着たヒナが舞台に出て来た。
それだけで観客席から歓声が上がる。
これだけの美少女だもの、当然だ。
ヒナのMCに続いて、可恋ちゃんが出て来てヒナをエスコートしてランウェイを歩く。
わたしたちはランウェイの間近の席なので数メートル先のふたりの姿がよく見えた。
ヒナの楽しそうな笑顔が見れてわたしは幸せだった。
なお、ランウェイの下では数名の男子生徒が警備のためにしゃがんでいた。
まあキャシーが飛び入りしようとしたら可恋ちゃんでもないと止められそうにないけどね。
女の子たちが出て来るたびに歓声やどよめきが聞こえた。
可愛い子が多いというのもあるが、それ以上に衣装が素敵だった。
テーマは中学生らしいデート衣装だと聞いているが、実際に着てみたいと思うものが少なくない。
モデルの子たちも歳下に見えないほど堂々としていて格好良く見えた。
可恋ちゃんが鍛え上げた成果なんだろう。
170 cmを越え、筋肉が盛り上がっている純ちゃんを可愛く見せるあたりはヒナの真骨頂だと言えた。
少年姿のヒナに悶え死にそうになったあとは、ダンス部のパフォーマンスだった。
舞台から張り出したランウェイで踊るのでとても迫力がある。
みんなが口々に「凄いね」と感嘆する。
キャシーは英語で何か叫んでいたが、英語が分からなくても自分も出たいと言っていることは分かった。
後半は漆黒のドレス姿の可恋ちゃんからスタートした。
存在感というか、威圧感というかが半端なく伝わって来る。
まるで女帝だ。
今更ながら、彼女が歳下だとは信じられなかった。
後半の衣装はバラエティに富んでいた。
飽きさせない工夫なのか、魔女ありゴスロリありと次はどんな姿なのかとワクワクする。
その合間に正統派のエレガントな衣装が混ざり、時に溜息が出るほど美しかった。
校長先生が登場するハプニングもあり、最後はハロウィーン仕様の姿になった男子も加わってクラス全員によるカーテンコールがあった。
あっという間に感じるファッションショーだった。
会場に残って興奮してお喋りしていると、ヒナと可恋ちゃんが顔を見せに来てくれた。
他にも知り合いが来ていたようで、ふたりは個別に対応していた。
可恋ちゃんは「キャシーの側でご迷惑をお掛けしませんでしたか?」と恐縮していたが、「彼女のお蔭で良い席に着けたから」とわたしは微笑んだ。
キャシーが自分もファッションショーに出たいとせがんでいるようで、ゆえが本気の顔でどうにかならないかと可恋ちゃんと相談し始めた。
ゆえやハツミは参加することにかなり乗り気なようだ。
わたしはさすがに自分がモデルとして出るのは恥ずかしいと感じるが、こんなファッションショーならまた見てみたいと思うし、協力できることがあるなら協力したいと思う。
しかし、ゆえやキャシーが参加するなら学校という枠を越える必要があるから本当にできるんだろうかと思ってしまう。
それでも、この面々が本気でやろうとすればできそうな気がしてくるから不思議だ。
††††† 登場人物紹介 †††††
日々木華菜・・・高校1年生。陽稲の姉。この中学の卒業生。趣味は料理だが、陽稲に付き合う形でファッションにも興味がある。シスコン。
野上
矢野朱美・・・高校1年生。華菜のクラスメイト。夏休み以降華菜たちと仲良くなった。
久保初美・・・高校1年生。華菜のクラスメイト。夏休み以降華菜たちと仲良くなった。帰国子女でかなりの美人。
キャシー・フランクリン・・・14歳。G8。7月に来日して以来、主に可恋について空手を学んでいた。現在は東京のインターナショナルスクールに通っている。
和泉真樹・・・中学1年生。競泳の選手で全国レベルのトップスイマー。寡黙で練習熱心な安藤純を尊敬している。
日々木陽稲・・・中学2年生。華菜の妹。将来の夢はファッションデザイナー。
安藤純・・・中学2年生。陽稲の幼なじみ。競泳選手として将来を嘱望されている。
日野可恋・・・中学2年生。このファッションショーを企画立案し、ここまでの完成度に高めた張本人。
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