第67.5話 令和元年7月12日(金)「陰謀の主」日々木陽稲

「どうするの?」


 いまは5時間目が終わったところだ。

 最近は休み時間のたびに誰かのことろに行って話し合いというのが続いている。

 この休み時間は移動教室からの帰りなので、可恋と話す時間が取れた。


「とりあえず陰謀という噂が広まってるかどうか確認しようか」


「そこなの?」


 わたしが驚くと「冗談」と返された。

 冗談を言える余裕があると言うべきか、冗談を言ってしまうほど追い詰められているのか……。


「元気ある?」


 可恋は体力面の自己管理は徹底している。

 わたしが助けることができるとしたら精神面。


「うん。予想してた事態ではあるし、落ち込んではないよ」


「なら、いいけど」


 今日は朝から雰囲気が重かったので、昼休みの影響だけではないのだろう。

 可恋は頬に手を当て考え込んでいる。

 わたしにできることはなんだろう。


「何が問題だと思う?」


「原田さんのクラスのこと?」


 可恋の質問に質問で返してしまう。

 可恋は気にした様子もなく頷いた。


「いまのままだとお化け屋敷はまともにできないよね。でも、可恋がわざわざ聞くのなら問題はそこじゃないのね?」


「失敗は問題じゃないね。実際、クラスの企画で半分は失敗や微妙な出来になると思ってるし」


 半分というのはかなり高い比率に感じるけど、可恋は気にした様子はない。


「問題は……みんなが協力しないこと?」


「学校行事に対しての積極性は人それぞれでいいと思うんだけど、特定の少数に負担が偏るのは良くないね」


「あー、そうだよねぇ」


「それにどう対策を採るかなんだけど」


「生徒会や先生方にもっとちゃんと見てもらう?」


「もちろん、それも必要ではあるんだけど、それだけだとやらされている感じが強いよね」


 それはそうだ。

 わたしは頷く。


「失敗したら罰を与えるやり方もある。合唱ならクラス全体が練習サボってたら下手で恥をかいたりするでしょ。でも、そういうのってつまらないよね」


 事実だと思うけど、ことあるごとに可恋は合唱をディスっている印象がある。


「成功したら報酬を与えることでモチベーションを引き出すというのが健全だと思うのよ。厳密に言えば、成功というよりも成功のための準備や努力に対する報酬かな。ただ、誰もが喜ぶような正当な報酬だとか、ズルができないような仕組み作りだとか、そういうのが面倒なのね。学校だとやっちゃダメなことも多いし」


 報酬というとお金やプレゼントが浮かぶが、学校だと無理だしね。

 名誉なんて言われてもピンと来ないから、そのために頑張ろうとは思わないかも。


「いくつか案はあるから、それを組み合わせるしかないかなあ。面倒だけど、ひとつひとつやるべきことをやっていくしかない。やるのは生徒会だけど」


 可恋がさらりと付け加えた一言にわたしは目を見張る。


「生徒会、最近すごく忙しいって小鳩ちゃん言ってたけど」


 来週にはスマホやSNSの使い方についての全校集会を行うと聞いている。

 生徒会主催で行うのでかなり力を入れているそうだ。


「生徒会は職員室で先生のお使いをするばかりって嘆いていたじゃない。仕事が増えて喜んでるでしょ」


「でも……」


「夏休みがあるんだし、十分に時間あるよ」


 それって夏休みに生徒会の仕事をしろってことよね。


 ごめんね、小鳩ちゃん。

 わたしでは闇の魔王を止められなかったよ。


 わたしは心の中で手を合わせて謝った。




††††† 登場人物紹介 †††††


日々木陽稲・・・2年1組。原田朱雀から光の女神と崇められているが闇の魔王には勝てない。


日野可恋・・・2年1組。合唱が嫌い。文化祭を合唱禁止にした張本人。


山田小鳩・・・2年生。陽稲の1年の時のクラスメイト。生徒会の中心メンバー。

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