第49.5話 令和元年6月24日(月)「中華街」日々木華菜

「昨日はマジ、ヤバいことがあってさ」


 登校してすぐにわたしは同中おなちゅうの友だちに話し掛けた。

 期末テストが間近に迫っているが、女子高生にとってお喋りは欠かせない。


「家族と中華街に行ったのよ」


「またシスコンの話?」と友だちが笑う。


「そうだけど、ね、これ見てよ!」


 わたしはヒナのチャイナドレス姿の画像をスマホで見せる。


「うわ! 可愛い!」


 その声は大きく、他のクラスメイトの気をひいた。


「ね。凄いでしょ!」


 わたしはドヤ顔で自慢した。

 なになにと他の友だちが寄ってくる。

 わたしは彼女たちにヒナの画像を見せた。


「可愛い!」

「人形みたい」

「マジ天使」


 ヒナを絶賛する声にわたしは鼻高々だ。

 もっと見せてという声に応えて、昨日撮りまくった画像を次々に見せた。


「こっちの子は?」

「すごい美人」

「高校生?」


「妹の友だちで中学生」とわたしは説明した。


「お揃いで可愛い!」

「中学生に見えないよね」

「あたしも着てみたい!」


 そんな声を聞き流して、わたしは昨日の出来事を話し始めた。


「うちの家族とこの子の家族とで中華街に行ったんだけど、それはもうすっごく注目されて、人だかりはできるし、スマホでバシバシ撮影されるしで、本当に大変だったのよ! 中にはアイドルか何かと間違えてサインくださいって言う人までいてね」


 日曜の夜の中華街は観光客も多く賑わっていた。

 そこにド派手な格好をしたこのふたりが現れたのだから目を引かないはずがない。

 あっという間に黒山の人だかりができて、わたしなんか他人の振りをしてたけど、ヒナはもちろん日野さんも平然としていた。

 あんなに落ち着いていれば芸能人に間違われても仕方ないよね。


「この子がわたしの妹をエスコートしながら歩くと、人垣がパッと分かれて道ができたのよ。映画のワンシーンかと思ったよ」


 中華街のネオンが輝く中で、チャイナドレスが煌めき、とても幻想的だった。

 清楚で異国感のあるヒナと優美で玲瓏な日野さん。

 赤と青のコントラストもあって、本当に映像を見ているかのようだった。


「華菜はチャイナドレス着なかったの?」


 同中おなちゅうの友だちがニヤニヤと笑いながら聞いてきた。


「無理だよ。似合わないし、あんなに見られたら顔から火を噴いて悶え死ぬよ」


「あー、分かるー」

「あたしも無理」

「こんな格好で人前に出るとかありえないよね」


 自分も着てみたいという声もあったけど、ひとりでこっそりならまだしも、誰かに見られたら恥ずかしくて一生布団を頭にかぶって過ごすことになりそうだ。

 傍から見る分にはまだいいが、当事者にだけはなりたくないと心から思った。

 本当に日野さんに感謝している。


 予鈴が鳴り、友だちは三々五々自分の席に向かった。


「中華街かあ。いいなあ。高校合格のお祝いで行ったきりだよ」


 同中おなちゅうの友だちは席が隣りなのでまだ話し掛けてくる。


「美味しかったよ。個室だったから周りを気にせずに味わえたし」


 北関東に住む祖父がうちに来た時によく行く高級店なので、個室でなくても平気だったかもしれないが、目立つふたりと一緒にいるとわたしまで緊張してしまいそうだ。

 ヒナで慣れていると言ってもほんのわずか他人より耐性があるだけで、自分が一般人であると感じる機会の方が多い。

 着る時は嫌がっていた日野さんがあまりに堂々としているのを見て尚更そう思う。


 友だちに話すようなことじゃないけど、食後にちょっとしたやり取りがあった。


「提案したのはこちらなので、ここは私が支払います」


 日野さんのお母さんがニコリと微笑んでそう言うと、「お会計は済んでいます」とわたしのお母さんがニッコリと笑った。

 午後に有給を取って美容院に行き、いつも以上に気合いを込めた服装のお母さんがここぞという感じで切り返した。

 わたしがお母さんかっこいいと心の中で喝采していると、「ありがとうございます。次回は楽しんでいただけるように手配いたします」と日野さんがサラッと言ってのけた。


 ……この子、人生二周目とかじゃないよね?

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