第34.5話 令和元年6月9日(日)「美咲」須賀彩花

「渡瀬さんかぁ……」


 わたしはベッドに寝転がったまま呟いた。


 わたしは渡瀬さんについてよく知らない。

 知っているのは、1年生の時に美咲や優奈と同じクラスだったこと、合唱部に入っていること、そして、わたしよりずっと可愛いこと。


 キャンプ二日目の夜、お風呂の準備をしていたところに高木さんがやって来た。

 日野さんからの伝言があり、美咲と綾乃は部屋を出て行った。

 わたしは、フラッと出て行ったままの優奈が戻って来た時のために美咲に頼まれて部屋に残った。

 結局、ひとりでずっと待ち続け、優奈は美咲たちと一緒に帰ってきた。


 3人とも重苦しい雰囲気をまとっていて、部屋に帰ってきてからも会話はなかった。

 わたしは何があったか知らされずに眠りについた。

 なんだか除け者にされたみたいで、寝付けなかったことを覚えている。


 翌朝、綾乃から盗撮の話を教えてもらった。

 しかし、それよりもショックだったのは、その後に日野さんから聞いたわたしたちのグループに渡瀬さんを加えるという話だった。


 わたしの居場所がなくなっていくように感じる。


 美咲は美人で、頭が良くて、誰にでも優しい。

 優奈はオシャレで、ちょっと口は悪いけど男子に人気で、行動力がある。

 綾乃は可愛くて、無口だけど聞き上手で、自分の世界を持っている。

 わたしは可愛くもないし、頭も良くないし、なんの取り柄もない。


 ここに渡瀬さんが入ってくる。


 わたしはいったいどうしたらいいんだろう。


 わたしはベッドに寝転がったままスマホを取り出し画面を見た。

 美咲に相談しようかな。


 今日は日曜だけど、優奈が用事があると言ったので集まらなかった。

 優奈はたぶんデート。

 なぜか美咲には秘密にしているけど、年上の彼と付き合っていることはわたしも綾乃も教えてもらっている。


 美咲はキャンプの疲れがあるみたいだったから家に居るはずだ。

 わたしと美咲は幼なじみで、小学生の頃はよく美咲の家に遊びに行った。

 中学生になってクラスが別れ、会う機会が減った。

 2年生になって再び同じクラスになり、また仲良くなった。

 それなのに、中学生になってからはまだ一度も美咲の家に行ってなかった。


 どうしようかな。

 そう思いながら、わたしは起きて着替え始める。

 無性に美咲に会いたくなった。


 とりあえず行ってみよう。

 美咲の家は近い。

 なんとなく遠慮して行かなくなったけど、昔はもっと気楽に美咲の家に行っていた。


 美咲なら、いまのわたしの気持ちを分かってくれるはずだ。

 美咲と二人だけなら、わたしの言葉をちゃんと聞いてくれるはずだ。

 美咲に伝えることができれば、このもやもやは吹き飛ぶはずだ。


「ちょっと出掛けてくる」


 わたしは勇気を振り絞って家を出た。

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