Spring Capter

USA

Spring Capter

274623km先に「ゴールデンウィーク」がいる。


神秘的な光を放ち、10個の塊が相互に引き寄せあっているその物体は、間違いなく「ゴールデンウィーク」だった。


GW。「黄金の一週間」。休息の象徴。希望の燭光。怠惰の顕現。


それが27万km先にいる。


「ついに見つけた...」


船長の声は震えている。


「捕獲しますか、船長」


僕は興奮した声で言う。

僕はあの「ゴールデンウィーク」を捕らえたくて仕方がなかった。


「もちろんだ。こんなところで出くわすなんて、なんたる僥倖」



その時、船内にサイレンが鳴り響いた。


一人の船員が報告する。


「エンジン出力50%低下!全面シールド損傷!」


「何が起こってるんだ!原因は?!」


船長がその隊員に向かって怒鳴り散らす。


「おそらく、『夏の匂い』のしわざかと」


「全力で回避しろ!この船は耐夏性能がほとんどないんだぞ!『匂い』に直撃するだけで俺たち全員あの世行きだ!」



僕たちの任務は『春』の回収。


今まで一つに固まっていた365日がバラバラになってしまったのはかなり昔の話。この事件を人は“Origin Recurrence”と呼ぶ。「源への回帰」。もともと、365日がまとまっていたことがエントロピー増大の法則に反していたのだ。そしてバラバラになった365日は思うがままに宇宙中に拡散した。


科学者の長年の研究により、四季は互いに強い斥力を生じることが発覚した。

つまり、”Origin Recurrence”の原因はこの四季同士に働く斥力だったのだ。


また、日にち自体は質量を持たないこともわかった。

つまり、日にちは光速で運動する。

人類が最初に捕獲した日にちは4月20日。その上に乗り、人は光速で移動しながら、バラバラになった日にちを再結合しようとした。しかし、この無限に続く宇宙という空間で、たったの1日を探し出す確率は、言うまでもなく0ゼロに収束する。


しかし、人類にとって確率はさして重要ではなかった。無限の時間を費やせば、見つける確率は1になる。


そして無限年が経つなか、人類は新しい日にちを次々と見つけた。その中で、他の「季節」へとお引越ししようとする人間もたくさんいた。何千年も同じ季節で過ごすのは飽き飽きするからだ。


でも、長らく「春」で過ごしてきた人類には、もはや他の三季節による斥力が働いてしまう性質がついてしまっていた。だから、違う季節に接したら最期、人は死ぬ。だから、お引越しできた者は一人もいなかった。



僕たちの乗る船は「春」から作られている。だから他の季節のいかなる要素は船体をダメにし、僕たちの身体さえも蝕む。

そして実際、僕たちは「夏の匂い」、つまり、「夏」の日にちが放出した粒子によって攻撃されていたのだ。


それの意味するところは大きい。この近くには「ゴールデンウィーク」に加えて「夏」の塊もいるということが判明したのだ。


うまくいけば、「ゴールデンウィーク」を捕獲した上で、「夏」の居場所を特定できる。

これは春系の我々の安全保障にとって重大な貢献となる。


しかし、そうは問屋が卸さない。


僕たちは正真正銘の「詰み」状態にあった。


ここでゴールデンウィークを捕獲すれば、僕たちは「春」の季荷が大きくなり、「夏の香り」による攻撃がより激しくなって死ぬ。「夏」は「春」寄りの僕たちを殺す気満々だ。


だが、このまま逃げて帰ることは許されない。僕たちが「春」の残骸を持って帰るのをずっと待っている人々がいる。「ゴールデンウィーク」があったのにそれを見す見す逃したということがみんなの知るところとなれば、僕たちは宇宙空間に放り出されて殺されるだろう。


「おい」


急に後ろから話しかけられる。


「何でしょう船長」


「どうにかしてゴールデンウィークを手に入れ、『夏』による攻撃を回避する方法はないのか」


ひとつだけ方法はあった。


「『夏の匂い』からの攻撃を0.100秒間あえて受け続け、加速します。そして光速の約99%に達した時にちょうど『ゴールデンウィーク』と接触。そこでゴールデンウィークを捉えて亜光速で逃げます。流石に『夏の匂い』もその速さからは攻撃を続行できません」


「0.100秒というのはジャストか」


「はい。セシウム133原子の基底状態の2つの超微細準位間の遷移に対応する放射周期の9億1926万3177倍です」


実現可能性プラクティカビリティは?」


「およそ0.2%です」


「やろう」


「了解しました。各員、衝撃に備えよ。シールドをあと5秒で解除。4、3、2、1」


船体が激しく揺れる。

0.1秒はあっという間に過ぎ去る。まるでかつてのゴールデンウィークのように。



「ゴールデンウィークを無事捕獲。今から帰還します」


先程船長に怒鳴られていた船員がそう報告する。


船内で歓声が湧きあがった。




そのときだった。




僕たちは『夏の匂い』に飲み込まれた。

0.1秒ジャストを測れなかったのだ。




「ゴールデンウィーク」は僕たちの元を離れ、無限遠方へと光速で羽ばたいていくのだった。

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