2 わたしというそんざい

小さな頃からよく叱られた。

小さな居間の四角いちゃぶ台には

私と母と祖母が座る。

父が帰ってくるときだけ、四方が埋まり

家族の体をなすような

そんな食卓だった。


私の向かいには祖母が座る。

いつも私の一挙手一投足を監視するように

箸の上げ下ろしから茶碗の持ち方まで

批判されるのだ。

子供の手は広げたもみじのような小ささである。

大人茶碗どころか、汁椀や子供茶碗すら

迎え支えて持つことは困難である。

それを支えきれず茶碗を落とすたびに

祖母の鶏のような痩せた手が竹杓子を掴む。

そしてそれが真向かいから私の腕や肩を打つ。

風を切る音と同時に避けようと試みれば

今度は立ち上がって、私の軀を打つ。


横で母は冷めた目で黙するか

「奈緒美が悪いんでしょ!」と加担する。


逃げ場はなかった。

ごめんなさいと謝るしかなかった。


父のいない食卓は地獄だった。

残してはいけない、行儀よく食べなくてはいけない、

私は拒食になった。

1日がキュウリときな粉をかけたご飯しか食べられなかった。

幼稚園の給食も「皆んながちゃんと食べてるのになんでアンタは」と叱られ続け

完食などしたことはなかった。


食べることが怖い、

この感情は中学や高校までうっすらと続いた。

お泊まりにおいでと誘ってくれるお友達にも、その食事を残して嫌われたらどうしょうという「強迫観念」が自分の底に湧く。


常に何かに怯えているような、

常に私が悪いのだという家族内の洗脳は

自己否定へと繋がっていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゆるさなくて、いいよ。 桧垣 奈緒美 @naomin_1112

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ