ゆるさなくて、いいよ。

桧垣 奈緒美

1 あなたとわたし

天井は白い

てんじょうはしろい

天井は…


天井を見つめたいわけではなく

ただ目の前にあるものがそれなだけで


「奈緒ちゃん、じゃ仕事に行ってくるよ」


昨日までの諍いなど忘れたかのように

笑顔と軽いキスで部屋を出る夫。


どんなに相手を傷つけようと

どんなに嘲笑や無視に満ちた争いがあっても


そう、朝になれば彼はリセットする。

何のために、そう考えあぐねて

自分をどうしていいかわからなかった。


ただ、誰かに助けて欲しい

喉元まで出ている叫びは

夫に向けられるものではなく

白い天井だけが受け止めてくれる


天井は白い。

私の涙も私の叫びも全て

堆積することなく浄化することもなく

記憶して受け止めるわけでもなく

ただ、そこにあるのだ。


もう、赦してほしい。

何からかはわからない

とにかく、私を解いてほしい


でも、何から?

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