おっPAY
しろめし
最終話「電子決済と、ほんのすこし先の未来の話」
20XX年、台湾のベンチャー起業「パイパイ」が日本に上陸。パイパイはアダルトグッズ制作会社「ドビューズ」と携帯会社「マジックマッシュルーム」との業務提携を発表した。
「皆さん、これは革命です」
新サービス発表会場は日本のマスコミだけでなく、世界中からの来客で溢れかえっていた。
全裸で登壇したパイパイのCEO「チン・チンヨー」は手を掲げた。
後ろの大型スクリーンにスライドが映し出される。
「Felica、QR決済に並ぶ第3の決済、それは」
豪勢なアニメーションが流れ、そして画面には「乳首」と表示された。
「私たちは乳首決済サービス『おっPAY』を発表します」
会場を大歓声が包んだ。
数ヶ月後
「ありがとうございました」
コンビニ店員のたかしは乳首リーダーを除菌シートで拭き取る。
数ヶ月前に発表された乳首決済サービス「おっPAY」は爆発的速度で普及した。携帯を不要としない手軽さと還元率の高さに人々が飛びつくのも無理はなかった。
コンビニエンスストア、家電量販店、スーパー、飲食店はもちろん、電車やバス、飛行機などの交通機関、ネットでの決済にも使用できる幅広さも普及に拍車をかけた。
「いらっしゃいませ」
たかしの目の前に買い物カゴを置いた中年のサラリーマンは欠伸をしていた。
早朝のコンビニは出勤するサラリーマンで混雑する。
たかしは手際よくおにぎりと水のペットボトルのバーコードを読み取りレジ袋に入れていく。
「236円になります」
「おっPAYで」
サラリーマンはスーツの上着に手をかけると胸元をさらけ出す。少しだけ丸く切り抜かれたワイシャツの胸元からは乳首がおはようございますしていた。ちなみに乳首の先端から2本の毛が生えていたことは本ストーリーにおいては関係のない話である。
「はい、おっPAYですね」
たかしは乳首リーダーを手に取るとサラリーマンの乳首に当てた。
「アッ!イクッ!」
サラリーマン悶絶。専用の乳首リーダーは読み取る際に微粒の電気を発する。この電流がクセになるとの口コミも、おっPAYが普及した要因の一つである。
電子音が決済完了を告げる。
「ありがとうございました」
サラリーマンはレジ袋を手に取り店を出た。
「いらっしゃいませ」
たかしの目の前には80代ぐらいに見えるババアが腰を曲げて立っていた。
ババアの買い物カゴから商品を取り出しバーコードを読み取っていく。
「7829円になります」
「おっPAYで」
ババアはゆっくりとした動作で全裸になるとレジ台の上に胸を置く。
「はい、おっPAYですね」
たかしは乳首リーダーを手に取り、ババアの伸びきった乳首に当てる。
「アアア!アアア!アアア!」
ババアの乳首は伸びきっているため読み込みが悪い。そのため、乳首リーダーは情報を読み取ろうと電流を自動的に上げる。この仕様が後に事故を引き起こすことになるのだが、それはまた別の話。
電子音が決済完了を告げた。
ババアはゆっくりと服を着て店を後にした。
狂っている。バイト終わりの帰り道、たかしは思った。
今では老若男女問わずおっPAYを使用している。
社会の場で胸元を露わにする行為が恥ずかしく無いのか。
利便性のためなら人は人であることを捨てていいのか。
そんなことを考えたが、自分一人の思想で世の中は変わらないことをたかしは知っている。
考えるだけ無駄だろう。
「そういえばお腹すいたな」
たかしは帰り道にある牛丼屋に入った。
注文したらすぐに運ばれてくるのは牛丼屋の利点だ。
牛丼大盛りを軽くたいらげる。
「すいませんお会計で」
たかしは店員に声をかける。
「500円になります」
「チンPAYで」
たかしはズボンに手をかけた。
おしまい。
おっPAY しろめし @hakumai_daisuki
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