ゾンビカマキリ

 先日、家の目の前道路の上を一匹のカマキリが歩いていました。

 この時期になるとなぜかアスファルトのど真ん中に居たり、やたらと開けたところに居たりするのですよね。やっぱり寒いから少しでも日のあたりのいい所に出たいのかしら。


 その前日は、自分の腹から出てきたハリガネムシと格闘するハラビロカマキリに出くわしました。かまで応戦して齧ってたけど……これも道路の上に居たので足でちょちょいと人の家の庭へよけました。水もない所で出てきちゃたなんて、ハリガネムシにとってももう耐えきれない時期に来ていたんだろうなぁ。



 家の前にいたカマキリはもう寿命なのか、結構なよろよろ具合。ここに居ては車に轢かれるか人に踏まれてしまいます。

 かなり長い体をしていたのでオオカマキリでしょう。ひょいと持ち上げて植え込みに移そうとした時。なんか変だなと思いました。

 カマキリはだいたい弱っていたとしても鎌で抵抗してきます。でもこの子は鎌を動かそうともしません。ちょんと折りたたんだ状態のまま。顔もこちらを向きません。羽も畳みそこなったまま飛び出ています。

 そして顔。やたらと下を向いています。目もなんだか黒い。真昼間なのに夜目になりかけたような黒さだったので覗き込んでみました。



「ヒェッ!」



 お前はもう、死んでいる……

 とでも言いたくなるような顔が!


 左の目には亀裂。右の目はなんだか抜け殻のように、半分ほど中身がないようなすけ感が出ておりました。かなり下を向いていたのも上半身がもう機能しておらず、後ろ脚だけが前に進もうとしていて、地面で顔をずっていたため首が下へ向いた……と推測します。

 


 キャァァーー!



 つまんでいる間も後ろ足だけがカサカサと動き、地面に置くとまたあゆみを始めます。怖い、怖いよお!



 なんでこんな姿に!?と考えたのが、寄生虫によるもの。カマキリと言ったらハリガネムシですよね。なのでちょっと水のある場所(植木鉢の受け皿)へ連れて行ってみました。

 でも結果は不発。ちょっとお尻が水に触れた瞬間、嫌がるようにお尻が上がりました。っていうかそこの神経はちゃんと生きてるんだ……


 水場を離れようとするカマキリ。しかしよくよく見ていると、後ろ脚4本もその中の1本、右の中足がもう機能してないらしく3本の足でよたよたしています。そのせいなのか同じ場所をゆっくり、ぐるぐる3周ほどしていました。


 このカマキリがオスだった場合。メスに頭をかみ切られてもすぐ死なないから交尾し続けるという話を聞いたことがあります。なので上半身くらい死んだところでなんでもないとか……? だから相手を探してグルグルと彷徨っていたなんてことも考えられますでしょうか。いや怖いわ。

 

 昆虫の体の創りは、頭、胸、腹にそれぞれ神経節がありそこから信号を送っている、みたいな話をききました。過去にもむかでの回でそんなことを書いた覚えが。なので腹部の神経節はまだ生きていたからこれだけ動くことができたんでしょう。

 体が半分死んでも前進し続ける。神経節はこのカマキリに何を命令し、何を目的にしていたのでしょう。それとも神経節が乗っ取りに逢っていたのか……

 うーん、なんだか物語に出てきそう。

 


 数時間後に植木鉢の付近を見たのですが、姿が消えていました。歩いてどっかへ行ったんだったら結構な距離をあの体で進んだことに……まさにゾンビです。

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