ねこ
ちょっとかわいそうなお話になります。
昔、家の前に畑があって(今もあるんですが)そこの端っこ、道路側にサイロと呼ばれる深い穴がありました。
雨風しのげるよう屋根はありますが、特に大掛かりな囲いとかはなし。ただ、簡単に人が入れないよう道路との境には石垣と、お茶の木が植えられていました。
あるとき、そこに猫が落ちてしまったようです。ジャンプしたり這い上がることができないほど深い穴だったようです。
夜になると「にゃう にゃう にゃう」と短く鳴く声がかなり長時間にわたってしていました。
何とかしてあげたいのですが、他人の畑だし石垣はあるし、夜中に懐中電灯つけて別の所にある入り口から入る勇気もなく、しばらく様子を見ていました。
目の前に見えていて、なんとかかんとか手を伸ばせば石垣には触れるような距離。もどかしくて仕方ない。
昼間でもたまに家にいると「にゃう にゃう にゃう」と悲しげな声。
そうだ何かつたって登れるものがあれば……
と家の中を探しても変な長い紐があるだけ。でももしかすれば……と投げ込んで、一応垂らしておきますが、やっぱり登れるわけがありません。
それに紐を投げ込んだのは2日目の夜。体力も消耗しているはず。
3日目のあさ、みると近所の誰かがやっぱり気になっていたのか、木の板の切れ端が入っていました。
これならばしっかりしているし上れるはず。
でも夜中にやっぱり「にゃう にゃう にゃう」と声がします。なんか弱弱しい……
様子を見に行くと、ちょっと遠くの方に一匹の知らない猫が座り込んでじっとこちらを見ていました。この猫の友達や親族なのでしょうか。普段人間なんか見たらすぐ逃げるのにその日はじっと私の方を見て、何とか助けて、と言われている気がしてすごく心苦しかったのを覚えています。
石垣に登ろうとしてもその前に立ちはだかる茶の木(下手するとチャドクガ付き)があるし、石垣に登ったところで、見るからにすぐ崩れそうなほど本当に石が積んであるだけ。
ごめんね、何もしてあげられないんだよ、と断腸の思いでその場を逃げるように去りました。もうちょっと勇気があればね、畑の人にでも断って入ってたら、とか、もっと夜中にだれもいないうちに忍び込んでいたら、とかいろいろ考えちゃったりします。
その後も、とぎれとぎれ声がすれど、4日あたりすると全く聞こえなくなってしまいました。とうとう力尽きてしまったのでしょうか。
今はその石垣もサイロも壊され、茶の木も抜かれて平地になり、そのぶんの畑が拡張されました。今でもあの声とじっとこちらを見ていた猫の姿は忘れられません。
そこの畑の持ち主は昔乳牛を飼っており、その糞などをためておくためサイロを使っていたそうです。
父に聞いたら以前も猫が落っこちてしまって、その畑の持ち主が「猫が死んでやがらぁ!!」(田舎弁です)と言ってたとか。
もうとっくに牛も辞めてしまっており、サイロも「あるだけ」の存在になっていたのもあり、ただの中身が空の深いトラップになっていたんでしょうね。
誰かがいれた木の板を抜こうとしてみたら、かなり長くて抜き切れず、びっくりした覚えはあります。
たまに過去に戻ってやり直せるならいつがいい?みたいな質問がありますが、私の場合はこの時と答える自信はあります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます