アシナガバチの受難
小学校の時のことです。学校から帰ると
「ゆずの木にハチがいっぱい居んぞぉ」
と祖父が教えてくれました。
当時ゆずの木のすぐ隣にある借家の軒下に、アシナガバチが巣を作っていました。アシナガバチは何もしなければ特に怖がる必要もないハチだし、どうやったって手の届かないところに居たので、借家の住人も、うちの家族もみんな放置でした。
いや怖いことは怖かったですよ。たまにブーンとか頭のあたりを飛ぶんですから。近づいてきたら固まってました。でも一度も刺されたことはなかったです。
そのころのアシナガの巣はわりと大所帯になっており、そこそこ目立ってきておりました。きっとそれもいけなかったんでしょう。
祖父の言葉になんだなんだと見に行くと、あら、軒下にあったはずの大きな巣がない。
地面にはなにやらばらばらと残骸が落ちているし、ゆずの実に一塊のグループ、また別の枝に一塊のグループと、あちこちに点在して寄り集まりじっとしておりました。
「スズメバチが来てこわしてっちまったんだわァ」
と祖父。どうやら襲撃にあい、住処を追われ一旦こちらに避難したようです。
幼虫もきっと食べられてしまった(正確には団子にされてスズメバチの幼虫の餌にされてしまった)んだなあと子供心にとても気の毒になったものです。
ゆずの実が蜂がまとまってたかれるほど大きくなっていたということと、スズメバチが他の巣を襲っていたことから、秋のことだったはず。
このころのスズメバチは気を付けないとかなり気性が荒くなります。秋も終わりに近づくと、次の女王バチの誕生が控えていて神経質になっていたり、他の巣を襲う程大所帯になっていて一度怒らせたらとんでもない数のハチから返り討ちにされることになります。
近所の公園の樹液場にスズメバチ(小さかった)がいたので、どこかこの辺でも巣があることは間違いなさそう。間違っても怒らせないようにしなければ。
住処を追われたアシナガバチは、しばらく後に見たら皆いなくなっていました。同じ場所には巣を作らないのでしょうか。しかし今から、全部一からやり直すなんて……。シーズンももう終わりに差し掛かっているのに。
あと女王バチは無事だったのでしょうか。
ニホンミツバチのように立ち向かう術を持たない種類は、スズメバチに立ち向かった所で勝ち目がない。ならば巣や子供を捨てて逃げるしかないんでしょう。生きていればまた巣を作り卵を産むことができますし。
そんなちょっとかわいそうな営みがこれからの季節、どこかで出るようになるんだろうなぁ……。がんばれアシナガバチ。
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