第146話 6人

部屋の中の、見るからに怪しい階段を、しかし師匠は悩む素振りなく降りていく。

当然私も、その後に続いた。


カツン、カツン、カツン。

ダンジョンとは違う。人の手によって作られた穴を進む2人分の足音が、こだまする。

光はなく完全な闇の中を私たちは進んでいる。

なお、この闇の中まっすぐ歩けているのは、私は師匠の魔力を辿りながら歩いているからだ。

師匠がこの歩けている理由は、わたしにはわからないが……

階段自体はたいして行くことなく終わり、いまは暗く平坦な道のを歩く。

暗いため、距離感と時間感覚が狂いかけているが、おそらく1時間は歩いたろうか。

前方の上に、光が見えてきた。

その下には階段が見える。

やっとか。

そんな安堵感を覚えながら、私は引き続き師匠の後に続いて階段を登っていった。


登り切った先の部屋は、階段を降りた狭い部屋とは違い、体育館を思わせるような広さの部屋だ。

向こうには扉が見える。

階段の出口は、そこの隅の一角にあった。

師匠に続き、私も部屋へと上がる。

「ラト師匠。ここは?」

流石にそろそろいいだろうと師匠に問いかける。

もちろんゼルバギウス家の敷地内ではあるのだろうが。

「ここは、ゼルバギウス家の敷地内にある一室じゃよ。」

案の定そんな答えが返ってくる。

そこは分かっていることを師匠も理解しているのだろう。

「ここに来れるものは限られておる。そもそも、入口のあの部屋には魔法による細工がされておっての。毎日あの建物を使っている騎士たちでさえ、あの部屋の存在を知るものはほんの一握り。いや、実質いないと思って良い。」

そこまでカモフラージュする何か。

それが何なのかは、私もすでに聞かされている。

「ここでカダスへの移住者の受け入れを行うのですか?」

「うむ。その通りじゃ。」

移住者とか受け入れなんて言葉を使ってみたが、早い話は犯罪者の引き渡しに過ぎない。

ここまで厳重、隔離するのも不思議なことではないのだろう。


師匠にならい待つこと、10分だろうか。

扉が開き、人影が現れた。

先頭に鎧を着込んだ人物が1人。

その後ろには、粗末ではないが、質素な服を着込んだ人たちが六人。男性4人に女性が2人だ。

その後ろにはもう1人鎧を着込んだ人物がいる。

さらに後ろを見れば、どうやら外ではなく、廊下のようなものが見えた。

別の建物がつながっているのかもしれない。

おそらくというより、ほぼ確実に、質素な服を着た6人が今回引き渡される犯罪者なのだろう。

とはあえ、犯罪者という言葉を連想するのは2人だけだ。

男性が1人と、女性のうちの1人が鋭い目つきでこちらを睨んでいる。男性にいたっては、明確に殺気を放っているほどだ。

あとの4人は、打って変わって普通の印象しか受けない。

それこそ、街ですれ違っても気に留めないような、普通の市民だ。

師匠が鎧の人物に問いかける。

「今回はこれで全員か?」

「はい。賢者殿。」

「ふむ。では、一応それぞれのことを聞いておくとしようかの。」

「かしこまりました。では、まずはこちらから……」

と、説明されたところでは、先の2人はそれぞれ盗賊の生き残り。

残りの4名は、詐欺師やら盗人やらだそうだ。

大人しそうな雰囲気の女性は、なんでも痴情のもつれで彼氏を殺すこと3回の殺人鬼らしい。

人は見た目によらないし、他の5人の犯罪者も顔を引きつらせている。

そんななか、ニコニコと微笑んでいる彼女はやはり本物なのだろう。

「師匠、連れて行って大丈夫ですか?」

と小声で聞けば、

「まあ、なんとかなるじゃろ。こいつくらいなら、カダスには他にもいるからの。」

と、知りたくない情報を聞かされるオチがついたのだ。


「では、これで帰るとするかの。こいつらは、任せてくれて良い。」

そう師匠が言えば、

「はい。よろしくお願いします。」

と鎧の人物。

何度とした会話なのだろう。

師匠が空間魔法を展開しようとした瞬間、


バタっ!


彼らが入ってきたのとは別の扉が開くのだった。

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