第144話 領都カトニック

ゼルバギウス領が領都カトニック。

ガインの街が、最前線としての都市であるのに対し、ここは前線でありつつ、同時に各都市への補給及び司令塔としての役割も担っている。

カトニックからは主要な各都市への道が整備され、王都周辺から集められた服や食べ物といった物がカトニックを経由して各都市へと流れていく。

当然、各都市やその周辺でも農業はされているが、人口に対して冒険者の割合が多いゼルバギウス領では、自給自足は難しい。

特にガインの街などは群を抜いて冒険者が多く、自然と輸入への依存が大きく、カトニックのような流通を支える都市が必要となる。

もちろん前線としてのガインの街がこの国や大陸へとする貢献は必要なものであり、良い悪いと言う問題ではなく当たり前の分業なのだろう。

なおグラント王国では、明文化された法律があり、住民間のトラブルは基本的には各都市にある法律院と呼ばれるところで、法律に照らして判断してくれる。

それが貴族間のものであれば、王都にある貴族用の法律院の出番だ。

こじれた場合に王が出てくることもあるが、基本的には法律院の判決に従うことが多いと言う。

ここで駄々をこねるのは幼い行動という風潮があるためだ。

事例は少ないが、平民が領主の横暴を訴え、調査ののち聞き入れられたこともあるらしい。

つまり、各領地の領主でさえ絶対者ではないということだ。

なお、この国においても児童虐待という考えはある。

児童の定義が地球とは違うが、それでも私が受けたことは訴えれば勝てる内容なのだろうか。

まあ、そもそもの話、生まれについて晒すつもりもなく、当然殊更被害者ぶるつもりもない。

私の中では既に終わったことで、今回の件がなければ普段は忘れているようなことなのだが。

それでもふと、この街でゼルバギウス家の人間として育ったらと思ったりもした。

したのだが、結局そこにはユニも師匠もその他の仲間もいない以上、なんの魅力もないことを確認しただけだった。


また話は変わるが、法律院関係者への賄賂は重罪であり送ったもの、受け取ったもの両方が死罪に相当する。

何が言いたいかというと、今回私たちが引き渡される罪人の中にはそういう人もいるということだ。


なんてことを頭で考えつつ、ラト師匠の後をついていく。

そう、久しぶりのラト師匠の姿だ。

いや、今までもガインの街に行く時にはこの姿だったはずだが、最近は私はシス姉との訓練や魔族領での活動が多かったので、随分と久しぶりに感じる。

ミリア師匠の姿とは別の老人の姿。

相変わらず、森の老賢者にふさわしい姿と立ち振る舞いだ。

そのラト師匠は特に悩む風でもなく先へと歩いていく。


門を超え、歩くこと1時間程か。

途中、巨大な四角形の、役所のような建物を通り過ぎる。

師匠にあれは何かを聞くと、

「あれは、役人の仕事場じゃ。」

と教えてくれた。本当に役所だったらしい。

そこからほど近い場所。

おそらくは街の中央付近に、先程の役所に負けず大きな、しかし、こちらは遥かに優美な姿の建物が見えてきた。

グランゼニアで見たような城ではないが、ひと目見て貴族のお屋敷と分かるような外見だ。

まだここからは距離があるそこには門があり、さらに奥にはホテルのような建物がある。

門の左右には門番がそれぞれ槍を持って立っている。

左手に見える広場のような空間は、おそらく運動場のようなものだろう。


「師匠、ここは。」

「ここが、ゼルバギウス家の屋敷じゃよ。」

「やはり、ここが。」

分かってはいたが、やはり気分が重くなる。

そんな私に師匠が、

「気にするなとは言えんがな。今日は当主はいないはずじゃ。」

と教えてくれた。

「そうなのですか?」

「うむ。この時間は途中で見えた建物で、仕事をしているはずじゃよ。」

それならば少しは安心できる。

用事の内容、そして師匠が来ていることから私も当主に会う必要があるかと諦めていたが、会わないで済むならありがたい。

まあ、仮面があるので大丈夫だとは思っていたが。

噂通りの人物なら、画面を外せなどとは言っては来ないだろう。


なんにせよ、やるべきことに変わりはない。

私と師匠は、門へと近づいていくのだった。

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