第142話 1年の成果
時間が過ぎ、ユニ達との旅を終え、ガインに戻ってから、そろそろ1年が経とうとしている。
とはいえ、その一年の大部分は修行をしていたのだが。
そのおかげで、2種類の魔力。
外へと出て行く放出魔力と体内を巡る循環魔力を区別してそれぞれを扱うことができるようになった。
ブォー!!
「キャー、ルーくんカッコいい!」
稽古初日、シス姉に見せてもらった見本によく似た魔力の塊が手から飛びだし、師匠の作った魔力の壁にぶつかるまで、激しい風を巻き起こしながら進んでいく。壁にぶつかれば案の定、霧散するのだが。
はじめて作った頼りない、魔力の塊に比べれば、まさに天と地の差というべきだろう。
ちなみに、横で喜んでくれているこの皇帝陛下も暇を見つけては、付き合ってくれている。
いや、正確には師匠や周りが暇を作ってくれているのだが。
「ありがとうございます。ですが、まだまだですよ。」
と答える。
とはいえ問題というか、現実は、これが謙遜でもなんでもないことだ。
次は、ある程度修行が形になってきた頃、再度手本と言うことでシス姉の魔法を見せてもらった時のミリア師匠とシス姉との会話だ。
「じゃあ、シス。ルークに見本を見せてやってくれ。」
「分かりました、先生。ルーくん、頑張るから見ててね。」
「あー、シス。」
「はい?」
「頑張ってくれるのはいいが、全力は出すんじゃないよ。」
「え、ダメなんですか?」
「当たり前じゃ!いつだったかあんたが結界を壊してくれて、どれだけ苦労したか忘れたのかい?」
「あー、そういえば。」
「そういうわけだから、せめて結界は壊さないようにな。」
「分かりました!では、いきますね。」
なお、私がどれだけ全力を出しても、結界は壊れるどころか変化さえ見ることは出来ないことも併せて伝えておこう。
そして実際の威力はというと。
シス姉の手に巨大でかつ凝縮された魔力の塊が見える。
今でこそ分かるようになったが、それらか全て放出魔力。
つまり、外へ出るための膨大なエネルギーを秘めた魔力ということが、分かり、私の背を汗が流れる。
今の私にこれが出来るか、考えるまでもない。
小学生低学年に、中学の数学を教えようとするようなものだ。
中には理解できる人もいるかもしれないが、それは天才とか一分の人間だろう。
実際に、このシス・ホーストという女性は、天才だった。
準備が整い、彼女の手から魔力が方向性を保ちながら、解放される。
今思い出しても、さっきの私の起こした風がそよ風にしか感じないほどの暴風。
余波だけで、体がよろめきかねないそれをまき散らしながら進んでいく。
硬くならされた地面をえぐりながら。なお、今はまた師匠の魔法で綺麗に平らになっている。
魔力が解放され数秒と掛からず、その時が来た。
ズドン!!
この時、私は初めて結界が音を立てて揺れるのを目撃した。
結果的には壊れこそしなかったが。
なるほど、師匠が心配するのもよく分かる。
そんな体験だった。
その他、拳術の方も修行は進んでいる。
せっかくガインの街に来たのだ。ユニやテオの父親であり、私の武の師匠であるカイゼル師匠の道場へは暇を見つけて伺っている。
そちらは、報告できるような成果はないが、鍛錬を積むことこそ、結果への道だろう。
カイゼル師匠も気合を入れて相手をしてくれる。
以前より遥かにボコボコにされ床を舐めさせられることが増えたのは、ユニとのこととは無関係だと信じたいが。
なお、身体強化に関していえば、こちらはやはり成長を実感できる。
放出魔力が荒々しいエネルギーなら、こちらはそこから湧き出るような力だ。
それを持っても、師匠に手が届かないことについては、成長の余地があるのだと、思っておこう。
私はこんな感じだ。
ユニはどうしているだろうか。
暇になれば、そんなことを思う毎日だ。
そしてある日、ミリア師匠の言葉からまた事件が起こる。
「ルーク、今日は過ごしますか付き合っとくれ。」
「わかりました。どちらに行くんですか?」
「なに、ちょいとカダスの入居者の受け入れさ。」
カダスの入居者ということは、犯罪者の受け渡しということだ。
そして受け渡し場所を聞いた時、私の中で時間が止まった。
「ゼルバギウス領の領都、カトニック。そこのゼルバギウス邸で、受け渡しの予定じゃよ。」
そこはつまり、私の生まれた家ということだ。
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