閑話 ユニと護衛依頼3

「ユニは確か父上から剣を習ったと言っていたな?」

「うん。」

私は今、ミリアーヌ様の護衛騎士の1人であるマイヤと剣の稽古を行なっている。

ここは共和国の首都ソフィテウス。

つまり私達の目的地。

ガインの街を出た後の私たちは特にトラブルに巻き込まれる事もなく、馬車は進み、船に乗って、と旅は続いた。

けど、そう不思議なことじゃない。

貴族の馬車が盗賊に襲われるなんてことは、滅多にない。

あいつらが狙うのは歩いて旅をする普通の人達や、馬車でも商人の馬車が狙われる。

もちろん貴族が襲われることもなくは無いのは、以前レイ様たちの馬車が襲われているところに遭遇した私も理解している。

けど、あれはいくつかの盗賊グループが協力したからで、普段はそんなことはそうそうない。

まあ、とにかく今回は無事に、それこそ外国への旅行のようにここまで来ることが出来た。

ミリアーヌも2回目と言うこともあって、はじめてきたときよりも、気軽にこれたと言うのは、本人の言葉。

昨日ソフィテウスに到着して、以前と同じ寮に入る。

違いといえば、以前はアイラと使っていた部屋をマイヤと使うことになったことだけかな。


そして今私達は何をしているかと言うと、言ったように剣の稽古。

時間は日が昇ったばかり。

ミリアーヌ達は寮でまだ寝ている時間。

その時間に私が起きて、日課の稽古に向かおうとしたところ、マイヤも起きて出して、こうして一緒に稽古をすることになったわけ。


マイヤの剣が上から振り下ろされる。

言っておくけど、マイヤのも私のも刃を潰した練習用。

とはいえ、当たれば痛いし、何よりルークに傷のついた私を見せたくない。

本当の剣を使うのと、私の緊張はほとんど変わらない。

まあ、それは置いといて。

マイヤの振り下ろす剣を私は右に避け、剣を下から振り上げる。

狙いは、剣を振り下ろしたことで開いた顔までの道。

届くかと思った瞬間、マイヤの顔が遠ざかる。

といえば簡単に聞こえるけど、剣を振り下ろした姿勢で即座に後ろに飛び退くと言うのは想像できることじゃない。

見れば剣は肩の高さより少し上。

これも説明すると、さっきの速さで振り下ろした剣を途中で止めると言うのは、これも簡単なことじゃない。

マイヤ自身がしっかりと身体を作っているからと、咄嗟の状況に対応できるだけの判断力があるということ。

つまり、それだけでもマイヤが普段から鍛錬と実践を積んだ実力者だと分かる。

今更だけど、マイヤとはここまでお喋りはしたけれど、道中が平和過ぎてマイヤが剣を振っている姿を見ることは無かったと思い出した。


「ふふっ」

そんな笑い声が私の口から漏れる。

と思ったら、マイヤの方も口の端を上げている。

私達の目が合った。

どうやら、考えていることは一緒みたい。

お互いに、訓練相手に不足なし。

私達は互いに、この手合わせが自分達を成長させてくれることを確信したんだ。


それからは、私達は互いに隙を探して剣を振り、時に避け時に払い、何度も剣を合わせる。


マイヤの剣が私から見て右から左へほぼ水平に振られようとする。

私は剣を縦にして受け止めるが、縦に固定した剣と、力を込めて振り抜こうとする剣とでは、持っているエネルギーが違う。

ぶつかった瞬間、剣が押される。

私は咄嗟に足を浮かせた。

結果、そのまま吹き飛ばされる私。

その先には庭に植えられた木が。

咄嗟に足を向け、その幹に着地する。

足を軽く曲げ衝撃を逃したのは、我ながら上手くできた。 

そのまま、地面に着地する。

私がマイヤへと向かって地面を蹴ったときには、マイヤが既に私へと向かってくるのが目に映った。

その勢いで、お互いに剣を振る。


「「……!!」」


そして今、互いの顔の前で剣が止まる。


一瞬のようにも、長いようにも感じる時間。

「引き分け、か。」

マイヤの声が、終了の合図になった。


後は、本来の仕事の時間。

私たちもプロだ。訓練で体力を全て使うことはない。

道具を片付けて、ミリアーヌの元に戻るのだ。

これから、楽しくなりそう。

そんなことをマイヤの背中を見ながら考えた。

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