第141話 女神問答3

話を聞いていたミリア師匠が口を開いた。

「女神様、もしかして転移陣も貴女の作品ではありませんか?」

その問いに対して女神は、

「ええ、その通りです。」

と、特にはぐらかすこともなく肯定する。

「なぜ師匠は、転移陣が女神の作品だと?」

転移陣。魔族領にあるダンジョンから見つかったという、エルバギウス大森林を飛び越えることが出来る。

元はと言えば、これの発見が、人と魔族の接触。及びその後の人魔戦争を危惧させたことが今の状況の発端となったのだ。

「あの魔道具は、今までに見つかった魔道具とは比べ物にならないほど高度なものだったんじゃよ。」

と師匠が答える。おそらくこの大陸で師匠以上に魔道具に通じた者はいないだろう。

その師匠がそう言うならば、やはり転移陣という魔道具は他と一線を画すということか。

しかし、疑問が生まれる。

「女神様、そもそも何故そのような魔道具を作ったのですか?」

まあ、作った魔道具を見つけさせることぐらいは問題ないだろう。

だから不思議なのは、なぜわざわざそのような魔道具を作ったのか。

転移陣なんてものがなければ、そもそも戦争の心配をする必要もなかっただろうに。

と、そんな疑問を女神へと伝えてみたのだが、

「戦争になる可能性はありました。その上であの魔道具を用意したのです。」

さて、どうしてかと言うと、だ。


繰り返しになるが、女神にとって最悪のシナリオは魔法を戦争に使う時代が訪れること。

そもそも、新世代の魔族が当たり前になるのが500年後と言うことは、もしかしたら人間側は人間側で技術革命が起こり、それこそ地球でいう重火器に相当する武器が開発されかねない。

そうなれば、たしかに女神の言うように人間と魔族の共倒れということもあり得る。

だから、今の時代に人と魔族を合わせてしまったのだとは女神の弁だ。まあ、実際に会うのはもう少し先な訳だが。

「もう一度言いますが、戦争の可能性はありました。しかし、まだ今の時代なら戦争になったとしても、そこまで大規模にはならないと言うのが私の予想です。」

そして、万が一戦争になっても、それは必要な犠牲だと女神は言う。

「それほどまでに、時代が進んだ先の戦争は悲惨なのです。ですがもちろん、今の時代においても戦争を望みはしません。ですから、あの道具を見つけた後のミリア達の行動を私は歓迎します。」

「ありがたきお言葉です。女神よ。」

と、師匠が女神に頭を下げた瞬間、目の前が真っ暗になるのだった。


気づけば、私はいつもの私のベッドの中で目覚めていた。

これは一体。

話すべきことは全て話したと言うことだろうか。

もしくは、以前女神も会うのに条件があるようなことを言っていた。ならば、女神の意思に反して強制的に夢から追い出された可能性もある。


なんにせよ、今すべきことは、師匠に会うことだろう。

そう思った私はリビングへと来た。

そこでは師匠が既に座っていた。

相変わらずの美女だが、その表情は、なんだろうか、今までにみたことがないほど穏やかだ。

いや、別段今までだって穏やかではなかったと言うことはない。

しかし、そう思うと言うことは、私の知らないところで、もしかしたら師匠自身も意識していないところで、自分の存在への不信感がどこかにあったのかもしれないな。

師匠が私を見ると口を開いた。

「ルーク。感謝するよ。」

「いえ、感謝されるようなことは私は何も。」

「いいや。感覚でわかるのさ。もしルークがいなかったら、私は女神様に会うことは無かっただろうよ。女神様からすれば、あんたに会う必要はあったのだろうけど、私にあったのはついでみたいなものさ。」

そうなのだろか。そこで、ふと前回と今回の違いを思い出して伝える。

「師匠。実は今回の終わり方が前回と違うのです。前回は、一応最後に世界を見て回るよう女神から直接言われましたが、今回は急に目が覚めてしまって。」

そのほか、私の知りうる範囲で前回の夢の話を伝える。ことここに至れば、師匠に女神に関する秘密を持つ必要はないだろう。

「うーむ。」

珍しく師匠が唸る。そして諦めたのか次のように言った。

「考えても分からないね。とはいえ、女神様の意思はやはり戦争の回避じゃろう。はっきりとおっしゃってたしね。」


それは確かにそうかもしれない。

結局、私にしてみれば、今後も師匠の手伝いをすることに変わりはないのだろうな。

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