第140話 女神問答2

ふと良い機会かと思い、女神に長年の謎とされていることについて質問してみた。

「女神さま。」

「なんですか?」

「そもそも魔力とはなんなのでしょうか?」

それは私に限らず、この大陸に住む者たちにとっての謎。

魔力とは、命そのものだとか、精神のエネルギーだとか色々な説が出ているが結局答えは出ていない。

師匠が見つけた、放出魔力と循環魔力の存在は未だ世界には広がっていない知識だが、魔力とは何かという謎への答えにはならない。


女神が口を開いた。

「魔力とは、簡単に言ってしまえばわたしが世界に存在する証明のようなものです。」

と言われたがよく分からない。

もう少し聞いてみると、つまりはこういうことらしい。

女神とは、当然というべきかなんなのか、普通の生き物とは在り方が違う存在だ。

例のごとく、神ならざる身では完璧な理解は出来なかったが、どうやらそもそも肉体というものを必要としないらしい。

必要としないからと言ってないわけではないのかもしれないが。

なんにせよ、無理矢理理解するならより高次元の存在として成り立っているらしく、その女神を構築する一要素が魔力なのだとか。

女神自身は、魔力のことを神気と呼んでいた。

「その神気が地上に溜まり、生き物の体内に留まったものが魔力なのです。」

ついでに、と教えてくれたことでは、師匠が見つけ最近の修行に関わっている2種類の魔力のうち循環魔力とは元々体内にあった魔力、放出魔力とは生きている中で外から取り組んだ魔力のことらしい。

まあ、余談の範疇だ。


「そして、」

女神の説明を受けて魔力について考えていると、女神がそう言葉を発した。

続く言葉は意外な人物の名前だった。

「シスについて、あなた方に説明をしなければなりません。」

「シス、様についてですか?」

危ない。最近どうもシス姉としか言ってないため、うっかりシス姉といいかけた。

女神相手には筒抜けかもしれないが、ケジメというのは大切だろう。

「はい。シスについてです。彼女は言ってしまえば、新世代の魔族なのです。」

「新世代の、魔族?」

「そうです。知っての通り、今の魔族は人間と同じ容姿で生まれ、魔族として成長します。しかし、シスは違います。母親の胎内で既に魔族としての成長を終えて生まれました。」

これは、実は魔族の中では有名な話だ。

生まれながらに単眼と言う異形で生まれた彼女は、一部では真の魔族と呼ばれ尊敬を受け、しかし一部では異形の化け物と呼ばれていたらしい。

皇帝としての人気が高まり、魔法使いとしての才能が認められるにつれ、否定的な意見も減ってきたそうだが。

「そもそも、魔族が生まれた時に人間の姿を取るのは胎児のままでは濃い魔力に耐えられないからです。しかし、これに耐えることが出来るのであれば、より早いうちから魔力に馴染むことで、より魔力に適応した存在へとなることが出来るでしょう。もちろん、彼女自身の才能は確かなものですが、その才能をより発揮させる要因もまたあるのです。」

とはいえ、シス姉のような魔族が当たり前になるのは、これから500年はかかるでしょうけど。

女神はそう前置きをして、続きを話す。

「以前、ルークは私に私の目的を訪ねてきましたね。」

「はい。」

「それが全て、と言うわけではありませんけれど、私の目的の1つは新世代の魔族が当たり前になる前に、人と魔族が融和する事なのです。」

女神が最も恐れていることは、大陸の生物の絶滅らしい。

急に話が大きくなったが、しかし、新世代の魔族が当たり前となった時、人間と魔族が戦争状態であれば、その可能性が生まれるのだそうだ。

もっと言うなら、魔法が戦争において使われること。

今でこそ、対人戦闘では欠点が目立つ魔法だが、シス姉のような、ついでに言えば私のような存在が当たり前となればその状態が一変しうる。

ちなみに私は、人間が魔力に適応したと言うことで、やはりシス姉のような存在とはまた別らしい。

私が病気ならば、シス姉のそれはまさしく進化というべきものだ。

「今でこそ、貴方のような存在は例外であり影響も限られるでしょう。しかし、集団が魔法を使って争う時代がくれば、失われる命は、急増し、最悪の場合、大陸そのものが血に沈みかねないのです。」


その言葉を聞いた私の脳裏には、大量破壊兵器を当たり前に使う、地球の戦争のことが浮かんだのだった。

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