第139話 女神問答1
夢の中、女神アレクシアの話を聞くことになった私は、しかし、2回目だからなのか、それとも女神が何かをしたのかは分からないが、とても穏やかな気持ちだった。
「さて、どこから話しましょうか。」
そう言って女神が顎に手を添える。
そんな姿も絵になった。
「とはいえ、ほとんどのことはミリアが話してくれましたしね。」
師匠の名前が出たところで、私は質問を投げかけた。
「女神様。」
「どうしました?」
「師匠は。その。」
正確には投げ掛けようとして、上手く言葉がでてこない。
師匠とはどんな存在なのか。
そして師匠と女神の関係は?
そんなことを思いつつ、しかし師匠のいないところで質問することへの罪悪感も覚えてしまう。
「なるほど。あなたは律儀ですね。」
心を読んだのだろう。
そう言って頷く女神。
と、次の瞬間。
「おや?」
耳に馴染んだ声と共に、そこに師匠が現れた。
「ここは一体。って、ルークかい?」
「ミリア師匠。」
師弟の間で、しばし互いに情報交換を行うことになる。
「なるほどね。」
師匠が頷き、横に目を向ける。
そこでは、女神アレクシアが微笑んでいた。
思えば師匠と話している間、ずっと女神が側に立っていたはずなのだが、何をしていたか思い出せないのは、これも女神の力なのだろうか。
「女神アレクシア。お招きにあずかり光栄にございます。」
そう言って頭を下げる。
そういえば、師匠が誰かに頭を下げる姿を初めて見た気がする。
現皇帝にさえ、師として接するこの人は、そういえば私の生みの親であり、私を捨てたゼルザギウス家の当主とはどんな会話をしているのだろうか。
そんなことが気になった。
そういえば、結局魔族という存在を打ち明けられてから、やったことと言えば主に修行くらいなものだ。その過程で現皇帝であるシス姉と親しくなったことは決して小さいことではないけれど。
「ミリア、偶発的とはいえ、あなたと言葉を交わすことができ私も嬉しく思います。」
「寛大な言葉に感謝を。」
そして表情を引き締め言葉を発する師匠。
「私は。このミリアラトテプルは、どんな存在なのでしょうか?」
それはきっと、師匠の中の根幹をなす疑問だったのだろう。
その真剣な口調に込められた言葉の重みは、きっと数百年。
師匠が生きてきた歴史の重みでもある。
果たして女神は口を開き、師匠の問いに答えるのだった。
「ミリア。貴方という存在は私が作りました。」
それは、衝撃ながら、どこか予想していた答え。
「貴方がたも知っての通り、ミリアが生まれた時代、魔族たちは戦乱の時代の只中にあり、そのままではいずれ高い確率で滅びる運命にありました。」
それは女神という立場から見た歴史。
「もしいずれ英雄と呼ぶにふさわしい存在が生まれた場合への備えとして、魔力の塊を元に生命と意思と知識を与えたのが、ミリア、貴方です。」
実際ここら辺は女神が相手ではなんでもありだろう。
師匠は言葉を発することなく女神の言葉を聞いている。
「そして生まれたのが、貴方もよく知る存在。アザーです。」
やはり、か。
「これもまた可能性の話にすぎませんが、もしミリアという存在に出会えなければ。アザーもまた、子どものうちに命を落としていたことでしょ。」
そう聞けば、少し親近感を覚えてしまう。
師匠が口を開いた。
「結局、私は生き物なのですか?」
それは縋るような言葉。
自分はただの道具ではないと、そう願っているのだろうか。
「そこは安心していいですよ。生命を与えた時点で、貴方は生き物です。たとえ他の命と在り方が違っても、それは変わりません。」
女神は一度口を閉じ、そしてこう言った。
「ミリア。貴方も私の大切な愛おし後の1人ですよ。」
女神のその言葉に、師匠の頬から涙で一粒落ちるのだった。
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