第137話 新しい特訓
さて、なぜ私はこんなところにいるのだろうか。
土が露出した、しかし綺麗にならされている地面に立ち、周囲を見回しながら、そんなことを考える。
遠くに見えるのは、青々と葉が生い茂った立派な木々。
簡単に言ってしまえば、ここは円形の広場だ。
特徴と言っては、魔物はびこるエルバギウス大森林の何処かにあるということと、規模が小さな町程度ならすっぽり入ってしまいそうなほどの広さだということだ。
そんな広場についさっき、師匠の魔法で私とシス様がやってきた。
こんなところに連れてきてどうするつもりなのか。
当の師匠は忘れ物をしたと言って、また戻ってしまった。
はっきり疑う理由もないのだが、どこか作為的なものを感じるのだが。
「シス様は何か聞いていますか?」
と師匠を待つ間、横に立つシス様に声をかけると、
「むぅ。」
と頬を膨らませている。
「え、えっと。」
と狼狽えていると、
「呼び方。」
と指摘される。
な、なるほど。
これは、まあ、抗っても同じ結果にしかならないと判断した私は、
「シス姉は。」
と言いなおす。
途端に彼女は笑顔になった。
が、何故ここに連れてこられたのかは教えてもらえなかった。
「ちゃんとミリア先生が教えてくれるよ。」
というばかり。
それならそれは、まあ、良いとして。
この人。本当に20歳なのだろうか。
確かに、始めはその背丈やほっそりとした体つきから少女だと勘違いしたが、むしろ今の方が幼い印象を受けるが。
なんて、考えているうちに、師匠が戻ってきた。
手には透明な丸い球体を持っている。
「待たせたね。シス、ルーク。」
「大丈夫ですよ、先生。ね、ルー君。」
「え、ええ。気にしないでください、師匠。」
うーむ。シス様の距離が近い。
まあ、気を取り直して師匠に質問をする。
「ミリア師匠、ここには何のために来たのですか?」
質問をすると師匠は1つ頷き、教えてくれた。
「うむ。まあ、これを見てみなさい。」
師匠はそう言って手に持っていた球体を地面に置く。
広場の真ん中あたりだろうか。
魔道具なのだろう。師匠が魔力を込めた瞬間、違和感を覚える。
これは、魔力か?
広場の周りに意識を向ければ、魔力の膜があるのを感じることが出来る。
「これは?」
「まあ、待ちな。シス。見せてやり。」
師匠の言葉を受け、シス様が答える。
「分かりました、先生。ルー君、見ててね。」
そういうと、シス様が右手を肩まで上げ、広場の周りにできた魔力の壁に向ける。
と、シス様の体を魔力が回り、手から放出されるや、人間大の魔力の塊が勢いよく飛び出す。それこそ、走っている車のようなスピードだ。
目には見えないが、しかし魔力を感じることは出来る。
「……。」
無詠唱。しかもかなりの練度だ。私は言葉を失い、呆然と魔力の塊に目を奪われた。
あまりの勢いに風が起こり、塊は真っ直ぐに恐ろしい勢いで飛んでいく。
あっという間に、魔力の塊は壁にぶつかる。
そしてぶつかるや、塊が霧散するのを感じることが出来た。
なるほど。これは、
「魔力を散らす効果のある壁を作る魔道具ですか?」
「うむ。そうじゃ。」
どうやら正解らしい。
しかし、気になるのはそれよりもシス様の魔法だ。
「あれは一体?」
と尋ねると、当の本人であるシス様が教えてくれた。
「ルー君も先生から聞いたかな?魔力には体内をめぐる魔力と外に出ようとする魔力があるって話。」
「それは、確かにお聞きしました。」
「今のは、そのうちの外に出ようとする魔力を集めたものです。」
「そうなのですね。」
「そうなのです。そして、今回は先生の魔道具のおかげで消えてくれましたけど、向こうに見える木程度なら数本をまとめて吹き飛ばすことが出来ますよ。」
それは、確かにそれだけの威力を感じることが出来た。
そして、これをわざわざ見せた理由といえば。
「ま、ルークの考えている通りさ。あんたにはこれを使えるようになってもらう。」
やはりか。
結論から言えば、成功したのはその日の夕方になってからだった。
幸い、2つの魔力の感覚は、ここ最近の修行手渡し少しずつ感じ始めていたので、感じること自体は難しくはなかった。
難しいのは、外に出る魔力だけを選りすぐること。手から魔力を出す際に、特定の魔力のみを選ぶことだ。どうしても体内をめぐる魔力も出てしまい、結果外に出る魔力が内側に引っ張られるのが、より鮮明にわかるようになった。
だが、なん度も繰り返し、時折シス様の見本も見せてもらいながら、なんとか夕方には、外に出る魔力だけを使うことに成功する。
フワッ。
と、手を出た瞬間に夢想したが。
シス様のように使えるのはまだ先のようだ。
なんでも、これはそれ自体を使うというよりも普通の魔法を使う際に、暴走しないための訓練なのらしい。
外に出る魔力にイメージを乗せることでより質の高い魔法を使うことが出来るが、純度の高すぎる魔法は暴走の危険もあるらしい。
「これからはしばらく、ここで練習するよ。」
そう師匠に言われるのだった。
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