第134話 帝国の政治
「私からも名乗らせてください。」
1つ目の少女はそう前置きをした後、言葉を続けた。
「私は、シス・ホートス。ワドール帝国の第二十代目の皇帝、ということになります。」
やはり、皇帝なのか。
と思っていると、師匠から補足が入る。
「まあ、ワドールの場合、皇帝が全てを決めるわけではないんじゃよ。」
「そうなんですか?」
と尋ねると、答えてくれたのはシス様だった。
「そうです。」
頷くと、
「ルークさんは、魔族の歴史はご存知ですか?そうそう、言葉もそんなに緊張しなくても構いませんよ。」
「はい、ありがとうございます。師匠から話しを伺いました。なんでも王国から逃げた奴隷の方々が起こした国であり、魔族化が起きた後は戦乱の時代が訪れ、アザー・ホートスが師匠をはじめとした仲間たちと統一して、ワドール帝国を築いたと。」
簡単に魔族の歴史をまとめてみる。
「その通りです。そしてアザーは、戦闘の才能はあっても、政治の才能はないことを自覚していました。そもそも戦争孤児に過ぎない彼女にそれを求めるのも酷でしょうけど。そこで彼女は中央政府の設立を決めました。」
「中央政府、ですか。」
その言葉も、確か師匠の話にあったはずだ。
「ええ。そのトップがそこにいるギズダス宰相です。」
そちらに目を向けると、老紳士であるギスダス氏が微笑みながら会釈をしてくれる。
私も頭を下げ返した。
それを見たシス様が、話を再開する。
「中央政府についてもお話しすると、中央政府では常に能力のあるものを試験を通して募集し、国政をになっています。最終決定こそ、皇帝にあることになっていますが、実質はこの国を運営してくれていますね。」
傀儡のようなものかと一瞬思いかけたが、その口調から特に不満のようなものは感じられない。
そうなると、いわゆる地球でいうところの立憲君主制のようなものだろうか。
「また、各種族には種族での文化もあり、それぞれの族長もまた中央政府に参加しています。つまり、中央政府を中心に、族長、皇帝を含めた者たちがこの国を運営しているのです。」
「なるほど、理解致しました。」
長い歴史の中、そういった形が作られていったのだろう。
「そして、もしかしたらルークさんにはこちらの方が重要かもしれませんけど。」
と言ったところで言葉を区切り、一拍おいて話し出す。
「私もミリア師匠の弟子でもあります。」
「そ、そうなのですか?」
驚いたが、しかしミリア師匠だ。私以外に弟子がいないほうがおかしい。
「一応言っとくとじゃが。」
師匠からの補足が入る。
「儂は、アザーが死んだ後、しばらくは中央政府に居させてもらったが、今では隠居しての。一応相談役をさせて貰っとるよ。で、ついでに歴代の皇帝に魔法を教えたりもしとるのじゃ。」
なるほど。と思っていると、
「だから、ルーク殿がミリア様の弟子と聞いた時、皆驚いたのですよ。」
とギスダスさんが言葉を発した。
「なぜなら、魔族の間でミリア様の弟子というのは、ほぼ皇帝の一族を指すのです。」
「なるほど、そうでしたか。」
つまり、私が隠された皇帝の一族か何かかと思われたということだろうか。
すると、
「全く話が脱線してきたね。」
と師匠が口を開く。
「ま、シスについてはこんな感じで良いだろう。」
相手が皇帝といえどこの扱いなのは、さすが師匠と言うべきか。
とはいえ、他のメンバーも気にした風でもないのは、つまり師匠が帝国においてそれだけの地位ということかもしれないな。
なお、カーラさんはまだ起きてこない。
「まあ、今回は何かを決めるわけでもないがの。」
と師匠の言葉が続く。
「そうなのですか?」
と返せば、
「うむ。今回は報告と顔見せじゃよ。」
とのこと。そしてシス様と、ギスダスさんに目を向けると、
「カダスの方は順調じゃよ。今のところトラブルも起きとらん。それと今後はルークにも仕事を手伝って貰うつもりじゃよ。」
と言えば、
「ありがとうございます。」
とシス様が答える。
「では、人間との関係ももうしばらく待つことになりそうですな。」
というのはギスダスさん。
結局、その後も本当に情報交換を終えて、私たちは別れることになった。
最後まで、カーラさんが起きてこなかったが、果たして大丈夫なのだろうか?
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